実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー 作:向日 葵
十月二週
秋大会。
春の選抜大会へ向けてのトーナメント。三年が引退して一、二年のみのチームになった新チームで行われる大会だ。
チーム全員ではなく主将だけ集まって行われる抽選会に、俺と顧問の先生と彩乃の三人で訪れる。
顧問の先生は野球の事が好きなおじさんだ。まだ優勝して数ヶ月。急成長したチームだし、監督も集まらないチームだ。なんとか下の世代に何かを残してやりたいけど……。
っと、マズイマズイ。今はくじびきに集中しねぇとな。
「では始めます。……まずはシード枠のくじ引きです。恋恋高校からお願いします」
「はい。……六番です」
ボールを引いて係員にボールを渡す。
六番、か。中途半端な所だな。
ベスト四に入ったチームはシード枠となって先にくじを引かされることになる。
センバツ大会へ出場するためには、この大会で良い結果を残さないといけないからな。
壇上から降りて成り行きを見つめるために座席へと歩き出す。
その次の瞬間。
「あかつき大付属……八番」
「……へ?」
わああああ! という歓声がこだまする。
八番……って……三回戦目、シードだから二試合目だけどあかつき大付属とそんな速い内に当たるのかよ!?
振り返り壇上に目をやると猪狩が勝ち誇った表情でこちらを見つめている。
リベンジは速いうちに限るとでも思ってたのか、猪狩は満足そうに壇上から降りて監督と共に座席へと戻っていく。
おもしれぇ。また倒してやるから首洗って待っとけよ。
シードのくじ引きが終わりシード外のくじ引きが始まる。
――俺達の初戦、実質二回戦の相手になるであろう場所の一回戦のカード。
そこに入った二チームの名前。
パワフル高校と聖タチバナ高校。
どうやら、秋大会は夏の大会の時よりも波乱含みになりそうだな。
俺が舞台に目をやると、くじを引きおえて降りてくる春と目が合う。
春は俺に向けて頷いた後、パワフル高校の主将に目をやる。
……ん? 誰だあいつ。パワフル高校の主将ってたしか竜崎だったはずだけど、見覚えの無いイケメンになってんぞ。
パワフル高校の主将は春に一歩近づくと、春と親しそうに握手をする。
春も笑ってその手を握ったがどこか表情が硬いな。
「……誰だ、あいつ……?」
パワフル高校にあんな奴が居たなんてデータはない。……調べてみるか。
とりあえず野球部のグラウンドに行かねーとな。トーナメント表のこと、みんなに話さないといけないし。
くじ引きを終えたのを確認して俺は会場を後にする。
秋の大会はもうすぐそこだ。
☆
「久々だ。春」
「……そうだね。鈴本」
握手をする。
眼の前に立つ男は、昔俺と聖ちゃんとみずきちゃんと同じチームに居た男。
鈴本大輔――ナックルと威力の凄いストレートが武器の本格派右腕。
そして、聖ちゃんが好きな男だ。
俺は鈴本を見つめる。
シニアリーグ時代、紅白戦で俺は彼の頭にピッチャーライナーの打球を当ててしまった。
そのせいで、俺は野球をやめていた時期があったんだ。
その時の傷はもう無い。
俺にも、鈴本にも。
「大丈夫さ春。……初戦から戦うことになったけど、よろしく」
「……ん、うん」
鈴本の言葉に頷く。
過去はもう関係ない。ここから先はもう進むだけだ。
「絶対勝つよ、鈴本」
「ああ、俺も絶対に勝つ」
にこ、と笑って鈴本は離れていく。
……勝ちたい。鈴本には絶対に。
鈴本の後にはパワプロくんたち、恋恋との戦いだ。
もう負けるのは嫌だ。このチームで甲子園に行きたい。だから――勝つ。パワプロくんにも鈴本にも、猪狩くんにだって。
「……勝つよ」
鈴本の背中にそういって俺は会場を後にした。
秋の大会は、もうすぐ始まる。
それぞれの高校がそれぞれの道を歩みだす。
再び見える時を目指し進む舞台は秋。
夏に栄冠を手にしたものが秋をも制覇するのか。
悔しさを味わったものが栄冠を手にするのか。
元覇者が再び力を取り戻し覇権を取り戻すのか。
戦いが、幕を開ける。