実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー   作:向日 葵

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レ・リーグアナザー
第三三話 レ・リーグ編 プロローグ  ドラフト会議


『空振り三振ー!! ゲームセット!! キャットハンズ逆転勝ちで三連勝! カイザースに三タテを決めました!』

 

 ――猪狩世代のドラフトから三年。

 熱狂するスタジアム。

 人々の歓声は止まない。日本一のスポーツといっても過言ではない野球――その最高峰の選手が集う、プロ野球。

 白熱したペナントレースももう終わりが近い。

 そんな切迫した状況の中、カイザースとキャットハンズの三連戦は、キャットハンズの三連勝で終わる。

 これで順位はほぼ確定、かつて最強と呼ばれたカイザースは屈辱の六シーズン連続のBクラスが確定した。

 一方のキャットハンズは一時期親会社のゴタゴタがあったものの、ギガメガコンピューターが親会社に決まり安定した経営を見せ始めると同時に躍進――なんと今年も優勝すればV4という破竹の快進撃を繰り広げている。

 

『さあ、今日のヒーローはこの人達です! 強力カイザース打線を完封リレーに抑えた早川あおい投手、橘みずき投手と、勝ち越しタイムリーの猪狩進選手!』

「あ、ありがとうございます!」

「いぇーい!」

「あはは、たまたまですよ」

『ではまずは早川選手から。八回まで散発三安打、無四球の見事な投球での一七勝目! これで今日の敗戦投手の猪狩守選手を超えて、単独トップの勝利数になりました!』

「えと、進くんのリードが凄く良くて、何時もお世話になっているんですけど、今日も頑張ってもらっちゃいました! 次も頑張って欲しいな、って思ってます!」

『あはは、たしかに見事なリードでしたね! さて、次は橘みずき選手です! 今日で三九セーブ目。セーブ王はほぼ確定的ですが?』

「まあ当然ね! 入団してから今年までタイトルとれてなかったし、今年はとっちゃおうって思ってます。取ったら記念グッズ売り出しちゃうからぜひ買ってねー!」

『いつもどおりのみずき節、ありがとうございます! それでは最後に猪狩進選手です。勝ち越しのタイムリーヒット、見事でしたね!』

「そんな、代打の春さんが右打ちで一塁ランナーの大友さんを三塁まで進めてくれたので、僕は犠牲フライを打つだけでいい、って気持ちで入れたから打てたんです」

『見事なチームプレーでの兄の攻略に成功したキャットハンズが今日も勝利を収めました! これでマジックは残り二! V4も射程距離に入ってますね!?』

「とにかく一戦一戦丁寧に戦って、絶対に優勝したいと思います! 次の試合も応援よろしくお願いします――!」

 

 ――ヒーローインタビューを聞きながら。

 カイザースの正捕手、近平千登(ちからせんとう)は想う。

 

「今日でほぼ三割確定じゃん、よっしよっし……!! 新人王も行ける……!!」

 

 近平千登は猪狩世代の一つ上だ。

 ドラフト三位でカイザースに入団。二年目に頭角を表すと、他のポジションに比べて圧倒的に層の薄い捕手のポジションなこともあって、そのまま今年、レギュラーを獲得した。

 五年目の彼は二三歳。今年が新人王最後のチャンスというのもあって奮起――インサイドワークとスローイングにはまだムラがあるものの、その類まれなる打撃センスで強豪投手ひしめくレリーグの捕手で、猪狩進、六道聖に続いて捕手では打率三位につけている。

 136試合、3割6厘、ホームラン12本、打点59。

 捕手としてはかなりの数字を残し、今年はレギュラーを獲得、今年は開幕戦から出場、一試合も出場を逃すことなく、ここまで全試合出場というレギュラーとして遜色の無い結果を残している。

 

「まー、進のヒットはマズったなぁ。タイムリーよか犠牲フライでワンアウト取れる方がいいと思って投げたインサイドを狙い打ちだもん。ま、ありゃ仕方ないわな」

 

 二三歳という若さもあって、彼に対する評価は高めだ。誰しもが、二三歳で三割を記録したニューフェイスには風当たりはやさしい。

 そのインサイドワークに難があっても、捕手というのは年齢を重ねて成熟していくもの。元からリードで評価されていた六道聖や、猪狩進とは違い、いずれ成長すればいい……その分で取り戻しているから、というのがカイザースファンの共通認識であった。

 プロの解説陣すらもそのように解説していた。捕手の若さは投手との連携でもってカバーするものだと。

 そんな背景もあって打撃成績を自画自賛していた彼に冷水を浴びせるように、

 

「そんなに甘いものではないと思いますが。……あのリードはなんですか? 先輩」

 

 猪狩守の冷たい声が響いた。

 どうやら隣のシャワールームに入っていたらしい。

 

「なんだ。守か……悪い悪い。まさかあそこ狙ってるなんて思わなかったからさ。どっちかというとパワーないじゃん、進」

「パワーが無くても三割打つ打者は内角にヤマを貼ってれば打てます。貴方だってそうでしょう?」

「あはー、そんな褒めるなよ。悪かったって、次は気をつけるから」

「……そうですか。分かりました」

 

 がたん、と荷物を片付ける音が聞こえて、猪狩守の気配は消えていった。

 それを受けながら近平は深々とため息をつく。

 自分としてはもちろん、ベストを尽くしているつもりだ。

 それでも投手陣からの自分の信頼感は薄い。

 確かに猪狩守の最多勝はこの敗北のせいで絶望的になってしまった。

 でも、防御率に目をやれば2、16。二位のキャットハンズ神高と比べて2、18で殆ど変わらないいい数字だ。

 これは確かに猪狩守の実力もあるだろうが、自分のリードも少しくらいは、と想う。

 

「……ま、まだレギュラーとって一年目だしな」

 

 近平は呟き、きゅっと栓を閉じてシャワールームを出る。

 ああ、そういえばもう二週間後にドラフト会議が差し迫っているんだ。

 

「確かうちの一位はパワフォーのオールラウンド内野手甲斐か、一五七キロ右腕の堂城川だっけ。下位で捕手は取るくらいだっつってたな。……もしかして俺って来年も戦力として数えられてる? ふひひ」

 

 一人笑い、近平は球場を後にする。

 近平は来年も順風満帆に行ける、そう確信していた。

 

 

 

 

 

 

                    プロローグ

 

 

 

 

 

 ガシャンッ!! とトレーニング機がぶつかる音が響く。

 キャットハンズ寮内トレーニングルーム。

 毎日ここに通うことが決まっている三人、春、みずき、あおいは本日がドラフト会議というのも忘れて熱中して身体を動かしていた。

 

「……っ、はぁー、あ、もうドラフト始まってるんじゃない?」

「うぇ? ……あ、ホントだ。気づかなかったなぁ……」

「あ、ごめん。思わずボク、熱中しちゃって……」

「んもう、ドラフトの時間になったら教えてっていってたのにぃー」

「ゴメンゴメン、こういう時は矢部くんか進くんに電話すれば教えてくれるよきっと。えーと……電源切ってた。電源入れて……うひゃぁ!?」

 

 ブーッ、とあおいの携帯に電源が入る。

 その瞬間、某野球ゲームのOPの音楽が鳴り響いた。

 

「あ、で、電話だ。えっと、矢部くんからだ。……もしもし?」

『あおいちゃんでやんすか!? オイラもう二〇回は電話したでやんすよ!?』

「えっ……ストーカー……? あかりがいるのに……?」

『違うでやんすー!!』

「あはは、ゴメンゴメン、冗談だよ」

 

 春とみずきは元チームメイトとの漫才を楽しむあおいを見て顔を見合し苦笑しあう。

 なんだか矢部は慌てている様子だ。春にはそれが気にかかったが、あおいが宥めているのを見て何も言わなかった。

 

「それで、そんなに慌ててどうしたの?」

『そ、そうでやんした!! ドラフトを見るでやんすよ! 大変な事が……!!』

「大変なことぉ? どこかが今年の目玉の甲斐くんと堂上川くんの一本釣りでもしたの?」

『そんなんじゃないでやんす! 実はカイザースが――』

「――え?」

 

 何か矢部が言った瞬間。

 あおいはトレーニング機から降り、トレーニングルームに備え付けられたテレビの前に転がるように走りスイッチを入れた。

 

「放送は何処!?」

『パワフルテレビでやんす!!』

「ッ!」

 

 ピッ、とあおいがテレビのチャンネルを変え、

 ――その瞬間、現れたのは、

 

『いやー、驚きました!!』

『ええ! まさかまさかですよ! まさかカイザースが一位で――“あの”葉波選手を指名してくるとは!』

 

 待ち焦がれ、

 待ち焦がれ、

 待ち焦がれた。

 愛しい人の名前が刻まれた、カイザースの指名票だった。

 

「葉波……って、パワプロくん!!?」

「そんな! アメリカにいって音沙汰無しだったじゃん!!」

「あ、ぁ……」

 

 あおいは口元を抑え、声を出せない。

 ずっと待っていた。

 調べつくした。

 最初は手紙の交流があったのにやがて届かなくなって、必死にアメリカのニュースを読みといて跡を追ったその人の名が、今そこにある。

 

『確かに日本プロ野球憲章に一文が追加されたんですよね!“野球アカデミー生はプロ志望届を出さずともドラフトで指名される権利を有する”。まだ日本人のアカデミー生が葉波くんしかいませんでしたし、実際日本ではアカデミーはまだ出来ていませんから!』

『ええ、誰もマークしていなかったでしょう。それを一位指名ですよ』

『カイザースなりの誠意の見せ方でしょうね! しかしこれ、他球団黙っていませんよ! だってこれ、だまし討ちみたいな戦法ですよ! 一位は全球団が入力してから発表ですからね!』

 

 ドラフト会場がまだざわついている。

 テレビからでも分かる騒然とした様子を見て、あおいはぺたんとその場に座り込んだ。

 帰ってくるんだ。

 実感がわかない。

 それはあおいだけじゃない、春もみずきもそうだった。

 

『び、びっくりしたでやんしょ?』

「びっくりなんてもんじゃ、ないよ……」

 

 嬉しい。

 嬉しいけど、何処かあおいは素直に喜ぶ気分にはなれなかった。

 

 ――今度は、パワプロくんが敵なんだ。

 

 

 

 

                         ☆

 

 

 

 

 ――時系列は、ドラフト会議一〇日前に遡る。

 赤いスポーツカーが懐かしい場所の前に止まった。

 恋恋高校野球部、グラウンド前。

 そこに座る一人の男の後ろ姿を見て――赤いスポーツカーの運転主、猪狩は車から降りた。

 

「……探したぞ?」

「探されたぜ?」

「……減らず口を……」

「うっせ。人がせっかくのオフにゴロゴロしてたのにいきなり黒服が二〇連続でチャイム鳴らすから何ごとかと思ったじゃねぇか。てっきり彩乃のお食事会の誘いかと思ったぜ」

「ふん。まあ似たようなものだ。お前が帰国していることを教えてくれたのは倉橋さんだったからな」

「彩乃め……」

 

 変わらない。

 筋肉がついてあの時より一回り身体が大きくなったが、中身は全く変わらない。

 あまりの懐かしさの猪狩は上をむいて涙が出そうになるのを必死にこらえた。そんな格好悪い所、こいつにだけは死んでも見せるものか。

 

「ふぅ。……で、どうしたんだよ?」

「……キミのことを聞こうと思ってね」

「俺のこと? あー、アメリカいってから? 別にいいけど面白くないぜ? 神童さんの球を捕球する練習したり身体を作るつって死ぬ思いでメニューやらされたり、自分でメニュー組まされたり、どこぞの独立リーグのチームのマネジメント……メニューから食事メニューまで徹底して勉強させられたりとかさ」

「そう、か」

 

 聞いているだけで濃密だ。

 四年間野球漬けだったのが今の話だけで簡単に想像出来る。

 なんて頼もしい、と猪狩は思った。

 

「何故帰ってきたんだ?」

「就労ビザの更新が出来なかった」

「……何?」

「アカデミーっつってもまあやっぱまだ受講生俺だけだしさ。独立リーグと協力してやってたんだけど。メジャーの契約話が来てな、ドラフト外だけど」

 

 彼は思い出すようにしてはぁ、と深々とため息を吐く。

 

「……神童さんの許可を得てから、って思ってたら神童さんがワールドシリーズまで出ちまって、返事が遅れてる内に契約期限を過ぎて、んで悩んでたもんだから独立リーグの球団に契約延長の書類出せなくて、んで強制的に日本にリターンだ」

「なるほどな」

 

 やれやれ、と彼――パワプロは頭を振った。

 

「パワプロ、実は僕はお前に話があってきた」

「……知ってるよ」

「お前を……え?」

「神童さんから連絡が来てさ。お前が俺を探してるって」

 

 よいしょ、と立ち上がり、パワプロはおしりについた草や砂を払う。

 猪狩もかなりプロにあわせて身体を作ったが、パワプロも同じようにプロ仕様の肉体になっている。屈強さは猪狩と良い勝負だ。

 

「そうか。確かにあの人にコンタクトを取ったからな」

「んで、こうも言われてる」

「あ、すみませーん!」

「いーよ! 返すぜ!」

 

 パワプロはぽん、と飛んできた恋恋高校野球部のボールを軽く拾う。

 それを二、三度、手の上で跳ねさせた後、

 

「――プロから誘いが来たら、お願いしますって言え、ってな」

 

 バシュンッ!! と腕を振るった。

 肩をまだ作っていないハズなのに、そのボールはビュオッ! と音を立ててレーザービームのように放たれ、恋恋高校野球部員の捕手の手の中に収まる。

 高校球児は驚愕しながらも、つっかえつっかえありがとうございました、と言って戻っていった。

 

「昨日の敵は明日の友、じゃないか。四年前の敵は来年の友ってところか? ……頼むぜ、相棒」

「……ふ、ああ! もちろんだ。僕からも頼む。パワプロ。お前と組めるなら僕は無敵だ。僕とお前のコンビは――最強だからな」

 

 パンッ、とハイタッチを交わし、猪狩はスポーツカーに戻っていく。

 こんなに嬉しいことはプロ入りしてから無かった。

 自然に釣り上がる頬を必死にごまかしながら猪狩は車を走らせる。

 まずは神童さんに会って指名すると伝えよう。他にも倉橋さんやら、アカデミーの出資者に挨拶しなければならない。その後父の所に言って、スカウトたちには悪いがドラフト戦線を変更させてもらおう。

 ――さあ、カイザースの逆襲の始まりだ。

 

 

 

 

 

                         ☆

 

 

 

 

 ――カイザース、トレーニングルーム。

 

「……どう想う? 久遠?」

「ん、とっても嬉しいかな」

「戻ってくるな」

「うん、戻ってくるね、……友沢もうれしそうだ」

「ふ、いや、残念さ。あいつと敵として戦うのはプロに入ってもなさそうだからな」

「僕も少し残念だけど、やっぱり嬉しいよ。あのパワプロくん相手に投げ込める訳だしね」

「猪狩もあいつ相手に投げるんだ。あいつに勝てないとな」

「リーディングヒッターを取った友沢は余裕だね?」

「バカを言え。三冠王を取るつもりだったさ。ホームラン、打点をあいつらに持って行かれなければな」

 

 友沢はバットを振る。

 すべてはホームラン五三本を記録した七井アレフト、一三三打点をマークした、元チームメイトのあの男を、超える為に。

 

 

 

                         ☆

 

 

 

 ――バルカンズトレーニングルーム

 

「帰ってくるでやんす……。……今度は、敵として」

「矢部くん、どうしたの?」

「元気がないぞ。そんなことやってると俺に盗塁王奪還されちゃうぞー?」

「なんでもないでやんすよ、林くん、八嶋は黙るでやんす。……ただ、強そうな奴が入ってきたなと思っただけでやんす」

「そうなんだ? 確かに俺たちの世代の代表格だったしね、葉波くんは」

「そうだな、結構やるからなぁ、あいつは」

「でもまぁ、“捕手泣かせ”でやんすからねぇ。オイラ達は」

 

 かつての親友が敵になるが、矢部に恐れる気持ちは無い。

 いや、それどころか――迎え撃ちたくもある。

 先にプロに入った自分たちに挑むパワプロを、全力で。

 

「三人で二〇〇盗塁を記録したオイラ達“SSS(スーパーソニックスピード)トリオ”は、どんな捕手だろうと足で崩してみせるでやんすよ」

 

 矢部は笑い、シーズンの始まりを待つ。

 これほどまでに楽しみなオフはプロに入ってから経験したことがない。

 矢部は武者震いを抑え、笑った。

 ライバルとなった男との対決の為に、このオフは死力尽くす、そう心に決めて。

 

「ところでソニックは誰なの?」

「俺だなー」

「いやオイラでやんすよ」

「お前たち三人でSSSトリオだ」

 

 六道の冷静なツッコミに三人は笑いながら、来年のスタートを待つ。

 この足で、あの男を倒す。

 ――チーム盗塁数二八〇。

 その圧倒的な走力で、パワプロを。

 

 

 

                   ☆

 

 

 

 ――パワフルズ、トレーニングルーム。

 

「……パワプロか……」

「やりにくいのカ? 小次郎」

「……逆だ。……是非とも、あいつとは敵として戦ってみたいと思っていた」

 

 ビシュン!! と空を裂く音が室内にこだまする。

 

「ふふ、あの時感じた予感はやはり間違いじゃなかったな」

「……福家さん」

「案ずるな小次郎。いかな捕手だろうが俺達の打棒で粉砕してやればいい」

「そうだナ。オレが五三本、小次郎が五一本、福家さんが五〇本、ここに居ないチームメイト達をあわせて二四九本のホームランを乱れ打ちするオレ達を前にすれば、どんな捕手でも縮みあがるだろうサ」

「……ふ、だといいがな」

 

 ――チーム本塁打数二四九。

 その驚異的な打棒で、パワプロを負かす。

 三人は静かにバットを振る。

 室内には、ただひたすらに空を切り裂く音が響いていた。

 

 

 

 

 

 

                      ☆

 

 

 ――キャットハンズ、トレーニングルーム。

 

「……」

 

 未だにあおいは呆然としていた。

 彼と戦う、それがどれだけ厳しい事か。

 彼のおかげでプロにたどり着いた。

 彼のおかげで、ここまで上ってこれた。

 その人が、今度は敵なんだ。

 

「負けないよ」

「……春くん?」

「俺達は勝てるよ。何も守備だけじゃない。俺達は投手力と守備力が売りだ。それで勝てばいいんだ」

「こらっ! また口説いてるの!? こないだ聖とふたりきりで食事に行ったの知ってるんだよ!?」

「うわぁ!? ちょ、違うよ! そりゃ確かに聖ちゃんとご飯行ったけど!」

「がるるー!!」

「あはは……」

 

 じゃれあうみずきと春を見て、あおいは笑う。

 ――うん、そうだよね。このままじゃパワプロくんに幻滅されちゃうよ。

 

(ボクも成長したってところ、パワプロくんに見せるんだ)

 

 思いあおいはチューブトレを再開した。

 ――キャットハンズのチーム防御率は2、36。

 失策数は48。

 圧倒的な守備面を武器で四連覇したチーム力は、来年も磐石だ。

 

 

 

 

 

 

 

「パワプロってマジかよ……」

 

 近平は自宅でドラフトを見て深々とため息をつく。

 なんで自分がレギュラーを獲得した年に限ってこんなサプライズを行うんだ。

 だが、プロとしての先輩は自分だ。一つ下だし、負けるつもりはない。

 

「見てろ。ぜってー捕手は渡さないからな」

 

 近平はつぶやいてトレーニングルームに走った。

 ――二月一日にプロ野球は一斉にキャンプインする。

 そこで選手たちは僅かしか無いレギュラーポジションをつかむために必死で努力をするのだ。

 そうして紡がれるのは、筋書きの無いドラマ。

 新たな選手を迎えて、プロ野球はまた活性化する。

 これは、“猪狩世代”が紡ぐプロ野球を舞台にした物語。

 

 

 

 

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