実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー   作:向日 葵

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第四八話 八月二日 カイザース "天王山一回戦  葉波風路の、長所と短所"

 キャットハンズの試合前練習が終わってカイザースの練習が始まった頃、開場が始まって、カイザースファンとキャットハンズファンが応援の準備を始める。

 ペナントレースも残す所残り四五試合。

 一四四試合ある内、戦った試合が九九試合と、一〇〇試合経っていないと聞くとまだまだ先は長いと感じるだろう。

 キャットハンズの直接対決も残り一一試合。

 まだまだペナントレースの先は分からない。

 ……だが、俺の勘は、そんな生易しいものじゃないと告げている。

 ここでもし勝ち越しを許せば、カイザースは必ず流れを逸する。

 此処最近のカイザースは絶好調で貯金を五つ増やしたというのに、順位はまだひっくり返っていない。

 圧倒的勝率でも、キャットハンズとの差が詰まっただけ。

 つまりは、キャットハンズはそれだけコンスタントに勝ち星を稼ぎ続けている、ということだ。

 今カイザースの調子は頂点だ。

 必ずここから落ちる時が来る。

 その時、ここで勝ち越していたか、居なかったのか――その差は大きいのだろう。

 

「――良いか。今日は必勝。全力で勝ちに行く。行くぞ!」

 

 神下監督の声が監督室に響く。

 俺達は「はい!」と勢い良く答えて、ダグアウトからベンチへと歩いて行った。 

 試合の開始が近い。

 表の攻撃はカイザースから。

 つまり、今日のホームはキャットハンズということになる。

 でも、そんな事は関係無い。もう何度もキャットハンズの本拠地、肉球場での試合は経験した。

 今日も普段通りにプレイするだけだ。

 思いながら、ベンチに出た瞬間。

 

 ――耳を劈き、身体を震わせるような巨大な歓声が、俺を射抜いた。

 

 咆号のような両球団をもり立てる応援団の応援合戦。

 それは、まさにこの試合が”特別なもの“であることを示しているかのようだ。

 

「せんぱい、始まりますよ」

「あ、ああ」

 

 ゆたかに促されて、自分が立ちっぱなしだったことに気付いてベンチに座る。

 同時に、時刻が五時三〇分になって、スターティングメンバーの発表が始まる。

 

『本日のスターティングメンバーを発表致します!

 先攻、カイザースのスターティングメンバー。

 一番、センター相川。

 二番、セカンド蛇島。

 三番、ショート友沢。

 四番、ファーストドリトン。

 五番、レフト近平。

 六番、サード春。

 七番、ライト谷村。

 八番、キャッチャー葉波。

 九番、ピッチャー、稲村ゆたか』

 

 ワッ! とレフトスタンドから大歓声が巻き起こり、俺達の名前を歓迎する。

 普段の何倍もの大きさの歓声だ。それだけ、ファンの皆もこの試合に掛ける意気込みは凄い。

 こりゃファンの為にも負けてらんねぇな。

 ぐっ、と拳に力を込めて、俺は相手ベンチを睨む。

 視線の先では、キャットハンズの面々が普段通りにベンチの中で談笑を楽しんでいた。

 進とあおいは何やら打ち合わせをしているようで、進の話にあおいがしきりに頷いている。

 その様子をじっと見つめていると、俺の視線に気付いたのか、あおいがパッとこちらに目線を向けた。

 目が合うと、軽く手を振ってくれる。

 俺は軽く頷いて、ゆたかに目線をやった。

 ゆたかは緊張しているのだろう。大きく深呼吸をしながら、帽子をぐりぐりと弄っていた。

 

「ゆたか」

「は、はいっ」

「大丈夫だ。いつも通りにやれば抑えられるって。俺に任せて、全力で投げれば良いからさ」

「わ、分かってます。おねがいしますね、先輩」

「おう」

 

 笑って、俺がゆたかの頭に手をぽん、と置いた、その時だった。

 

『後攻、キャットハンズの本日のスターティングメンバー!

 一番、セカンド木田。

 二番、ショート小山雅。

 三番、キャッチャー猪狩進。

 四番、サードジョージ。

 五番、ライト上条。

 六番、ファースト鈴木。

 七番、センター佐久間。

 八番、レフト水谷。

 ――そして!』

 

 グラウンドに響く、ウグイス嬢ならぬウグイスボーイの声。

 一人一人の名前が呼ばれる度に、歓声と応援が球場内に響き渡る。

 そして、最後。

 

『本日の先発ピッチャー――早川あおい!』

 

 あおいの名前が呼ばれた瞬間、まるで落雷のような一際大きな爆発的な歓声が、キャットハンズを包み込んだ。

 す、げぇ、なんだ。これ……っ。

 これが、あおいに対する信頼の証なのか。

 あおいが名前が出た瞬間、まるで勝利を祝うかのような、あおい専用の応援歌が鳴り響く。

 ぞくり、と背筋を悪寒が這い上がる。

 なんだこの感触……。今まで、全く味わったことがないぞ。

 掌に汗が浮かんでいるのに気付いて、俺はそっと自分のズボンで汗を拭う。

 プレイボールの時間が、刻一刻と近づいてくる。

 試合前のセレモニーが終わり、いよいよ、試合開始の時刻数分前になった。

 球場内に音楽が流れだし、今年のキャットハンズの激闘を編集したムービーがバックスクリーンに流れる。

 それと同時に、キャットハンズの面々がそれぞれ守備位置に向かって走っていった。

 スタンドのファンにサインボールを投げ入れながら、全員が守備位置に向かう。

 そして、一人だけ遅れて――あおいがベンチからマウンドへと向かった。

 普段のあおいからは考えられない鋭い視線。

 こちらのベンチからは、一番バッターの相川さんが打席に向かう。

 

『本日の始球式は地元のリトル野球チーム、お元気ボンバーズの皆さんです!』

 

 守備位置に付いた少年少女達が、近くに居る選手と握手をする。

 中でもマウンドに立った女の子は、同じ女性選手として憧れているのか、あおいに握手をして目を輝かせていた。

 女の子が振りかぶり、ボールを投じる。

 ストライクゾーンに飛んだボールを、相川さんがわざと空振りをし、そのボールを進がしっかりとキャッチした。

 球場全体からの温かい歓声を受けながら、お元気ボンバーズの少年少女はグラウンドを後にする。

 そして、いよいよ、始まる。

 普段の試合とは一味違う、異質な雰囲気とすら感じる――天王山の一回戦目が。

 バックスクリーンの時計が、六時を指し示した。

 

『バッター一番、相川』

「プレイボー!」

 

 球審の右手が上がる。

 サインの交換が終わり、あおいが足を上げ、アンダースローからボールを投じる。

 

 ッパァンッ! とあおいのストレートが外角低めに決まった。

 

「ストラーイク!」

『さあ、いよいよ始まりました。天王山の第一回戦、キャットハンズ対カイザース。

 先発はキャットハンズがエース、早川あおい。カイザースが期待の若手、稲村ゆたか! 勝利するのはどちらでしょう! 相川に対して、初球外角低め、ストライク!』

『いきなり凄いコースです。早川選手はここにボールを決められるかどうかが調子のバロメーターです。今日は良さそうですね』

 

 相川さんがじっとあおいの様子を見つめ、バットを構え直す。

 続いて進が要求したのは、再び外角低めだった。

 あおいが頷き、ボールを投じる。

 

「ボール!」

 

 先程よりも厳しいコースを球審はボールだとジャッジする。

 これで1-1。

 相川さんはしっかりとボールを見ている。

 テンポ良く進の出したサインに頷き、あおいが三球目を投じた。

 遅い方のシンカーだ。

 左打者の相川さんにとっては逃げていくボールを、内角のボールゾーンから変化させる。

 相川さんはそれを振りに行き、ミートするがボールはワンバンして真後ろへと飛んでいった。

 速い後の緩いボールだったせいだろう、ボールの上っ面を叩いた上、タイミングも有ってなかった。

 これで2-1。

 追い込まれ、ゾーンを広く見ざるを得なくなる。

 そうすれば――内角高めへのストレート、つり球にも。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 ――手を出してしまう。

 空振りの三振に倒れて、相川さんはベンチへと戻る。

 途中、ネクストの蛇島に情報を伝えて戻ってきた相川さんが、俺達にも情報を伝えてくれた。

 

「――キレてる。いつも通り……いや、いつも以上だ。……相変わらず、此処一番の試合で最高のピッチングをしてくるぜ」

「当然だろう。それでこそエースだ」

 

 友沢が言って、ネクストへと歩いて行く。

 確かにその通りだ。高校時代から変わらない。大事な試合で、あおいはいつも好投をしていた。

 それがエースの条件だというのなら、あおいは文句のつけようのないエースだろう。

 

『バッター二番、蛇島』

 

 蛇島がじろりと鋭い目をあおいに向ける。

 あおいはその視線を意にも介さず、進のリード通りにボールを投じた。

 内角高め。

 伸びてくるボールを、蛇島が振りに行く。

 だが、そのボールは蛇島の手元で僅かに落ちた――ように見えた。

 いや、実際思った以上にノビて来なかったのだろう。

 打球は弱々しいゴロになり、あおいの前に転がっていく。

 あおいはそれを丁寧に取ると、ファーストにピュッと送球した。

 

「アウトー!」

『二番の蛇島は初球を打ってピッチャーゴロ!』

『キレの有るボールです。差し込まれましたね」

「葉波、今のが」

「はい。ツーシームだと思います」

 

 神下監督の言葉に頷き、答える。

 わざわざ教えてくれた情報を教えるのは少し気が引けるけど、そんな事を言ってる場合ではないと判断して、俺はオールスターで得たあおいの情報をしっかりと監督、コーチに伝えていた。

 勿論、監督達は選手全員にそれを通達。しっかりとミーティングを行って、あの内角高めへのツーシームの対策はしてきた筈だった。

 だが、それでも、あのミート上手の蛇島が初球で打ち取られたのだ。

 

「蛇島、どうだった?」

「ツーシームはフォーシーム……一般的なストレートに比べて回転数が少ない球種みたいですが、早川さんの場合はボールが浮き上がってくる軌道のせいでボールの変化が非常に見づらいですねぇ。……見極めるのは難しいでしょう」

「……なるほどな」

 

 蛇島がバットを置いてベンチに座る。

 ……チッ、選球眼、ミート共にずば抜けて良い蛇島に見極めるのが難しいとまで言わせるのか。

 そりゃそうか、オールスターで九者連続三振を打ち取った軸のボールの一つだ。そう簡単に攻略なんか出来る訳がない。

 

『バッター三番、友沢』

 

 コールされ、友沢がボックスに立つ。

 かつてのチームメイトに相対する、あおいと進のバッテリー。

 ここまで友沢は三割二五本、六〇打点と中軸に相応しい成績を残している。

 流石のあおいと進も、友沢相手には球数を要する筈だ。

 

「ゆたか、キャッチボールだ」

「はい」

 

 ゆたかと共に、ベンチ前に出てキャッチボールを始めながらも、俺はあおいと友沢の対決からは目を離さない。

 友沢に対して、あおいと進のバッテリーが選んだ初球は、内角へのマリンボールだった。

 ビュンッ! とここまで風切り音が聞こえそうな程速いスイングだが、ボールには当たらない。

 空振り、これでワンストライク。

 続いて、あおいは外角低めへのストレートを投じる。

 

「ストライーク!」

 

 球審の右手が上がる。

 あのコースは、さしもの友沢も打てない。

 内外、マリンボールストレートと続けた。

 続いてあおいは外ギリギリ、友沢のバットが届かないコースへ、ゆるいカーブを投じた。

 友沢はそれをしっかりと見極め、これでツーストライクワンボール。

 緩を入れてきた。

 となれば、次は急。ストレートが来るはずだ。

 予想通り進が内角へと寄る。

 あおいは進のサインに一度で頷いて、アンダースローからボールを投じた。

 スイッチヒッターで有る友沢は、右投手で有るあおいと対戦する際には左打席に立つ。

 その友沢の内角に投じられたボールは、

 

 そこから、ストライクゾーンへと変化した。

 

「っ――!」

 

 友沢が思わず身体を仰け反らせる。

 変化球――マリンボールを捕球した進は、そのままピタリと動きを止めてコールを待つ。

 なっ……!? い、今のボールって……!

 

「ストライクバッターアウト! チェンジ!」

 

 友沢が一瞬だけ驚いたような顔をして、ベンチに戻ってくる。

 

「パワプロ、今のは」

 

 友沢が確認するように俺に視線を送る。

 俺は、その友沢の視線に頷いて応える。

 

「”フロントドア“だ」

「フロント、ドア……って、メジャーリーガーとかが良く使う奴ですよね? メジャーリーグの中継で聞いたことは有りますけど……」

 

 ゆたかが首を傾げる。

 日本ではまだ一般的な単語じゃないからな。知らなくても不思議ではないだろう。

 

「ああ。内角のボールゾーン、内角のボールゾーンから曲がってストライクゾーンに入ってくる変化球のことだ。ぶつかりそうなほどのインコースから急激にストライクゾーンに入ってきたな。……しかも、今のはマリンボール」

「途中まで、ストレートと全く見分けが付かなかった。ボールが浮かび上がりながら身体に向かって来るように感じて、避けなければと思って仰け反った途端、ボールが急激に失速し、ストライクゾーンを掠めていった」

 

 友沢が悔しげに言いながらグローブを付けてベンチを出る。

 内角へのマリンボールで確実にストライクを取った後、対角線で最も見づらい所へストレートを投げ込んで簡単追い込み、見せ球にカーブを使った後、マリンボールを使ったフロントドアで見逃し三振に打ち取った。

 ――なんて投球術。

 あおいの精密機械のような制球力がなきゃ出来ない芸当。

 まだ対戦していない俺にも、その凄みが伝わってくる。

 俺が一軍に上がって間もなく戦った時とは、まるで違う。

 成長したんだ。シーズン中に――もう一段階上の投手へ。

 これが、早川あおい。

 俺達の前に立ちふさがる強敵であり、キャットハンズのエース。

 この感覚を俺は確かにどこかで感じたことがある。

 これはそう、高校時代。

 対あかつき大付属高校で、猪狩を前に感じた圧倒的なプレッシャーにそっくりなんだ。

 

「……せ、せんぱい?」

「あ、悪い。じゃ、俺達もお返ししてやろうぜ」

「……はい」

 

 ゆたかが俺の言葉に頷く。

 負けられない。あおいが良い投球をしたなら、こっちもお返しするだけだ。

 

『後攻キャットハンズの攻撃は、バッター一番――木田』

 

 木田がバッターボックスに立つ。

 俺は、木田の様子をじろりと見て――。

 

 

                  ☆

 

 

「ナイスボール、あおいちゃ~ん」

 

 ベンチに戻ったあおいを出迎えた世渡監督に、あおいはにっこりと笑みを浮かべ、ベンチに座る。

 

「はいっ、ふぅ、上手く行ってよかった」

「ずっと練習してましたもんね。フロントドアとバックドア」

「うん。本番で使うのは初めてだったけど凄く上手く行ったね」

「友沢さんを三振で打ち取れたのは大きいです。カイザースも意識してくれるでしょうから、これで早川先輩の制球力が活きます。これで今日の試合は保つと良いんですけど……」

 

 戻ってきて、打席の準備を進める進と話をしながら、あおいはキャッチャーズサークルに向かうパワプロの姿を見た。

 

「そう簡単に行かないよ。相手はパワプロくんだもん。油断しないで、ボクに出来ること全部やって抑えなきゃね」

「……そうですね。頼もしいです」

 

 進が微笑んで、あおいの言葉に頷く。

 その二人の会話を聞きながら、世渡監督がニヤリといやらしく笑った。

 

「そうなるといいけどねぇ」

「? どうしたんですか? 監督」

「いやぁ。あおいちゃん、今日は大丈夫だよ。勝負にすらならない」

「……ど、どういうこと、ですか?」

 

 世渡の言葉に、あおいが身を乗り出す。

 そんなあおいに世渡は顔を向けることなく、フィールド上のパワプロに視線を集中させる。

 

「今日は、パワプロくんは打撃に集中する暇は無いと思うよ。あおいちゃんとは、端から勝負にならないと思う」

「え――?」

 

 困惑するあおいの目の前で、木田が甘く入ったゆたかの直球をライト前に打ち返し、塁に出る。

 

「神下くんもまだまだだね。――この大事な試合を、若いバッテリーに任せるんだから。ゆたかちゃんは良い投手だけれど、この緊張感の有る、独特の雰囲気の試合……ましてや初回、その場面で普段通りにボールを制球するとはいかない。甘く入ってくる。……となれば、プロならばヒットに出来る」

「そ、そうですね……」

「そして、そのヒットがパワプロくんにとっての、命取りだ」

「っ」

 

 世渡の言葉に、あおいは思わず息を呑む。

 嫌な予感がする。

 チームとしては喜ぶべきことの筈なのに、何故かあおいは感じたことのある恐ろしい感覚に支配されて、素直に喜べなかった。

 この感覚を、あおいは知っている。

 それは高校時代。

 一年の夏――帝王実業との試合で感じた、あの感覚。

『そこは危ない』と感じた次の瞬間、パワプロが蛇島にラフプレーを受け、肩を故障したあの時と、同じ感覚だった。

 

 

                 ☆

 

 

 甘く入ったストレートを木田に捉えられた。

打球がライト前に弾むと同時に、ライトスタンドから大歓声が沸き起こる。

 

「ゆたか! 気にするな! 単打なら問題ないぞ!」

「は、はい」

 

 ゆたかに声を掛け、ボールをゆたかに投げ渡す。

 ノーアウト一塁。

 初球、外角に投げさせたストレートが甘く入ってヒットになった。

 でも、単打で済んだのはゆたかのボールにキレが有ったからだ。

 制球は甘かったけど、球威は有る。調子は悪くなく、むしろ良い部類だろう。

 なら、ここはそれを活かそう。

 

『バッター二番、小山雅』

 

 金髪をポニーテールに結った美女が、打席に立つ。

 彼女の姿を見て、俺は自然と自分のミットへと視線を落とした。

 東条慎吾。

 俺の目標だった、一人の野球選手。

 その野球選手としての形見――小山雅。

 

「……そのグローブ」

「ん?」

「慎吾くんのですよね」

「……ああ」

 

 ぱしん、とグローブを拳で叩きながら言うと、小山はすっと目を細めた。

 

「それがどうかしたか?」

「――いえ」

 

 俺の言葉に首を振って、小山が構える。

 ゆらりとバットを身体の前で倒し、揺らしながら僅かに左足でタイミングを取っている。

 所謂『神主打法』と呼ばれる、独特なフォーム。

 一見穴だらけに見えるが、この打法で小山はここまで打率を三割近く残している。

 ……まずは様子見だ。外角のストレート。

 ジリ、と外角に寄る。

 ゆたかが足を上げたと同時、倒していたバットをすっと身体の方に寄せながら、足を上げる小山。

 投じられたボールはストライクゾーンに甘く入ってくるが、小山はそれを見逃した。

 

「ストライク!」

 

 バントの構えはなし、か。

 初回の、それもノーランナーだ。

 確実に送ってくるとは思うんだが、木田は足も有る、スチールで二塁進塁を狙っているのかもしれない。

 と思っていると、俺の目の前で小山がバットを倒し、バントの構えを取った。

 やはりバントか。

 ワンアウトを貰ってゆたかを落ち着かせるということを考えてもいいが――やすやすとさせるのは良くない。

 それに、バントと決めつけて甘い球を投げれば、バスターということも考えられる。

 一度高校時代にそれで痛い目に遭ってるからな。ここは慎重に攻めよう。

 サインを出した後、インコースに寄って高めに構える。

 インハイにストレート。

 ここならバントも難しいし、仮にバスターで来られたとしても、今日のゆたかのストレートを安打に出来る確率はそう高くない。

 ゆたかが頷いて、モーションに入ったと同時、ファーストランナーの木田が走りだした。

 このタイミング、エンドランか!

 立ち上がり送球の体勢を作る。

 ボールをミットで受け取り、セカンドへとボールを送球する。

 友沢はボールをつかみ、滑りこむ木田の足にタッチする。

 

「セーフ! 盗塁成功!」

「ちっ」

 

 エンドランでスタートが遅れたのに刺せなかったか。

 小山がバントの構えで覆いかぶさってた分、送球が遅れた。くそっ。

 今のボールは決まっていたらしく2-0。一応追い込んだことになる。

 

「ゆたか! 気にするな! 内野ファースト優先!」

 

 ゆたかにフォローを入れつつ、内野に指示を飛ばす。

 この天王山でいきなりエンドラン、しかも盗塁成功……嫌な流れだ。

 ここはしっかりと後続を打ち取らないとマズイ。

 特に今日は相手があおいだ。一点が致命傷に成り得るかもしれない。

 

(ここは小山を絶対にアウトに取る。外角に縦スライダーだ)

 

 俺のサインにゆたかが同意して、ボールを構える。

 得意なボールである縦スライダーを投げさせて緊張を解しつつ、カウントを整えるぞ。

 ゆたかが投じた小山への三球目は、小山のベルト高の高さに投じられた。

 甘く入ったように見えたのだろう。小山が打ちに来る。

 ――だが。

 ゆたかのスライダーは、ここから魔法のように視界から消え去る。

 ブンッ! と小山のバットが空を切って、白球が俺のミットへと収まった。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 よし! 三振!

 ゆたかの縦スライダーの変化は俺も実体験済みだ。

 このボールは一流の打者であれ、そう簡単に攻略することは出来ないぜ。特に追い込まれてからとなると、見極るのは相当難しいはずだ。

 

『バッター三番、猪狩進』

「よろしくお願いします。パワプロさん」

「ああ」

 

 呼ばれて打席に入ってきた進と軽く挨拶を交わして、俺はじっと進を観察する。

 進はスタンダードにバットを構える。

 隙のない、オーソドックスなフォーム。

 左打者で内野安打も有るとはいえ、進は今年も打率三割をキープしている好打者だ。

 ワンアウト二塁で一打勝ち越しのピンチだ。だからこそ、此処は攻めよう。

 一つアウトを取ったことでゆたかもある程度落ち着いただろうし、内角の厳しい所を要求する。

 内角に外れても良い。ストレートを思い切って腕を振って投げてこい。

 進の内角に身体を寄せ、構える。

 ゆたかがチラリと二塁ランナーを見た後、足をあげる。

 同時に、また木田が走りだした。

 三盗!? この状況で!? ――舐めるなよ! 俺の盗塁阻止率は五割だぜ!

 内角へのボールを、進が盗塁援護のスイングをする。

 その瞬間、俺の脳裏に”何か“がチラついた。

 それが何なのか、俺には分からなかった。

 パァンッ! とサードの春にボールが渡り、春が木田の足にタッチする。

 だが。

 

「セーフ!」

『セーフセーフ! 盗塁成功!』

『葉波選手、驚いたのでしょうか一瞬ボールを握り直しましたね』

 

 っ! くそっ。

 ゆたかのクイックは悪くない。俺の送球もストライクゾーンに行った。

 なのにセーフだって? 相手が矢部くんならいざ知らず、相手は木田だ。確かにキャットハンズの中では進に次いで俊足だった筈だけど、木田の脚力はこんなにも良くなってたのかよっ!

 これでワンナウト三塁。外野フライでも勝ち越される。

 “汗を拭い”、俺はキャッチャーズサークルに座り直す。

 大きく深呼吸して、”高鳴る心臓を落ち着かせる“。

 落ち着け。相手は進だ。

 先程のボールは外れて0-1。

 ここはフォアボールでも良い、厳しい所を攻めていくぞ。

 ギリギリを狙ってストレートを投げさせる。

 だが、進はそのことごとくを見逃した。

 

「ボールフォア!」

『フォアボール! これでワンアウト一、三塁!』

『今日の早川選手を見るに、一点勝負と考えているのでしょう。座っていましたが、フォアボールでも良いという考え方ではないでしょうか。ジョージは大きいのが打てますが、キャットハンズの中では併殺打が一番多い選手ですからね』

『バッター四番、ジョージ』

 

 バッターの四番、ジョージはキャットハンズが獲得した自前の外国人選手だ。

 昨年三五本塁打を打ったものの、打率は二割七分。バッティングは荒く、併殺打も多い。

 ここは併殺を狙って、インコースの低めにチェンジアップだ。

 盗塁が来たら刺す。これ以上、走らせてたまるか。

 進は脚は速いが、盗塁の技術は無い。変化球を投げさせても刺せる。

 俺なら刺せる。

 絶対に、刺せる……!

 ゆたかが進へ牽制をする。

 進は立ったままベースに戻った。

 今のところ、走る気配は微塵も感じない。

 だが、関係ない。仮に走ってきたとしても、俺が刺せばそれで良いだけだ。

 俺のサインにゆたかが頷き、俺はインコースの低めに構える。

 そしてゆたかが脚を上げたと同時に、三度キャットハンズは盗塁を仕掛けた。

 ジョージがスイングして進を援護するが関係ない。

 俺はインコースのチェンジアップを捌き、セカンドへ鉄砲肩を魅せつける。

 

 ――状況も忘れて。

 

 俺が、それに気付いたのは春の声を聞いてだった。

 

「スティール!」

「――あ」

 

 ダブルスチール。

 捕手がボールをセカンドのに投げたのを見てサードランナーがスタートするプレー。

 本来ならばこの場面、キャッチャーはピッチャーがカット出来るよう、低いボールを投げなければならない。

 しかし、俺はセカンドランナーを刺すことばかりを考えて、全力で腕を振るっている。結果、ボールは高くゆたかにはカット出来ない。

 カットされることのないボールはセカンドのベースカバーに入った蛇島のグローブに収まる。

 蛇島は俺の送球をキャッチしてホームに送球するが、間に合わない。

 俺が蛇島からの送球を受け取り、タッチしようと伸ばした腕よりも早く、木田がホームを駆け抜けた。

 

「セーフ!!」

『だ、ダブルスチール成功~!! キャットハンズ、先制点は脚で奪いましたッ! 猪狩進もセカンドに到達し、これで何と、初回で盗塁四つです!』

『これは葉波選手のミスです。送球が高く、稲村選手がカット出来ませんでした。セカンドランナーを刺そうと力が入りすぎましたね』

 

 ライトスタンドは喜びの歌を奏で、レフトスタンドからは大きなため息が漏れる。

 今、俺、完全に、サードランナーのこと――忘れてた。

 ファーストランナーが盗塁したら刺そう刺そうとばかり考えて、完全に頭から飛んでいたのだ。

 足元が揺らぐ。

 何やってるんだ、俺は。

 崩れそうになる脚に必死に力を込めて、歯を食いしばる。

 動揺は見せるな。

 俺は扇の要、チームの要だ。俺が崩れたら、チームも崩れる。

 

「わりぃ! 送球が高かった!」

「この程度の失点、返せる。気にするなよ稲村」

「大丈夫です! 信じてますから!」

 

 友沢の声がけに笑顔で答えて、ゆたかが俺の方を向く。

 心の中で謝りながら、俺はゆたかへとボールを投げ返した。

 ワンストライクノーボール、ワンアウト二塁でバッター四番。

 併殺は無くなったが、犠牲フライや内野ゴロで一点入ることも無くなった。ここは確実に打ち取ればいい。

 初球はインコース低めにチェンジアップ。なら次は外角低めにストレートだ。

 ゆたかが頷き、ボールを投じる。

 パンッ! とストレートを捕球すると、後ろで球審の手が上がった。

 

「ストライク!」

 

 ランナーに動きはない。

 これで追い込んだ。カウントはピッチャー有利。

 ジョージの弱点は外角への変化球だ。特に落ちる球に弱い。

 これが甘く入ると打たれる傾向にあるが、生憎、ゆたかにそんなコントロールミスは九割九部九厘無い。

 前回までの対戦でも、ゆたかはジョージに一本もヒットは打たれておらず、相性は抜群だ。

 ここで四番を打ち取れば、流れを完全にキャットハンズに奪われるなんてことはないだろう。

 

(外角へのボールを活かすためには、インコースを使わないとな。インハイ高めに見せ球のストレート。その後外角のスライダーで終わりだ)

 

 サインを出し、ゆたかが同意したのを確認して、俺はジリリとインに寄る。

 そして、ゆたかが脚を動かしたその刹那。

 進が、サードへと走りだす。

 っ、いい加減にしやがれっ! もう盗塁なんて許さねぇよ!

 捕球するべく腕を伸ばす。

 ジョージはそのボールを見逃した。

 俺は捕球したボールを持ち替えてサードに向かって腕を振るう。

 タイミングはアウトのはずだった。

 しかし、ボールはサードファウルゾーン側に逸れる。

 春がなんとか腕を伸ばしてボールを掴む。

 そのまま滑りこんでくる進の脚にタッチするが、ボールが逸れた分、タッチが遅れる。

 

「セーフセーフ!」

『さ、三盗二つ目~! 盗塁は五つ目! 葉波、稲村バッテリー、完全に盗まれています!』

『……いえ、稲村選手のクイックは悪くありません。しかも今のはストレートです。明らかに葉波選手の送球が遅かったのと、送球が逸れたのが原因でしょう』

 

 こ、れは……。

 審判の手が横に広がった瞬間、俺はやっと気付いた。

 

(……っ、狙われてるのは、俺か……っ!)

 

 明らかに、キャットハンズは俺の何らかの癖を盗んでスチールを仕掛けている。

 なんだ? 何をどう判断して、あいつらは盗塁をしてるんだ?

 ……ダメだ、分からない。

 首を横に振るって、俺は審判からボールを受け取り、ゆたかへと投げ返す。

 ゆたかは心配そうな表情で俺を見つめていた。

 俺はマスクを外し、目いっぱいの笑顔を浮かべる。

 

「俺も緊張してたみたいだ。ごめんな」

「っ……いえっ! 大丈夫です! まだ一点しか入ってないですよ!」

 

 俺の言葉に、ゆたかが目一杯の元気を返してくれる。

 俺はマスクを付け直し、座り直す。

 視線を落とせば、そこには、俺の右手に付けられた東条のミットが有った。

 ……盗塁が刺せねぇから、なんだってんだよ。

 東条は肩を壊したって、最後まで諦めなかった。

 だから俺も諦めない。折れない。折れて、たまるか。

 俺は、カイザースの正捕手。

 優勝するチームの正捕手が、弱気になんかなってたまるか。

 予定通り、ゆたかに外角低めのスライダーのサインを送る。

 ゆたかは、そのサイン通りにスライダーを投げ込んできてくれた。

 ジョージが空振る。

 

「ストライクバッターアウト!」

『四番ジョージを打ち取って、これでツーアウト! ランナーは三塁!』

 

 ツーアウトまで、やっとこぎつけた。

 続く五番、上条はチェンジアップでストライクを取った後、ストレートで追い込み、縦のスライダーを二球見られたものの、2-2から、もう一度縦のスライダーで空振り三振に打ち取る。

 これで、やっとチェンジ。

 長く感じたキャットハンズの裏の攻撃が、やっと終了する。

 俺は駆け足でベンチに戻る。

 

「葉波、大丈夫か?」

「近平……」

「気にすんな。俺もバルカンズにはこれくらい走られまくったからよ」

「それ、フォローになってないぞ……?」

「安心しろって、得点は取ってやるからさ」

 

 珍しく近平に励まされ、俺は何とか笑みを浮かべる。

 そして、戻ってきたゆたかに目を向けた。

 

「悪い、ゆたか」

「大丈夫です。この何倍も先輩には助けられてますから!」

 

 満面の笑みで応えてくれるゆたかに笑みを返して、俺は神下監督と投手総合コーチ、スコアラーの元へと脚を運んだ。

 

「監督」

「ああ。……自覚は有るか?」

「何か癖を盗まれているのは分かりますが、それは何か分かりません」

「……気が動転しているのか?」

「……はい、多少は」

 

 ごまかしてもしょうがないので、正直な感想を口にする。

 当たり前だ。一回五盗塁なんてプロ野球でも初めてだろう。

 しかも相手はバルカンズではなく、どちらかというと盗塁の少ないキャットハンズ相手にだ。

 これで動揺しない選手なんて居ないだろう。

 

「そうか。お前も人の子だな。……まずは落ち着け」

「はい。ですが、スコアを見せて貰っても良いですか?」

「……後悔するなよ」

 

 意味深なことを言って、神下監督がスコアラーに促す。

 俺はスコアラーからスコアを受け取って、一回裏のスコアに目を通した。

 グラウンドでは、四番のドリトンが打席に立っているが、ドリトンとあおいの対戦成績はドリトンが圧倒的に不利だ。

 あまり時間はないかもしれないと思いつつ、俺はスコアを見た。

 盗塁された所の配球を見る。

 球種は……ストレートで多めに盗まれている。五つの盗塁のうち、ダブルスチールで二つ記録されてるから四つとカウントしても三つだ。

 だが、ダブルスチールを決められた際の一球はチェンジアップ。

 つまり、ストレートを投げさせる際の癖ではないということだ。

 球種じゃない。だとしたら、残りは一つしかない。

 

「……コース」

「そうだ。……キャットハンズはお前がインコースに寄った際に盗塁を仕掛けている」

「……ですよね」

「ああ、ここから見ていても分かる。今日のお前は、インコースを捕球しセカンドへ投げる際、明らかに送球が遅くなっている」

「……っ」

 

 それを、的確に突かれた。

 一体何が原因なのか分からない。どうしてそんな癖が有るのか、どうして気付かれたのか。

 自覚が無い、ということは今まで気にすらして来なかったということだ。

 インコースへの投球の後に送球が遅れるという致命的な癖が有るのなら、もっと早く表面化しているはずなのに、どうして今になって気付かれたんだ……?

 

「葉波、これが直接関係しているかは分からないが――一つ、気になることがある」

「気になること、ですか?」

 

 そうだ、と神下監督が頷く。

 

「お前、自分の盗塁阻止率は分かるか?」

「……五割一分です」

「ああ、プロでもダントツトップの、立派すぎる数字だ。……だが、許盗塁の数は知っているか?」

「……ええと、二一です」

「うむ。……では、その二一の内、バルカンズの盗塁七つを除いた一四。この内何個を、どの回で決められたか、知っているか」

「それは――」

 

 そこまで言われて、はっとする。

 バルカンズとの試合で許した盗塁は七。残りの盗塁の一四個を決められた回は――。

 

「……八、九回……」

「そうだ。盗塁阻止率と、序盤、中盤での盗塁阻止が有るがため、今まで表には出てこなかったが、お前は八回、九回に盗塁を許しやすいという癖がある」

「……で、でも、今日は序盤から決められてます」

「……葉波。今現在、お前はプレッシャーを感じていないか?」

「へ? し、してるに決まってるじゃないですか。こんな雰囲気味わうの初めてですし、天王山って言われてますし」

「では、普段の試合はどうだ」

「……最近は大分慣れてきましたから、大きな重圧を感じることは無い、ですね」

「――それでは、その日の試合の勝敗が掛かった八回九回は?」

「そりゃ、終盤で点が入ったらマズイですから、プレッシャーは掛かりますね。……っ、まさか」

「……そういうことだ」

 

 神下監督がグラウンドに目を戻す。

 あおいにサードゴロに打ち取られたドリトンが、すごすごとベンチに戻ってくる所だった。

 俺はそんな光景を見つめながら、到達した結論にギリッと奥歯を噛みしめる。

 ……つまり、俺には『重圧の掛かる場面での、インコースに投じられたボールの際の盗塁阻止率が著しく悪い』という癖が有る。

 キャットハンズは、それに気付いたのだ。

 

「今日は天王山。若いバッテリー……プレッシャーを感じるなという方が無理だ」

 

 カァンッ! と五番の近平が良い当たりを放つも、ライトライナーに打ち取られる。

 

「そこで、お前の弱さ、脆さが露呈した。……お前のその脆さに気付かなかった、俺も迂闊だった。――だが、もう逃げ場はない」

 

 神下監督の鋭い視線が、俺を睨む。

 

「説教は試合後だ。……お前は変えん。歯を食いしばって、戦ってこい」

「……はい」

 

 ……そうだ、俺は逃げるわけにはいかない。

 俺はプロ野球選手なんだ。

 東条の魂を譲り受け、ナンバーワンのキャッチャーになるんだ。

 そんな俺が、こんな所で逃げてたまるかよ。

 六番の春は三振に打ち取られ、二回のカイザースの攻撃が終わる。

 点差は一点差。まだ試合は分からない。

 ――絶対に勝つ。

 

 

                 ☆

 

 

「しぶといねぇ、パワプロくんは」

 

 世渡は、ベンチの中で感心した声を上げた。

 世代ナンバーワンキャッチャーのプライドか、はたまた神童にメンタルを鍛えぬかれたのか、盗塁を幾つ決められてもパワプロは逃げようとせず、真正面から戦おうとする。

 それでも、普通の状態ならばもうワンサイドゲームになっていてもおかしくなかっただろう。

 フォアボール、ヒットが全てスリーベースになっているような状態だ。

 それでも崩れないのは、ひとえにあの投手、稲村ゆたかの投球のお陰に他ならない。

 どうやら弱点に気付いたようで、パワプロはインコースを使わずアウトコース一辺倒で攻め、盗塁を許さないようにするという手も使っている。

 だが、そんなものは焼け石に水だ。むしろ、コースを限定化し、ヒットの確率を増やしているに過ぎない。

 確かに外角低めはヒットのコースが著しく落ちる聖域では有るが、それでもプロならば、来ると分かっていれば、踏み込んで安打を放つことは造作も無い。

 回は五回。

 友沢にヒットを打たれたものの、あおいが許した安打はその一本、四死球もなく、完封ペースで回は五回だ。

 見れば、稲村ゆたかは肩で息をしている。

 ランナーが出る度にギアを上げ、ピンチを抑えぬいてきたのだ。体力はもう限界だろう。

 そんな状態の投手を変えるのは非常に勇気が居る。

 ボールが来ているかどうか、分かるのはパワプロだけだ。つまりは、パワプロの進言がなければ、大量点差でも付かない限り稲村は交代しないだろう。

 大量得点をした時、それはすなわち、キャットハンズの勝利だ。

 そうならない前に投手を交代させることが出来るかどうか。

 

「……出来る訳がないよねぇ」

 

 不甲斐ないのは自分。

 盗塁を大量に許し、五割台だった盗塁阻止率は4割台前半にまで低下した。

 それを抑え、失点を最小にまで抑えてくれているのは他でもない、あの稲村ゆたかなのだから。

 そんな投手を変えてくれだなんて監督に言える訳がないのだ。

 

「ひっこめクソ捕手!」

「何個盗塁されりゃ気がするんだボケッ! 敵チームの女とイチャついてんじゃねぇぞコラ!」

 

 観客から容赦無い野次が飛ぶ。

 それでも、その野次を背中に受けながら、パワプロは決して逃げようとはしない。

 

「末恐ろしいけど……」

 

 まだまだ青い、と世渡はほくそ笑む。

 五回裏が終わって、いよいよ試合は後半戦へと突入する。

 六回表、カイザースの攻撃。

 バッターは捕手、葉波から。

 傷口を広げないためならば、ここで葉波に代打を送るのも一手だが、神下監督は代打は送らず、バッター葉波をそのまま打席に立たせた。

 葉波はあおいの球筋を良く知っている。

 だが、それでも今日のあおいは打てない。

 初球ストレートを見送り、カーブはボール、シンカーでストライクを取って追い込んだ後、四球目のインハイへのストレートを空振り三振する。

 進のリードにしてやられた形だろう。どうしても追い込まれた後のインハイはツーシームがちらつく。

 それを利用したインハイへのストレートだ。

 バッターは九番、稲村。

 ここまで五回一失点で、勝利投手の権利を得ていない、裏ローテのキモを此処で交代することは出来ないだろう。

 

(次の回辺り、試合が決まるかな)

 

 世渡が想い、椅子に座り直した所で、神下監督がベンチから現れた。

 

『選手の交代をお知らせいたします。九番ピッチャー稲村に変わりまして、ピンチヒッター、岡村』

 

 そのアナウンスを聞いて、世渡は目を見開いた。

 

(交代、だと……!?)

 

 ベンチに座るパワプロを見る。

 稲村が信じられないような表情でパワプロに詰めより、何かを必死に訴えていた。

 パワプロはその稲村に首を振ったり頷いたりした後、再びフィールドへと目を向けた。

 その目は、決して諦めていない。

 試合を、勝利を、――自分自身を。

 その目を見た瞬間、まるで背骨に液体窒素を突っ込まれたような悪寒が世渡を襲った。

 

(ぱ、パワプロくん……! まだ諦めていないのか……!?)

 

 諦めず、まだ前を向いて。

 このまま稲村を投げさせれば絶対に失点すると感じて、自分の失敗をフォローしてくれたパートナーをスパッと変えるよう、神下に進言したというのか。

 

(……ダメだ。あいつは)

 

 ここで、潰さないといけない。

 さもなければ、脅威になる。

 今年だけではなく来年、再来年以降。彼は、立ちはだかる。自分達の前に、強大な敵として。

 その世渡の感覚と全く同じものを数年前、とある選手が感じた事があった。

 ――館西。

 現在パワフルズのローテーションピッチャーである彼は、かつて甲子園に出場したパワプロ達の前に立ちはだかり、世渡と同じようにパワプロを策に嵌め、調子を崩して一時は自分のチームの圧倒的優位を築いた。

 世渡監督は知る由もない。

 同じフィールドでプレイしていた館西と、あくまでもベンチから戦況を見つめる世渡では、感じるものが違うのだから、気づける筈がない。

 館西と世渡が感じた同一の悪寒の正体に。

 それは、パワプロの“感度”。

 ピンチに対する、嗅覚。

 このまま行けば試合が壊れる。このまま進めば試合に負ける。

 プレッシャーが掛かる時であればあるほど、負けられない戦いであればあるほど、パワプロは敗北の匂いを鋭敏に感じ取り、その展開を回避する。

 そして――成長する。

 試合中だろうがなんだろうが、彼は決して同じ所には立っていない。

 常に一歩一歩、前に進んでいく。

 戦慄する世渡の前で、岡村が痛烈な当たりをライトに放った。

 ボールはライト前に弾み、ランナーが出塁する。

 それを見てカイザースベンチが盛り上がる。

 ワンアウトランナー一塁。打順がトップに戻って、バッターは相川。

 相川はあおいの狙っていたのか、初球に投じられたシンカーを引っ張った。

 ファーストランナーの岡村がサードを陥れる。

 ワンアウトランナー一、三塁。バッターは二番蛇島。

 先程までの流れは消え、完全にペースは互角。

 もしもここで同点、逆転となれば――敗戦も見えてくる。

 手に汗を掻きながらも、世渡は動かない。

 

(あおいなら、このピンチを抑える)

 

 それは一重に、エースへの信頼感。

 世渡はそのまま祈るようにあおいを見つめた。

 あおいは進のリードに頷き、蛇島へボールを投げ込む。

 蛇島がじっくりボールを見る打者だということを念頭に置いて、まずはストレートを外角低めに外し様子を見てボール、続いてツーシームでファールを打たせ、1-1。

 ゆるいカーブを低めに外し、1-2。内角へのツーシームを蛇島は見逃し、これで2-2。

 そして、追い込んでから投じたボールは、

 外角のボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるマリンボールだった。

 それは、あおいが血の滲むような努力で練習した、フロントドアに対するもう一つの投球術。

 

 ”バックドア“。

 

 外角のボールからストライクゾーンをギリギリ掠めてミットに収まるよう変化球を投じる、角度を最大限に使ったピッチングだ。

 蛇島は、そのボールに手が出ない。

 

「ストライクバッターアウト!」

 

 審判の手が上がる。

 あおいがマウンド上でガッツポーズをする。

 ツーアウト一、三塁。

 続く三番、友沢をフォアボールで歩かせ、ツーアウト満塁にした後、あおいはドリトンをショートゴロに打ち取った。

 その瞬間、今日の試合の勝敗は決していただろう。

 あおいがグローブを手で叩きながら戻ってくる。 

 ライトスタンドから歓声が、レフトスタンドからため息が漏れる。

 堂々と胸を張って戻ってくるあおいの姿を見ながら、世渡は思った。

 確かに、あの葉波の得体のしれない判断力は、この先脅威に成り得るかもしれない。

 それでも。

 ――早川あおいがエースに君臨している限り、キャットハンズは王者であり続けるのだと。

 

 

              ☆

 

 

 試合が終わって、解散した後、俺は人気の無くなった寮でぼーっとテレビを見つめ、今日のニュースを眺めていた。

 ……敗戦投手、稲村ゆたか。

 俺から交代を告げられた時のゆたかの顔が、忘れられない。

 最初は嫌だ、とゆたかは言った。

 バットを握って、グローブを付けて。

 

『まだ俺は負けてないです! 投げられます!』

『俺は先輩を信じてるのにっ! 先輩は俺を信じてくれないんですか!?』 

『どうしてっ……せんぱい……っ』

 

 目にいっぱい涙を溜めて懇願したゆたかの願いを突っぱねて、俺は身勝手なお願いを神下監督にした。

 その結果、ゆたかの代わりに登板した中継ぎが打たれ、炎上。

 試合は0-4でキャットハンズの勝利と、最悪の展開だった。

 交代を告げられた後、俯いて、俺の問いかけにも応えず。

 普段なら勝っても負けても俺と今日のピッチングについて話すのに、ゆたかは俺の方を一切見ずに、部屋にそのまま戻っていった。

 ……当たり前だよな。あんなに調子良かったのに。

 ゆたかは、頑張ってくれたのに。

 俺は、根拠もなく、打たれる気がするからってだけで、ゆたかを交代させたんだ。

 有るのは後悔。

 どうしてもっと速く、自分の悪癖に気付かなかったんだ、俺は。

 そうすれば――今日のゆたかなら、十分勝ち投手になれたのに。

 後悔する俺の隣に誰かが座る。

 ちらりと目をやると、神下監督だった。

 寮に来るだなんて珍しいな。……俺を叱りにでも来たんだろうか。

 

「……眠れないか。明日も試合だ。お前は先発マスクだぞ」

「……そう、ですね」

「お前と話をしようと思ってな。家に帰ってからもう一度来た」

 

 神下監督は俺の目の前にパワリンを置くと、深くソファに座り込んだ。

 

「今日の稲村は、絶好調だった」

「……はい」

「今日のお前の酷いザマで一失点だったのは、稲村が許盗塁をカバーしてくれたからだろう。……お前なら立ち直ると信じて、な」

「……はい」

「それを、お前は投手交代させた。いわば、稲村の信頼を裏切ったんだ」

「……」

「それでも交代させたお前を、稲村は許さないかもしれない。どうしてだ。何故、交代させた。……キャッチャーをやっているお前が、どうしても交代させてくれと頼めば、私は動かざるを得ない。だから交代させたが、納得はいっていない。俺は現役時代は投手だ。だからこそ、納得しなければ眠れない。……言ってみろ、葉波」

「負けを――付けたくなかったから」

「……」

 

 俺の言葉に、監督が黙る。

 

「あのままゆたかが投げれば、点も捕れないし、次の回に取られてました。肩で息してましたしね。……あの回しか無かったんです。先頭バッターが俺で、俺を三振に打ち取った事で多少なりともあおいに緩みが出る。そこを突くしか得点は捕れなかった」

「それは、監督である私の仕事だ」

「そうかもしれません。でも――あのまま続けたら負ける気がしたんです」

「……結局、負けたな」

「でもただの負けじゃないです。一度もチャンスを作れずに負けるか、一度でもチャンスを作るか。……そして何よりも、バックドアを引き出せた。もしもピンチがなかったら、あおいと進のバッテリーは、恐らくバックドアは使ってないでしょう」

「……そうだな。それが、どうした?」

「残り一〇戦の内、あおいは絶対、もう一度カイザース戦で投げてきます」

 

 ぐっと拳を握りながら、俺はテレビを睨みつける。

 

「その時、このバックドアをデータとして取れたことが、絶対に活きます。……今日は負けましたけど、まだシーズンは終わってない。最後まで――諦めない。絶対優勝する。そのためには、こんな所でゆたかに潰れてもらっちゃ困るんです」

「潰れる?」

「はい。もしもあのまま投げてゆたかが打たれて大量失点していたら、俺のせいなのに、ゆたかは絶対自分の責任だと背負い込む。……あいつは優しいですからね。全部俺のせいなのに、自分が打たれたせいだって抱え込む。……そんなの、許せない」

 

 俺は、尚も言葉を紡ぐ。

 

「だったらあのまま、俺が酷い有り様だったのに一失点で抑えたっていう自信を持ったままで降りて貰った方が、絶対に良い」

「ふむ、なるほどな……納得した」

「はい。……次、もう一度ゆたかはキャットハンズと――あおいと、戦う日が来ます」

「ああ、それが事実上、早川と稲村の今年最後のマッチアップだろう」

「猪狩をぶつけるって考え方も勿論有りますけど――お願いします。もう一度ゆたかとあおいを戦わせてください」

 

 真っ直ぐに監督を見つめたまま、俺は頭を下げて懇願する。

 神下監督は、そんな俺に問いかけた。

 

「……そのためには、お前は嫌われても良いのか?」

「構いません」

「好いてくれているんだぞ。彼女は」

「関係無いです」

「可愛い後輩だと言っていただろう。その可愛い後輩が、二度と口を利いてくれないかもしれないぞ」

「――俺を嫌って、軽蔑してくれてもいい」

「……」

「ただ、勝って欲しい。勝ってくれれば、それで良い。俺が嫌われようが、軽蔑されようが、無視されようがひっぱたかれる……のは嫌だけど、でも、それでも――」

 

 俺はテレビに視線をやる。

 既に野球の話題は終わって、政治のニュースが流れていた。

 

「――努力しているゆたかに勝ちを、付けてやりたいから」

 

 真っ直ぐ、そう言った。

 監督は僅かに笑って、ソファから立ち上がる。

 ……俺の言葉に、納得してくれたんだろうか。

 

「条件が有る」

「……はい」

「この三連戦、残り二戦――そこでも、お前は弱点を突かれるだろう。それだけじゃない、弱点が明らかになった今、各球団がお前の弱点を突く」

「……そう、だと思います」

「――そうなる前に弱点を克服しろ。この二連戦をお前に捧げる。元より、お前がその弱点を克服する以外に、カイザースがキャットハンズを超えることは出来ない」

「分かりました。全力でやります」

「ああ。それが達成できたら、私も約束は守る。――誰よりも後輩思いな先輩の顔を、立ててやろうじゃないか」

 

 俺ではなく、廊下の奥に目をやって意味深に微笑みながら、神下監督は約束してくれた。

 俺も後ろを振り向いて確認してみるが、誰も居なかった。

 ……気のせいか? まあ良いか。それよりも今は、やることが有るんだ。

 思い、俺はソファから立ち上がって、神下監督を真正面から見据える。

 

「約束します。俺は――諦めない。成長する、してみせます」

「よし。その言葉、信じているぞ」

「はい。それじゃ、俺は今日は寝ます」

「ああ、ご苦労」

「それじゃ、お休みなさい」

 

 俺は監督に挨拶をして、部屋に向かう。

 明日もマスクだ。今日のような醜態は、二度と晒さない。

 自分の心に誓って、俺は部屋に戻っていった。

 

 

            ☆

 

 

 ぺこっとお辞儀をしてパワプロは自室に戻っていく。

 それを見送って、神下は自動販売機の前へと移動した。

 

「――だそうだ。どう思うんだ? 稲村」

 

 そこにしゃがみ込むようにして声を殺しながら泣きじゃくる小柄な投手、稲村ゆたかを見下ろし、神下が問いかける。

 

「……ひっく、オレ、酷いこと、いっちゃっ……! っ、ぐすっ」

「誰でもそう思うだろう。あの場面、恐らくベンチにいた誰もが、葉波に反感を抱いていたはずだ。……友沢は何かを察していたようだが」

 

 そこは流石に付き合いが長いだけのことは有るか、と神下は思う。

 それでもゆたかは泣き止むことなく、溢れ出る涙を床にぽたぽたと零す。

 

「オレ、だけは、ずっと先輩を、信じてなきゃ、いけないのに……っ、せんぱいは、オレが、早川あおいに勝てるって、信じてるのに……っ、どうして、オレ、は、先輩のこと、信じなかったんだ……っ、っくっ……」

「……稲村」

「っ、っ、は、いっ……」

「葉波は、お前が努力していることを知っている」

 

 稲村ゆたかを一巡で指名したのは、神下監督だった。

 女性投手を一位指名。

 実力主義を掲げるカイザースには、女性選手を指名することに反対する人物達が多く居た。

 それでも、彼女の野球に対する姿勢や、技術、関節の柔らかさなどを見て、これならば一軍のエースクラスになる、と思い指名を決めた。

 そんな彼女を、一年目から悲劇が襲う。

 左肘の靭帯損傷。

 トミー・ジョン手術を行った頃には、彼女の目は死んでいたように思う。

 期待したドラ一の選手が大怪我を負う。

 指導者たる監督が、その出来事に心を痛めないはずもない。

 二軍に視察に来る度、辛そうにリハビリを続ける稲村の姿を、神下は見ていた。

 ボールに触れず、筋力練習とランニングしか行えない、辛そうな姿を。

 完治してリハビリが終わってからもそれは変わらず、彼女はボールを投げることなく、不安から逃れるように下半身強化のトレーニングばかりを行っていた。

 ――そんな状態でも彼女は練習を一度たりともサボらなかったし、遅刻もしなかったし、誰よりも遅く室内練習場に残って、身体を苛めていた。

 食事の管理を徹底的に貫き、決してプロのアスリートであることを捨てようとはしなかった。

 そんな姿をパワプロは一目見て看過したのだ。

 背中を押して、もう一度誰よりも高い場所へ、マウンドへ――彼女を連れ戻した。

 

「その努力に報うためならば、奴は自分の事など嫌ってくれて良いと言った」

「ふぇ……ぅ……っ」

 

 じわり、とゆたかの目に再び大粒の涙が浮かぶ。

 それでも神下は言葉を止めない。

 

「ならば、その気持ちに応えるには、どうすればいい?」

「っ……オレ、は……」

「捕手の信頼に、捕手の気持ちに、『俺達』投手はどう応えれば良い?」

 

 いつの間にか、神下の言葉は監督のものではなく、選手時代の、投手時代の彼に戻っていた。

 その問いかけにゆたかは立ち上がり、涙を拭って答える。

 

「気持ち、と、勝利、で……っ!」

「そうだ」

「全力を出してっ、早川あおいに勝ってっ、先輩に、ありがとうって、先輩のお陰で勝てたんだって、そう伝える……っ!」

「そうだ!」

 

 神下はゆたかの目を見つめ、頷く。

 

「勝て、稲村。葉波は必ず自らの悪癖を修正し、成長して戻ってくる」

「はい……」

「その時、お前もまた一〇〇パーセントの力で奴の努力に応えて、勝て。……そうすれば、お前達は最強のバッテリーになれる」

「……最強の、バッテリー……、先輩と、オレが」

 

 ゆたかの目線が定まった。

 それを確認して、神下は踵を返す。

 

「今日は良く眠れ。……そして、次の登板に備えろ」

「――はいっ!」

 

 ゆたかの返事を聞いて満足気に頷きながら、神下監督は寮を後にする。

 ――かつて橋森に負けない程に熱かった頃の自分に戻ったかのような、不思議な充実感を感じながら。

 負けた日とは思えないほど清々しい気持ちのまま、神下監督は帰路に着いた。

 


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