実況パワフルプロ野球恋恋アナザー&レ・リーグアナザー 作:向日 葵
playback 八月五日
「イップスね」
「……ふむ。やっぱりそうですよね」
オフの日を利用して、俺はかつて恋恋高校の監督を努め、今は大学病院でスポーツ医学に携わる、加藤先生の元へと訪れた。
理由は勿論、送球に害を及ぼしているものの原因を確かめるためだ。
キャットハンズに痛恨の三タテを食らった中で、技術的に送球難の理由を見いだせなかった俺は加藤先生に相談することで、自分の中に燻っているある仮説が正しいのかどうか確かめたかったのだ。
結果的に言えば、俺の予想は正しかった。
「イップスによる送球動作の阻害……お手本のような、一般的なイップスの症状ね」
「ですよね……」
「原因は分かっているの? そのイップスの」
「……まあ、分かってます。加藤先生も知ってると思いますよ」
「私も? となると、高校二年生までの出来事ということかしら?」
「はい。俺のイップスは、『打者の内角にミットを構えた際』に起こるものです。……もうピンと来たんじゃないですか?」
「……なるほどね。そう考えると面白い運命ねぇ。その原因の相手と、今はチームメイトだなんて」
「あはは、本当ですね」
加藤先生に苦笑いを浮かべ、"当時のこと"を思い出す。
……そう、あれは高校一年の夏のことだった。
「蛇島くんのスイングによる肩の挫傷……」
「はい。あの試合、コールド負けした最後の一点を与えた原因は『俺の悪送球』でしたからね。……でも、蛇島のスイングで怪我したことそれ自体はそんなに関係無かったはずなんです。アレから約七年、ずっと症状は現れて無かったし」
「そうねぇ。……どうして突然、イップスにまでなったのか、解ってるのかしら?」
「まぁ、おおよそは、ですかね。キャットハンズに突かれてあらわになっただけかもしれないですけど、この二日間……ずっと考えてて、一つだけ思い当たったことがあります」
「……そう、なら、問題ないわね」
「そうなんですか?」
「イップスは、その原因が分かっていて、それと向きあえているかどうかが大事なポイントになるの。……イップスを克服するには、『そのイップスの原因を練習などによる自信を得たことによって乗り越える』こととか、『原因と向き合って克服する』ことが必要よ。そのどちらでも、貴方なら出来る。だって貴方は、私が見たきた中では最高のキャプテンだもの」
妖艶に微笑んで、加藤先生が脚を組み替えた。
思わずその艶めかしい仕草に目を奪われる。
その視線に気づいた加藤先生は、にんまりと微笑んだ。
「……女性関係は、まだまだ初心なのね」
「放っといてくださいっ!」
「ごめんごめん。可愛かったから思わずね」
「ま、全く……」
「それで……イップスが発病するに至った原因っていうのは、なんなの?」
「……恐れ、ですかね」
「……恐れ?」
「はい。……正直に言うと、プロの選手ってめちゃくちゃレベルが高くて、怖かったんです」
「貴方が? 怖いもの知らずだと思っていたわ」
驚いた表情を加藤先生が浮かべる。
失礼な、俺にも一般的な感覚は有るぞ。……まあ、鈍感なのは認めるけど。
「……特にゆたか……後輩のボールを受ける時は、打たれる責任は全部俺にあるって豪語した手前絶対に打たれたくなかった。久遠を不用意な一球で被弾させてしまったりもしましたし、俺の選択したボールで相手の将来に関わるかもしれないって思ったら、怖かったんです。……それが原因で、『もう一度試合に負けるのを決定づけるような悪送球をしてしまったら』って無意識に思って、体が強張って、イップスになってしまったんです」
「……なるほど。イップスは『トラウマ』によって引き起こされることが多いというけれど、大きな括りで言えば『精神的な原因でスポーツのプレーに支障を来すこと』。私は、貴方の怪我は『内角に構えた際のバッターのスイングを恐れていることが原因』だと思っていたけど……そうじゃないのね」
「まあ、怪我は在り来りですし、痛かったけど、それならアメリカのブロック練習中にラグビー選手に突っ込まれてふっとばされた方が痛かったです」
「……凄い練習してるわね……」
「それに、それなら内角に構えられなくなりますしね」
「……確かにそうね。つまり、貴方のイップスの原因は――」
「責任感が強すぎること、ですかね」
俺の言葉に、加藤先生が苦笑する。
「……責任感が強いのは良いことだけど、一人で背負い込むのは違う」
「貴方のキャプテン・シーは誰もが評価する所だけれど。そうね、そういう危険性と隣合わせなのかもしれないわ」
「はい。……俺は、一人で勝手にチームの皆の将来を背負って抱え込んで、勝手に怖がって失敗を恐れて、イップスになってたんです。そんなこと、誰も望んでないのに」
そのことに、今回気がついた。
俺は投手を信頼する、信用するのが俺の野球観だなんて言っておいて、根本では何も分かっていなかった。
負ける責任は俺に有る――そうやって投手を励ますのは良い。
でも、根っこの部分ではそうじゃいけないんだ。
信頼する、信用する。そういう信頼関係は、『お互いが失敗を半分ずつ分け合うこと』で成り立つ。
一方的に抱え込まれても、抱くのは相手への申し訳無さ。
一方的に抱え込まされても、抱くのは相手への不信感。
だったら、半分でいい。
半分なら『一緒に失敗してしまった。なら、次は一緒に成功させるぞ』という、支え合いになる。
「俺は、一人でバッターを打ち取ってるんじゃない。投手と二人で打ち取ってるんだ。……いや、もっと言えば野手を含めた九人で野球をやってるんだ」
「……ふふ。そうね……、恋恋高校野球部は、そうだったわよね」
「はい。それを思い出したから――俺はもう、大丈夫です」
加藤先生の言葉に俺は頷き、そしてもう一度手を伸ばす。
成長するためにアメリカに渡った時に忘れてきてしまったものに。
それは、ライバルとの戦いへの、熱い気持ち。
それは、野球をチーム全員でするのだという想い。
それは、後の無い戦いに臨む覚悟。
体は鍛え上げた。
技は磨き上げた。
それなら、鍛えることも磨くことも出来ない心は――過去から拾おう。
「……加藤先生。そろそろ行きますね」
「……ええ。優勝、応援しているわ」
「あおいや東條や矢部くんにも言ってますよね?」
「勿論」
「はは、じゃあ、失礼します」
笑って、俺は病室を後にする。
もう、迷わない。
俺は――最高の捕手になる。
☆
「……せ、せんぱいっ!」
「ん? ゆたか」
「あう、その、あのぅ……」
「三日ぶりにお前に呼ばれたなぁ。『せんぱい』ってさ」
「ぅぐ」
寮に戻ってきた俺に、ゆたかがおずおずと話しかけてきた。
どうやら俺の帰りを待っていたらしいゆたかは、俺の言葉を聞いてしょんぼりと俯く。
同時にアホ毛もしんなりと元気を失い、しおれてしまっている。
ふーむ、面白い。あのアホ毛はゆたかの感情と連動しているのか。
いやまぁ、実際は俯いたからそう見えるだけなんだろうけど。
ってそんなアホなこと言ってる場合じゃないか、落ち込んだなら励まさないとな。
「気にしてないよ」
「え……?」
「俺は、お前が何と言おうと気にしてない。怒るのも当然だと思うし、理不尽な交代だって誰しも思ったと思うよ」
ぽんぽん、とゆたかの頭を軽く叩く。
ゆたかは、叩かれた頭を両手で抑えながら、俺をじっと上目遣いで見つめた。
俺は微笑んだ後、そんなゆたかの目を見つめながら、自分の気持ちを素直に伝える。
「でも、これだけは言わせて貰うぞ。お前の後を継いだ中継ぎ投手が炎上したけど、俺は交代を進言したことは正しかったと思うし、間違ってないって胸を張って言える。チームとお前の為に最善を尽くしたって、チームメイト全員の前で言える」
「……はい……」
「……でも、あの試合、俺のせいでお前があんなに早く降板することになっちまったのは、本当に悪いと思ってる。だから、それは謝るよ。ごめんな、ゆたか」
「謝らないでくださいっ」
「っ、ゆたか?」
「……オレ、自分のことばっかだった。……交代させられたことに腹を立てて、せんぱいなんか嫌いだって。盗塁を許してるのはせんぱいの所為なのにって、ほんとうに想いました」
「ぐっ、その告白は傷つく……!」
「ちがっ、あのっ、そのっ」
「あ、悪い悪い。良いよ、ゆたかの言ってることは本当なんだ。だから、大丈夫だから続けてくれ」
「あ、はい……。……でも、違うんですよね。オレがグラウンドに立ててるのも、ローテに入るくらい活躍できてるのも――せんぱいと出会えて、ここまで引っ張ってもらえたからなんです。オレ、せんぱいに頼りっぱなしで、せんぱいならなんでもしてくれるって思ってたけど……それじゃ、駄目なんですよね」
「……ゆたか」
「オレも、せんぱいを助けないといけなかったんだ。……せんぱいだって、苦しんで、一生懸命で、勝つために必死なんだから。……でも、オレ、そんな当たり前のことに、気が付かなかった」
ゆたかが潤んだ瞳で俺を見つめる。
「ごめんなさい、せんぱい。でも、オレ、頑張るから。……頑張って、せんぱいを助けるから……だから、せんぱいに酷いことしたり、言ったりしたこと、許してくださ……」
「……分かった」
「え……?」
「次は頼むよ、ゆたか。俺がおどおどしたりおかしくなったら、お前に頼る。だから、もう謝らないでくれ。……具体的にはそうだな、盗塁が刺せなくなったらゆたかに牽制して貰うかな。十球とか、ブーイングが起こる位しっつこく」
「つ、疲れちゃいますよ!」
「はは、冗談だって。でも、頼るのは冗談じゃない。……これからも頼むよ、ゆたか。他球団のライバル達に勝つためには俺一人じゃ、どうしたって力が足りない。……だから、力を併せて一緒に勝とう」
笑って、手を伸ばす。
ゆたかは、感激したのか俺の手と顔を交互に見て、くしゃっと顔を歪ませた。
――その選手は、高い段差の下にいた。
段差を飛び越える力は有るのに、投げられない恐怖、打たれてしまう恐怖に怯えて、段差の上に登れなかった。
だから、そいつに向かって俺は手を伸ばし、その手をしっかりと掴んで、段差の上に引っ張りあげた。
そこから俺は手を引いて、ここまで歩いてきた。
でも、ここからは違う。
手は引かない。
繋いだまま、"並んで"歩き出そう。
勝利という明るい場所へと、共に。
「取ろうぜ。ベストバッテリー賞。そんでもって、優勝しよう」
「……はい……はいっ」
ゆたかはぐいっと自分の目元を拭い、俺の手を取らず、俺の胸へと飛び込んでくる。
俺はそれを受け止めた。
「せんぱい、大好き……大好き……っ」
「ゆ、ゆたか、流石に入り口で抱きつかれると猪狩とかに見つかりそうで非常に気まずい……!」
「ほほう、僕が何だって?」
猪狩の名前を出した瞬間、物陰からすっと猪狩が現れる。
「どぅわ!? い、猪狩! 居たのかよ! 一体どこから……!?」
なんだよこいつ! ニンジャか何かか!? 全く気配を感じなかったぞおい!
「『三日ぶりにお前に呼ばれたなぁ、せんぱいってさ』からだ」
「最初じゃねぇか!」
「それよりも聞き捨てならない事を聞いたな。ベストバッテリー賞を取ろうだって? 僕はどうなっているんだい? このカイザースの勝ち頭であり、エースである僕を差し置いて、その子と最優秀バッテリー賞を取るっていうのかい?」
「……なんか猪狩、最近嫉妬深くね? 俺、貞操の危機を感じるんだが」
「君は失礼だな! 僕はノーマルだ! いいかいパワプロ、君は僕が認めた唯一の捕手だ。だったらその期待に答えるのが筋だと思わないのか?」
「いや思うけど……」
「だったら稲村ではなく僕とベストバッテリー賞を取ろうというのが筋じゃないか。なのに稲村と約束するとは何事だ。まあいい。僕は君を練習に誘いに来たんだ。送球が不安定だったからね。だから、いつまでもイチャついてないで練習に行くよ、パワプロ」
「むむ、せんぱいを取ろうとしたって駄目ですよ、猪狩さん! せんぱいはオレのせんぱいです!」
「ふん、小娘が生意気だね。僕とパワプロの絆を知らないのかい? 僕とパワプロはね、中学に入って初めて会った時から互いに切磋琢磨しあってきたライバルだったんだ。君の入る余地はこれっぽっちもないよ」
「いやお前、俺が入ってきて初めてお前のボールを受けようとして捕球出来なかった俺に向かって『僕のボールを取れないのなら邪魔はしないでくれ。僕は天才なんだ。君のような凡人に付き合って時間を無駄にしたくない』って痛烈な一言を浴びせかけて投球練習から追い出したじゃねぇか。それを拾ってくれたのは一ノ瀬だぞ」
「甘いねパワプロ、僕はその時からお前が僕のライバルであり、パートナーに相応しい奴だと思って発破をかけていたんだよ」
「うそつけ。初めて俺がお前のストレートを捕球した時、その後『じゃあスライダーを投げるよ』っつって思いっきり変化させて俺の腹にボールをぶつけたじゃねぇか。痛がって悶える俺を見て『ストレートを取れたくらいで調子に乗らないくれるかい? 君程度の捕手なら掃いて捨てるほどいるんだ』っつってたじゃん」
「……よく覚えているね。一字一句間違っていないじゃないか」
猪狩が驚いた表情を浮かべる。
……確かめられるってことはお前も覚えてるのか。あながち最初から認めてくれてたのはウソじゃないのかもしれないな。
俺は俺に抱きついたまま、俺と猪狩の話を聞き続けるゆたかの温もりを感じながら、猪狩をじとっと睨みつける。
「まぁ、当たり前だろそんなこと。お前が凄い奴だってのは一目見た時から分かってた。お前のボールを取る為に必死こいて練習したんだぞこっちは」
「道理でぐんぐん成長していた訳だね。にしても、そんなに僕のボールを取るのに必死だったのか?」
「そうだよ。……お前に俺を認めさせてやるって思って、監督に頼み込んで遅くまでピッチングマシンで捕球練習させて貰ってたんだよ」
「なるほどね、監督が君を評価していたのも分かるよ」
「せ、せんぱい、猪狩さんの球、最初は捕れなかったんですか?」
「ああ、こいつ中一で、しかも左腕で一二〇キロ投げてたんだぜ? 中学入ったばかりの俺が捕れるかっつーの」
「ひゃ、ひゃくにじゅっ……!?」
「中三の先輩がやっと捕球出来るくらいだったかな」
「一年の捕手が俺しか居なかったのもあって、猪狩と優先的に組ませて貰うことになったんだけど、初球の真ん中のストレートをミットで弾いて後ろに逸らしてさ。その時のこいつの表情ったら、マジで汚物を見るようだったぜ」
あの時の顔は忘れられない。本気で邪魔者扱いしてたよな、こいつ。
「だから、キャッチングだけは一番に磨いた。二度とこいつにそんな顔させてたまるかと思ってな」
「僕のボールをパワプロが完全に捕球出来るようになったのは、中二の夏だった。どんな嫌味を言っても真正面からぶつかってくるのは、こいつが初めてだったんだ。そんな奴が僕のボールを捕球した時は、最高のパートナーを手に入れた、そんな気分だった」
「ほら、やっぱり認めたのはそこじゃねぇか」
「期待していたのは本当さ。僕は自分が認めてない奴は無視して終わりだよ。嫌味を言われるだけありがたいと思って欲しいね」
「……まあ、確かにお前が会話するのは、一ノ瀬と俺と進くらいだったな……」
あれ? そうするとこいつ、もしかして友達が少ないのか?
「もしかして猪狩の友達って……」
「ん? 今現在交流があるのは、カイザースの面子を除けば進くらいだな」
「……あかつき大付属のメンバーは?」
「君と違って僕が他球団の選手と仲良くするような真似をすると思うかい? そんな時間があるなら、僕はトレーニングするよ」
「……」
やっぱりこいつ、友達が居ないんじゃ……。
「……猪狩、お前ってさ……」
「ほら、ごちゃごちゃ言ってないで練習をするよ。明日は僕が登板するんだ。その時にまで悪送球を連発されちゃ堪らない」
「いや、俺は今日はオフだから昼飯食った後に古葉さんの道場に行こうとだな……」
「良いから行くよ」
俺の話も聞かず、猪狩が俺の腕をがっしりと掴んで引っ張っていこうとする。
「むーっ、だめですっ、いくら猪狩さんとは言え、今日ばっかりはせんぱいは渡せません!」
そんな猪狩を阻止するように、ゆたかがぎゅっと俺の身体をしっかりと抱きしめた。
むにょん♪ と何やら柔らかい感触が胸の下当たりに潰れる。
――っ、こ、これはいけない! ゆたかの凶悪な部分が押し付けられている……!?
「ふん。後輩が正捕手を独り占めしようとはいい度胸だね。でも残念だ、パワプロは僕と練習するのを選ぶよ。彼も自分がやらなきゃいけないことは分かっているだろうからね」
「そ、そんなことないですよ! せんぱいはオレとこないだの試合の反省をするんです! その後は一緒に練習して一緒に晩御飯を食べて一緒に寝るんです!」
「最後にさらっと過激な一言を添えるんじゃねぇよ! 一緒には寝ない!」
「……寝ないん、ですか?」
「っ……!?」
ゆたかの動きに俺はビシリと動きを完全に停止させる。
見れば、ゆたかは顔を赤らめて上目遣いで俺を見つめたまま、むぎゅぅと俺に身体を密着させている。
そんなゆたかの服の胸元からは、男の視線を釘付けにしてやまない深い谷間と、それを包む純白の何かがちらりと見えていた。
「……どうしますか?」
むぎゅむぎゅ、とゆたかが抱きしめる力を強めたり弱めたりして、女の武器を俺に押し付けたり離したりする。
なんという強烈な誘惑か。こんなものに逆らえる男は存在するのだろうか。
……いや、俺は鋼鉄の意志を持つ男! 決して、決してこの誘惑には負けないぞ!
「……ね、寝ない」
あ、声が裏返った。
「……ちっ」
「今舌打ちしたよな!?」
「気のせいです。さあせんぱい、一緒に寝ましょう!」
「そっちがメインになってんじゃねぇか!」
「今日は大丈夫ですから! 登板日も四日後ですし、多少激しくしても良いですよ! あ、でも、初めてだから優しくしてくださいね……?」
「何の話だよ!?」
「ほら、パワプロ、練習場に行くよ」
「お前も人の話を聞けぇ!」
どうして俺の周りには話を聞かないやつしか居ないんだよ!?
「せんぱーい!」
「パワプロー!」
「か、勘弁してくれー!」
俺の叫びが寮内に響き渡る。
結局、俺は猪狩に送球が乱れた理由を説明し大丈夫だと納得させてから猪狩に解放され、そのあとゆたかと一緒に食事を摂り、反省会をした。
一緒には寝てない。
……ちょっと惜しいような気がするのは、きっと俺が男という誘惑に弱い生き物だからなのだろうと、俺は自分を納得させるのだった。