魔王も継母も殴り倒せばいいのだわ!   作:マゲルヌ

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5話 任せて、全てブッ飛ばすわ

 エイーシャの暮らすこの国の名は『マイルス王国』という。大陸東部に位置する中堅国家であり、王政のもと各地の領主貴族が一定の所領を治めているごく一般的な王国だ。

 ロンダイクの街は国土の東端・リーバス伯爵領に属する。領としてはあまり発展している方ではなく、『東の辺境』の言葉通りこの街以東は未開拓の森林地帯と深い山々が広がり、ときおり小さな集落が点在する程度だ。

 エイーシャの村があるのもロンダイクから北東へ幾日も歩いた先、ミネイル山地がより峻険なドーヴァルク連峰と合流する辺りの奥地に位置する。東の辺境の中でもさらに際立った真のド田舎と言えよう。

 

「なるほど、ウチの村って結構魔物が強かったのね。この辺には小っちゃいのしかいないから疑問だったけど、ベアー先生やホーン先生が大きいだけだったのか」

 

 ロンダイクから西へラトラ平原を越えていくとリーバス領の領都『リヴィア』に、さらにその先いくつかの領を通り過ぎると王都『マリス』へと辿り着く。15年以上前、前王の時代には圧政が酷く、また西の帝国との戦争の影響もあってかなり治安が悪かったが、その頃を教訓としているのか、現王は穏健派であり内政も外交も大過なく務めているそうだ。

 ただし全てがうまく行っているわけでもなく、ところどころに争いの火種も転がっている。特に今注目されているのが王位継承問題であり、第一王子派と第二王子派の水面下での対立、さらには第一王女と第二王女も――うんぬんかんぬんあーだこーだ……。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 切りの良いページまで読み進めたところで、エイーシャは手元の王国風土記から顔を上げた。

 

「揺れると結構読みづらいわね。やっぱり馬車に乗せてもらうべきだったかしら?」

「……アオオォン」

 

 身体の下からなにやら不満そうな声。

 

「フフ、冗談よ。床板よりあなたの背中の方が遥かに心地良いベッドだもの。これからもよろしくね?」

「……ゥオン」

「……なんで二度目も不満そうなのかしら。せっかく首輪も新調してあげたのに――えい、えい」

 

 ペチリ、ペチリ。

 

 アオンッ、アオンッ。

 

 ――と、銀のモフモフを叩きながら小さな街道を往くこと暫し。地平線の向こうに薄っすらと目的地が見えてきて、エイーシャは愛犬の背の上で器用に伸び上がった。

 貰った地図と景色とを見比べて小さく頷く。

 

「うん、合ってるわ。あそこが『ココル村』――今回の依頼人さんが住んでいる村ね」

 

 すなわち、F級新人冒険者としての初討伐仕事であった。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 きっかけは本日朝のこと。

 

「指名依頼?」

「そう、『あなたにこの仕事をやってほしいです』っていうやつよ。北のココル村で魔物が多く発生しているみたいでね。誰か冒険者を派遣してくださいって依頼が来たの」

「それで、私を指名?」

「正確には『指名依頼』じゃなくて『斡旋依頼』だけどね?」

 

 指名依頼とはその名の通り、依頼主が冒険者個人を指名して行う依頼。

 対して斡旋依頼とは、組合側がその仕事内容に向いていそうな冒険者を吟味して薦めるものだ。拒否しても特に罰則はないが、組合からの覚えが良くなるのでなるべく受けた方がお得らしい。

 

「ここ数日は街中のお使い依頼ばかり熟してもらったし、そろそろ街の外に出て討伐依頼を請け負っても良いかなって。基本的にF級に討伐依頼は推奨されないんだけど、エイーシャちゃんなら大丈夫でしょ」

「おーー」

 

 感嘆の声(無表情)を上げながら拍手。

 次いで渡された資料を読み込む。

 

 添付資料①――ロンダイクとミネイル山地との中間点、ココル村周辺で魔物の数が増加。足跡や習性からしてゴブリン、大ガラス、蹴りウサギ等のE~F級が主と思われるが、とにかく数が多い。駆除の手が足りないので冒険者を派遣してほしいとのこと。

 

「へー、こんな感じで依頼されるのね。なんだか玄人っぽいわ」

「詐欺とか詐称とかがないように組合の方で精査してから回ってくるからね。……まあ遠方の依頼だといくらでも嘘を吐けてしまうから、確実に抑止できるわけではないのだけど」

「あら、そんな悪いことする人がいるの?」

 

 怖い世の中だわ――とばかり頬に手を添える。

 

「残念ながらごく少数ね。依頼料を低く抑える目的だったり、あとは単純に勘違いしていたりとか……。そうそうあることではないのだけど、一応注意しておいてね?」

「分かったわ。もし依頼人が悪巧みをしていたら、残らずブッ飛ばすことにするわ」

「……再発防止のためにも、できれば組合に任せてほしいんだけど」

「じゃあ情報を吐かせてからブッ飛ばすわ」

「分かった。帰ったらもう少しお勉強しましょうか? 具体的には倫理とか道徳あたりを」

「まあ、タダで勉強させてくれるの? 頑張るわ」

「う~む……こういうところは素直な良い子なんだけどなぁ」

 

 

 ――などという頭の痛い会話が交わされた結果、いくつかの学習用資料を貸し出してもらい、エイーシャは旅の空の下をフェンリル便で進んでいたわけである。

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

「ようこそ我がココル村へ、冒険者さま」

「ええ、こんにちは」

「…………」

「…………」

「…………あの……冒険者さま、でよろしいのですよね?」

「ええ。私、どこからどう見ても立派な冒険者よ」

 

 エイーシャは首元のF級タグをドヤっと見せ付ける。それを見て安心したような……逆に不安そうな渋顔を見せるのはココル村の村長。

 

「えぇと……戦闘能力の方は確かでいらっしゃるようで、そこについては安心しました」

「そう、良かったわ」

「……あとはその……先ほどはウチの者が失礼をしてすみませんでした」

「気にしないで。あの子が普通よりちょっと大きいのを忘れていた私も悪いのだし」

「え?」

 

 村長、窓の外をチラリと見る。

 

「アオン」

「…………、“ちょっと”?」

「“ちょっと”」

 

 フェンリルを遠巻きに見つめる村人たちの頭には包帯が巻かれていた。何が起こったか詳しく言及はするまい。

 

「そ、そうですな、ちょっと大きいだけでした。……で、では依頼内容の確認を」

「ええ、お願いするわ」

 

 スルー力を発揮してくれた村長さんの案内により、村民たちから話を聞いて回る。

 

 

 ――曰く、最初に変化を感じたのは一月ほど前のこと。森で見慣れぬ足跡をいくつか見つけ、動物の数も普段より少なくなっているように感じたという。

 さらに少し経つと夜中に物音が聞こえるようになり、家畜や作物が持ち去られる事件が相次いだ。今年は少し不作ではあったが、狭い村の中で盗みなどすればすぐに露見するし、そもそも最初は村の共有貯蓄に頼れば良いのだから村人の犯行とも思えない。

 そこで何度か不寝番を置いて監視したところ、ゴブリンを始めとした小型の魔物が村に忍び込んでいるのを発見した。すぐに追い払ったものの、連中は懲りもせずにやって来ては作物を盗み、最近では森の中の狩場や入会地まで我が物顔で闊歩している。

 このままでは人間にも被害が出るかもしれず、奴らを大本から駆除しなければならない。しかし村人だけでは危険なため、今回思い切って冒険者依頼を出した――というのが事の経緯だった。

 

 

「それで来てくださったのがエイーシャさん、というわけでして」

「なるほど。強そうな戦士が大きな犬を引き連れていたから、不審者の襲撃と勘違いしてしまったと」

「え? あぁいや、最初はなんでこんなお嬢ちゃんが?って、肩透かしだったんだが」

「その直後にあんな化け物が出て来たもんだから驚いてさ。つい混乱して槍を突き付けてゴメ――あ(いった)ぁあッ!?」

「こんの馬鹿たれがぁッ!!」

 

 農夫たちの頭に村長の拳骨が落ちる。

 

「せっかく来てくださった方に失礼なことを言うでないわ、無礼者!(……あと犬についてはもう触れるな。全力で見て見ぬふりしろ!)」

「はッ、はい!! 申し訳ありませんでしたぁ!!」

 

 わざわざ魔物駆除を頼んでおいて、もっとやばいモノに食い殺されたのでは堪らない。村長は全力で忖度(年の功を発揮)した。

 

「ハハハ、失礼しました。なにせ礼儀のなっておらん田舎者でして」

「構わないわ。最初に侮られて、戦いの後に『なんてやつだッ』って驚かれるのは新人冒険者の嗜みだから」

「……そ、そうなのですか? はは、都会の作法は独特なのですな」

「うん、そうなの」

 

 ――んなわけがない。

 このガキんちょはあなた方にさらに輪をかけたレベルのスーパーど田舎人だ。ぜひ聞き流してほしい。

 

「それと、魔物の持ち物とかが残っていたら貸してもらえると助かるのだけど」

「あ、それでしたら、こちらを」

「ありがと――あら? ヅダ工房製のナイフだわ。魔物のくせに良い物持ってるのね」

 

 村人から手渡されたのは、組合の装備品カタログにも載っている高級ナイフだ。冒険者たるエイーシャが未だ武器なんて持っていないのに、ゴブリンがブランド品とは生意気な話である。

 ……まあ自分の拳の方が硬いから、特に必要はないのだけれど。

 

「ボス犬ちゃん、匂い覚えた?」

「アオォォ……」

「ちょっと臭くても我慢して。仕事は忍耐なのよ?」

「ハッ? ガフフフゥw」

「…………」

「アバババふぁ!?」

 

『お前に忍耐なんて皆無やろw』――と哂われたような気がしたけれど、心を通わせた愛犬がそんな酷いことを考えるわけがないので、エイーシャは優しく臭い確認を手伝ってあげた。それグイグイっと。

 

「さて、ボス犬ちゃんもゴブリン臭を脳髄に沁み込ませたみたいだし、今度こそ行ってくるわね。適当に間引いたら一旦戻って来るわ」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 

 ナイフの柄を鼻に突っ込まれたフェンリルを引き連れ、エイーシャは村の裏手の山林入口までやって来た。村長はやや引き攣った顔で見送りに来ている。

 

「そんな不安そうな顔をしなくても、魔物はちゃんと倒してくるわよ?」

 

 心配しなくともあれはただのコミュニケーション、自分と愛犬は固い絆で結ばれたマブダチなのだ。ゴブリンなど一蹴してくれよう。

 

「そ、そうですか、それは頼もしいことです。……しかし、ああいった良い装備を持つ魔物どもですので、他にも隠し玉があるやもしれません。どうかお気を付けて」

「なるほど、分かったわ。忠告してくれてありがとう。あなた良い人ね」

「い、いえ、そんな……。では吉報をお待ちしておりますので」

 

 頭を下げる村長に手を挙げて応える。

 

「じゃあ行くわよ、ボス犬ちゃん」

「アォォォ……ッ」

 

 新人冒険者エイーシャ(絶対強者)と、ナイフ装備従魔ボス犬ちゃん(魔狼)による、F級モンスター討伐が始まった。

 

 

 

 

 

 

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