ブルーロック -淡い一等星- 作:埋もれたエゴイスト
物心ついた時には、自分が転生者だということに気付いていた。
何歳ごろだったかは定かじゃ無いが、きっかけは自分の名前をはっきり自覚した時だった。
『
それが今世の俺の名前だ。
突然だが、俺は『ブルーロック』というスポーツものの少年漫画が大好きだ。
ガチ勢と言うほどでは無いが、アニメの第一話を見てみたら面白さにハマり、人生で初めて原作を買ってしまう程度には虜になった。
要約すると、全国から集められた300人の高校生ストライカーが、ブルーロックという閉鎖空間で『世界一のストライカー』を創るための実験に挑み、過酷な試練や宿敵との出会いの中で戦いと成長を描く熱い作品だ。
そんなブルーロックの世界に登場する数多のキャラクターの内の一人に、この成早 朝日という名の人物がいるというわけだ。
勿論、同姓同名の別人として生まれた可能性もあったが、原作では成早 朝日には姉ちゃんがいて、俺にも姉ちゃんがいる。
それに、どうやら母ちゃんのお腹には赤ちゃんもいるみたいだし、原作で最終的に…五〜六人兄妹だったか?になると考えれば辻褄も合う。
そしてブルーロックの登場人物になった以上、俺はブルーロックの世界に転生したと考えるのは、荒唐無稽と切り捨てるには惜しい。
少なくとも転生なんていう非常識な事態が発生しているんだから、それくらい起きてると考えてもおかしく無いだろ?
さてそんな訳で、大好きだったブルーロックの世界で生きることができると狂喜乱舞した俺だったが、しばらくした頃に一つの重大な事実に気がついた。
俺のサッカー人生、始まる前にオワタ。
というのも、俺こと成早は二次セレクションというステージで敗退することが確定している、いわゆる脇役だったからだ。
その去り際に涙を浮かべた人もいるのでは無いか?いや!いないはずはない!だって俺は泣いたから!
なにせ、貧乏生活を送っている成早家の長男だった彼は、サッカー選手になって家族を養うためにブルーロックへ参加していたんだからな。まあ、今世の俺のことなんだけどね。
つまり、俺はこの先ブルーロックへ入ることになっても、途中退場する可能性が非常に高い!
転生ものだと、原作知識を活かして困難を切り抜けたり、原作突入前に自分を鍛え抜く事でフィジカルアップを図ることはある。
ただ…ぶっちゃけて言うと、俺はサッカー自体がそこまで好きじゃない。
いや、ブルーロックの影響でサッカーに興味がないこともない。だけど、前世は当時既に30歳超えた肥満のおっさんだったし、スポーツに興味持ったところで精々がサッカーの試合をテレビで観戦する程度だ。
スポーツとしてサッカーをやる気はなかったし、世界一になりたいとかいう夢もない。
サッカーに対して明確な目標もやる気もなかった俺が、原作改変覚悟で努力して強くなるとか、どうにも夢物語という範疇を超えることはなかった。
そんなわけで、俺は結局何をするでもなく前世同様に怠惰に生きようと、若干がっくりしながらも幼少時代を過ごすことにした。
だが、そんな俺にもすぐさま転機が訪れた。
新たな俺の妹を抱っこしてる母ちゃんが俺に聞いてきた。「何かやりたいスポーツはあるか?」って。
俺はその時まで家の中で大人しくおもちゃをいじるだけの生活をしていたが、さすがに飽きてきたのもあってスポーツをすることに前向きになった。
そこで俺の脳内に一つの天啓が舞い降りたのだ。
サッカーをすれば、原作のシーンをこの目で直に見られるんじゃないか?と
むしろなんで今まで気づかなかったのか!?と自分を責めたくなったが、それよりも原作との邂逅を望めるなら是非もないと思い「サッカーがしたい!」と答えた。
裕福ではないながらも、両親は俺のお願いを叶えてあげたいと思ったのか、その翌日には俺の手元にサッカーボールが与えられ、これ幸いと俺はサッカーの練習を始めた。
最初はリフティングどころか壁当ての練習もままならないほど下手くそだったが、思った通りいかないことに憤りつつも練習を続けた。
すると、次第にボールをうまくコントロールできるようになっていき、自分の成長を実感できるようになってからはサッカーが楽しくなってきた。
それからは他の兄妹の世話を焼きつつも、日が暮れるまで練習と称してサッカーボールで遊ぶ日々を過ごした。
小学校に入ってからはすぐにサッカー部へ入部し、自分が同い年の子たちより上手くなっていたことに驚きつつ、これと言って何も考えずに楽しいサッカー生活を送った。
中学になっても再びサッカー部へ入部したが、この頃になると自分の武器を磨くことを考え始めるようになった。
原作の成早は『裏への飛び出し』を武器としていたが、それを可能とするカギは『オフザボール』と呼ばれる技術にある。
オフザボールとは、簡単に言えばボールを持っていない時の動きのことで、ボールを受け取るために動き回ったり、逆にそういった選手をマークしたりといった動きがそれに当たる。
中でも成早のオフザボールは『相手の死角』を利用し、消えるような動きが可能としていた。
この武器を取り入れられれば、俺もただ上手いだけの選手からグレードアップできるという訳だ。
ただ、この技術の修得にはかなりの時間を要した。
まず、相手からの視線が外れる瞬間を確実に捉える観察眼と、認識した瞬間に行動へ移せる反応速度を鍛える必要がある。
更に、ボールの位置を把握しつつ相手の意表をつける瞬間を待ち続ける忍耐力もないといけない。
これを意識的に使いこなせるよう練習し、自分の武器として昇華することができるようになるまで数ヶ月はかかった。
その代わりと言ってはなんだが、この技術を習得した俺のサッカーは劇的な進化を遂げた。
敵の裏を突いてゴール前へ簡単に抜け出せるようになって、俺はあっという間にエースストライカーとして活躍できるようになった。
こうなってくると、ゴールを奪うことへの快感と言うものが俺にも理解できて、原作のシーンを見るためという動機以外にも、純粋にサッカーが好きという気持ちが大きくなっていた。
そして俺は確信した。
この調子でいけば、将来的にブルーロックからの招待状をもらうのも時間の問題に違いないと。
いや、なんだったら原作改変だって夢じゃないかもしれないと。それくらいに強くなれるかもしれないと、本気で思うようになった。
そんな幸せなサッカー生活が中学三年へ上がる直前になって、突然の終わりを告げるとも知らずに