ブルーロック -淡い一等星-   作:埋もれたエゴイスト

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チームX戦-6

ウチのチームから見事に得点して見せた吉岡は、俺に向かって得意げな笑みを浮かべていた。

その表情に若干イラっとしつつも、経緯と挑戦の意を込めて拳を向けながら笑みを浮かべてやった。

そんな俺を見てニヤリとする吉岡が戻って行くのを見送りながら、俺も自分のポジションへ戻って行った。

 

その時、チラッと見えた馬狼の表情は、怒りのような感情をのぞかせていたが、その理由に考え至る前に試合再開のホイッスルが鳴り響いた。

 

 

KICKOFF!

 

 

試合開始と共に、蜂楽からボールを受け取った潔はそのまま前進しつつ、直進してくる馬狼とマッチアップする手前の距離から蜂楽へパスした。

パスを受けた蜂楽は正面から対峙しに来た敵FWをダブルタッチで躱し、そのまま敵陣を直進しようと試みる。

 

蜂楽「一人じゃ俺は止められないよ♪」

 

敵MF「知ってらぁ!」

 

敵FW「よし!前後から挟み込むぞ!」

 

 

だが、敵MFの一人が素早くカバーに入って蜂楽を足止めし、蜂楽に抜かれた敵FWが後ろからボールを奪おうとしていた。

更に、よく見るとその奥からも敵MFが蜂楽の方へ距離を詰めながらスペースを潰しにかかっていた。

 

完全に孤立しそうになった蜂楽はいったん潔へボールを戻したが、敵FWが蜂楽にマークしたまま、敵MFだけ潔の方へカバーに走った。

 

潔は次のパスコースを探すが、蜂楽はマークがついててパスが難しく、その奥の右サイドにいる今村もパスするスペースが小さくてパスは少し厳しかった。

 

そうなると攻撃の起点となるのは…

 

 

潔「成早!」

 

俺「おう!いくぜ潔!」

 

俺たちのチームはドリブル技術の高い選手が右側に集中している。

故に右側のスペースを重点的に潰されればゴールまでの突破力に欠けることになる。

 

だが、逆に言えばそれは左側から攻めるとスペースを広大に使用できるということに他ならない。

だからこそ、ゴールを決めた我牙丸と交代したことで、さらに警戒が薄まった左サイドにいる俺こそが、今チームZにおける攻撃の要となるはずだ。

 

パスを受け取った俺は、大きく開かれている左端のスペースを駆け上がっていく。

前方から敵FWがこちらに向かってくるが、意表を突いたおかげか徐々に接近されつつも並走する状態をキープしていた。

 

とは言え、このままだとさっきの二の舞になるだけだ。

試しに右後方に視線を向けてみると、俺からもう一度パスをもらえると踏んでか雷市も近くを走っていた。

 

そこで、俺は志向を変えて急に右へと進路を変更した。

 

俺と並走することを優先していた敵FWは急な方向転換に対応できず、その背後を抜けるようにして俺は敵FWの右側へ出ることに成功する。

だが、相手より後ろへ下がってしまったことで、すぐに進路を塞いできた敵FWによって俺は足を止めてしまう。

 

敵FW「さっきの切り返しは驚いたが、ドリブル技術は並みだな。」

 

俺「ま、そっちの王様(馬狼)あの二人(蜂楽・今村)に比べたらね。」

 

 

確かに、俺のドリブル技術は決して高いレベルにまで達していない。

…が、俺の武器はそこじゃない。

 

ドリブルが得意な者は敵を抜き去り、シュートが得意な者はゴールを奪う。

俺も自分の得意とする分野で勝負しに行けば良いだけだ。

 

 

だから俺は、敵を抜くためではなく、単純に距離を開けるために中央に向かって走り出した。

そんな俺の動きについていくように敵FWも並走してきたが、足止めを優先して俺に近づこうとすることはなかった。

好都合だ。

 

 

俺「潔!」

 

潔「ああ!」

 

俺は敵MFと対峙している潔を呼び、意図を理解してくれた潔は俺のいるほうへ走り出した。

敵はここにきて俺が次に起こすアクションに思い至ったのか、俺たちの間に割って入ろうとしたが、僅かな遅れが生んだスペースへ俺はボールを蹴り出した。

 

潔の進路上へ置くように放ったボールへ全員の視線が集まって行く。

この一瞬こそ、俺の武器を最大限活かせる瞬間だった。

 

ボールへ視線を移したことで俺から視線をそらした敵FW、の死角である左側へ潜むように俺は身体を滑り込ませる。

そして、完全に俺を見失って困惑する敵を尻目に、俺は敵FWを置き去りにした。

 

これで完全なフリーに…

 

 

吉岡「改めて見ると、お前の得意技も結構な脅威だよな。」

 

俺「なっ!?」

 

 

なんで吉岡がいるんだ!?まさか、俺の動きが読まれたか?

 

吉岡の登場に驚いた俺は思わず足を止めてしまい、結果的にフリーになるチャンスを失ってしまった。

潔も俺へのパスコースが危険だと判断して、対峙する敵MFにボールを取られないようキープしていた。

 

けど、ここで吉岡を抜くことができれば俺たちにもチャンスが訪れるということだ。

そう思った俺は、ボール保持者の潔と俺を注視する吉岡の視線、そこから生まれる死角を意識する。

 

そして、吉岡が一瞬だけ視線を潔の方へ動かしたと同時に、俺は死角となる左側へ思い切り走り込んだ。

これで躱すことができれば、もう一度フリーになる決定的なチャンスが…

 

 

吉岡「このタイミング、だよな?」

 

俺「くっ…やっぱそう簡単にはいかないか…」

 

しかし、そんな俺の思考を見透かしたかのように、吉岡は俺の進路を塞ぐように飛び出してきた。

 

 

 

元々俺たちは同じチームメイトだった。

強い相手に勝つため、俺たちは互いの武器を理解し合い、協力することで県大会優勝までこぎつけることができた。

 

つまり、俺が吉岡の武器を知っているように、吉岡もまた俺の武器を知っているのだ。

 

俺の武器の要である『死角を利用する』という技術は、相手の視界から消えるという一見弱点のないものに見えるが、それでもたった一つだけ小さな弱点がある。

それは、攻撃のタイミングが()()()()()()()()()()という点だ。

 

死角を利用するということは、自分のタイミングではなく、相手の視線移動を起点として仕掛けることを意味する。

つまり、蜂楽や馬狼のように能動的で自分から仕掛ける『攻撃』ではなく、むしろ受動的な相手の攻撃に返しを入れる『反撃』という手段に近い。

 

これは、相手の行動に合わせて弱点を突くという戦法とも取れるが、逆に言えば相手の行動に左右される危険もある。

 

そんなことを自慢げに語っていた吉岡曰く、俺の止め方は『意図的に死角を作り、その空間をカバーする』というものらしい。

 

 

実際、その対策を確立させた辺りから、俺は吉岡をうまく抜くことができなくなっていた。

100%止められるというわけでもなかったが、かなり高確率で進路を塞がれることが多かった。

 

多分、無意識下でボールを追ってしまった場合は別だろうけど、それ以外の視線移動はほぼすべてこっちの動きを誘導する(フェイク)だ。

おまけに、視線移動と言うただでさえ短いチャンスの中じゃ、それが罠かどうかなんてとても判別できない。

 

結果的に、俺の死角を利用するという動きを逆手にとった動きで、吉岡は俺の攻撃を封じて見せた。

 

まあ、俺も吉岡のこと止められてるから、お互いが一進一退の攻防を繰り返してる状況に陥ってるんだけどね。

 

 

吉岡「コイツ(成早)は俺が付くから、お前はボール奪いに行け!」

 

敵FW「分かった!カバー助かる!」

 

俺を追ってきた敵FWに指示を出しつつ、吉岡は俺から視線を一切外そうとはしなかった。

指示出しのためとはいえ、一時でも俺から視線を外すのは危険だと判断したからだろう。

実際、その隙を狙っていたのだから困ったものだけど…

 

 

俺「指示出すときくらい目を見て話してやったほうが良いんじゃないか?」

 

吉岡「それは反撃(カウンター)の時にでもしてやるさ。お前を止められるなら、多少の無礼も働くぞ?俺はな。」

 

皮肉気に視線を外すよう要望を伝えてみても、そんな要求など知ったこっちゃないと、吉岡からはますます注視される結果に終わるだけだった。

 

 

そうしている間に、ボールを保持していた潔の方で動きがあったようで、いつの間にか彼の近くまで走っていた國神へボールが渡っていた。

敵の前線がほとんど出払っている現状で國神は完全フリーだったためか、ドリブルしながら一人悠々と敵ゴールへ走り込んでいた。

 

敵FW「くそっ!誰かアイツ(國神)止めろ!」

 

敵MF「DF(ディフェンス)!シュートコース塞ぐよう陣取れ!」

 

相手は前半の最後に見せた射程の長いミドルシュートを警戒している。

流石にシュートコース上に人が立っていては、無警戒だった時に比べてシュートの成功率はグンと下がってしまう。

それでも、痛烈に決まったあのゴールを思い出してか、敵の多くが國神の動きに注目していた。

 

 

 

馬狼「俺より目立とうとすんじゃねぇよ。」

 

國神「っく!?」

 

それは王様(馬狼)にとっても同じだったようだ。

だが、他の選手たちが『また決められるかも』という消極的な意識に対し、馬狼は『主役を奪い返す』という積極的な気概が感じられた。

 

突然の馬狼出現に驚いた國神は一度足を止め、奪いに来る馬狼の動きを警戒した。

しばらくそのまま二人のにらみ合いは続いたが、一向に攻勢へ出ない國神にしびれを切らしたのか、馬狼は何の前触れもなく國神へ肉薄した。

 

馬狼の急な行動に不意を突かれた國神は、ボールを奪われないよう体を入れ替えて馬狼の突進を背中で受け止めた。

あの状況からじゃ身体を反転させて突破するのは無理だ。

 

となると、攻め手を失い防戦一方となっている國神ができることは一つ。

ポストプレイヤーとして別の味方がボールをもらいに行くまで時間を稼ぐこと。

そして俺たちにできることは、一秒でも早く國神をフォローして攻撃再開することだ。

 

 

そう考えた俺は、吉岡を抜き去ることを一旦放棄して國神の方へ走り出す。

けど、そんな俺の考えを理解していると言わんばかりに、吉岡も俺とほぼ同時に走り出して追想してきた。

 

俺を徹底的にマークする姿勢にうんざりの表情を向けて見るも、吉岡は『逃がさない』とばかりに嫌な笑顔を返してきた。

他の選手たちも一様に國神へ群がるような動きを見せたが、最も早く國神の元へ訪れたのは…

 

 

 

敵FW「馬狼(キング)!ナイス足止め!」

 

國神「くっそが!?」

 

馬狼「…チッ」

 

吉岡の指示でボールを奪いに行った例の敵FWだった。

いくら筋肉が代名詞につくほどの身体(フィジカル)を持つ國神と言えど、前後から挟まれるようにボールを奪いに来られては打つ手がない。

 

割と長い間、馬狼からボールを守り切ったという功績はあったが、俺たちはチームXへ反撃(カウンター)のチャンスを与えてしまったのだ。

 

 

久遠「やばいぞ!お前ら急いで戻れぇ!」

 

吉岡「よっしゃあ!攻めるぞお前ら!」

 

さっきまでしつこく俺に付きまとっていた吉岡も攻撃に参加する中、俺はボール保持者となった敵FWの動きを注視しながら戻って行くことにした。

おそらく敵FWは馬狼へパスを出して攻撃に参加しに行くはずだ。

 

それなら馬狼の死角を狙えばいいだけだし、もしそのままドリブルで突破を試みるなら、せめて馬狼へのパスコースを塞げば良い。

そう思って視線で追っていたのだが…

 

 

敵FW「さあて、どっから攻めてっ!?」

 

馬狼「寄越せ。」

 

敵FW「え?ちょ、馬狼(キング)!?」

 

馬狼は唐突に仲間からボールを奪い、そのままこっちのゴールへ独走を始めた。

 

急に始まった独善的なプレースタイルに一瞬困惑するが、俺にはむしろその行動には既視感のようなものを感じていた。

 

 

…もしかして?

その直感を信じて、俺は馬狼の死角へ潜り込み、ひとまずそのまま潜伏することにした。

 

そんな俺の眼前では馬狼が雷市に1on1を仕掛けようとしていた。

 

 

雷市「来んのか?上等だオラァ!」

 

馬狼「騒がしいんだよ。口を慎め下民が。」

 

 

MATCH UP!

馬狼 照英 vs 雷市 陣吾

 

雷市は馬狼へ肉薄していくが、馬狼はそれに狼狽えることもなく、仕掛けるために重心をやや低くした。

その動きを察知した雷市は、馬狼の動きをよく見るようにそこで一瞬足を止める。

 

だが、その一瞬の隙を刺すように馬狼は急遽スピードを上げて加速し、雷市をそのまま抜き去りにかかる。

 

 

雷市「な、めんなぁ!」

 

何とかその動きについていけた雷市は、そのまま馬狼の進路を塞ぎにかかる。

しかし、ここで馬狼お得意の切り返しによって裏を突かれ、雷市はそのまま逆サイドからの突破を許してしまう。

 

雷市「っ!」

 

馬狼「無駄に声を張り上げるな。負け犬が。」

 

 

 

國神「いや!まだ俺がいる!」

 

ところが、素早く戻ってきていた國神が雷市の後ろから現れ、馬狼の進路を塞ぐことに成功した。

これにはさすがの馬狼も一度足を止め、転進してボールを奪いに来た雷市と入れ替わるように距離を取った。

 

 

雷市「俺様を助けたつもりか?こんな奴、俺一人で…」

 

國神「そんなつもりはねぇけどよ、実際お前ひとりじゃ無理だろ。つうか、俺も一人じゃやべぇんだ。良いから手伝え。」

 

雷市「命令すんじゃねぇ!筋肉バカが!いいから黙って見てろ!」

 

馬狼「お前らなぁ、王様の御前ではしゃぎ過ぎだ。大体、二人で止められると思ってんのか?」

 

吉岡「馬狼!こっちフリーだ!パス出せ!」

 

馬狼「うるせぇ!なんで俺様がてめぇの指図を受けなきゃならねぇんだ!」

 

吉岡「指図って…じゃなくて、お前の後ろから」

 

 

 

俺「はい残念!三人でした~。」

 

馬狼「なっ!?この、チビ!」

 

俺「だから護衛を勧めたのに…他人の忠告は聞くもんだぜ?」

 

國神「ナイスだ!成早!」

 

二人の足止めのおかげで背後まで接近した俺は、そのまま足だけ出して馬狼のキープボールを弾いて國神へ渡した。

 

もし吉岡の方へパスを出されていたら、さっきと同じ展開になっていたから、これは正直賭けにも近い行動だった。

だが、どうやら俺の予想は当たっていたようだ。

おそらく馬狼はもう、()()()()()()()()()()だろう。

 

まあ、何はともあれボールを奪い返すことには成功したんだ。

今度こそ得点するために反撃(リベンジ)しようじゃないか!


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