ブルーロック -淡い一等星- 作:埋もれたエゴイスト
チームZの控室
試合が終了した選手が集まるこの空間は、勝敗に一喜一憂する空間とは程遠い、複雑な感情を綯交ぜにした静寂が支配していた。
何故なのかは言うまでもない。
試合に勝つことも負けることもできなかった…いや、勝てたかもしれなかったのに引き分けに終わった。
勝てるチャンスを活かせなかったことへの悔しさが、この空気感を作り出しているんだろう。
まあ、チャンスをふいにした当人がいえることでもないか…
今村「よお成早、お疲れ!」
俺「…あぁ、お疲れ今村。」
この空気が気まずくて、頭からタオルをかぶってベンチでうなだれていた俺に、今村はいつものように軽い感じで声をかけてきた。
その表情には他のチームメイトが見せている倦怠感のようなものはなく、良い意味で深く考えていないような清々しい笑顔がそこにあった。
でも、長く生きてきた前世の観察眼が、表情の裏にある心配そうな瞳を捉えた。
たぶん、この空気を生み出した責任を感じてる俺に対して、少しでも思考を逸らせるように気を遣ってくれてるんだろう。
その行為を無駄にするのは失礼が過ぎると、俺もできるだけ笑顔を作りながら返事を返した。
上手く笑えているかは、鏡を見ないと自信がなかったが…
今村「いやぁ、相手もなかなか強かったよな~。特にやっぱ馬狼!アイツはすごかったわ~。」
俺「そうだな。でも、俺は吉岡もかなり厄介だったと思う。」
今村「あぁ、お前とよくマッチアップしてた奴か。何気に一点取ってたし、確かにやばかったな。」
國神「…そういやお前、あの
久遠「え?そうだったの?」
俺「ああ、うん。うちの高校のエースだった人だよ。」
久遠「なるほど…道理で成早くんは彼のフェイントに対応できたわけだ。」
イガグリ「確かに!やたら意識してるなぁとは思ってたけど、思い返すと結構足止めしてくれてたしなぁ。」
俺「いや、そんなことは…」
我牙丸「あの足止めがなかったら、もっと点取られてたと思う。もっと自信持て。」
伊右衛門「そうだな。実際、お前が止めてくれなかったら、絶対もっとシュート撃たれてたと思うから、俺もあれは助かった。」
イガグリ「いや、そこはGKなんだから止めろよな。」
伊右衛門「いやいや!?俺も元はFWだから!GKなんかやったことないんだからな!?」
潔「それに、馬狼の危険度を一番警告してくれたのも成早だろ?あれがあったから俺らも点を取れたんだ。そこは誇っても良いと思う。」
俺「みんな…」
今村との会話が、いつの間にか俺を褒める会話に様変わりしていた。
正直言って体がむずがゆくなる気分だが、褒めてもらえるというのは悪い気がしない。
このチームに勝ち点をあげられなかったのは、やっぱ簡単には割り切れそうにない。
でも、みんなが俺に『試合で役に立った』という立ち直る理由をくれた。
このまま落ち込んでばかりいると、立ち直るきっかけを作ってくれたみんなに申し訳が立たないな。
そう思い「よし、頑張るか!」と思考を切り替えようとした時、控室のロッカーを乱雑に閉める音が鳴り響いた。
雷市「ふざけんなよ…なにが『おかげで助かった』だ?『誇っても良い』だ?反吐が出るぜ、クソ。」
イガグリ「な、なんだよ、いきなり。」
今村「別にいーじゃん?良かったところ褒めて何が悪いん?」
雷市「そこのクソチビが日和ったせいで!俺たちは勝ち損ねたんだぞ!しかも初心者がやらかすレベルの凡ミスだ!納得できるわけねぇだろ!」
伊右衛門「でも、成早のおかげで失点が防げた場面が多いのも事実だし、そこは負けなかったことを喜ぶべきじゃ…」
雷市「綺麗ごと言ってんじゃねぇ!あのメガネ野郎の話聞いてなかったのか!?勝ち残りなんだぞ!勝たなきゃ意味ねぇだろうが!」
我牙丸「そうか?負けてたかもしれない試合で引き分けなんだし、結果としては悪くないと思う。」
雷市「どこが!?この先の試合でも同じ結果だった時に今のセリフもう一回言えるか!?勝てなきゃ意味ねぇんだよ!」
國神「…やけに結果にこだわるけどよ。そういうお前はどうなんだ?」
雷市「!?…何が言いたい?」
國神「さっきの試合、成早がチームを勝たせるために頑張ってたのを俺は知ってる。なら、その成早を悪く言うお前はどれぐらい活躍したかと思ってな。」
今村「いわれてみりゃ、雷市って活躍したっけ?」
イガグリ「いや、あれだろ?独走してボール盗られた。他になくね?」
雷市「うっせぇ!優秀なサポートでもついてりゃ俺様も今頃は何点も取ってたんだよ!」
イガグリ「いや、そこは他人任せなのかよ…」
久遠「俺は少なくとも、成早が悪いとは思ってない。それに、勝ち点の話ならまだそんな悲観する段階じゃない。勝っておきたかったのが正直なところだけど、勝ち点の有無で考えると負けるよりはずっと良い。」
國神「そんなに文句があるなら、次の試合で活躍できることを証明すれば良い。…まあ、お前みたいに自分勝手な奴にパスが来るとは思えないけどな。」
雷市「好き放題言ってくれるじゃねぇか…てめぇら!」
蜂楽「いや~、盛り上がってるねぇ♪で、何の話?」
潔「いや!服着ろお前!」
雷市「…チッ!」
…自分のことなのに、思わず傍観してしまっていた。
肉体はともかく精神は最年長の俺が、本来こういう場をおさめなきゃいけないのに!なんとも情けない!
あぁでも、前世もしがないサラリーマンだったし、むしろとりあえず謝罪してお茶を濁すタイプだったし、どのみち無理だったと思うけど…
にしても、また気まずい空間が出来上がってしまった。
せめて何か話題を逸らして、この空気感をどうにかしないと…あ!
俺「と、ところでさ!俺、気になってたことが一つあって…」
今村「ん?なになに?」
俺「ほら、絵心が試合前に言ってたじゃん?『サッカーを0から創るための戦い』って。あれの意味って結局何だったんだろうな~ってさ。」
我牙丸「…そういやそんなこと言ってたな。」
久遠「言われてみれば、どういう意味なんだろう?」
…ほんとはこの意味を俺は知ってるし、それを伝えることは正直容易い。
でも、それは俺が与えた受動的な気付きであって、自分たちの頭で考えた能動的な気付きじゃない。
話しは変わるが、仕事場で最も
答えは、上からの指示があって初めて動ける人だ。
指示が来てから行動するということは、言われたことはきちんとこなすという意味で使いやすい。
でも、あくまで与えられた指示しかこなせないなら、その都度指示をし直さなくてはいけないから活かしにくい。
この『
そんな環境で生き残るためには、ただ指示を待つだけじゃなく、自分の考えで行動できる人間でなくてはならない。
そんな人材を育てるためには、早い段階からその習慣を付けさせることが大事だ。
これは前世の職場で後進育成を任されることが多かった俺の見解であり、その部分はサッカーであろうと同じことが言えるだろう。
監督の指示に従うだけの選手ではなく、自分の頭でどうすべきか考えて行動できる選手であるために、この思考する時間は必要になる。
潔「…あのさ、俺『サッカーの0』の意味なら分かったかも。」
國神「お!マジか。」
久遠「聞かせてよ、潔くん。」
潔「あぁ、まず試合の最初なんだけど、
イガグリ「まぁ、あれはサッカーじゃなかったな。」
今村「同感。」
我牙丸「あれはダサかった。」
潔「その0を打ち破ったのは、馬狼の1プレーだ。」
その後の話の流れはおおよそ原作と同じだった。
馬狼と言う圧倒的な個性・才能を主軸に置くことで、チームXのメンバーたちは勝つためにそのサポートに回り、結果的に馬狼の生み出す1プレーが10にも100にも進化していく。
そして、その才能をいかんなく発揮させ、それをぶつけ合わせることで最も突出した才能を見出すため、得点王と言うシステムを導入して選手たちのエゴをむき出させた。
そう、つまるところこの絵心の求める者は…
潔「サッカーとは、チームとは、圧倒的なストライカーから生まれる。きっとそれが絵心の
絵心「うんうん、良い線いってるね。やあやあ、才能の原石共よ。
さっきお前らのいる五号棟の第二試合が終了し、チームVが『8-1』でチームYを破りました。
これが暫定順位表だ。」
| 順位 | チーム | 勝ち点 | 得失点差 |
| 1 | V | 3 | 7 |
| 2 | X | 1 | 0 |
| 2 | Z | 1 | 0 |
| 4 | W | 0 | 0 |
| 5 | Y | 0 | -7 |
ん?原作と違くない?
原作は8-0でチームYが敗れたはずだ。チームXに圧倒的な敗北を刻まれた潔たちがより絶望するシーンだからよく覚えてる。
チームYが一点巻き返した?
…まさか、俺が原作改変を起こしたことで、原作の流れからの逸脱が他でも始まっているのか?
これはいよいよ原作知識による正史が、この世界では意味をなさなくなってきたな。
たしか、他の棟の試合映像は『モニタールーム』で閲覧できたはずだ。後で見て見るか。
なんて考えてる間に、絵心の話は進行して俺たちのサッカーに足りない物を説明する段階に入っていた。
絵心「サッカーにおいて得点を奪うということは、相手の組織を破壊するということ。つまりストライカーとは破壊者であり、ゴールとはピッチ上の革命だ!
お前たちは
ゴールと言う『革命』を起こすのは、いつだって己の武器だ!…勝利はその先にしか存在しない。」
絵心の熱い熱意のこもった演説が終わり、一転して静寂を取り戻した室内で、各々が絵心の言葉を脳内で反復して考え込んでいた。
そんな中、俺だけは皆とは違うことを考えている。
己の武器ならもう知っているからだ。
そして、もう一つは原作での
絵心の思想を理解し、先の演説を聞いて更に生まれ変わろうと画策している天才『潔 世一』
彼が今後得意とする武器である『
ドリブルから派生する通常のシュートは、自分でシュートポイントを設定できる利点があり、自分でボールを転がすため距離感が図りやすく撃ちやすい。
けれど、
その反面、
実は密かに
でも、もし完成すれば俺はいよいよ将来の主人公と同じ強さを手に入れられるようになるだろう。
…という話は置いといてだ。
俺が考えるべきは自分の武器じゃないことは明白だった。
最後の瞬間、俺は何故馬狼の存在にビビッてシュートできなかったのか?
あの場面はトラップじゃなく、それこそ
それは頭ではわかっていたし、実際に途中まではシュートモーションを取っていた。
なのに、あの目を見た瞬間に思考が停止し、体もそれにつられてうまく動かせなくなった。
シュートが無理だと思った時には遅く、咄嗟にボールキープしようとした足はぎこちなく、結果的にトラップミスを引き起こした。
別に、あの殺意マシマシの視線は試合中ずっと受けていたものだ。
何だったら、馬狼からボール奪った時の方が明らかにヤバい目と表情をしていた気さえする。
それなのに最後の一瞬、あの瞬間だけは俺への殺意もそのままに、何か『別の想い』が込められていた気がする。
でも、それって何なんだろうか?
殺意の籠った視線を受け流せていた俺が、唯一無視できないほどの強烈な想い。
俺はその視線に恐怖と、ある種の既視感を覚えながらも、結局答えにたどり着くことはできなかった。