ブルーロック -淡い一等星-   作:埋もれたエゴイスト

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大切な家族

 

中学2年の秋、両親が他界した。

原因は原作同様に事故によるものだった。

 

こうなることを知っていた俺は、普段から事故に気を付けてほしいと両親にお願いしてきた。

それくらいしかできることはなかったというのもあったが、そんな俺の心配する心情を汲み取ってくれたのか、両親は安全運転を特に心がけるようになっていた。

そんな様子を見て、もしかしたら原作改変で両親と死別せずに済むのではないか?なんて淡い期待を抱いていた俺をあざ笑うかのように、死神は俺たち家族から両親を攫っていった。

 

突然の訃報に成早家は深い悲しみに包まれ、笑顔が絶えなかった茶の間を冷たい静寂が支配した。

前世で早くに両親を亡くしていた俺でも、今世で愛情を注いで育ててもらった両親の死は、目の前が暗くなるほどの悲しみを味わっていた。

でも、他の兄妹たちが今の俺以上の苦しみを味わっていると考えると、いつまでも悲しみに囚われているわけにもいかなかった。

 

俺はショックから立ち直れなかった姉ちゃんの代わりに葬儀やらの手配を進め、心を閉ざしかけている兄妹たちを優しく慰め、母ちゃんが多くをやってくれていた家事炊事を代わりに始めた。

でも、家計簿をつけたことで成早家は予想以上に逼迫していることが分かった。

 

姉ちゃんもなんとか立ち直ってアルバイトの時間を増やしたが、それでも以前より貧困な生活を強いられることは明らかだった。

転生したことで精神的に最年長だった俺には、両親に代わって成早家を守る大黒柱になる義務がある。

今世で手に入れた新たな家族を守るために、今の俺にできることは限られていた。

それでも、出来ることなら何でもやろうと思った。…何でもだ。

 

 

俺はまず、サッカー部を止めた。

理由なんて単純で、サッカーでさえ本気で取り組めばそれなりに金がかかる。

何より一番の問題は、サッカーをする時間を他に回す必要があったからだ。

 

そして、学校に許可をとってアルバイトを始めた。

もちろん、まだ中学生だった俺ができるアルバイトなんて新聞配達くらいしかなかったが、それでも雀の涙程度には生活にゆとりが持てるようになった。

 

こうして俺の中学三年は、サッカーからかけ離れたバイトと家事が大半を占めるようになった。

正直言って辛くなかったと言えば嘘になるが、独身で何の目的もなく生きてきたころに比べれば肉体的にしんどいだけで苦しくはない。

何より、再び元気を取り戻し始めた兄妹たちの笑顔が見れることを思うと、前世の寂しい人生に比べるとずっと充実していた。

 

 

そして、高校へ進学しても俺の日常が変わることはなく、平日は学校から帰ってはバイトへ向かい、休日は朝から晩までバイトして、それ以外の空き時間も兄妹たちの相手や家事に勤しむ日々が続いた。

 

そんなある日のことだった。

姉ちゃんから大事な話があると言われたのは。

 

 

 

 

姉ちゃん「ごめんね、こんな夜遅くに呼び出しちゃって…」

 

兄妹たちが寝静まったころ、俺と姉ちゃんはこっそり家から外に出ていた。

夏の夜風は気持ち良いなとか考えつつ二人で散歩していると、姉ちゃんが申し訳なさそうな表情でそう言った。

 

俺「ほんとだよ、用があるならパパって言えばいいのに。何か相談?」

 

姉ちゃん「相談ってわけじゃないけど…まあ、ある意味そうかな?」

 

俺「?」

 

正直、珍しいと思った。

普段から姉ちゃんは思ったことをきちんと言葉にしてくれる人だ。そんな姉ちゃんが、どこか言いにくそうに視線を下に下げたまま歩いていた。

 

姉ちゃん「ねぇ朝日、今の生活は楽しい?」

 

俺「え?楽しいに決まってんじゃん。そりゃあもうちょいお金稼げるようになったらなんて思わなくはないけど、家族がいて、みんなが笑ってる。それだけで楽しいよ。」

 

姉ちゃん「そう…私も楽しい。毎日くたくたになっちゃうけど、みんなの笑顔見たら疲れも吹き飛んじゃうくらい。」

 

俺「だよな!なんでこんなにも頑張れるのかって不思議に思うし。」

 

姉ちゃん「うん、ほんとにそう。…でもね」

 

いつの間にか雑談になったと思いつつ返していると、突然姉ちゃんが話を切るように立ち止まり、いつになく真剣な表情で俺のことを見ていた。

普段とは全然違う姉ちゃんの姿に驚きつつも、俺も足を止めて姉ちゃんの言葉を待った。

 

姉ちゃん「でもね朝日。私にはあなただけが、どこか悲しそうに見えるの。」

 

俺「…え?」

 

一瞬、姉ちゃんが何を言っているのかわからなかった。

俺が悲しそう?

前世の時より家族に囲まれて充実した日々を送ってるはずの俺が?

意味が分からずポカンとしていると、姉ちゃんはどこか困ったように頭に手を当てて「やっぱり気付いてなかったのね…」と小さく零した。

 

俺「何、言ってんだよ姉ちゃん。俺は毎日楽しく過ごせて」

 

姉ちゃん「嘘よ。だって朝日、時々サッカーボールを見ながらため息ついてたじゃない。それなのに触ろうともせず、むしろ遠ざけるようにしてる。」

 

俺「それは…」

 

そう言われてハッとなった。

俺は家族と過ごせて楽しい日々を送っている。それは間違いない。

 

けれど、ふとサッカーをしてた時のあの高揚感を思い出すときがある。敵の裏を取り、ボールを蹴って、それがゴールした時の快感。あれはサッカーをしていたからこそ手に入れられるものだ。

でもそれはもう、味わうことができない。そう考えると、どこかやるせ無い気持ちに襲われていたのは事実だ。

 

せっかくブルーロックの世界にきて、サッカーを実際に好きになって、このままずっとサッカーしていたいという想いはあった。

原作のシーンだってみたいという願望もあるし、ファンとして烏滸がましいながらも、原作キャラと絡んでみたかったという願いもあった。

 

 

俺「そうかもしれない。でも、俺は成早家の長男なんだ。家族のためにできることは、何でもやるって決めたんだ。そのためなら…俺は」

 

姉ちゃん「サッカーを止められるって?」

 

 

よくよく考えてみてほしい。

たとえ肉体的な年齢が高校一年生だったとしても、精神的には転生前と足して今世の両親より年上になった俺が、自分の夢のために家族へ迷惑をかけていいものだろうか?

 

兄妹たちにも自分の夢があって、それを支えるのが年長者の役目というものだ。

一応は姉ちゃんのほうが年上だけど、長男として生まれた以上は家族のことに責任を持つのが男と言うものじゃないだろうか?

 

俺「あぁ、そうだ。家族皆が笑顔になれるなら、それくらいの覚悟はできてる。」

 

姉ちゃん「そう、あくまでそう言うのね。…朝日、目を閉じなさい。」

 

俺「?」

 

姉ちゃんが何をしたいのか分からず、俺は疑問符を浮かべながら目をつむる。

 

 

 

 

パチンッ!

 

乾いた音と共に俺の頭は横を向き、何故か左頬がじんじんと痛み出した。

一拍遅れて自分が叩かれたことに気付いた俺は「何すんだよ!」と言おうとして、姉ちゃんの瞳から溢れそうな涙に気付いて口籠った。

 

姉ちゃん「この、バカ朝日!」

 

俺「な!?」

 

姉ちゃん「家族が笑ってることが大事とか言って、朝日自身が笑顔じゃなかったら意味ないじゃない!」

 

俺「そ、そんな事ない!俺はほんとに毎日楽しくて、みんなが笑顔ならそれで」

 

姉ちゃん「だったら!どうしてあの子達の笑顔が曇ってる事に気づかないの!?」

 

俺「え?」

 

姉ちゃん「あんたが心から毎日を楽しめてないって事、あの子達も分かってるからよ!

みんな心配してるの。朝日が自分のことを我慢して、私達のために毎日頑張ってること。

でも、その事を朝日が大丈夫だって言い張るから、あの子達も心配な気持ちを押し殺して黙ってるのよ。」

 

そんな、俺は…みんなから心配されてた?

そう言われて思い返してみれば、思い当たる節があった。

 

ふと視線を向けた時、兄妹が俺の方を物悲しい目で見てくることがあった。

俺はてっきり構ってほしくて視線を向けていると思っていたが、まさかそんなふうに考えていたなんて思いもしなかった。

 

俺は前世で一人っ子だった。

だから、この世界に転生して初めてできた兄妹を大切にしたいと思った。

そして、その時はお兄ちゃんとしてみんなのことを助けてあげるのが当たり前だと思っていた。

だって、俺は子供の姿をしただけの大人だから。

子供が大人に迷惑をかけるのは仕方ない時もある。でも、逆に大人の事情で子供へ負担を背負わせるのは間違ってる。

 

俺「でも、俺が頑張らないと、今より生活が…」

 

姉ちゃん「だから!なんで朝日一人で抱え込もうとしてるの!?もっと私たちを頼ってよ!私たち、家族でしょ?」

 

その言葉を聞いた俺は、ようやく姉ちゃんが言いたかった事を理解した。

 

あぁ、そうか。

姉ちゃんにとって、そして兄妹たちにとって、俺もまた幸せであってほしいと願う家族の一員だったんだ。

それなのに俺は、そんな簡単な事にも気付けずに自分を誤魔化して、いつの間にか家族の中から自分を抜いていたんだ。

 

俺は兄妹を『養うべき子供』としか見れていなかったんだな。

 

俺「……ごめん、俺が間違ってた。そっか、俺は…俺自身が幸せ者だと誤魔化し続けていたんだな…。姉ちゃん、ホントごめん。」

 

姉ちゃん「その謝罪を受け取る前に、あんたは私に言うべきことがあるでしょ?」

 

俺「え?言うって、何を…」

 

姉ちゃん「朝日、あんたにとっての幸せは何か教えて?」

 

俺「それは…」

 

言ってしまって、良いんだろうか?

それを言ったら、俺は間違いなく家族に今以上の迷惑をかける。

 

…いや、ここで逃げてたら何も変わらない。

俺のせいで兄妹たちに悲しい思いをさせるだけの生活に戻ってしまう。

そう考えた俺は、戸惑いつつも正直な思いを吐露しようと決意した。

 

俺「俺の幸せは…家族と笑顔で暮らす事。」

 

姉ちゃん「それだけ?」

 

俺「…もう一つ。まだ俺は、サッカーを続けたい。あの楽しい時間を、もっと感じていたい。」

 

姉ちゃん「…やっと、言ってくれたのね。」

 

そう言いながら姉ちゃんは、俺をそっと抱きしめた。

そんな姉ちゃんへ身を預けた俺の頭を、姉ちゃんは優しく撫でてくれた。

 

 

サッカーをしてはいけない。

 

いつからか自分を縛り付けていた柵から解放された事に気付いた俺は、夜空の下で人肌に触れながら、静かに頬を濡らした。

 

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