ブルーロック -淡い一等星- 作:埋もれたエゴイスト
当然のことだが、俺が大川とおしゃべりしている間にも試合は続いている。
そのはずなのだが、試合展開は先ほどと同じ様相から変化が見受けられなかった。
チームYの消極的守備による攻めにくさもあってのことだとは思うけど、何より國神チームの攻め手がないようにも思えた。
それもそのはずだ。
このFWチーム内で明確なシュート能力を持っているのは國神であり、攻撃は彼を中心にしている。
そんな選手が何人もの敵に囲まれた状態で、他の二人がどう動くべきかが重要なんだけど…三人共思想がバラバラだ。
國神は、さっきのシュートブロックがあったのにポジショニングが変わってないことから、もう一度シュートチャンスを狙っているのが分かる。
久遠は、國神の周囲に陣取ろうとしてるからサポートするつもりだろうけど、ゴールを何度か確認してるから自分も隙があれば狙うんだろう。
イガグリは、なんというか、どっちつかずの中途半端と言った感じだ。
いつもゴールを狙えそうな位置を探しているのに、パスはそこに落ちてこないから、仕方なくサポートに回ってるって印象を受ける。
自分のゴールにこだわること自体は間違いじゃない。
でも、それは決して自分一人でゴールを決められる選手であることとイコールじゃない。
味方がいなければパスがこない。
パスがこなければボールを保持できる時間も生まれない。
そして、ボールがなければシュートもできないのだから。
雷市「てめぇらなぁ!点とりたいならもっと攻め立てろよ!じゃねぇと、俺がもう一点取りに行くぞ!」
守備位置で観戦していた俺の耳に、突如として雷市の声が響いてきた。
雷市は攻め手がなくてパス回しに終わってる國神チームに怒り心頭と言った感じだ。
しかも、そう言い放った直後から加速して敵陣深くへ攻め込み始めた。
潔「ちょ、雷市!?ポジショニング!?」
雷市「うっせぇ!こんなちまちまボール回してるだけのだらしねぇ奴らじゃ、もうこれ以上待つだけ時間の無駄だろ!こうなりゃ俺がもう一点取りに行ってやるまでだ!」
蜂楽「お?攻めに行っちゃう感じ?良いね!俺も混ぜてよ!」
潔「蜂楽もかよ!?」
そんな雷市の勢いに感化されたらしい蜂楽、それにつられる形で潔も前線へ走り出していった。
今までは守備に転じた場合も考慮していたポジショニングだったけど、今の状況は控えめに言って敵ゴール前が超過密状態だ。
ポジティブに考えると超得点のチャンスでもある。
それに、俺は悪くない選択だと思う。
チームYは攻めの人数が三人と大幅に減少していたし、試合時間を見ると残り時間は5分を切っていた。
もし仮にボールを奪われて
そう考えれば、今こそが得点を狙う絶好の機会。
それを分かっているのかは知る由もないが、攻め込んで言った雷市は困惑していた久遠からボールを掻っ攫うと、そのままゴールへ直進していった。
敵DF「つ、突っ込んで来るぞ!」
敵DF「俺が止める!」
雷市「ハッハー!一人で止められるとでも?」
敵DFが来ても動じず直進する雷市に敵は困惑するが、何とか気を持ち直してマッチアップする。
雷市「なんてな…ほらよ蜂楽。お前がやれよ。」
蜂楽「ありゃ?そのままマッチアップしないんだ?」
雷市「こんな雑魚抜いてもなんにも面白くねぇからな。お前に譲ってやるよ。」
蜂楽「そう?じゃ、お言葉に甘えて!」
かと思いきや、後方から追いついてきた蜂楽へパスを出し、自分は更に奥深くまで歩を進めていった。
突然の選手交代と蜂楽と言うドリブラーの出現によって混乱した敵DFは、動揺が隠し切れずにあっさり股抜きを決められて突破されてしまった。
敵は後3枚。
二子「させません!」
蜂楽「やる?前髪くん?」
二子 一輝 vs 蜂楽 廻
だが、危険を素早く察知した二子が蜂楽の前に立ちはだかる。
蜂楽はボールを下から軽く蹴り上げてボールを少し浮かせ、そのボールを奪おうとした二子の意表を突くように、ボールの下から足を伸ばして爪先でそっと自分の方へ返した。
これによって前に飛び出した二子を左から抜こうとするも、動けないはずの二子は脚を横に伸ばして蜂楽の進路を、進路上に転がって行くボールを弾こうとする。
どうやら、二子は蜂楽のドリブルは簡単には止められないと踏んでいたのか、フェイントにかかったふりをして蜂楽の動きを誘ったらしい。
でも、蜂楽は二子の動きに反応して咄嗟にボールを浮かせることで二子の脚を避け、そのままぶつからないように自分も飛ぶことで二子を抜いて見せた。
蜂楽「なかなかやるじゃん!でも、俺の方が一枚上手♪」
二子「…の、様ですね。でも!」
ところが、二子を抜いた蜂楽の目の前には、いつの間にいたのか敵DFがボールを待ち構えていた。
しかも、脚を出して止めようとした二子も、素早く体を反転させて蜂楽の後ろからボールを奪いに行く。
たぶんだけど、二子の背後にもう一人が隠れていて、一度蜂楽に抜かれることで前後から挟撃しようというのが二子の狙いなんだろう。
蜂楽「そう来ちゃいますか!ヘイ潔!パ~ス。」
流石の蜂楽もこれには対応が難しいと感じたのか、左側にいた潔の方へ急いでパスを出した。
潔が慌てつつもしっかりトラップして走り出そうとしたが、彼を追ってきていた敵MFとマッチアップする形になってしまった。
自分のドリブルでは抜けないと思ったのか、潔は左サイドでフリーに近い状態だったイガグリへパスを出す。
そこからもう一度攻める構想を練ろうとしていたのかもしれないが、その予想は裏切られた。
イガグリ「しゃあ、南無三だぜ潔!」
潔「…え?ちょ!?イガグリ!?」
雷市「あ゛ぁ!?何ゴール狙ってやがんだてめぇ!」
奇しくも、彼の前方は敵がほとんどいなかった。
おそらく、試合映像や今までのプレーを見て、敵側が警戒するに値しないと判断したのかもしれない。
それに、全員が正面に集中していたこともあって、サイドへの警戒が薄まってしまったというのもあるんだろう。
けど、まさか誰もイガグリが自分で行くとは思わなかったはずだ。
その前提がこの混沌を生み出した。
しかし、チャンスはチャンス。
敵がいないということは、そのままシュートを撃てる可能性があるということでもあった。
他の面々もそれは瞬時に理解したのか、文句を垂れつつも素早く敵DF達の動きを妨害にかかる。
その結果、イガグリは見事にPAに侵入することが叶った。
味方の協力もあって落ち着いてゴールを狙える状況なら、目立った能力を持たないイガグリでも得点できるかもしれない。
だって、彼の武器は…
イガグリ「やっぱ、諦めない者に福はやってくるんだよな!南無三!」
二子「やはり、シュートするならその位置ですよね。」
イガグリ「…ハァ!?」
が、そのシュートは突如として出現した二子のシュートブロックによって止められた。
一体、いつの間にその場所へ辿り着いたんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
二子「
敵一同『『おー!』』
國神「!?なんだ?敵が…」
雷市「一斉に攻撃に転じやがった!?」
潔「!?自陣がやばい!」
久遠「しまった!攻めに人数をかけ過ぎた!」
仮に
二子の言った
でも、なんでだ?試合はもう間もなく終了する。
ここから逆転なんてできるはずはないと誰もが理解してるはず。
なのに、何故こんな必死になって反撃を?
今村「おいおい!マジか最後にこう来るのかよ!?」
我牙丸「やべ、止められっかな?これ…」
千切「いや、無理だろ…この人数差じゃ…」
俺「文句は後。最悪負けはないんだ、やるだけやろう!」
俺は自分も鼓舞するように皆に気合を入れる。
だが、この人数差じゃごり押しでどうとでもなってしまう。
ただ、僅かでも時間を稼げば前線に上がったメンバーがディフェンスに入ってくれる。
つまり、今必要なのは時間稼ぎの方法。
考えろ、考えろ…なにか時間を稼ぐ方法はないか?
…いや、待てよ。
要するに敵がシュートできなければそれでいいんだよな?
だったら…
俺「全員!PAまで撤退!」
今村「はえ!?いやいや!敵に攻め込まれ放題じゃん!」
俺「要するにシュート撃たれなきゃこっちの勝ちだ!ならもうPA以外は捨ててゴール前に閉じこもろう!」
我牙丸「危険なのは変わりないけど、まあ守る範囲少なくて楽かもな。」
千切「だな、俺も賛成だ。」
今村「まあ、確かに?もう無茶苦茶だなこの試合…」
最後の今村の言葉に内心同意しつつ、俺たちはDFラインを大きく後ろに下げて、全員がPA内に引きこもった。
過密状態も良いところだ。
俺「万が一シュート撃たれたら、頼りにしてるよ伊右衛門。」
伊右衛門「期待はほどほどにしといてくれよ。…来るぞ。」
俺たちがPA内まで下がった直後、チームYの面々が俺たちのコート中盤を抜けてやってくる。
10人が一斉にこっちへやってくる光景はなかなか迫力があるな。
だが、何か騒がしいと思ってよく耳を澄ませると、聞こえてきたのは敵同士の喧騒だった。
大川「だから、さっさと俺にボール寄越せっつってんだろ!?」
敵DF「それやって何度も失敗してんだろうが!もうお前にパスは出さねぇ!」
大川「なっ!?てめぇ、誰に向かって言ってやがる!」
敵DF「お前だよ!そんなことも分かんねぇのか?」
敵MF[もう俺たちはお前の命令なんて聞かない!」
敵DF「何でも脅せばいうこと聞くとか思ってんじゃねぇぞ!」
敵MF「そうだ!俺たちは、俺たちの意思でサッカーをする!」
大川「こ、この…裏切り者どもがぁ!」
何やら大川と彼らとの間でも揉めている。
…どうやら大川が他のメンバーを隷属させる支配体制が終わりを迎えたらしい。
今までリーダー面してきた大川だったが、その立場が変わったことにまだ気付いていないのか、いうことを聞かない他のメンバーに癇癪を起していた。
もうすぐ俺たちと衝突するというのに、なんというか呑気な奴だなぁ…
そう思いながら待っていると、騒ぎ立てる大川に近づく人影が目に入った。
二子「大川くん。」
大川「!二子ぉ!こいつらに俺へパスする様言い聞かせやがれ!」
二子「…やれやれ、ここまで愚かだといっそ滑稽ですね。」
大川「…あ゛ぁ!?」
二子「君は確かに良い選手でした。高圧的な態度は目に余りましたが、シュートテクニックもあって先見の妙がある。そう思っていました。…でも違った。」
大川「違った?何が違ったっていうんだ!?」
二子「君はなかなか愉快な
え、妄想?
いや、まあ原作知識なんてこの世界のキャラクター相手に説明のしようもないし、妄想扱いされるのは仕方ないか…
…という事は、つまり二子は転生者じゃない?
転生者じゃなくてよかったような、転生者じゃないのにこんなに厄介なんだと思うと…いや、原作ファンとして、強いのは普通に嬉しいわ。
大川「妄想?妄想だと!?違う!俺はこの世界で何が起こるか」
二子「その話はもう聞き飽きました。確かに不気味なほど的中するときはありましたが、もうその妄想話と乖離する部分がいくつも出てきた。」
大川「そ、それは…アイツ!アイツも俺と同じで、そのせいで色々」
二子「もう結構だと言いましたよ。とにかく、君がシュートテクニックだけが取り柄の、あと頭が痛いタイプの選手だということはもうわかりました。」
大川「なっ!」
二子「だから、もう君に頼るのはやめることにします。今まで引率役、お疲れさまでした。」
大川「…はぁ!?」
二子は言いたいことだけ言って、そのまま仲間からボールを受け取ると、密集する俺たちに怯みもせずPAへ突撃してきた。
二子「全員、PA内の敵を妨害してください!道さえ開けば誰でもゴールを生むチャンスができます。」
敵MF「おっしゃぁ!感謝するぜ二子!」
敵DF「俺たちにも得点王のチャンスキター!」
大川「まさか、お前ら…」
やられた!
てっきり大川か二子が決めに来ると思ってたのに、ここにきて全員がシュートチャンスを得てしまった。
これでは誰がゴールを撃つか本当に予想ができない!
しかも、人数差を最も活かしやすい単純にして、一番俺たちがされたくなかった攻撃をしてきた。
チームメイトは戻ってきてるけど、果たして間に合うかどうか…
敵は大人数がPA内部に押し寄せ、DFに付いているこっちのメンバーを完全に囲んできた。
そして、二子からのパスを受け取った敵がシュートモーションを取る。
防ぐしかない。そう思った我牙丸がシュートブロックに向かうと、敵はシュートフェイントを使って別の敵へパスを出した。
そして、パスを受け取った選手がシュート態勢に入り、その進路を塞ぎに行った千切の裏をかくように再びシュートフェイントでパスを繋ぐ。
こんな大チャンスを前に、冷静にシュートフェイントを使ってパスを繋ぐことに疑問を覚えつつ、俺はそのパスを受け取った敵をマークし、そのシュートコースを塞ぎにかかる。
敵の一人に妨害を受けそうになったが、得意の裏ぬけステップワークを駆使して回避しつつ、何とか敵のシュートに間に合わせた。
敵「うわ!?まじで間に合わせてきた!?」
俺「は?」
なんだその台詞。
まるで、俺が防ぎに来るのをあらかじめ知っていたような。
いや、教えられた?
考える俺の目の前でシュートはパスへと変化し、その軌道は集団のやや後ろで突っ立っていた大川へ向かっていった。
その様子を見て、反応した今村が最後の力を振り絞って走り込む。
その足取りは少し怪しかったが、何とか大川のシュートコースを消すには充分な位置取りまで何とか辿り着きそうだった。
…いや、違う!
ようやく
大川の近くにいた敵の一人が、そのパスコースに割り込んでボールの進路を変えた。
そして、その軌道の先を追っていけば…
二子「皆さん、ありがとうございます。これで僕が…」
今になって思えば、全員にシュートチャンスがあったにも関わらず、何度もシュートフェイクで躱されている時点で気付くべきだった。
チームYの面々が騒いでいた言葉すらも全て策略だったんだ!
二子自身がゴールを決めるための!
でも、その狙いに気付いたところで、すでに手遅れだった。
俺は『してやられた』と思うと同時に、『流石は二子だ』とどこか嬉しくなっていた。
原作のキャラが活躍する姿と言うのは、敵味方関係なく喜ばしいものだ。
そして、二子はシュート態勢からボール目掛けてその右足を振りぬく。
潔「ここだ!
二子「なっ!?そんな…」
しかしギリギリで、本当に寸でのところで、二子の背後から近づいた潔が、彼の蹴り出したボールに触ったことで、ボールはあらぬ方向へ飛んでいき、PAの外へ転がって行った。
と同時に
アンリ『試合終了!3-1。チームZの勝利!』
試合終了のブザーが鳴り響き、アンリさんのアナウンスによって俺たちの勝利が確定した。