ブルーロック -淡い一等星-   作:甘小豆

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青い監獄(ブルーロック)

 日本フットボール連合を目指して、新幹線と電車を乗り継いでから会場へ向かう。

 道すがら"申請したら移動費も免除してくれないかな?"と無粋なことを考えていると、不意に私を追い越していく大きな車(リムジン)が目に留まった。

 

 お金持ちは目立つなぁ

 

 前世も含め縁のない世界だと思ったところで、もしも私が生き残ったらアレに乗ることもできるだろうか?と考える。

 広いスペースは大人数でもゆったりくつろげるから、みんな(成早家)で乗ることもできるだろう。

 うん、賞金を稼いだらそういう使い方をするのも悪くない。

 

 などと妄想したところで、ゆっくりとリムジンが歩道脇に止まるのが見えた。

 そして奥の建物には、今まさに向かっている「日本フットボール連合」の文字。

 

 

{…ん?そう言えば一人、大企業の御曹司が居たけど、まさか…}

 

 運転席から降りた高齢な執事さんが後部座席のドアを開き、そこから降りてきた人物は

 

「よし、着いたな。ほら凪、お前も来いよ。」

 

「あ~…めんどくさいなぁ」

 

 

 いたぁーーー!ほ、本物!?いや、疑いようもなくそうだろう!?うっひょーーー!!!

 

 …こほん。落ち着け、感情を表に出すな。

 いきなり騒ぎ始めれば不審者のレッテルを張られるのは自明の理。こんな時こそ、前世の経験(忍耐力)が活きるというもの。

 内心で渦巻く激情を制しながら、平静を装いつつ件の二人を改めて観察する。

 

 最初に車から降りたのは「御影(みかげ) 玲王(れお)」

 御影コーポレーションという大企業を経営する社長のご子息で、高水準な能力値を使いこなすオールラウンダーな選手

 

 そして後から出てきたのは「凪(なぎ) 誠士郎(せいしろう)」

 御影と同じ高校に通っている自堕落な少年だが、気だるげな雰囲気からは想像できない天性のトラップ技術を持つ天才肌の選手

 

 ニュースを見て存在は確認していたし、ここに来るだろうと思っていたが、好きな作品のキャラが目の前にいるという状況はなかなか込み上げるものがある。

 しかし、今の私は完全に赤の他人でしかないし、そうでなくともファンがいきなりお近づきになろうとか烏滸がましいので、二人が会場へ向かっていくのを見守るに留めておく。

 

 

「失礼、少々よろしいですか?」

「ひっ!?……ぁ~なんでしょうか?」

 

 突然声をかけられたと思えば、先ほどの執事さんがいつの間にか私の背後に立っていた。

 というか、遠目だったから分からなかったが、この人の身長大きすぎないか!?そういえば並んで立ってた凪と同じ(190cm以上)くらい、いやもう少し高かったかもしれない…

 

 原作内で私はかなり低身長(成早 朝日は168cm)なので、身長差で見下ろされると、流石に威圧感を感じずにいられない。

 

「先ほどから玲王坊ちゃま達のことを見ておられたので、ご用件がおありなら先にお伺いしようと思いまして」

 

「あ、そうでしたか。わた…俺もサッカー選手なんで、最近ニュースでみたコンビ(凪&玲王)だったからついつい見てしまいました。誤解を生んだのであれば謝罪します」

 

 知らない人間が物陰から様子を覗っていれば怪しいのは当然だ。

 私は警戒を解くため、嘘偽りがないようできるだけ正直に答える。

 

 すると、私に向けていた懐疑的な視線を閉ざし、人当たりの良いにこやかな笑顔を浮かべる。

 

「これはこれは、私の早とちりだったようですね。重ねて失礼をお詫びします」

 

「こちらこそ、怪しまれる行動をとってしまい申し訳ありません。以後気を付けます」

 

 状況的に仕方ないとはいえ、舞い上がって周りが見えなくなっていたようだ。

 次はこうならないよう気を付けねば。私は反省しつつ、二人の後を追うように会場へ向かった。

 

 

 

「…坊ちゃま、もしかすると一筋縄ではいかないかもしれませんよ」

 

 

 


 

 緊張しつつも会場の扉を開くと、その先には既に大勢の高校生たちが集まっていた。

 ここには今日、日本全国から招集された優秀なストライカー(FW)300名が一堂に会する。

 

 先ほどの二の舞にならないよう表情筋を引き締め、不自然にならないよう努めれば、服越しにも分かる強(・)靭(・)な(・)筋(・)肉(・)や、女(・)性(・)と(・)見(・)紛(・)う(・)美(・)貌(・)と(・)長(・)髪(・)、楽しそうに周りを見渡すパ(・)ッ(・)ツ(・)ン(・)前(・)髪(・)など、原作で見慣れた面々が視界に映る。

 

 この先、どんな展開が待ち受けるのか知っている私は、この時点でかなり感情の高ぶりを感じていた。

 そして、背後で扉の開く音を聞いて振り返れば、日本サッカーの宝と称される「吉良(きら) 涼介(りょうすけ)」の後ろから、この世界の主人公「潔(いさぎ) 世一(よいち)」が顔を覗かせた。

 

 緊張した面持ちで歩く様子からは、最新話で見せているエゴイズム全開の姿が想像もできない。

 だからこそ、その豹変ぶりを間近で見られるのは、ファンとしてこれ以上ないほど贅沢な幸せだろう。

 

「…?」

 

 思わず凝視していたようで、視線に気付いた潔が私を見た。

 認識されることに喜びを感じてしまうが、現段階では不審者に変わりないため慌てて視線を逸らす。

 露骨に怪しまれたかもしれないが、直後に会場の照明が落ちたことで、意識が外れたのを確認してホッとする。

 

 そして間を置かず、奥の壇上から登場した男「絵心(えご) 甚八(じんぱち)」の演説が始まった。

 

「ぁ~…あーあー…おめでとう、才能の原石共よ。

 お前らは俺の独断と偏見で選ばれた、優秀な十八歳以下のストライカー三百名です。」

 

 彼が語るブルーロックの説明は原作と同じだった。

1.日本のW杯(ワールドカップ)優勝のため、革命的なストライカーを作る実験を行うこと

2.特殊なトレーニングをこなすため、期間中は合宿形式で共同生活を行うこと

3.三百名の中から生き残った一人だけが、世界一のストライカーになれること

 

 絵心が端的に説明を終えると会場の照明は戻ったが、皆の間に困惑した雰囲気が広がっていた。

 

 確かに、彼の説明は抽象的で具体的なことは何も説明されていない。

 けれど私の視点では、目的や概要といった必要最低限のことは説明しているし、この先の選考内容から考えても、内容を具体的に話すことはできないと理解できる。

 

 

「あの!今の説明では同意できません。」

 

 周囲の困惑を代弁するように切り出した吉良は、絵心の説明不足と後日に控える全国大会の優先度を強調した。

 その声を皮切りに周囲からも不満の声が挙がると、絵心は残念そうに「重症だな、お前ら」と零しつつ、ほんの僅かに口(・)元(・)を(・)歪(・)め(・)た(・)。

 

「帰りたい奴は帰っていいよ(LOCK OFF)」

 

 今度は突き放され困惑を深める少年たちへ、絵心は日本サッカーが誇る「組織力(チームのため)」の強さ(絆)を称えつつ、弱さ(平等)故に革命を起こす英雄(ゴールを求める精神性)が誕生しないと主張する。

 

 その話を聞いた少年たちが次に見せたのは、自分たちの好きなサッカーを馬鹿にする絵心への怒りだった。

 不快感を露わにした吉良が発言の撤回を求めれば、絵心は小馬鹿にした笑顔で「日本サッカーが弱いのは事実だ(W杯優勝してなくない?)」とさらに怒りを煽る。

 

 

 きっと、この状況こそが絵心の狙いなのだろう。

 怒りに限らず人が感情を表へ出すとき、多くの場合はそれを止める理性が抑えられている。

 それは必然的に思考の停滞を招き、冷静な判断が難しくなる。負の感情であればなおさらだ。

 

 もしも、そこに心を揺さぶる言葉をぶつければどうなるか?

 

 

「世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーにはなれない」

 

 世界的なストライカーたちの名前と自己中心的(エゴイスティック)な発言を引き合いに、日本サッカーに足りない物はエ(・)ゴ(・)であると主張した絵心は、怒りと困惑を極めたストライカーたちへ静かに語りかける。

 

「この国に俺は、そんな人間(イカれ野郎)を誕生させたい。…最後に一つ、想像してみろ」

 

 そう諭す絵心の言葉に従い、瞼を閉じて脳裏に描く

 

 舞台はW杯決勝

 八万人の大観衆が見守る中、ピッチの上に立つのは自分

 スコアは0-0(同点)。後半AT(アディショナルタイム)*1

 ラストプレーで味方からのパスに抜け出して、GK(ゴールキーパー)と一対一

 右6メートルには味方が一人いて、パスを出せばGKの虚を突いて一点奪える状況

 全国民の期待、優勝と言う重圧がかかった局面で

 迷わず打ち抜ける!

 

 

「そんなイカれたエゴイストだけ、この先に進め」

 

 壇上の奥で重厚な扉が開かれ、その正面に立つ絵心は高校生ストライカー(才能の原石)たちへ投げかける。

 その瞳に宿る情熱(狂気)を密かに感じつつ、私は先ほど想像した光景に少し戸惑ってしまった。

 

 なぜなら、最後にシュートする場面を思い描いた時、ゴールを決めた英雄(ストライカー)は自分ではなく…

 

コツン

 すぐ隣で足音が響く。

 視線を向けるれば、目に飛び込んだのは一番に駆け出したストライカー(主人公)の姿

 

 絵心の言葉に感化されて動き出した彼の目は、まるで腹を満たすため獲物に飛び掛かろうとする獣のようだった。

 自分のやりたい事の(世界一になる)ため、文字通り命を懸けると確信させる強い瞳に、私は思わず追いかけるのを躊躇ってしまう。

 

 私がここに来たのはストライカー(プロのサッカー選手)になるためだ。

 しかし、その願いは誰か(成早家)のために目指しているのであって、私自身が世界一を求めるエゴイスト(英雄)になりたいかと問われると疑問が生じる。

 

 ここまで来て尻込みするなどあり得ないが、覚悟を決めた者たちに胸を張れる自信は無い。

 果たして私の中に、あれほどの熱意を生み出す願いがあるのだろうか?

 

 

 

ドクン

ドクン

ドクン

ドクン

ドクン

ドクン

ドクン

 

 その直後、強く感じたのは胸の高鳴り

 そして先ほど脳内に浮かんだイメージが、栄光を掴み称賛される英雄(ストライカー)の姿が塗りつぶされる。

 

 胸の底に抱いた感情が何か、私にも分からない。

 ただ、エゴイスト(成早 朝日)覚醒の瞬間を確かに夢見て、気付けばストライカーの背中を追いかけていた。

*1:
前後半それぞれで追加される延長時間。

選手交代や負傷の確認など試合中断によるロスタイムが考慮される。




本当は翌日にでも投稿したかったですが、良く言えば考えて書くようになり、悪く言えば執筆速度が落ちました。
焦るつもりはないですが、もどかしい気持ちになるので改善を目指してみます。
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