ブルーロック -淡い一等星- 作:埋もれたエゴイスト
姉ちゃんと話し合った翌日、成早家はいつもより少しだけ早く起きて、兄妹の前で俺が再びサッカーをさせて欲しいとお願いすることになった。
今より過酷な節制を強いる事になると伝える時、俺は僅かに声が震えていたが、そんな俺を元気づけるように兄妹たちは明るい声でサッカーをして良いと言ってくれた。
いつも兄妹の面倒を見ていた俺がお願い事をするのが嬉しかったようで、兄妹揃っていつもより笑顔が輝いて見えた。
いや、おそらく今見せてる笑顔こそが本当の笑顔なんだろう。
そんな事にも気付けなかった自分の愚かさを恥じたが、心配かけた分だけこれから笑顔にすれば良いと前向きに捉える事にした。
そして同時に決意する。
俺がこの家族を必ず幸せにするのだと。
…
本当の家族としての姿を取り戻した朝を迎えて数日後、俺は高校のサッカー部へ入部届を提出した。
中途半端な時期の入部に、顧問の先生や他のサッカー部員達は困惑していたが、真剣にサッカーをしたいと言う意思を伝えると、みんな喜んで歓迎してくれた。
だが、俺は正直言って焦っていた。
原作によれば、おそらく両親の他界から2年後にブルーロックへの招待状が送られている。
つまり、既に事故から一年が経過した事を鑑みると、招待が届くまでもう一年を切っており、それまでにサッカー選手として実績を残す必要があった。
なにせブルーロックへ招待される選手の基準は、ブルーロック総指揮者である『あの人』の判断に一任されている。
つまり、俺は残り少ない時間の中で参加条件に認められる結果なりを示さなければ、ブルーロックへは辿り着けない。
金銭的な問題で正規ルートからのプロ入りが望めない俺にとって、ブルーロックはプロサッカー選手になるための唯一の希望でもあった。
このチャンスを逃すことだけは出来ない。
サッカー部に入部した俺は、久々にサッカーボールに触れた。
もし、バイトで忙しかった頃に触れていれば、もう一度サッカーがしたいと言う気持ちに襲われると思って、出来る限り触らないようにしてたからだ。
ボールタッチが僅かに鈍っているなどブランクを感じたが、思っていたよりすぐに感覚を取り戻すことができた。
と言うか、新聞配達で時間短縮のために結構全力で漕いでいたこともあって体力がつき、全力でプレーできる時間はむしろ格段に向上していた。
そのおかげか、裏への飛び出しをいつでも狙えるようになったことで、練習試合ではポンポン得点を量産できるようになった。
そして平日に部活、休日にバイトとサッカーの自主練という生活を続けていると、俺は一年生ながらレギュラーの座を勝ち取る事に成功した。
そのことにやっかみを言う先輩もいたが、俺が部活で一生懸命に練習していると言ってくれる先輩たちの多くは、俺のレギュラー入りを歓迎してくれた。
中でも、三年生のエースストライカーである『
おかげでサッカー技術に関して色々教えてもらった他、他の部員たちとの仲も取り持ってくれた。
そんな俺たち叶学園高校サッカー部は強豪校として知られているが、同時に全国まであと一歩のところで届かないことでも知られている。
だけど、それだけに今年こそは全国へ行きたいという想いは強く、俺は強さを求める先輩方と一緒に遅くまで練習に励んだ。
…
香川県大会 決勝戦
叶学園高校サッカー部 vs 文代高校サッカー部
3 - 3
後半-アディショナルタイム
俺たち叶学園高校はついに大会決勝まで駒を進め、強豪校である文代高校と決勝戦を戦っていた。
チームにとって念願の全国行きがかかった大事な試合。
俺も夢のために絶対負けられなかったが、相手チームもなかなかに曲者だった。
俺たちが細やかなパス回しでプレーするチームに対し、相手は大柄な選手が多いと言う特徴を活かしたフィジカル勝負に持ち込むチームだった。
味方は敵ボールホルダーを二人で止め、相手は力任せのプレスでパスを奪いに来る激しい戦いになり、気付けばスコアは3-3という接戦が繰り広げられていた。
だが、アディショナルタイムに焦った敵が、無理やり味方DFを突破しようとして失敗した。
その隙を見逃さずに味方が
俺たちにとって最後の攻撃チャンスとなるカウンターだ。
吉岡「行くぞみんな!ラストワンプレーだ!」
味方MF「しゃあ!俺たちも吉岡に続くぞぉ!」
味方MF「「おう!」」
相手FW「くそ!点取らせるな!守りきれぇ!」
このボールに反応して味方MFがボールを受け取り、その左右に位置する味方同士でパス交換を回しながら徐々に前線を押し上げていく。
相手もパスを回している味方を重点的にマークしようとするが、フィジカル任せな選手の多くが細やかな動きを不得手としているのか、ちょこまか動き回る味方を捕まえきれずにいる。
けれど、味方の方も体格の大きい相手を前に進行方向が限られてしまうため、パスを出しあう味方同士の距離が近くなっていく。
だが、このままいくと囲まれると判断した味方の一人が右サイドへボールを出し、敵の一人を出し抜いたのかフリーだった吉岡の元へ転がり込む。
そして、正面から突っ込んできた敵DFに右へのフェイントをかますと、つられて重心が左へ傾いた瞬間に吉岡は左へ飛び出した。
俺はそれを確認すると同時に、俺のマークについていた敵DFが吉岡を見ている死角を突いて裏へと飛び出す。
敵DF「!?くそっ!」
視線を抜き去った敵DFから吉岡へ戻すと、俺が抜け出すことを信じていたのか既にパスのモーションに入っていた。
ゴール前に向かってクロスが挙がる。
そう確信した俺はボールの落下地点を探ろうとして蹴りだされるボールに意識を向ける。
敵DF「させるか!」
吉岡「な!?これに追いつくかよ!?」
だが、吉岡に抜かれた敵DFが吉岡のパスに反応し、ギリギリで足を出してパスの軌道を僅かに狂わせた。
俺は即座に軌道が逸れたボールの落下地点を予測し、その地点へ向かって方向転換して走り出す。
だが、そこで正面に目を向けた俺の目に飛び込んできたのは、敵チーム内でもトップの身長を持つ敵DFが俺の方へ突っ込んでくる光景だった。
それでも、俺へのパスを奪おうとしているようだが、ボールの落下地点には俺のほうがワンタッチ差で先に届く。
問題は、トラップすると正面に立たれてシュートコースが防がれることだ。
おまけに、抜き去った敵DFも俺の後方から追ってきてるから、一歩でも足を止めたらその瞬間に挟まれてボールを奪われるだろう。
だけど、俺は自分でもわかるくらいに楽し気な笑みを浮かべていた。
あぁ、なんて運命的なんだろうか?原作でも
それが大会決勝と言う晴れ舞台で再現されるなんて、本当に神様ってやつがいるなら、よほど悪戯好きなのかもしれない。
そんなことを考えていたからか、俺の脳裏にふと原作主人公の顔が映し出された。
まるで「お前にこの試練を乗り越えられるのか?」とでも言いたげに、憎らしいほど獰猛な笑みを浮かべて。
上等だ!やってやろうじゃないか!
俺はいつかお前を超えて、更にその先へ
俺「世界一のストライカーに、なる!」
自らを鼓舞するように宣言し、俺は左足を強く踏み込みながら、落下してくるボールに意識を集中させた。
そして、この状況を打破するための、たった一つの動きを
サッカー復帰から今日までずっと練習し続けてきた技術を
決して猿真似ではない、積み重ねてきた努力の結晶を
凡才で終わるはずだった
万感の思いで後方へ振り上げた右足を勢いよく戻しつつ、意識を向けているボールと脚が重なるように命中させるイメージで、そのまま前方へと振りぬいた。
そうして放たれたシュートは、敵DFとGKの間を抜けて…
…
県大会決勝から数日後、俺は出立の準備を整えて家を出た。
玄関を潜ると俺を見送るために先に出ていた兄妹たちが、まるで英雄でも見るかのようにキラキラした眼差しを俺に送ってくる。
その視線を、笑顔を、ほんの一時だけ感じられなくなるのは寂しいけど、それでも夢のために、俺は行かなくちゃいけない。
「いってらっしゃい、アサ兄ぃ!」
「成早家の
「負けんなよ。」
「アサ兄世界一!」
みんなが思い思いの言葉を紡ぎ、その一つ一つが俺に確かな勇気をくれる。
そして最後に姉ちゃんが俺に歩み寄って、少しだけ申し訳なさそうに後ろ手に持っていた物を差し出す。
「ちゃんとしたお守りは高くって、これくらいしか買えなかったけど、持ってって。」
そう言って手渡されたのは、近くの店で売っているようなありふれた『キャラメル菓子』だった。
けど、それを受け取った瞬間にこれは、俺にとってどれほど高級なお守りなんかよりよほど大切で、価値のあるお守りに変貌を遂げた。
お守り
『身体に気をつけて』
『まけるな』
『世界一だ!』
『がんばれ』
『かってね』
箱の裏面に書かれたメッセージの数々は、今世を成早 朝日として生きてきた俺としても、前世で原作ファンだった者としても感慨深いものがあった。
「頑張っといで、朝日。」
感動に打ち震える俺に姉ちゃんは送り出す言葉をくれて、兄妹たちも精一杯の笑顔を俺に向けてくれた。
あぁ、原作の成早もこんな気持ちだったのかな?
成早 朝日という男がどれほど家族に恵まれたのかを改めて実感しつつ、俺は溢れ出しそうな感情のすべてを飲み込んで、みんなにもらった元気をおすそ分けできるように笑顔で
「あぁ!行ってきます!」
そう言って俺は成早家を背に歩き出した。
ブルーロックへ参加し、新たに芽生えた夢を叶えるため
世界一のストライカーになるために