ブルーロック -淡い一等星-   作:甘小豆

30 / 31
一次選考(セレクション)

「久遠(くおん) 渉(わたる)、失格!」

 

 てっきり自分が失格になったと思っていたので、何が起こったのか分かってない。

 

 

「ふ、ふざけるな!!確かにコイツ(成早)に当たったボールが跳ね返って俺に当たったけど、その時には終わってたはずだろ!?」

 

「あぁ、確かにお前に当たった時、タイマーは"0"だった。

 だが今の流れを試合に置き換えれば、潔 世一のシュートは成早 朝日に直撃し、跳ね返ったボールがゴールした状況(シチュエーション)だ。全てワンプレーの範疇*1、ルール違反もない。

 それとも何か?お前は試合中に同じことが起こっても、そうやって抗議するのか?」

 

 

 よっしゃ!生き残った!サッカーできる!!

 二人の会話から、おおよその状況を理解できたことで、遅れて歓喜の感情をかみしめる。

 一方で冷静な私の頭は「このシリアスな雰囲気ではしゃぐのは失礼か?」と考え、心の内をさらけ出さないよう必死で表情を取り繕っていた。

 

「くっ…けど、そもそも!なんでサッカーですらないこんなお遊び(オニごっこ)で俺が落とされなきゃいけないんだよ!?」

 

 それでもと食い下がる久遠にあきれた様子を見せつつ、絵心はこの試験について詳細な説明を始めた。

 

 まず、この部屋の形はサッカーコートのPA(ペナルティエリア)*2と同じサイズ(16.5m × 40.32m)で、得点率の75%がここで生まれること

 それは得点者(ストライカー)として最適な仕事場であり、ここで生き残れない人間は不要な(使えない)のだ。

 

 次にオニごっこの追う側(オニ)と逃げる側に要求される能力について

 追う側は「ドリブルの精度(タッチ)」、「キックの精度(クオリティ)」

 逃げる側は「駆け引き(フェイント)」、「位置取り(ポジショニング)」

 単純なルール故に高い能力を要するため、プロでもウォーミングアップに取り入れられることがあるという。

 

 与えられた制限時間(136秒)については、実際の試合(90分)で一人の選手がボールに触れる平均時間に相当する。

 正直ここは運(・)も絡むため、生き残れなかった人間が無能とは思えないが、300人もの入寮テストを行っている以上、どうしても時間の短縮(効率的な足切り)が必要だ。

 

 最後に、絵心は自身が求める人材に必要な要素を語る。

 それは例えば

  自分より強い存在(上のランキング)を倒そうとした潔 世一

  そこからボールを奪い一番強い存在(289位の吉良)を倒そうとした蜂楽 廻

 

「そして、残り1秒でボールが当たると理解した瞬間、それでも諦めず足掻いて見せた成早 朝日」

 

「え?」

 

「それこそ、集団の常識に左右されず『己のためだけの勝利への執念』であり、俺が求める英雄(ストライカー)の資質(エゴイズム)だ」

 

 ついに反論の言葉が出なくなった久遠は黙り込んでしまう。

 肩を震わせながら俯く様子からは、納(・)得(・)い(・)か(・)な(・)い(・)けど納(・)得(・)す(・)る(・)し(・)か(・)な(・)い(・)という理不尽な現実に苦しんでいるのが伝わってきた。

 

「…気は済んだか?わかったらさっさと帰れ(LOCK OFF)」

 

 絵心(看守)からの冷たい退場(釈放)宣言に何も言わず、久遠はゆっくりと出口に向かう。

 最後の一瞬だけ振り返った(私を睨んだ)が、彼が退出するまで部屋は静寂に満ちていた。

 

 

「…こんな理不尽なことが、この先も続くのかよぉ」

 

「理不尽?そうですよ、これが勝負(プロ)の世界ですから」

 

 思わず呟くイガグリの言葉に、絵心は誰もが憧れる選手たちの現実を突きつけた。

 成果を上げれば世間の脚光を浴び(レギュラーとなり)、結果を残せなければ名声は地に(二軍に)落ちる。

 それはプロとして当たり前のことであり、テレビで目にする選手たちは活躍し続けるからこそ生き残っているのだと。

 

 そして、そんな選手たちと同じ緊張感を持って戦った心情が、今まで自分たちのやってきたサッカーの甘さと、生き残った時の快感に実感を持たせる。

 

「それが"勝利"だ!よーく脳に刻んどけ。

 おめでとう。"青い監獄"(ブルーロック)入寮テスト、合格だ」

 

 絵心からの合格発言に、部屋の中が歓喜の声で満たされる。

 絶体絶命の状況を乗り越えた時、迫っていた壁(危険)の高さはそのまま乗り越えた時の安心につながる。

 この落差こそがある種の快楽を生むのだろう。

 

 それは云わば"脳内麻薬"(ドーパミン)の類であり、その快楽を知った者(中毒者)が何を求めるかは語るまでもないだろう。

 

 


 

 その後の3日間、私たちは体力テストをこなしながら生活している。

 入寮した選手たちのデータを正確に知っておくためだと思うが、同時にチーム内順位の絶対性を理解させるのも意図しているかもしれない。

 なにせここに集まった者たちはもれなく身体能力が高いのだから

 

 

…

 ランニング・テスト 

 

タッ

タッ

タッ

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ…はぁ…キッツ!」

 

「ふぅ…けどよく耐えてるよな。その体格(なり)で」

 

「ハッ! だから(小さいから)こそ走り回れなきゃだからさ!」

 

「なるほどな。…筋肉以外も意識すべきか?」

 

20km/h走

持続時間 0:48:32

 

 

…

 ジャンピング・テスト 

 

「「せーのっ!」」

 

○
○

 

「ちょ、高(たっ)か!?」

 

「やっぱ小っちゃいな、お前」

 

「ぐぇ!?それ言っちゃう!?これでもジャンプ力は悪くないの!」

 

「へぇ~…でもやっぱ小さい」

 

「にゃーー!後で覚えとけよ(餃子貰うからな)!」

 

垂直飛び

高さ 60cm

 

 

…

 スプリント・テスト 

 

「「よーい、どん!」」

 

タッ

 

 タッ

 

タッ

 

 タッ

タッ

 

 

 タッ

 

 

タッ

 

「くっ!」「っしゃ!」

 

「くっそ~!また負けた!」

 

「まっ、俺の方が速い(モテる)からな。でも、お前も良いスピードしてんじゃん」

 

「まだまだ!ラスト一本、次こそ!」

 

「いいぜ!」

 

50m走

タイム 6.43秒

 

 

…

 

 なかでも、順位による格差を感じる部分は食事に色濃く出ている。

 

 ブルーロックには食堂もあり、ここの食事はご飯と味噌汁に追加でおかずが出されるが、出てくる品はランキングに応じて変化する。

 例えば、300位(チーム最下位)なら『たくあん』、289位(チーム最高)なら『レバニラ炒め』といった具合だ。

 

 そして、私のランキング(297位)で出されるおかずは『サラダ』

 

 …これじゃ足りない!

 いや、栄養価のある野菜が含まれているので不足はないし、むしろ私(中年)としては嬉しいおかずなのだ。

 ただ、成長期(成早)の身体にとっては食べ応えのある物(肉とか魚とか)を食べておきたい。

 

 などと文句を言ってもおかずは変わらない。良いものを食べたいなら順位を上げるしかないのだ。

 「そろそろ加減慣れないな」などと考えつつ席に着くと、少し離れた位置に我牙丸の姿が目に入った。

 

 彼(296位)のおかずは『餃子』

 そこで思い出すのは原作の一コマ、成早が我牙丸の餃子を一つ取って追いかけられるシーンだ。

 だが前世の記憶(大人としての良識)を持つ私にとって、人の物を盗るのは心理的な抵抗が強い。

 それに…餃子を見ていると成早家の弟妹たちを思い出し、少し感傷に浸ってしまいそうになる。

 

 あぁ…みんな元気に過ごしてるだろうか?

 ほんの数日会えないだけでこれとは、家族の温かさがこれほど素晴らしい(失うのが怖い)ものだとは知らなかった。

 

 

「…欲しいのか?コレ(餃子)」

 

「え?あっ、えぇと…」

 

 思わず凝視してしまっていたらしく、視線に気付いた我牙丸から質問される。

 私の寂しがる様子を『食べたそうに見ている』と勘違いしたのだろう。

 即座に否定すればよかったが、餃子を食べたいという気持ちもあって言葉に詰まる。

 

「一個ならいいぞ」

 

「っ…あ、ありがと…」

 

 とりやすいように我牙丸はそっと皿を動かし、私は気恥ずかしさを感じつつお言葉に甘えた(餃子を一つ頂戴する)。

 一口ずつ味わって食べようか迷ったが、思い返すのはこの瞬間だけにしようと一口で頬張る。

 流石に具材や味付けはいつもの餃子(真昼のバイト先)と違ったが、餃子を食べているという感覚が成早家の食事の記憶を呼び起こした。

 みんなの笑顔を見ている時の喜びが、食べ終えた餃子の温かさを通じて強く感じる。

 

 ほんとうに、おいしい

 

 

「餃子、好きなのか?」

 

「…うん、いつも食べてるし」

 

 餃子をしっかり堪能した私に質問する我牙丸へそう返す。

 やはり寂しさはどうしてもあるが、これを乗り越えた先に皆を幸せにできる未来が待っているはずだから。

 

 

「…よかったら、これからも分けてやろうか?」

 

「え!?いやいや、流石に悪いって」

 

「でもめっちゃ好きなんだろ?餃子。そんな顔してたぞ」

 

 

 なんとなく『群れの子供を世話するボス』みたいな絵面が浮かんだが、おそらく私にとって餃子が特別な食べ物(家族との思い出)だと直感したのだろう。

 その気持ちはうれしく思うが、ただ甘える(庇護される)だけなのはよろしくない。少しは対等な付き合いをするべきだ。

 

「じゃあ、俺のサラダ好きに食べていいよ。野菜も食ったほうが良いからさ」

 

「ん、そっか。じゃあもらうぞ」

 

 そう言うと我牙丸は素手でサラダを鷲掴み、ドレッシング*3もかけずにそのまま頬張る。

 見慣れない光景に思わず面食らったが、そこがまた面白くて、笑いながら食べる食事はとても暖かかった。

 

 


 

ピーンポーンパーンポーン

「体力テストの集計が終わりました。全員、速やかに部屋へ戻り最新ランキングを確認してください」

 

 いつもよりぐっすり眠れた次の朝、潔と蜂楽が部屋にいないと気付いた頃にアナウンスが流れる。

 それを聞いて「あ、今日なのか」と思いながら左腕のランキングを確認すると

 

ご

272
Z

 

 デジタル時計みたいに数字が変化して順位が上がる(297位 → 272位)。

 周囲でも順位が上がり喜ぶは多かったが、中には不満そうな表情を浮かべる者もいた。

 

 そんな中、練習着(ボディスーツ)で部屋へ戻ってきた潔と蜂楽も順位が変わった頃、部屋のモニターが起動して絵心の姿が映し出される。

 

「お疲れ、才能の原石共よ。"青い監獄"(ブルーロック)での生活、楽しんでるかーい?」

 

「ふざけんな!こんなクソみたいな環境で、マジでサッカー上手くなんのか!?」

 

「環境がクソなのは、お前らがサッカー下手クソだから当然だ、バーカ」

 

 普段と異なる環境で満足できる物(食事や楽しみ)がないため、特に不満を溜め込んでいる雷市が絵心に食って掛かると、絵心はバカにしたような声色(清々しい棒読み)で煽りながら"青い監獄"の説明を始めた。

 

 この施設は5棟に分かれており、ランキングに応じてAを除いたB~Zが5チームずつ1~5号棟へ振り分けられている。

 そして1位~11位が『B』、12位~22位が『C』と順々に割り当てられ、これはチームZが文字通り最底辺である事実を示している。

 

 更に、各部屋で初日の入寮テストが行われ一人ずつ脱落し、それが5棟×5チームで25人分の順位繰り上がりが発生し、現在の最下位は275位となっている。

 つまり、先ほどの順位変動は評価が上がったわけではなく、繰り上がりで順位が上がっただけなのだ。

 

 そして評価の低い者たちは質素な生活を強要され、評価の高い者たちは豪勢な生活を謳歌できる。

 それはある意味で弱肉強食の世界(自然の摂理)であり、良い生活を望むなら順位を上げろ(結果を示せ)と発破をかけた。

 

 その言葉は、ストライカーを目指すため入寮した者たちの心に火を灯し、不満の矛先が絵心だけでなくまだ見ぬ強敵(ランキング上位)へ向けられたことが理解できた。

 

 

「それではこれより、一次選考(セレクション)を始めます」

 

 熱くなった選手たちに、絵心は本格的な選考の開始宣言と説明を開始する。

 

 一次選考は5号棟内部の5チーム(V~Z)がお互いに戦いあう『総当たり戦』で、最終的に成績上位2チームが次の選考へ進むことが出来る。

 成績については勝敗ごとにポイントが設定され、勝利チームは3点、負けたチームは0点、引き分けの場合は両チームともに1点ずつで採点される。

 

 逆に下位3チームはその時点で脱落する(日本代表になれない)が、今回の選考では特別ルールとして『得点王の勝ち抜け』*4が可能となっている。

 つまり、チームとして生き残ることが出来なくても、チーム内で一番ゴールを奪った人間だけは次の選考に進めるのだ。

 

 チームとして勝利を目指すか、自分のゴールに執着するか、ストライカーとして自分がどちらを選ぶかが重要になる。

 

「これはサッカーを"0"から創るための戦いだ。

 第一試合は2時間後、『チームX vs チームZ』」

 

 

 説明が終わりモニターの電源が切られる。

 直後、真っ先に話を切り出したのは吉良だった。

 

「よし、みんな。まずはチームのポジションについて話し合おう」

 

「じゃあ俺がCF(センターフォワード)な!」

「は?俺だろ」

「いや俺だ」

 

「あんたキーパーやってよ」

「やめろ、俺は頼まれたら断れない…」

 

「はい!ストップストップ!みんなFWやりたいのは当たり前だろうけど、まずは話し合って」

 

「あ゛?なんでてめぇに指図されなきゃいけねぇんだよ?」

 

「ここで負けたら一人しか生き残れないんだ。それより、み(・)ん(・)な(・)で生き残る方法を考えたほうが良いに決まってる」

 

「それで負けたらどうすんだ?点とった奴が生き残んだから、FWの奴が有利に決まってんだろ」

 

「僕らは全員でチームなんだ。誰か一人が生き残るためじゃなく、今はチームとして生き残る道を探るべきだ」

 

 少し危うい空気が生まれ始める。

 

 メンバー内で最も正直な雷市(らいち)が声高々に話して、それを吉良が諫めようとしているが、全員の心情は雷市の方に近いだろう。

 さっきから彼が語るように、誰もがFWをやり(生き残り)たいはずだ。

 

 一方、吉良の言い分も間違っていない。

 合理的に考えてチームとして勝利すれば、ここにいる全員が生き残れる。

 自分が点を取る必要も、喧嘩する理由も無くなる。

 

 だが、負ける可能性がある以上、生き残る確率を上げたいのは当然。

 そうでなくとも、全員がFWのチームだ。花形のポジションを降りるなど、大人ではない彼らが簡単に割り切れるはずもない。

 

 

 結局、時間も差し迫っていたため、ポジションはじゃんけん(原作通り)で決めることとなった。

 明確な実力差が無い私では、この場で自分の意見を通すことができない。

 

 この先の展開・勝敗まで知っているが、最初の一戦はできれば勝っておきたい。

 確実にこの選考を突破するため、私はどう動くべきなのか?

 思考の沼に浸かりながらポジション決め会議(じゃんけん大会)に参加し、私はDFのポジションを獲得した(英雄になり損ねた)。

*1:
試合終了は主審が判断するため、制限時間が絶対ではない

*2:
ゴール前の大きい長方形の範囲

この中ならキーパーはボールを手で触ることが出来る。

*3:
サラダは小鉢のドレッシング付き(アニメ一期三話-アディショナルタイムより)

*4:
同点の場合↓フェアプレーポイントを採用して判断される。

イエローカード-1
イエローカード×2-3
レッドカード-4
イエロー&レッドカード-5




先の展開まで考えていると、最初の内容が薄く感じる。
しかし、肉付けしてボリュームを上げると最悪、後半の展開が早まったり破綻する。
と悩みながら、とりあえず試合前までは進めておく。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。