ギスギスした話し合いから時が経ち、伍号棟の中央に位置する試合用フィールドに集結したチームZ。
先に着いてストレッチしていると、対面の入り口から対戦相手
中でも目を引くのは逆立った髪と鋭い眼光、そして恵まれた体格を持つ背番号10番『
実際に目にすると怖い印象が増してしまう。
あぁ…取引先の部長さんにも、
無駄な思考を回しつつもポジションに着き、
「では、第一試合。チームX vs チームZ、試合開始」
ピーー!
この試合に臨むチームZのポジションは、原作とおおよそ変わらない。
キックオフでボールを受け取った潔は、一気に押し寄せる敵3人を前に動きを止める。
人数差が多いのだから当然だが、視線を逸らせば自陣から潔の元へ、駆け寄って行く影が二人。
そして、先に到着した雷市が、潔のキープボールを背後から
「は?雷市!?」
「ちょっと!?
「一番点取った奴が勝つルールだろ?俺のやり方でやるぜ!」
「分かってんじゃねーか雷市。それが
「國神ぃ…お前とは気が合いそうだ!」
さらに、後から追いついた國神も雷市同様、仲間からボールを奪おうと互いにいがみ合う。
そう、一次選考は点さえ取れば試合の結果に関わらず、生き残ることが出来る
集まっただけの烏合の衆であれば、自分本位に行動する人間がいるのは当然のこと。
むしろ
「ちょ、何やってんだ!俺も混ぜろ!」
「何してんのさ!?ポジション守って!?」
そして人間とは、前例があれば良くも悪くも抑制が緩む生物だ。
私と同じ
そんな様子に吉良は腹をたて、指示を飛ばそうと苛立ち交じりに叫ぶ。
それは敵さえも同じことで、対峙していた
その諍いはやがて肥大していき、フィールド中央で7~8人の『おしくらまんじゅう』が完成する。
コレを『サッカー』と称することが出来るのは、せいぜい小学校低学年までだろう。
だからこそ、
完全に膠着していた争いに、遅れて参戦したはずのストライカーが割って入る。
もみくちゃにされる圧力を跳ね除け、類稀な
「俺の前に立つな、ぶち殺すぞ」
遠巻きにいたはずの私だが、明らかに試合前より
それを正面から受けたのは、雷市にボールを取られてから動けずにいた潔
どうにか気を持ち直して守備しようとするが、完全に足を止めた潔の裏をかくように
「ご、ごめん吉良くん!」
「大丈夫!俺が止める!」
「俺もつく、二対一だ!」
乱戦へ混ざりに行った面々と逆に、自陣で待機していた吉良と今村が、突破された潔のフォローに回る。
しかし、先に立ちはだかった今村を股抜きで素早く突破し、あっという間に吉良との一対一に持ち込まれる。
「ここは抜かせない!」
「ほざくな凡人が」
馬狼が再び股抜きの動きを見せ、警戒していた吉良は足元への警戒を強める。
しかし、そんな吉良をあざ笑うように、馬狼は重心逆側への切り返しで突破する。
「黙って
「くっ!?」
人数をかけて止めに行っても、一人ずつでは容易に止められない。
あっという間に3人抜きして見せた馬狼は、そのまま真直ぐゴールへと向かう。
「まだまだ、通さないよー!」
「殺すっつったろ?」
止められるとは思えないが、挑まないのはさすがに論外。
それでも、今の私にできる全力で止めにかかる。
馬狼の足元だけでなく身体全体を観察し、次の
間合いに入った馬狼が左右へ揺さぶり、対応のため構えた私の
だが、
「退いてろ一般兵」
「うっ!?やば!?」
強引に身体を押し込まれて下がってしまい、これ以上進ませないよう踏ん張りを
…っと思ったが、咄嗟にバランスを取ることが出来ず、そのまま尻もちをついてしまう。
その隙を突いた馬狼は、ゴール前に抜け出すとゴール右上角へ
「
「フゥーーー!」
「すげぇぞ、キング!」
高らかに宣言する馬狼。
その頼もしい姿にチームXの面々は彼を称え、対してチームZは一層ピリピリした雰囲気が漂い始める。
「お前ら全員!俺にパス回してりゃ良んだよ!」
「ふざけんな!俺に回せ」
「いい加減にしろって!チームワークを固めればきっと勝てる!」
点を取られたことで余裕がなくなり、生き残るため
この状況で協力を促すには、強い
しかし、現状のチームZには明確なエースがいないので、それは難しいだろう。
ピッピッ
「チームZ、試合再開なさい」
アナウンスで試合再開を言い渡され、渋々ポジションに戻るメンバー
空気感は最悪のまま試合再開し、キックオフで潔から蜂楽へ出した。
「ちょ、イガグリ!ポジション!」
「バカかよ!もうパスなんか絶対しないっての!お陀仏様でぇ~す!」
しかし、ボールを奪ったイガグリが敵陣へ一人で切り込み、そこを敵に狩られてボールを奪わてしまう。
せっかくの攻撃チャンスを、みすみす敵に渡す結果となってしまう。
「取られんなよイガグリ!」
「おい!俺らは馬狼にボール回そうぜ!」
すると、
対して、馬狼への警戒を強めたチームZは、自分の点を取るため馬狼にマークが集中する。
だが、個々が同じ思想で馬狼を狙えば、その分のスペースを相手は自由に使えるわけで
「いいのか?俺一人に下手クソどもがそんなに集まって」
一人相手に7~8人も集まれば、
人が集中してがら空きのスペースに走り込んだ敵へのパスは簡単に通る。
「いや、そうはさせない!」
だからこそ、
額に青筋を浮かべてこちらを睨む馬狼を尻目に、私は素早く反転して
ここでモタつけば雷市やイガグリたちがボールに狙われ、せっかくのチャンスを活かせない。
故に、ここで取るべき選択肢は一つ。自分の意思を表明すること。
その第一歩として、私はセンター付近で駆け上がる
「攻めるよ潔!」
「お、おう!蜂楽もサポート頼む!」
「おーけー!」
既に一点取られている以上、ここは0→1を生むストライカーの誕生を優先するべきだろう。
潔と蜂楽は連携できるので、私という選択肢を増やし、二人の連携を後押しする。
相手も止めに来るが、全員がFWなので守備はそこまで上手くない。
「やばい!シュート警戒!」
「止めろ止めろ!」
ここで問題なのは、誰がシュートを決めるのか?
潔はこの時点で
「蜂楽、よろしく!」
PAに入る直前、センターから詰める蜂楽にパス。ボールの軌道を目で追った
辛うじてそれに気付いた相手と並走しながら、私の意図を組んだ蜂楽がゴール前に柔らかいパスを放った。
飛んでくるパスを確認した敵の
そのまま落下してきたボールを決めれば
「おいチビ、なに
しかし、ここで意識外から馬狼がコースを塞ぐように立ちふさがった。
『これではシュートが打てない』と迷いが生じ、落ちてきたボールをトラップして足を止める。
ここでボールを奪われるとせっかくのチャンスが無駄になる。一体どうすべきだ?
「成早くん!こっち!」
横から聞こえた声に反応して視線を動かせば、私たちに合わせて駆け上がってきた吉良の姿が目に映る。
ゴール前で一人、完全にフリーの状態、ここでパスを出せば確実に一点が奪える。
私はそれを理解すると同時に、吉良へ
「っしゃあ!」
「ナイス、吉良くん!」
『日本サッカー界の宝』とまで称される吉良が、決定機を逃すほど甘いはずがなく、放ったシュートはゴールネットを揺らす。
なんとか一点を取れて一息ついた私に、苛立ちを隠さず近づいてきた馬狼が見下ろしながら呟く。
「あんな
「…うん、ひとまずはね」
馬狼は鼻を鳴らして不機嫌そうに立ち去る。
まあ、今のゴールは"青い監獄"の信念と真逆な
他にも不機嫌そうな視線を感じつつも、これも勝つためと割り切って私はポジションに戻った。
ピーー!
試合再開から敵は再び馬狼へボールを集めるが、先ほどとは違って近い距離間でパスを回し始めた。
攻撃が中央に集中して
これを止めるには馬狼へ二人以上付けたうえで、敵の流入を封じる連携が必要になるだろう。
さっきのゴールでチームZも幾分か冷静さを取り戻し、多くはポジションを守る意識が芽生えたのだが
「てめぇのボールは俺がもらうぜ!」
そんな中でも雷市はポジションを放棄し、正面から馬狼へ一対一を挑んだ。
抜かせないようその場でどっしり構えたことで、警戒した馬狼の足を一瞬止める。
そこを狙って足を伸ばしボールを奪おうとしたが、逆にボールをずらして躱すことで、馬狼の突破を許してしまう。
「お前如きが敵うかよ、雑兵が」
「くっそ!?」
「あぁもう!成早くん、俺たちで
「了解!挟み込む形ね!」
連携が組めると判断したのか、二人掛かりで進路を塞ぐという吉良の提案に従う。
これなら馬狼も止められると思ったが、ここで馬狼はフォローに来た敵への
「おっしゃ!シュート頼んだ!」
「OK!任せろ!」
「止めろ伊右衛門!」
まさか、
「っし!また逆転!」
「サンキュー!キング馬狼!」
流石に全国から集められた優秀なFWは、原作で活躍の描写がない
GK初心者の伊右衛門が止めるのは簡単なことではない。
「くそっ!今のが止められてりゃ」
「だから!GKなんてやったことないんだぞ!?」
「落ち着けって!まだ一点差だし、もっかい俺がゴール決めるから!皆はポジション守って!」
せっかく収まりかけた空気感が悪化し始めるも、点を取った吉良が発言することで、先ほどより納得の色が強くなる。
かえって不満を持つ人間もいたが、
ピーー!
ここまでくると、流石に何度も
ただ、先ほどの混乱した状況と異なり、本来DFの私が前線の攻撃へ加わるのは難しい。
それは吉良も同じようで、前線の人間でパスを回すよう後ろから指示を飛ばす。
「んじゃ、俺が手伝ってあげますか~」
「頼む今村!」
そんな私たちに代わり、潔と蜂楽の連携へ今村が加わる。
「駄目だ、もっと人数かけろ!」
「こっちカバー頼む!」
「人多くて攻めきれないな…」
「もっと攻撃に人数がいれば」
だが、寄せ集めチームに高度な連携が取れるはずもなく、無難なパスしかできず攻め手に窮する。
おまけに、敵もストライカーとして危険な場所は理解できるので、守備の圧を強めることで対抗してくる。
「俺に寄越せ!」
そこへMFの雷市が走り込んでパスを要求してくる。
だが、ボールに食らいつこうと動き回る雷市に敵が一人付き、再び自分勝手に動かれることを恐れた潔たちは、雷市をパスの選択から外してしまう。
「こっちだ!俺に出せ!」
「國神、てめぇ」
それを見かねた國神が駆け込んでパスを要求し、反応した潔は後方へパスを出す。
「そんな甘っちょろいパスが、俺に通用するわけねぇだろ!」
「マジかよ!?」
「なっ!?ゴメン國神!」
そんな二人の間へ
チームXは突然の攻守交替に戸惑うが、すぐさま気持ちを切り替えて馬狼に追従する。
それを遠目で観ていた私たちは、一人独走する馬狼の進路へ先回りし、吉良と二人掛かりの壁を作る。
それを警戒していた敵が馬狼の近くへ移動し、突破のためパスを要求した。
「…フン」
「え? 突っ込んできた!?成早くん!」
「分かってる、今度こそ!」
すると、馬狼はパスではなく
私一人だと押し退けられたが、吉良と二人掛かりで動きを止めることに成功し、その隙を突いて足元のボールを弾く。
「クッ!」
「よし、いいよ成早くん!」
ピッピーー!
ボールが場外に転がったところで、前半終了の
スコアは
後半を残して相手チーム有利な状況はよろしくないが、少なくとも前半の内に一点返すことは出来た。
ただ、その姿を後ろから睨みつける馬狼の心情だけは、今の私に理解できなかった。
第一試合は原作で描写がほとんどないため、馬狼の性格と試合展開に思ったより悩みました。(旧バージョンはオリキャラで凌いだので)
一通りの展開は考えたので、後半も近々書き上げる予定です。