こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
アトラクションの『魔法のじゅうたん』って伝わりますかね?
某夢の国(海)のアラビアンなエリアにある、グルグル回るアレを想像していただければ。
ワンダーステージでの交渉が纏まり、部室へ戻る途中のこと。
突然、スマホに着信があった。
「もしもし、室長?」
『…ごめん、悠馬くん!』
普段に比べ、少し焦ったような室長の声が通話口に聞こえる。
いつもなら、第一声に耳が割れんばかりの「わんだほーい!」が襲ってくるのだが。
さては。
「室長、もしかして…開発者の方に難色を示されたり?」
『うん。類くんが、安全の保障は絶対じゃないって』
『でももっと時間があれば、安全な一人ヘリコプターみたいなのを作れるんだって』
前言撤回。そんな人間大砲より危険そうなもの、絶対採用してはいけないだろう。最悪の場合の被害がより甚大になりそうだ。
『それで、ちょっと提案が──』
「ああ、こっちも提案があって。いいプランを思いついたんですよ」
『えっ、ほんと!? どんな感じのを考えてる?』
自分は先ほどまでのワンダーステージでのやり取りと、自分たちの誤解を説明する。
現実味を帯びた話であるし今回の懸念点も一気に解決するが、それは一度室長が否定したものでもある。彼女なら、だいぶ渋い反応をとるだろう。
電話の先ではしばらく沈黙が続いていたが、意を決したのか息を吐く音が聞こえた。
『……うん。今回はその案で行ってみよう』
「…ずいぶんあっさりですね。もうちょっとごねられるかと」
『わたしって、そんなに駄々っ子に思われてるの?
…でも、類くんにも「彼の提案も聞いてみては?」とも言われちゃったしね』
どうやら彼も、室長のそのような面を懸念していたようだ。そのうち会う機会があれば、全力で感謝せねば。
『じゃあ悠馬くん、実行日のスケジューリングはよろしくね!
高橋さんには私から連絡しておくから』
「了解です、任せてください!」
あはは、と控えめな笑い声のあとに通話が切れる。
正式に許可を得たなら、あとはやれることをやりきるまでだ。自分は頭の中で当日の動きを考えながら、石畳の道を歩いていくのだった。
◆
そして数日後。
ゲート前にて、徒歩でやってきた高橋さん親子と対面する。
なるほど、祥太くんは今も駐車場を走り回っているようにやんちゃな少年のようだ。
中々人が来ず、比較的衝突の危険が少ないバス地帯の方
「今回のご依頼の件ですが…これから『ふわふわ魔法のじゅうたん』という場所に向かっていただきます」
「祥太のお気に入りですね、分かりました。それで…」
そう言って、高橋さんはちらりと横を見る。隣に立つ高橋さんの奥さんは心配そうに、室長とおいかけっこをする我が子を見つめていた。視線を戻し、彼は続ける。
「本当に、『空を飛ぶ』んでしょうか? ケガでもしたら──」
「ご安心ください、危険は全くありません。手段の方はお楽しみに、といきたいので…」
最後の言葉があまり良くなかったのか不安げな顔の高橋さんは、祥太くんを呼び寄せてランドへ入場していった。
「私たちも付いていきましょうよ。個人的にも見てみたいので」
「…うん。そうだね」
いつもより元気なく感じる室長が言って歩き出す。相変わらずあれだけ走り回っても息切れ一つしていない。元気がないのは、何かショックなことでもあったからだろうか。
ランドに入ってしばらく歩くと、件のアトラクション、ふわふわ魔法のじゅうたんが見えてきた。
しかし普段とは異なり、その下に小さなテントのようなものが建てられている。その前には半円状のステージが据えてあり、それを囲んで何人もの人々が座っていた。その中には、先ほどの高橋さん一家もいた。
ひとまず、第一段階はクリアだ。
「そろそろ始まるよ」
自分の袖を引っ張りながら、室長が緊張気味に囁く。自分の体にも、自然と力が入った。
テントの方のスピーカーからザザッ、という音が鳴り、続いて声が聞こえ始めた。
『──これは昔々、ここではないどこか不思議な場所での話。
あるところに、夢見る少年がいました──』
よく通るナレーションに合わせて、羊飼いのような服を着た少年がテントから出てくる。
少年は空に手をかざし、まぶしそうに目を細めた。
『いつかあの雲を、つかんでみたいなあ』
そのセリフを確認するように、テントから雀原さんが舞台をうかがっているのが見える。
この後、彼女の扮する魔法使いが少年に夢を見せ、彼はその中で空を飛び、鳥たちと交流しながら雲を目指す、というストーリーのはずだ。
そう、今回ワンダーステージに要請したのは、「指定の時間に『ふわふわ魔法のじゅうたん』の目の前で、ほとんど
というのも、ここ数日の──今月の月初めのショーのテーマは『雲』であった。フェニーくんの衣装も白いもこもこを中心に、雲を想起させるものである。
自分があの時感じた違和感は『
つまりこのショーを見て、自分も少年のように空を飛びたいと想像するようになったのではないか。
そうなのであれば、夢を叶えるのは簡単だ。
『さあみんな、このじゅうたんに乗り込んで、一緒に雲をめざそうよ!』
少年のセリフと同時にふわふわ魔法のじゅうたんの入場口が解放され、子供たちがワッと流れ込む。その中には祥太くんの姿もあった。
このショーでの普段とは異なる要素は、アトラクションを連動させることだった。自分たちもショーに乗っかることで、あたかも同じ経験をしているように思わせるのが狙いだった。ついでにスモークを焚いたり、演出によって没入感をより出さなくては、と思っていたが──。
──どうやら杞憂のようだ。
自分はアトラクションを見上げる。
ぐるぐると回るじゅうたんの一つに乗り込んでいた祥太くんは、あふれんばかりの笑みを浮かべていたのだった。
◆
「今日はありがとうございました!
こんなに楽しそうな祥太は初めてです」
「お役に立てて何よりです。料金は後日、お振込みいただければ。
──引き続き、当園をお楽しみください!」
礼を言い、ランドの奥へ歩いていく高橋さん一家を見送りながら、自分は達成感に浸っていた。
人を笑顔に出来るのは、やはり嬉しいことだ。
「良かったですね、満足してもらえて」
「うん。笑顔になってくれて嬉しいな」
そう言って笑いつつも、室長は浮かない様子だった。やはり、今日の鳳室長は少し様子がおかしい。アトラクションでの演出の時も、ステージの方を気にしてそわそわしていた気がする。
「やっぱ今日の室長、何かおかしいですよ。
…もしかして最初の提案が通らなかったこと、気にしてます?」
「いや、そうじゃないよ? ただ…」
「──ただ、自分が捨てた後継と会うのは気まずい、ってとこですか?」
「いや、なにそれ……って、えぇ!?」
そう言って振り返ると、いつのまにか雀原さんが立っていた。いつもの気怠げな表情ではあったが、室長を睨むその目からは激情が感じられる。
「ちょっと待って、どういうこと?」
「そのままですよ。この人は、手塩にかけて育てた
吐き捨てるようにそう言った雀原さんは、ただじっと鳳室長だけを見つめていた。
彼女が来てから俯いていた室長は、体を震えさせながらか細い声を絞り出した。
「……違う、違うの。あたし、そんなつもりじゃ…」
「…はぁ。責める気も失せますね」
室長の反応に落胆したのか溜息を吐くと、初めてこちらに目を向ける。
「美麒さん、今回の件はお見事でした。対象の方にも喜んでいただけたようで、こちらも何よりです。
ですが──」
そこで言葉を切った雀原さんは、横目で室長をうかがう。彼女は今にも泣きそうな面持ちで、いまだ俯いたままだった。
「──今後、こういった案件はあの人から相談しに来てください。それ以外はすべて断らせていただきます。念のため言いますと、これはワンダーステージの総意ですので」
「あ、あぁ、分かった…」
状況も呑み込めないまま、自分は返事をしてしまう。話についていけてない自分を尻目に、雀原さんは室長に近寄って囁いた。
「ではお願いしますね、鳳
びくっ、とする室長を一瞥してから、彼女はテントの方へ戻っていった。
演出機材の撤収をしてドリームメイク室まで戻った後も、退勤の指示を出すまでに室長が口を開くことはなかった。
ちょっとハイラルに行ってきます。
2023/6/21 11:45 題名を変更しました