こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
tips:ワンダーステージ
当時高校1年生の鳳えむが復興し、後にフェニックスワンダーランドの2枚看板にまで上り詰めたショーユニット。その中で新1代目座長の代のみ、『ワンダーランズ×ショウタイム』と呼ばれる。2代目座長は鳳えむ、3代目は雀原朱音。
伝統的な劇場型の大規模なフェニックスステージと異なり、様々な道具やマシンを駆使し、少数精鋭で屋外ショーを行うことが多い。その気になればどこでも出来るし、時々ランド内でゲリラショーを行うことも。
なおマシンの大半は新1代時に作られたオーパーツで、それの整備のためだけにメカニックが所属している。
「今日はお忙しいところ来ていただき、ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ、ありがとうございました。
ダメもとだったんですけど、まさかOKがもらえるなんて…!」
午後6時ごろ、待ち合わせ場所であったサービスセンター前にやってきたのは、制服を着た女子高生だった。あの灰色のセーラー服は宮益坂女子学園だったか。大学時代に亀山が、あれはお嬢様学園だからアタックしやすい、とか吹聴していた気がする。
「ご期待に沿えるよう尽力しましょう。
それでは行きますか」
そう言って自分は、夕焼けに赤く染まるランドを歩き出した。
今回の依頼は、完全に自分一人での対応となる。ミスのないように掛からねば。
◆
時は少しさかのぼる。
「悠馬くん! わんわん、わんだほーい!!」
「はあ、どうも…」
今朝の室長は昨日の落ち込み様と打って変わって、いつも通り、というかそれ以上に上機嫌に見えた。
雀原さんに対するあの態度は随分と深刻そうだった。それを覆すほどのいいことがあったのか、あるいは無理していつも通りでいようとしているのか。
どちらにせよ見分けはつかないので、それには触れない方針で行きたい。
「残りの依頼は確か、舞台裏の見学・入院患者の訪問、でしたよね。どっちから行きます?」
「うん、そのことなんだけど――」
ホワイトボードをバン、と手でたたきながら室長は言った。
「女子高生の依頼の方、悠馬くん一人で対応してもらえないかな?」
「はい、いいですけど…突然どうしたんです?」
「えへへ、せんぱ…依頼人の方に、病院に呼び出されちゃって」
ニコニコと笑いながら外出の支度をする鳳室長。このタイミングでの呼び出し、というと。
「やっぱり打ち合わせと病院への交渉、同時にやるんですね」
「うん。依頼人が笑顔のなれるように頑張るね!
あ、女の子との打ち合わせの情報、そこに貼ってあるから!」
「了解で──って、打ち合わせ?」
慌ててホワイトボードに張られた掲示の一枚を見る。その実行日時の欄には、確かに今日の日付が記されていた。
「室長、いつの間に――」
そういって振り返るが、既に勢い良く開かれたドアは閉まり始めていた。少し遅れて、バタン、と音が聞こえる。
「…うん、さすがに慣れてきた」
残念ながら、室長の説明不足や独断専行は毎度のことだ。あちらからすると効率はいいのだろうが、いつも対応を迫られるこちら側の身にもなってほしいものだ。
さて、切り替えていこう。
今回の依頼人は、15歳の女性、応河春さん。
何やら夢があるそうで、その参考のために公演中のステージの裏側で何をしているか、そして舞台袖からのステージの様子を見学したいらしいらしい。可能なら録画もしたい、とのこと。公演中ともなると他テーマパークでの見学は許されないだろう。まさしく、
事前の予想通り、対応は最も楽な気はする。むしろ問題なのは、見学対象への交渉である。
フェニックスワンダーランドに来るからには、行くべき対象は自然と二つに絞られる。
自分が交渉に行くべきなのは――。
◆
「いや、話の流れ的にフェニックスステージじゃないですか。どうして
「いやぁ、ダメもとでね。どうかな?」
「お断りします」
即答だった。
まず自分が交渉に向かったのはワンダーステージだ。雀原さんの言葉に若干のとげを感じる、というか逆の立場なら自分だって呆れるだろう。
ちなみに彼女の言葉通り、本命はフェニックスステージである。
「昨日の今日で依頼を受けると思ってます?」
「まあ、依頼人が宮女の子らしいから、もしかしたら許可してくれるかなって」
「私は神高生なんですが…って、そうではなく!」
少し声を荒げた雀原さんがずい、と近寄ってくる。流石にふざけすぎたか。
「さっさと本題に入ってくださいよ。聞きたいことがあるんでしょう?」
「…それじゃあ、遠慮なく」
あちらが分かっているなら誤魔化す必要はない。
自分はこれから、昨日から言及を避けていた事実に踏み込む。
「鳳えむとワンダーステージ、この間には何があったんだ?」
「…それ、あなたが知る必要あります?」
「上司のトラブルで仕事に支障が出るなら、部下もそれを把握しておくべきでしょ」
「…はぁ」
こればかりは反論出来ないはずだ。なにせ社会人経験者の言葉である。
少しの間思案していた雀原さんは、諦めたようにため息を吐いて言った。
「…別に、特に
「……えぇ、ここで有耶無耶にするのはちょっと」
「いや、ほんとに何もなかったんですって」
弁解するように言った彼女はそのまま目を伏せる。
「あの時にあったのは、えむさんがワンダーステージを去ったことだけ。
私たちは、ただそれを僻んでいるだけなんです」
「僻む…?」
「はい。悔しながら、確かに私たちは新1代──ワンダーランズ×ショウタイムには遠く及びません。でもワンダーステージの名に恥じないように、必死で走ってきました」
でも、と続けた彼女は視線をワンダーステージの方へと向ける。それはまるで、いまはもう戻れない、遠い思い出を振り返っているようだった。
「えむさんは座長を下りて、新しい道を歩き出した。
あの人にも立場はあるし、理想があることも理解しています。
それでも…それでも、私たちは裏切られた気がしました。『あなたたちの努力はすべて無駄だった』と切り捨てられたんだ、と」
「……」
口調こそ淡々としているが、言葉の端々から強い思いが漏れていた。
確かに、自分はこの蟠りに関わるべきではないだろう。これはワンダーステージと鳳室長、彼女ら本人の問題だ。
「把握できておいて良かったよ、助かった」
「…いえ、共有すべき事情ですし。本人も私たちを避けてるみたいで、話そうにも話せなくて」
「君たちの態度にも問題はあったと思うけど…。
改めて室長にも、本人から連絡するように伝えておくよ」
「ぜひお願いします。私たちは──」
雀原さんは何かを言いかけて、ためらうように口を噤む。逡巡の後に覚悟ができたのか、自分の目をまっすぐに見ながら続けた。
「──私たちはただ、えむ
◆
結局、手配できたのはフェニックスステージだった。
青龍院さんに事情を説明したところ快諾を頂き、18時半からの公演時に舞台裏を見学する許可を取り付けた。
そんなわけで、応河さんを伴ってフェニックスステージに入ると。
「うわー、すごいすごい! これ、これってなんですか!?」
「それは『
「おおお、これが、あの…。初めて見ました!
──ああっ、これは照明の操作盤かぁ…!」
興奮した様子の応河さんは、あちこちにある舞台装置を見ながら目を輝かせていた。防音設備は完備されているので、いくら歓声を上げても問題はない。
「応河さんは、こういった舞台裏に興味があるんですか?」
「はい! 装置はどれも複雑で面白いし、長年の試行錯誤とか観客への思いやりとかが感じられますし!
それに、わたし──ってすみません、お恥ずかしいところを…」
早口で語った後に我に返ったのか、彼女は顔を赤くしてもじもじする。合流した時から少しハイテンション気味で気付かなかったが、本来は消極的な性格なのだろう。
そんなにテンションが上がるほど楽しみにしてくれていたのであれば、こちらも嬉しくなる。
「この先が舞台袖となります。
流石に大声は控えてもらいますが、撮影は可能とのことです」
「…そうなんですね、分かりました」
途端に緊張の面持ちになった応河さんが、カバンからハンディカメラを取り出した。
ちょうど視線の先では公演のクライマックス、キャスト全員が舞台に立っている。
撮影し始めた彼女は集中しているのか、真剣な、だが確かに楽しそうな表情で舞台を見つめているのだった。
その横顔を見て、自分は考える。
鳳室長の言う通り、これはこんな自分でも笑顔を作ることができる仕事だ。
今回の依頼は自分単体の力で、お客さんの夢を叶えることが出来た、そう胸を張って言える。これを成功させたことで自信がついたのかもしれない。
改めて頑張っていこう、そう決意するのだった。
祝!! 10話到達!
登場人物(女性)が順調に増えていく…
いや違うんです、亀山の活躍する機会がないだけでかくかくしかじか
2023/5/19 21:30 誤字修正しました
ご指摘ありがとうございます!