こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
佐々木医師については、ドラマ『ドクターX』で院長にくっついてる人達をイメージしていただければ。
トイレの前で待っていると、思いがけない人物と出くわした。
「──うわああっ! …って、悠馬くん!?」
「うおっ、どうも暁山さん!
びっくりしましたよ、突然大声出して」
「あはは、こっちも本当に驚いたからね。
いやあ、焦ったぁ…」
暁山さんはいつも通りの服装だが、その肩には歪に膨らんだトラベルバックをかけていた。つまり、仕事を終えて、というとこだろう。
「今日はどこの衣装を?」
「ワンダーステージ。あそこは人数が少ない分、どれも腕によりをかけて作れるんだよね~。
悠馬くんは今、依頼中?」
「はい。車椅子の男性がトイレ出るのを待ってるんですけど、中々かかってるみたいで…」
10分ほど経過しているが、まだ佐藤さんは姿を現さない。大便でもしているのだろうか?
暁山さんにも、とりあえず事情を説明する。
「…ふーん、なるほどねぇ。
でも話だと『とりあえず行っとく?』みたいなノリだったんだよね?
それだったら、ちょぉっと時間がかかりすぎじゃないかな?」
それだけ言うと、じゃ、ボクも忙しいから~♪ と暁山さんは小走りで行ってしまった。
最後に
狭い通路で女性とすれ違いながら男子トイレの前まで足を運び、声をかける。
「佐藤さーん、いらっしゃいますかー。返答をお願いしまーす」
返事はない。
胸騒ぎがしつつもトイレに入る。入り口手前の車椅子用トイレ、続いて個室トイレを全て覗くが、漏れなくもぬけの殻だった。
体から嫌な汗が出る。
「これは、まさか…」
まずい。
佐藤さんが、トイレから消えた。
◆
「はああぁぁっ!?
なにをしていたんだねっ、君はぁぁ!!」
即座に室長に報告したところ「分かった、待ってて」とだけ言われ、しばらくして3人がトイレ前までやってきた。そのまま佐々木医師に怒鳴りつけられている。
「申し訳ありません…!」
「あああああっ、これだから若造に任せるのはっ──」
「先生、今は反省より対策をするべきですよ」
佐々木医師に言葉をかける朝比奈さんは落ち着いている様子だった。元々予想出来ていたことだったのか、あるいは看護師にとっては日常茶飯事なのか。
「美麒さん、トイレに車椅子はなかったんですよね?」
「…はい。そのはずです」
「てことは、他人に無理矢理連れていかれたわけではない…と。
ねえ、鳳さん。ここからゲートまで徒歩だとどれくらいかかる?」
「ひぃっ、えっと、20分くらい、ですね。あっ、佐藤さんは車椅子だから」
「──うん、まだランドの中にいるんだろうね」
朝比奈さんはそこまで続けると、腕を組んで何かを考え始めた。その横で室長が焦った様子で携帯を取り出しながら、おずおずと尋ねる。
「あっ、あの…病院への連絡は──」
「──いや、ならん!
患者を逃したなんて知られたら、私の進退が危ういに決まっている!」
最早敬語を使うことも止めた彼がわめく。どこまでも自分本位な方針だが、自分のミスを考えるとこちらからは何も言うことができない。
頭を抱えた佐々木医師は、とうとう思索にふけっている朝比奈さんにすがりだした。
「君だけが頼りだ!!
「…分かりました。私たちでなんとかしましょうか」
目を開け、何かを思いついた様子の朝比奈さんは、まず自分たちの方を見る。
「美麒さんと鳳さん、ランドの奥の方の捜索をお願いできますか?
わたしはゲート近くで佐藤さんを探します。幸い、ここに詳しい友人がいるので」
「「分かりました」!」
このランドはゲートに近い方は売店や建物が多く分かりやすいに対し、奥に行くほど森など敷地の比率が大きく、複雑になる。
なるほど、確かにゲート側なら探す場所も少なく済み、他人やキャストの協力も多く期待できるだろう。体力も知識もある自分たちは道も複雑な奥側での探索の方が効率的だ。
まさしく
「それで、私は何をすればいいんだね?」
「先生は……車での待機をお願いします。万が一佐藤さんがゲートを出た時のための最後の砦ですよ」
「ほう、それは容易い──いや、責任重大だね、ええ」
『容易い』役目を受けた佐々木医師は途端に上機嫌になる。自分には
室長が二人に対し、頭を下げながら言った。
「ご迷惑をお掛けしますが、お願いします!
見つけた場合はご連絡しますので」
慌てて自分も頭を下げる。
朝比奈さんはお互い様ですよ、とだけ言って、文句を言う佐々木医師と共に歩いていった。
◆
「佐藤さん、どこに行ったのかな」
ランド内を早歩きで移動しながら、鳳室長が呟く。
皆目見当がつかないので、自分たちはとりあえず森の中の広場に向かっていた。
「…分からないです。やっぱり、自分たちに不満があったんでしょうか」
気持ちが沈んでいるからか、ネガティブな予想ばかりが頭に浮かぶ。
「すみませんでした、自分のせいで…」
「ううん、気にしないで大丈夫だよ。今回は仕方なかったし、わたしにも非があると思うから」
慰めるように室長が言った。まあ、この状況下ではそこまでの説得力はないが。
「とりあえず虱潰しでもいいから、一か所ずつ見ていこう!」
「…はい」
彼がどこに行ったのか、せめて何か手がかりがあればいいのだが…。
失意に沈むの自分の脳裏に、過去のあの
『どうせ、
──いつも、そうだ。
自分はただ、好きなことをしたい/他人の助けになりたい だけなのに。
でもその先に待っているのはいつも、自分が周りの人を不幸にさせるという事実だった。
そんな人間には、あらゆることを楽しむ資格がない。夢中になる、執着する資格はない。
『こんな自分でも人を笑顔に出来る』だなんて、思いあがっていたのかもしれない。
このような調子が続くのなら、自分は──。
「ねえねえ、悠馬くん! 爆笑小話が一つあるから、聞いてくれないかな?」
「──えっ?」
思いつめていた自分に対して室長は突如、そんな衝撃の発言をした。
「えっ、今? まあいいですけど…」
「じゃあいくよー!
ある旅館で働いてる青年がいたんだけど、その人が旅館の池に行くといつもお魚さんが群がってくるんだって!
それで、その話を聞いたお客さんが『お兄ちゃん、そりゃ魚があんたに惚れてるんだよ』って!
あっ、そのお魚は鯉なんだけど!」
「…うん?」
今の補足、必要だったか? 少し展開が読めてしまった。
「それを聞いて、その青年は池に行って『お前たち、僕に恋してるのか?』って言ったの。
でも、お魚さんはこう言ったんだ!
『そうとも、僕たちはコイしてる。いつものように餌をちょうだい!』」
「……ふっ」
正直恋と鯉をひっかけるんだろうなと予想はついていたが正にその通りで、思わず笑みがこぼれてしまう。
実にくだらない。なんだか、さっきまでのマイナス思考がバカバカしくなってきた。
「良かったぁ、ようやく笑ってくれたね!」
「えっと、そんな暗い顔してました?」
「うん、とっても。でも、笑顔になってくれて安心だよ!」
「お陰で少し元気が出ましたよ、ありがとうございます」
それを聞いて、室長は緊張しているような笑みの面持ちを崩しニカッと笑った。
どうやら自分は、そんなに心配されるほどの暗い顔をしていたようだ。
全く、うちの上司は…。
「ただ、あれだけはいただけませんね。小話の『鯉なんだけど』ってとこ」
「ええ~! あそこがないと意味が通じない、ってお兄ちゃん達にも言われたんだよ!?」
「それなら、他にやり方があるでしょう。あれじゃネタバレで──」
うん?
ネタバレ、という言葉に引っ掛かりを覚える。確か、何処かで……あ。
「──ああああっ!!」
「え!? 悠馬くん、どうしたの?」
そうだ。あの時佐藤さんの様子は正にこんな感じだった。
ということは、自ずと答えは見えてくる。
「室長、分かりましたよ。佐藤さんが今、どこにいるのか」
誕生日会話を見るまで、「小話」をずっと「小噺」だと思ってました…
2023/6/2 23:24 誤字修正しました