こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
ネタバラシ回です
果たして自分たちの向かった先──『もりの迷路』の入り口に、佐藤さんがいた。加えて驚いたことに、何故かその車椅子を亀山が押していたのだった。
「佐藤さん、ご無事で良かったです!
…で、お前はマジで何してんの?」
「何って頼まれたから──って待て待て待て!
そんなキレるなって! 体調には最大限配慮してるから!」
亀山を少し強めに睨むが、本人はうろたえるばかりだった。佐藤さんも申し訳なさげに少し俯いて言う。
「…すみません、美麒さん。せめて一声かけていれば」
「いや、そういう問題じゃ──」
「いえいえ、場所が把握できて何よりです!」
自分の苦言に言葉を被せる室長。何か妙だ、まるで何かを誤魔化しているような気がする。
「それでは、わたし達はこれで。帰りたくなったら彼にお知らせください。亀山くん、後はよろしく!」
「ええ、お任せあれ!」
「えっ、ちょっ──」
「あっ、すみません。最後に一つ…」
展開についていけていない自分を尻目に、室長は亀山とのやり取りを済ませる。そこに佐藤さんが口を挟んだ。
必死に息を継ぎながら自分たちに伝えたのは、感謝の言葉だった。
「…皆さんのおかげで、もう来れないと思っていたこの
本当に、ありがとうございました…!」
◆
「あの、本当に連れ帰らずにいいんですか!? 朝比奈さん達は今も探してるんですよ!」
「うん、大丈夫!その辺りのフォローも考えてあるから」
落ち着き払って、室長がそう言う。この落ち着き様や周到さから察するに──。
「…もしかして、全部計画通りだったんですか?
佐藤さんが逃げ出すことも、全て」
「うん、ある程度はそうかな。詳しくは部室に戻ってから話すから」
そう言われて、そのままドリームメイク室まで戻ってくる。
もしこの話が本当なのであれば、自分が佐々木医師に責められたのも大半がとばっちりになる。なぜ自分に黙っていたのかを含めて、詳しく問い詰める必要がありそうだ。
しかし、その決意は部室のドアを開けると同時に無残にも吹き飛んだ。
暁山さんがいるのはなんとなく予想していたのだが。
「やっほー! 悠馬くん、おつかれ~♪」
「…どうも」
暁山さんと共に紅茶となにやら赤いものを囲んでいたのは、なんと朝比奈さんだった。ただ先ほどのにこやかな雰囲気とは異なり、仏頂面でコップに口をつけている。
「…え、なんで?」
「二人とも、お疲れ様ですっ!」
「いやあホント、苦労したんだから。ねぇ、まふゆ?」
「うん」
ビシッ、と敬礼する室長に応える二人。
彼女らの様子から察するに、『ここに詳しい友人』というのは
そういえば先ほどとは違い、室長が全く怯えていない。
「室長、怖がってないですけど今は大丈夫なんですか?」
「ほえ? 怖いのはホントじゃない笑顔だけだよ?」
「え、ホントじゃない…?」
「ホントじゃない、ていうか…。
まふゆ、仕事モードと違って
えむちゃんはそういう、外面っていうのが分かるんじゃないかな」
暁山さんの解説でようやく腑に落ちる。確かに室長はそういった動物的な勘は利きそうだ。
そして、そんな話をしている横で興味なさげに赤い煎餅をかじっている朝比奈さんを見る限り、無愛想なのは事実らしい。
まあ、それはそれとして本題だ。
「それで、教えてくれるんですよね? 今回に依頼について、詳しく」
「うん、そうだね。でもその前に──ごめんなさい!」
こちらを向いた室長がおもむろに頭を下げる。
「こういう大事なことは共有するって約束なのに、隠しちゃって…。
でも、それにはちゃんと理由があったの。それも含めて説明するね」
「はあ、分かりました…」
情報の共有は確かにしてもらえないと困るが、そこまでしっかりとした約束はしただろうか?
その疑問は一度飲み込み、室長の話を聞く。
まず今回の依頼は、入院中の
だが自分が聞く限り、依頼人にとっては想定内のように感じる。
「それで、その依頼人っていうのが──」
「──恐らく、朝比奈さんですよね」
今の話から考えるに、ここまでの登場人物で当てはまりそうなのは彼女しかいない。実際、佐藤さんに希望を聞いたり佐々木医師をさりげなく蚊帳の外に置いたり、と疑えるような要素はいくつもあった。
「そう。わたしが佐藤さんの話を聞いて、鳳さんに依頼したの」
紅茶を机に置き、朝比奈さんが言う。その視線はこちらではなく、机の上の角砂糖入れに注がれていた。
「あの、なんでそんなことを?
佐藤さんは重症のはずですし、看護師として体調の観点から良くないのでは…?」
「看護師としては、そう。
でも、専門家の立場からすると違ったから」
「…専門家?」
「あ、実はこの子、医師免許も持ってるんだよね~」
「「ええぇぇ!?」」
暁山さんのカミングアウトに思わず声を上げる。室長も口をあんぐりとあけ、固まっていた。
確かにきびきびとしていて優秀そうに見えたが、まさか医師もできるとは。何故看護師をやっているか気になりはするが、きっと深く詮索してはいけない事情があるのだろう。
角砂糖をトングで積み上げ、それをぼんやり眺めていた朝比奈さんが口を開く。
「佐々木先生の診断は間違ってた。本当はそこまで重症でもないし、少しだけなら歩くことも出来る。
でも、出世第一のあの人に言ったところで耳は貸さない。
だから、こうやって強行策に出たの」
「でも先輩が直接動いたらクビにされちゃうかも、ってことでわたし達がやることになったんだ!」
朝比奈さんの説明に次いで、鳳室長が言った。
なるほど、
「それなら、先に説明してもらっても──」
「じゃあ悠馬くん、それを佐々木先生の前で完璧に誤魔化せた?」
「…それは」
完璧に、というのは難しいだろう。
トイレでいなくなった時の自然な取り乱し、あれを自分が演じるのは不可能だ。逆に、だからこそ佐々木医師の目が緩くなったとも言える。
確かに、それなら。
「だから、先輩と相談したうえで悠馬くんには言わずに、佐々木先生に接しないメンバーで動くことにしたんだ。
改めて、ごめんね…」
「…いえ、こちらこそ噛みついてすみません。納得は出来ました。
それで、その実働部隊っていうのが──」
そう言って自分は視線を紅茶を混ぜている朝比奈さんから、コップの水面に息を吹きかけている暁山さんの方へ走らせる。
「暁山さんと亀山、なんですよね」
「ふー、ふー…あ、ようやくボクの出番かな?
──悠馬くん、大正解! 知られてしまっては仕方ない…」
芝居がかった動作で手を広げる暁山さん。ただ、それをやるなら半笑いな表情はやめておいた方がいい気がする。
「いや~、今回も大変だったんだよ?
案内するだけの亀山くんと違って、トイレ入り口までカワイイ服を届けに行ったりとか、車椅子をなんとか運び出したり──」
「途中で美麒さんに会って焦ったりとか、ね」
「もう、まふゆ~! それは言わない約束じゃーん」
腕をぶんぶん振って言う暁山さんと対照的に、ツンとした表情で角砂糖を紅茶に加えていく朝比奈さん。少し口角が上がっているようにも見えるが、少し意地の悪い性格なのだろうか?
暁山さんの話からするとあの時、あちらからしたら相当なピンチだったのか──うん?
ということは。
「…もしかして、あの時すれ違った女の人、まさか」
「そうそう、あれが佐藤さん♪ よく分かったね~」
「全く気付きませんでしたよ、あなたたちの話を聞くまで」
「悠馬くん、鋭いね! わたし、今知ってびっくりわんだほいなのに…」
自分も室長も全く気付かなかったが、なるほど、そんな手もあったのか。
恐らく、このほとんどを想定・計画していたであろう朝比奈さんに畏敬の念を抱く。当の本人を見ると、紅茶にまた角砂糖を入れていた。
あの…それ、何個目…?
そんな疑惑の目線に気づいたのか、朝比奈さんがこちらに視線を向ける。一瞬の後、彼女は机の上の赤い煎餅を一枚とり、こちらに差し出してきた。
「…いる?」
「あっ、いただきます…」
違う、そうじゃない。
いただいた煎餅を口に運びながら考える。紅茶の出どころとか、角砂糖何個入れてるんだとか、なんとなく聞きたいことが──っっっ!?!?
「かっっっっらぁぁ!!?!」
「あっははははははは!
悠馬くん、引っ掛かったねえ!」
自分の絶叫を聞き、暁山さんが大笑いしているようだ。ちなみに、自分は舌を襲う未経験の
「まふゆは味覚弱めだから、濃い味がすっごい好きなんだよ!?
ボク達には強すぎるんだって!」
「ねえ、瑞希…?」
「あはは、ごめんごめん♪」
「先輩…さすがです!」
転げまわっている横で女性陣が騒いでいる。
楽しそうで、何よりです…。
◆
「──ん。そろそろ帰るよ」
暫くの談笑の後、時計をちらりと見た朝比奈さんが立ち上がる。
「あれ? ずいぶん早いんですね」
「うん、佐藤さんも心配だし。
──それに、わたしの帰りを待つ人が、いるから」
暁山さんがニヤニヤしながら彼女を見ているが、お付き合いをしている人でもいるのだろうか。
朝比奈さんはドアに手をかけてから、こちらを振り返って言う。その顔には、数刻前までのにこやかな笑みをたたえていた。
「鳳さん。わたしの真似をするのはいいけど、無理をしてない?」
「いいい、いえいえっ! あたしが尊敬してるから、参考にしてるんです!」
「そうなんだ。じゃあ──」
続いて暁山さんの方を見る。
「また、25時に」
「うん、また後でね~!」
最後に、と呟いた彼女は自分たち二人に向き直った。
「ドリームメイク室のお二方、今日は依頼を受けていただき、本当にありがとうございました」
そのまま頭を下げる。こちらも室長と息を合わせ、お辞儀をした。
顔を挙げた自分が見たのは、今までの営業スマイルではない優しい笑顔を浮かべた、部屋から出る朝比奈さんの横顔であった。
・朝比奈まふゆ
仕事中は優等生だが、オフの時は素に戻ることが出来るようになった。味覚は復活したものの鈍いためか、やたらと味の濃いものを好むようになった
本作では親との確執を"穏便に"解決しており、現在は某作曲家の家に居候中。相変わらず瑞希含め4人のサークルで楽曲制作を行なっている
親との約束で医師免許を、ついでに看護師の免許も取得した