こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

15 / 43

 新登場の人物がいっぱい出てきますが、幕間なので本筋には絡みません

 書きたいことを1話に詰め込んだら、思ったよりも長くなってしまいました…


幕間:雄々たる流星に目を細めて

 

 本日の天気は、雨。

部室の窓から見れば、土砂降りの雨がフェニックスワンダーランドの石畳を叩いている。

 

 そんなダウナーな雰囲気の中で、自分はどんよりとした気分を抱いていた。

 

「…はぁ~ぁ」

「どうしたの、悠馬くん?」

 

 テレビに向かっていた鳳室長が振り返る。

 ここ数日は季節がら雨が続いていた。そんな日にわざわざ遊園地を訪れる物好きはおらず、従ってドリームメイク室(自分たち)にも依頼は来ていなかった。暇を持て余しながらも、念のため部室で待機しているのである。

 

「今日は朝から、しょんぼりさんじゃないかな?」

「しょんぼりって…まぁ、そうですね。今日は8年間くらい、ずっと推してるバンドのライブがありまして」

「そうなの? 今日はわたし用事あるから、早めに退勤してもいいんだよ?」

「いや、チケットの抽選に落ちちゃって…」

「あっ…つ、次はきっと当たるんじゃないかな!」

 

 室長は気まずそうにそう言ってから、またテレビのチャンネルを変え始めた。

チケット抽選はこれまで一度も参加したことがなかったが、チケットが外れた状態で当日を迎える、というのは存外きつい。

 椅子に座り、ぼんやりと天井を眺める。テレビから流れているポップなメロディを聞きながら目を閉じ、リズムに体を揺らしていた。

 

「思い出した! 確かこのチャンネルで特集が…」

 

 室長の呟きとともにBGMが切り替わる。妙に聞き慣れたメロディで、心の中で思わず口ずさみ──って、この曲は!?

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"…」

「えっ、悠馬くん!?」

 

 この曲を歌うバンドこそが、まさしく今日のイベントの主役なのである。

 タイミングがっ、最悪すぎる…!

 

「わわわ、そういうこと!? てことは…ちょっと待ってて!」

 

 テレビからのBGMが止まり、続けてタタタ…とどこかへ駆けていく音が聞こえた。

しばらくして気配を感じ目を開けると、ニコニコ顔の室長が自分をのぞき込んでいた。

 

「うわっ、びっくりした…」

「えへへ、悠馬くんはラッキーだね!」

 

そう言って、彼女は2枚の小さな紙きれを自分の前でひらひらとさせる。

 

「今日の夜の予定って、空いてる?」

 

 

 ◆

 

「えええええええええええええええええ!??」

 

 やたらと楽しそうな室長に連れていかれた先は、東京のとあるドーム──まさしく、先程まで自分が行きたいと熱望していた場所であった。

 しかもステージの目の前、どう見ても特等席である。

 

「なんでこんなの持ってるんです!?

しかもこの席、絶対お高い奴じゃないですか!」

「えへへ、ここ関係者席だからね!

いつもペアチケットを貰えるんだけど、相手が結局来れなくて…」

「お相手の方には申し訳ないですね…」

 

 喜びと驚きの感情が上振れまくっているせいか、徹夜明けのようなテンションになってしまっている。周囲の雰囲気も同様であるようで、ドームはある種の熱気に満ちていた。

 

「──あっ! 始まるよ…!」

 

 鳳室長の少し興奮しているような言葉と同時に、ドーム内の照明が少しずつ暗くなっていく。ざわざわとしたドームも一瞬で静まり返った。

 

 ステージ上にスポットライトが当たる。

ダン、ダン、ダン、ダン、というドラムのリズムが聞こえ始め、観客から歓声が上がる。続いて、ベース、シンセサイザーの音が混ざり始め──。

 

『こんにちは、Leo/needです!

今日は、最高に盛り上がって行きましょう──!』

 

……………………

 

「…はっ!?」

 

 気がつくとライブは終わっていて、室長と知らない通路を歩いていた。

ボーカルの星野一歌が歌い始めたところまでは覚えているのだが、その後は興奮と多幸感を除いて記憶がない。

どうやら人間というのは、至福の時間の記憶は残らないらしい。

 

「悠馬くん、どうだった? ぼんやりしてたけど」

「いやぁ…もう、最高でした。

これだけで、もう10年間は生きられますよ」

「えへへ、それ聞いたら一歌ちゃん達、すっごい喜びそう!」

 

 自分は今も夢心地ながらも答える。鳳室長の言葉から、彼女たちへの親しみを感じた。

 チケットを貰った、というのはその縁なのだろうか。

 

「室長、もしかしてLeo/needの4人とも知り合いなんですか?」

「うん、そうだよ! 本当はサプライズで教えたかったんだけど…」

「そろそろ、それくらいじゃ驚かなくなりましたって──」

 

 言いかけたところで室長が振り返る。彼女にしては珍しい、いたずらっぽい笑顔を浮かべてすぐ横のドアに手をかけていた。

 

 ……うん、ここどこ?

 というかそれ、どこへのドア?

 

「じゃあ、こっちのサプライズはどうかな!」

 

ばん、と勢い良くドアを開け、こちらを手招きをしながら中へ入っていく。

 驚かされるのはいつものことだ。覚悟を決め、室長の後を追った。

 

 中に入ると、そこは机に菓子折、祝い花スタンド、といわゆる控室といった様子だった。

机を囲む等に4人の女性が──って、まさか!?

 

「みんなー、わんだほーい!

今日もすっごく素敵な演奏だったよ!!」

「えむちゃん、わんだほーい! いつもありがとう!」

 

 いつもと変わらずの鳳室長に応え、ハグをしているのはキーボード担当の天馬咲希だった。

 座っている人物もよく見ると、ベース担当の日野森志歩、ドラム担当の望月穂波、そしてボーカル担当の星野一歌である。

 驚愕と興奮で叫びだしそうになりながらも必死にこらえる。なるほど、これはとんでもないサプライズだ。

 

「鳳さん、久しぶり──って、あれ? そっちの人は…」

「ああ、この人はあたしの部下の美麒悠馬くん!

Leo/needのファンみたいだから、ペアチケットで連れてきたの!」

「は、初めまして…お会いできて、光栄です…」

 

 緊張でガチガチにながらも挨拶する。

…うん? 日野森さんが一瞬、驚いた表情をしていたような。気のせいだろうか。

 室長の言葉で一瞬だけ顔を曇らせたように見えた天馬さんが、ぱっと顔を輝かせた。

 

「えー、アタシ達のファン!? 嬉しいなあ!」

「…大丈夫? 鳳さんのことだし、突然連れてこられたりしてない?」

「まさに、その通りです…!」

「ええ? あたし、『ラッキーだね』って言ったよ?」

「あはは…えむちゃん、それだけじゃ伝わらないと思うよ」

 

 日野森さんの呟きをじんわりと肯定する。流石に「ラッキー」だけでは伝わることはないだろう、実際に幸運としか言いようがないが。望月さんの言葉に頷きつつ、バッグや服の中を探る。

 せめて、何か書けるものを──メモ帳あったぁぁぁ!

 

「すみません皆さん、ここにサインをいただけませんか!?」

「いいよー! いつものだよね、じゃあ一人ずつ…」

 

 4人がわいわいとメモ帳に集まり、ペンでサインらしきものを書いていく。いつもの、というと恐らくサインだけでなくイラストも付いてくるだろう。

 最後まで何かを描いていた望月さんがメモ帳をこちらに手渡した。そこにあったのは4人分のサインと、ヒマワリ…のようなナニカだった。

 望月画伯のライオンである。そうそうこれこれ!

 

「これ、いつものです。ちょっと恥ずかしいけど…」

「ありがとうございます…家宝にします!」

「それはちょっと困るかな──じゃあ、そろそろ行くね」

「そっか、穂波ちゃん家政婦さんやってるんだよね、お見送りするよ!」

「あ、じゃあアタシもー!」

 

 どうやら望月さんは別のお仕事もしているようだ。それを見送るためか室長と天馬さんが席を立つ。

残されたのは星野さんと日野森さん、そして部外者の自分だけであった。

 

「あの、しつちょ──鳳さん行っちゃいましたけど」

「うーん、大丈夫じゃないかな。2人にも水入らずの時間が欲しいだろうし」

「は、はあ…」

 

 的を射ているようなそうでないような、何とも言えない答えだった。その返答が難しく、そのまま押し黙ってしまった。

 少しの間、気まずい時間が流れる。

 

「…そういえば美麒くん、だっけ?

バンドとかやってたりした?」

 

 ふと、日野森さんがこちらに声をかける。視界の端で星野さんが安心した表情になるのが見えたが、自分も同じ気持ちだ。

 

「よく分かりましたね。実は高校生時代、バンドをやってまして」

「へえ、そうなんだ。なんて名前?」

 

 控えめながらも星野さんが食いついてくる。

 

「えっと、Funableってユニットなんですけど。

あっ、もう昔の話ですからね? 自分はすぐにやめちゃって──」

「ああ、そのバンドならこの前共演したね」

「…そうなんですか」

 

 そうか。あいつらはやっぱり、まだ続けていたのか。

 

「そういえば志歩、前から目をつけてたって言ってなかった?」

「そうだね。でも正直に言うと、実力は伴ってない。なんとかプロにしがみついたはいいけど低迷して、それでもやめられない…って感じ」

「ちょっと、人前でそれは──」

「今は、ね。

初めて見た時──7年前、アマ時代にライブを開いてた時は悪くなかったんだけど」

「…っ!」

 

 8年前…まさに、自分たちの絶頂期、バンド活動に最高にはまっていた時だった。

 

 今目の前にいる憧れの存在に少しでも近づきたくて、当時のクラスメイト(同志)と立ち上げたバンドだった。実力はまだまだだったし人気も気にしていなかったが、やる気だけは誇れるユニットだったと思う。

 

 なんらかの強い意志が込められた視線をこちらに送り、日野森さんは続ける。

 

「でも、プロとしてデビューした途端にメンバーが変わってさ。一気に演奏の質が落ちたと思う。

…その時にいなくなったのって、君だよね」

「…はい」

 

 そうだ。

 

 あの時、あの中で確かに自分の実力は抜きんでていたように思う。素人同然からのスタートだ、当然皆の実力は低い。いち早く上達し、演奏をリードしていたのは自分だった。

 だが、自分が伸び悩む一方で皆の実力も上がり、レコード会社からの打診も来て。自分なんかと違って、夢中なことに全力で取り組み天井知らずに上達していく。

 

 そんな彼らの想いががあまりにも眩しすぎて、自分は──。

 

 

「彼らの様子から察したよ。君は、どうして──」

「──志歩! 流石に言い過ぎ」

「…そうだね、ごめん。今日はライブを楽しみに来てくれてたのに」

 

 自分を見て何かを察したらしい星野さんが割って入り、日野森さんを止める。もしかしたら自分は、だいぶ悲壮な顔をしているのかもしれない。

 

「いえ、大丈夫です。

…あれは、自分が間違っていたので」

 

 自分はFunableの一員として、想いの強さが圧倒的に足りなかった。下手になんでも習得できる自分には、夢中になるほどの伸びしろ(ための資格)はない。

 

 それ以来だった。

何事にも夢中になるべきではない、執着すべきではないと意識するようになったのは。

 

「今日はサイン、ありがとうございました。新曲も楽しみにしてます」

 

 場の空気が悪くなってきたので、彼女たちの手を煩わせないためにも席を立つ。

 ドアを閉める時に垣間見えた日野森さんと星野さんの表情は悲しそうで、辛そうで…それでも何かを

決意したような、そんな面持ちだった。

 

 先ほど通ってきた通路を、看板を頼りに歩いて行く。きっと道中で鳳室長に会えるので、そのまま帰ればいいだろう。

 

 

 日野森さんの問いかけから、あの時のメンバーの言葉を思い出す。

 

『どうせ、天才(お前)には分からないよ』

 

 あの時の自分の選択──メンバーの想いの強さに及ばない、と()()()()()()退()()()のは。

 

 あれは、本当に正しい選択だったのだろうか?

 

 




・Leo/need
 高校一年生の時に幼馴染4人で立ち上げたバンドユニット。若者の間で順当にヒットし、今ではドームツアーができるくらいには人気になった。
 ちなみに、有名芸能人の友達や身内(2人)がいるためか、よくバラエティ番組の取材を受けたりロケにお呼ばれしたりする。

 登場人物が4人を超えたあたりから会話描写が難しくなってくる
そして志歩さんの印象が悪くなってしまいました、次話で改善の予定です。こんなつもりじゃなかったンだ…

2023/6/17 17:10 脱字修正しました
ご報告ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。