こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 腮鼠、ていうのはハムスターのことですね
そしてお察しの通り、またゲスト回です



腮鼠はこれからを問う

 

『もしもし、悠馬くん?』

 

 ある休日、家でのんびりと過ごしていた自分に電話がかかってきた。

 

「室長、お疲れ様です。休日に珍しいですね」

『うん、ちょっと緊急でね。今から出勤出来る?』

 

 鳳室長が労働時間外にこんな連絡をよこすのは中々ない。こういところは妙にきっちりしてるというか…。

 ともかく、余程急を要しているのだろう。加えて、今日は暇を持て余していた。

 

「分かりました。なるべく早く行きますね」

『ありがとう! じゃあ私はもう行っちゃうけど…』

「へ、行っちゃうって…今何してるんですか?」

 

 若干駆け足気味の室長の言葉に対して聞き返す。何をさせるつもりか聞かなければ行ったところで何もできない。

 

『何って、依頼だけど…。

悠馬くんには、わたしが今依頼を受けてる人の相手をしてほしいんだ』

 

 

 ◆

 

「1時間か…結構早く来れたな」

 

 不自然なまでにガラガラに空いたバスを降りる。最速で到着したはいいものの何をすべきか──。

と、ゲートを超えようとしたところで警備員のおっちゃんに声を掛けられる。

 

「美麒さーん、お嬢様からの伝言を預かっています。こちらを」

「あ、どうも…」

 

 これまでおっちゃんを経由して連絡を貰ったことはなかったので、おっかなびっくり差し出されたものを受け取る。これも、おっちゃんと仲良くなったからできるようになったことだろうか。

手渡されたのは…なんじゃこりゃ、ほうれん草の形をした…メモ用紙?

 

『依頼人にはドリームメイク室で待ってもらってるよ!

フェニランにとっても詳しい人だから、気楽にね!』

 

 最後の一文からして不安だが…とりあえず部室に向かう。

 

………………

 

 すでに光が漏れている部室に入ると。

 

「あ、お邪魔してますね」

「どうもご丁寧に、ありがとうございます」

 

 ここを使う関係者で「お邪魔します」と言われたのは初めてかもしれない。

椅子に腰かけていたのはとある女性だった。

 

「初めまして、依頼人…であってるのかな、小豆沢です。

雑誌記者をやってます」

「記者の方、ということは──取材、ですか?」

「その通りです!」

 

 微笑む小豆沢さん。つまり、自分の仕事はランド内の紹介か?

いや、室長の置手紙によればこの人は詳しいとのことだが。

 

「ああ、案内は大丈夫ですよ。週に一回は全てのアトラクションとショーを確認していますから」

「す、すごいですね…。普段からそういったお仕事を?」

「いえいえ、趣味でゴールド会員なだけです。まあ、今回はお仕事なんですけど…」

 

 話しながらバッグを漁る小豆沢さんが取り出したのは、メモ帳とボイスレコーダーだった。

 

「偶然、フェニラン(ここ)の特集が組まれることになりまして。

折角なのでドリームメイク室のことも載せたいんですが…インタビューをしても?」

「はあ、大丈夫ですが…うちの室長はどうでしょうか?」

「えむちゃん、何か忙しそうで──それに、話題のあなたにも話を聞きたかったんです」

 

 そういうことならいいが、何か緊張してしまう。というか、話題?

もしかして、自分はその界隈では有名なのか?

 とりあえず了承し、彼女の向かい側に腰掛ける。

 

「じゃあ、早速いくつか聞いて行きますね。

まず、このドリームメイク室がどんなところか教えてください」

「そうですね…。

私達の仕事は、依頼を受けることから始まります。

フェニックスワンダーランドの各部署──運営部にエンターテイメント部、販売部、それに経営部ですね。

そこから依頼を受けてヘルプに向かうことが主です。それと…」

「お客さんからの依頼、ですよね?」

「ええ。

お客様から事前に連絡をいただきまして、ランドでしたいことをお聞きします。

私達がそれを全力で実現し、お客様に笑顔になってもらおう、というサービスとなっています」

 

 いきなり始まって言葉に詰まったが質問自体は簡単だ。小豆沢さんの合いの手もあり、するっと答えられる。

 

「特殊な仕事ですね。やはり、苦労はありますか?」

「はい、それはもう。

依頼にしても、実現できなくはないものから絶対に不可能に感じるものもあります。

どうにか知恵を絞って実現させたり、発想を変えてそのような体験を提供したり、と満足していただけるように身を粉にしています」

 

 まあ実際はそれに加えて、馬鹿正直に実現させようとしたり独断専行したりする室長に振り回されているのだが。

 

「あ、そういえば亀山くんに聞いたんですけど、美麒さんは最近入社したって──」

「ちょ、ちょっと待ってください。あいつと知り合いなんですか?」

「はい。行きつけの…カフェ?の常連仲間です。近くに住んでるみたいで」

 

 亀山の家の近くというと、件のなんとかストリートのことか。

 

「脱線しちゃいましたね。最近入社したってお聞きしたんですが…どうでしょう、この仕事は気に入りましたか?」

「それはもちろん、気に──」

 

 そこまで言いかけて、ハッと口を噤む。

浮かれていた自分の心の中で理性が囁く。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あれ、どうしました?」

「…いえ、なんでもないです。

そうですね──やりがい、はあると思います。

お客様がこんな特殊なサービスを受けに来るのは、『どうしても叶えたい夢がある』か『記念日に特別なことをしたい』のどちらかなんです。

そんな人たちの望みがかなって満面の笑顔になるのを見るのは、やはり気持ちがいいので」

 

 自分の言葉を聞いた小豆沢さんはそれを聞いてキョトンとしたあと、なぜか笑い出した。

 

「ふふふ…!」

「えっと、変なこと言っちゃいました…?」

「いえいえ、思っていた答えとは違っていて。

少しえむちゃんみたいな考え方だなあ、と思ったんです」

 

 確かにそれはあるかもしれない。あの人の考え方、というか方向性は似てきた気がする。

まあそれがいいことかと問われると、仕事の面でも自分の信条でも怪しいのだが。

 

「ただ、悪い気はしませんね」

「ふふ、そうなんですね。

それでは続いて──」

 

 ◆

 

「今日はありがとうございました。答え辛いこともあったかもしれないのに」

「いえいえ。いい記事を期待しています」

 

 あのあと更にいくつかの質問に答え終え、今は彼女をゲート前まで送っていた。

 

「…実は、話題になったのは友人との間で。志歩ちゃんに『ちょっと気になる人』がいる、って」

「志歩ちゃん、って──まさかLeo/needの!?」

 

まさか、まだ自分のことを覚えてくれているとは。方向性としては良くないかもしれないが、一ファンとして光栄の至りである。

 

「『不躾なことを言ってしまってごめんなさい』とのことです」

「いえいえ、こっちも全然気にしていないから大丈夫、とお伝えください」

 

 最後のあの態度で不安にさせてしまっただろうか。確かにあの時は余裕がなかったが、別に忌諱に触れたわけでもなし、特に問題はない。

 

「私も話を聞いて心配だったんですけど…杞憂みたいでよかったです」

「杞憂、ですか」

「はい。美麒さんは気づいてなかったかもですけど、さっきの美麒さん、楽しそうでしたよ?」

 

 自分が、楽しそうに…?

 

「すみません。亀山くんから色々と、その…事情を聞いちゃって。その、高校生の時の」

「そうですか。あいつ…」

「あ、彼を責めないであげてください!

私が無理矢理聞き出したようなものなので!」

 

 あの口の堅い亀山のことだ、口を割ったということは奴が()()()()()()と思ったのだろう。

慌てて言い訳をしていた小豆沢さんは、一つ深呼吸をしてから続ける。

 

「余計なお世話かもしれませんが…。

あんまり後悔(過去)に縛られすぎないほうがいいです。

これは自分の実体験なんですが──」

 

 歩きながら、彼女は懐かしむように曇り空を見上げる。

 

「覚悟を決めて一歩踏み出したら、文字通りセカイが変わったんです」

「…あの。その選択を。今は後悔していますか?」

「後悔、ですか。全くない、といえば噓になりますけど──この道を選んで良かった、と思ってます。

どうしても成し遂げたい夢が見つかって、良かったことも、悲しかったことも、その選択(みち)でしか出会えなかったことがあるから。

何より…最高の相棒に巡り会えたので!」

 

 満面の笑みで言う小豆沢さん。

 

「一度くらいしがらみとか後悔とかを忘れて、自分がしたいと思ってることを貫いてみてもいいんじゃないですか? もう、後で大きな後悔をしないように」

「…そうですね、考えてみます」

「ふふ、案外『夢』とか見つかるかもしれませんよ?」

 

 そうか、そんな方法もあったのか。

小豆沢さんの言葉が脳裏を巡る。

 

「それじゃあ、私はこれで。

また3日後くらいに来ますね」

「ご来園、お待ちしています」

 

 ぺこり、と礼をして彼女は歩いていく。

 

 彼女の言葉から、自分の胸の中の蟠りのほつれが垣間見えた気がした。あとは、覚悟と勇気さえあれば──。

 

少し考えようとしたとき、携帯電話が鳴る。室長からの着信だった。

 

「もしも──」

『悠馬くん、すぐに来て。()()の依頼だよ』

 

 その声色は、今までに聞いたことのないほど真剣なものだった。

 





 相変わらず、テンポが早くなってしまいましたね
ここからいい感じに盛り上げていきたい

・小豆沢こはね
趣味の一つであるカメラを活かすために雑誌記者になった
今も週に1回はフェニックスワンダーランドに赴いており、最早顔パスレベル。
恐ろしいことにまだ歌の実力が伸び続けており、相棒もそれに追いつくようにメキメキと上達している

2023/09/02 18:50 後の展開のために台詞を修正しました
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