こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
盛り上げどころ、のはずなんですがね…
暗めな服を着た大柄の男と、彼と手をつなぐ男の子。
遠くから一見するとただの親子連れに見えるが、少年の顔に浮かんでいるのは明らかな恐怖心だ。
ギラギラとした目で周囲を見回す男に見つからないよう、注意を払いつつも自分は彼らの跡をつける。
(頼むから、早く来てくれ…!)
心中で思いながら、こぶしを握り締めた。室長や警備の人を待つ時間がもどかしい。
二人から目を離さないようにしながらも、先ほどのやり取りを思い返す。
◆
「おつかれ、悠馬くん」
「…っ、おつかれさまです」
部室にいたのは室長と、沈痛な面持ちで顔を伏せた女性だった。鳳室長の表情も笑顔ではあるものの、いつもの『わんだほい!』はない。
一見しただけで、ただ事ではない雰囲気だと分かった。
「お話を伺いましょう。どうやら緊急のようなので」
「…うん、そうだね。伊藤さん、お願いします」
室長の声掛けを聞き、
「今日の昼頃、ランドに入場してしばらくしたら息子がいなくなったんです。
必死で探してたら、さっきこんなメールが来て…」
「…失礼します」
そう断ってから伊藤さんの差し出すスマートフォンを受け取る。その画面に映るメールには、こう書いてあった。
『あなたの息子は預かった。
返してほしければ19時にネオフェニックス城前の広場へ来い。
こちらに息子を傷つけるつもりはないが、警察に連絡をすれば二度と会えないと思え』
これは…いわゆる誘拐というやつか。フェニックスワンダーランドには平和なイメージを持っていたためか、ショック──というか、信じられない思いだ。
「多分息子に持たせた、緊急連絡先を見たんだと思います。
もうどうしていいのかわからなくて、それで──」
「それで、対応にわたしが呼ばれたんだ。とりあえず落ち着いて話をしてもらおう、って」
どうやら、先ほどの連絡はこの時のものだったらしい。ただ状況を考えると伊藤さんは相当取り乱していたと思うので、こんな事件だと思われずに室長まで話が来たのだろう。
「お願いします…どうか、息子を助けてください!!」
「お、落ち着いてくださ──」
「…ランド一同、全力を尽くしますから!」
言い淀んだ自分を押しのけ、鳳室長はそう宣言した。
明らかに自分たちの領分を超えていないか。室長を部屋の隅まで引っ張っていき、耳元でささやく。
「ちょ、それまずくないですか?
自分たちだけで解決できることじゃ」
「大丈夫だよ、
それに今回は警備員さんと
「危険対策班と共同…? まあ、それなら…」
「じゃあ、詳しい案はよろしく!」
「責任重大ですね…分かりました」
まだ納得はしていないが、プロの方々も動くのであれば大丈夫だろう。だが危険対策班、ランドでは彼らを見たことも聞いたこともない。存在は知っていたのだが、大丈夫だろうか?
ともかく、仕事だ。改めて伊藤さんの正面に座る。
「解決のためにいくつかご協力いただきます。よろしいですね?」
「はい、息子のためならなんでも」
真剣な表情で伊藤さんはこちらを見た。ふう、と一つ息を吐き、隣に座る室長にも伝わるように言葉を口にする。
「…分かりました。対策を考えましょうか。
ええと、今の時間は…18時半、ですか」
「うん。指定されてる時間まで、あと30分もないんだよね」
──この状況で何ができるだろうか。
誘拐に関しては、テレビドラマなどから得た知識しかない。だから、出来る範囲でやれることをやるしかない。
アクティブな行動をを起こすには、流石に時間が足りなかった。であればパッシブにいくしかない。
「時間もありません。伊藤さんはとりあえず、犯人の要求に従ってください」
「えっ、そうしたら息子は──」
「大丈夫です、考えはあります」
犯人はネオフェニックス城前の広場を指定している。更に何も要求がされていないことから察するに、伊藤さんが来たことを確認してから連絡をしてくるのだろう。
その目的が大金なのか、あるいは別の何かであるかは不明であるが。
「伊藤さん、犯人はおそらく何らかの要求をしてきます。それに可能な限り従う素振りをしてください」
「わ、分かりました…」
「ああ、引き延ばしとかは考えなくて大丈夫ですよ」
おずおずと頷いた伊藤さんを一瞥したのち、室長に視線を向ける。
「室長は伊藤さんのそばにそれとなくついてもらえませんか?
犯人にばれないように、で構わないので」
「りょうかい! 分かりそうだったら、伊藤さんへの要求も共有するね。
…それで、悠馬くんはどうするの?」
「私は、犯人を探します。大体の場所の見当はついているので」
ネオフェニックス城の前と指定するくらいなので、彼女を目視で確認するつもりなのだろう。
こちらから見え辛いが、ネオフェニックス城前を見渡せそうな場所──かなり限られてくる。
「分かった。ついでに警備の人も何人か回すね」
「助かります」
伊藤さんのためにも、必ず犯人を見つけ息子さんを助け出そう。
そう、意気込みを新たにした。
◆
「こちら美麒です。配置につきました、どうぞ」
『こちら警備、こちらも人員配置が完了した』
『了解しました…あっ、伊藤さんのスマートフォンに着信が来たみたい!』
トランシーバーから流れる室長の声を聞き、自分の周囲──広場の見える高台に視線を走らせる。警備の方々も近くの建物の屋上で同様のことをしているはずだ。
このトランシーバーは室長がどこからともなく持ってきたものだ。どうも緊急時に他部署と連携をとる場合のみ使用できるらしい。
着信がきた、ということは──見つけた。
パラソルの付いたベンチ、そこに腰掛けた大柄な男がスマホを耳に当てていた。その傍らでは、男に手をつかまれた少年が俯いている。抵抗が通じず、諦めてしまったのだろうか。だが、
正直なところ本当にいるかは分からなかったので、少し信じられない思いだ。
男はしばらく通話をした後にスマホを仕舞い、少年を引っ張るように立たせて歩き出した。
慌てて物陰に身を隠し、トランシーバーを口に当てる。
「こちら美麒、犯人らしき男と救助対象の少年を西側高台にて確認しました! 至急応援を──」
『こちら鳳! 犯人は詳細不明の箱をバス内部に運び込むように指示!
中身は多分…爆弾です!!』
『なんだとっ…! どちらから手を付ければ…』
ば、爆弾!? 何とか声を出さないようにこらえる。
犯人は一体、伊藤さんに何をさせるつもりなんだ。爆破テロだとしても、あんなガラガラなバスを爆破したところで何の意味が…。
とりあえず警備の人の半分を貸してほしいと連絡をしよう。そう思ったところで突然、トランシーバーからザザ…、というノイズが流れ始めた。続いて、男の声が聞こえる。
『あー、あー…聞こえているな。こちらは危険対策班だ。
上層部の判断により我々が指揮を執ることになった』
「上層部…って、鳳室長が話を通したはずでは?」
『事情が変わった。これより、活動可能な人員は今すぐ被害対象のもとへ向かい、要求の遅延を行え』
突如として割り込んできた男の声は、急にそういった要求をしてきた。明らかに不自然ではあるが室長は何も言わない。だが、それでは…。
「犯人と息子さんはどうなるんですか」
『そんなもの、後でどうとでもなるだろう、美麒悠馬。今は、それよりも優先すべきものがあるだけだ。
──
「なっ、それはどういう──」
『だが、君の懸念はもっともだ。
是非とも犯人を監視してもらいたい、但し一人でね』
自分の発言を遮るようにして言われたのは、だいぶ無茶苦茶な指示だった。先の発言もそうだが、自分に対して敵意というか蚊帳の外へ出そうとしているようにも感じる。
だんだん離れていく伊藤くんと男に浮足立ちつつ文句を言おうとした時、室長の強い声が聞こえてきた。
『──あなた方が現場に到着し次第、わたし達も彼のもとへ向かわせてください!
一人の少年と、その親はずっと不安なはずです!』
『…あなたがそこまで言うのでしたら。
お嬢様と一部警備員は、我々が合流し大離脱、美麒に合流するように』
『うん、ありがとう! 悠馬くん、頼んだよ!』
「了解しました」
ありがとうございます、と小さく呟く。
そして自分は、暗くなっていくランドを歩いていく二人をじっと見てから、焦りを抑えつつ静かに歩きだした。
さあ、人助けの時間だ。
うまく区切ろうとしたら、想像以上に短くなってしまいました
こういう出血描写、「残酷な描写」タグはあった方がいい?
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必要、すぐ入れるべき
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まだグレー
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なくても構わない、大丈夫