こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 佳境です(タナバッタ)


少年よ、故殻を破れ②

 

「悠馬くん、遅くなってごめん!」

 

 そう言って駆けてきた鳳室長の後方から、私服の警備員たちが速足でやってくるのが見えた。

 

「状況は?」

「見ての通りです。商店エリアの方ですね、そちらに向かってます」

 

 相変わらず、男は伊藤くんの手を引っ張るようにして歩き続けている。どうも駐車場に向かおうとしているわけではないようだ。

 別の目的でもあるのだろうか。

 

「うーん…今助け出そうとしても、他のお客さんが巻き込まれちゃいそう。

もう少し様子を見ようか」

「そうですね。

…そういえば、伊藤さんの方はどうだったんですか?」

「えっとね──」

 

 着信の指示通りに伊藤さんがロッカーから取り出したのは、ちょうど抱えられるくらいの段ボールだったという。そして、さり気なく隣についた室長のが聞いたのは、タイマーのような音だったらしい。

 

「今は危対班の人たちが遠巻きに監視してる。

バスについたら、外から見えないように解除するんだって」

「そうなんですね」

 

 先ほどの高圧的な態度から誤解していたのかもしれないが、思ったよりもまともな対応だった。もしかすると、彼のあれはランドのことを考えての行動だったのだろうか。

 

「でも、あの人達とは別でこっちを解決できそうで良かったよ」

「…室長にも苦手な人がいるんですね。ちょっと意外です」

「そうじゃないよ、あの人たちも大好きだから!

でもね──」

 

 室長はお横たちを目で追いつつも、どこか懐かしそうな顔をした。

 

「…あたしはね、どんな人にも笑顔になってほしい、って思ってるんだ。

たとえそれが、何か理由があって他の人から笑顔を奪った人でも、ね?」

「…まさか室長、あの人(誘拐犯)の説得を考えて──!?」

 

自分の言葉に室長はうなずいた。

 子供一人を誘拐した男から人質を救い出し、その後彼を説得する。どれ程の夢物語を言っているのか、彼女は理解しているのだろうか。

 

 …だが、本当に不思議なことに、鳳室長なら実現させてしまいそうだという確信がある。あまりにも彼女の影響を受けてしまったようだが、もし実現するのであれば最高の選択だろう。

 

 そんなことを考えていると。

 

「あっ、悠馬くん、見て!」

 

 室長の言葉で、慌てて意識を犯人らしき男に向ける。彼らは丁度、土産物屋に入っていくところだった。…というか、なんで土産物屋? 

 しかも、あの店は確か──。

 

「いったい何の目的が…」

「とりあえず、ちょっと待ってからわたし達だけで入ってみようか」

 

 警備員さんに合図を送り、そっと店内に入る。

 

 やはり、思った通りだ。カウンターにて笑顔で支払いをしていたのは白城戸さんだった。時間の割には人が多くないからか店内の様子がよくわかる。さり気なく見回すと、何組かの子連れ親子の奥に男と伊藤くんがいた。

 室長と目配せし、カウンターの方へと近づく。レシートを整理していた白城戸さんはこちらに気づくと驚いた顔をしたが、何かを察したのか小声で話しかけてきた。

 

「お二人、何かありました?」

「それが…」

 

 男と伊藤くんの方をちらりと見ながら、事の経緯を手短に説明する。白城戸さんは話を聞き終えると、硬い顔で言った。

 

「…許せないっすね。出来る限りの協力はしますよ」

「ありがとう、白城戸さん。さて、どうしたものか」

「…うん。折角だしここで確保しちゃいたいな。

お客さんたちの誘導については考えがあるから──」

 

 そこまで続けて店の窓から外をチラリと見た室長は、その後自分の目を正面から見据えた。

 

「悠馬くん。伊藤くんのこと、任せたよ」

「──はい。その後で、室長も交えて話を聞きましょう」

 

 室長が安心したような笑顔で頷く。

 自分が見た限り、今日初めての本心から出たような、そんな朗らかな顔だった。

 

 

 ◆

 

 男と伊藤くんのいるであろう場所、そこから棚を一つ挟んだところで様子をうかがう。

棚のせいで何をしているかは分からなかった。

 

 と、カウンターを陣取る白城戸さんが帽子を被り直した。先ほど示し合わせた合図である。

いつでも動き出せるように神経を集中させる。

 

 しばらくして、外からポップなメロディーが聞こえ始めた。

これは『着ぐるみパレード』というゲリライベントの時に流れるBGMである。知らない人にはただのBGMだが、何度もフェニックスワンダーランドに来るような"通"であれば──。

 

「あ、パレードだ! おかあさん、いこいこ!」

「はいはい。ほら、引っ張らないの…」

 

 店内の親子連れがぞろぞろと移動しだす。白城戸さんが半開きの扉を全開にしていたのもあって、土産物屋からあっという間に人が消えていった。

 

 そして残っているのは、少年の手首をつかみながらも突然の変化に戸惑う男──。

 

(よし、今だ──!!)

 

 室長が作ったこのチャンス、無駄にはしない。

 

 動きの止まっている男の斜め後ろから近づき、二人に割り込むように手を伸ばす。

 

「なっ…!」

 

 突然の行動に驚いたらしい男は、反射的に伊藤くんをつかんでいた手を引き込む。まあ、突然手を差し込まれたら自分も驚くだろう。

 自分は男の動作に合わせて、伊藤くんの腕をつかむ男の手を払った。体勢を崩した男から伊藤君をかばうように間に立ってから、戸惑う彼の背中を少し強めに押す。

 

「伊藤くん! 走って出るんだ!!」

 

 彼の正面には丁度扉がある。白城戸さんが遠隔で徐々に扉を閉めてくれているので、男が外に行くこともないはずだ。

 自分の叫びを理解したのか、一瞬ふらついた後にこちらを振り向きながら走り出す。

 

 その顔に恐怖が浮かぶと同時に、少年が叫んだ。

 

「お兄さん、後ろ!!」

 

 思わず振り返る。

まず視線が行ったのは、目だった。とても暗く絶望したような、だが確かに意志の込められた目で、男が自分を見据えていた。

 

 そして脇腹にズン、と衝撃が入る。

見ると、男の手が何かを握りしめて押し込んでいた。

 

 ズプ、という音とともに棒のような赤いものが引き抜かれる。あれは、()()()()()()…?

 遅れて、激痛が走る。

 

「いいぃぃっっ!!」

 

 激痛で立っていられない。痛みで何も考えられないが、本能的に脇腹を抑えて後ずさる。

 手を震せつつもナイフを持った男が、ユラユラと近寄ってくる。

 

「………を、するな」

「いっ、がぁぁぁ…」

 

何とか言葉で捻り出そうとするが、痛みによるうめき声しか出てこない。

 男は歯を食いしばり、瞳孔の開いた目でナイフを構えた。そこにこもっているのは憎しみ、か…?

 

「邪魔を、するなあああっっっ!!!」

 

 男の悲鳴のような叫びと共にナイフが振り上げられる。痛みもひどく絶体絶命の状況であるのに、どこか落ち着いている自分がいた。走馬灯を見るときはこんな気分なんだろうな、と的外れなことをぼんやりと考えながら、振り下ろされる刃を見つめて──。

 

「──悠馬くんっ!!」

 

 雷鳴のような声と共に、突然自分の身体が引き上げられる。

抱えられている、と認識した時には既に、閉まりかけている扉の横を通り抜けていた。直後に扉が閉まりきる。

 

 少し離れたところまで移動してきた室長がそっと自分を下ろす。

 

「悠馬くん、大丈夫!? 悠馬くん!!」

「う…聞こえて、ますから……いっ!」

「あ…すぐに応急処置をお願いするから!!」

 

 室長が慌てて走っていく。それを見送りながら、もはや痛すぎて感覚がマヒしてきた体を何とか動かし、土産物屋を見る。

 締め切られた扉の窓からは、何も見えなかった。

 

 

 ◆

 

「うん、ひとまずはこれで大丈夫ですよ」

「ありがとうございま…うぐっ!」

「ああ、駄目ですよ! 応急処置なんですから安静に!」

 

 医務室のお姉さんが包帯を巻き終えるのを待って、礼を言いつつ起き上がる。相変わらず痛みは続いているが、気にせずに動けるレベルなので問題ない。早く復帰しなければ。

 

 いつの間にか入れられていたテントから出る。治療の間に警備員さん達が頑張ったのか、土産物屋前の広場にお客さん達の姿はなかった。代わりにいくつかのテントと機材、そして、多くの警備員さん達がいた。

 近くにいた警備員さん達の会話を聞き流しながら、一帯を見渡す。

 

「これ、どうなるんでしょうね」

「どうせ奴らが指揮をしだすんだろう。お嬢のが終わった途端に出しゃばりやがって」

「せめて、あそこのトップが来ればいいんですが」

「はっ、あの仕事人間が持ち場を離れるわけないだろ。ったく、気に食わねえ…」

 

 …どうやら、まだ事態は収まっていないようだ。

僅かに嫌な予感を抱きつつも歩いていると、土産物屋の方を眺める鳳室長がたたずんでいた。

 

「…室長!」

 

 自分の呼びかけに振り返った彼女は、初めて見るほど憔悴した様子だった。

 

「…あ、悠馬くん!? 体は!?」

「まあ、何とか生き残りましたよ」

「よ、良かったぁ……!」

 

 泣きそうな顔で笑う室長。だが、すぐに顔を引き締めて土産物屋の方を向く。

視線の先の扉はいまだ閉じ切っていた。

 

「じゃあ、あとはこっちを何とかしないと、だね」

「今、どういう状況──」

 

 ここまで続けて思い出す。そうだ、伊藤くんはどうなった?

あの後、外まで逃げ切ったのだろうか。

 

「あの、伊藤くんは無事ですか!?」

「安心して、ちゃんと保護されたから。ただ…」

 

 そう言って鳳室長は横の方を見る。

ひときわ大きなテント、その下の何らかの機材、そのそばに防弾チョッキのような服を着た見たことのない人がいた。

 困ったような、苦笑いを浮かべた室長が続ける。

 

「『おじちゃんを助けて』って興奮してたから、ってあの人達が連れてっちゃった」

「えっと、あの人は…」

「危対班の人。こんなことになっちゃったから、指揮をとりに来たんだって」

 

 こんな事…?

彼ら(危対班)の服装から、おそらく戦闘を想定している。触れられない犯人の話、今もなお閉まりきった扉。

そして、全く姿を見せない()()──まさか!!

 

「まさか…まだ白城戸さんが中に──!?」

「…うん。男は彼女を人質に店に閉じこもってるの。要求もなくて、膠着状態なんだ」

 





 神よ、私に迫力ある文章を授けたまえ
…こういう出血とか、残酷な描写には引っかからないですよね?

こういう出血描写、「残酷な描写」タグはあった方がいい?

  • 必要、すぐ入れるべき
  • まだグレー
  • なくても構わない、大丈夫
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