こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
tips:危険対策班
ここ2、3か月で新しくできた部署で一応経営部に属する。
フェニックスワンダーランドの警備は外部委託だが、彼らは鳳グループ内の手練れを集めたもの。その成立の背景にはとある事件と民間グループの訴えがあるとされる。
班長にあたる人物は最も重要な場所を監視しており、基本的に移動しない。噂によれば、かつては凄腕のボディーガードだったらしいが…?
「…それは、まずい……!」
男がまだ捕まっておらず、加えて善意で協力してくれた白城戸さんが囚われている。マストオーダーは達成したものの、状況が悪化するとは。自分は負傷しているとはいえ動くことはできる。こうやってのんびりしている場合じゃない。
「行きましょう。白城戸さんを救って、今度こそあの人を──」
「ううん、それは無理なんだよ」
目を伏せ、自分の発した言葉を否定する室長。焦りからか自分も語気をを強めてしまう。
「何でですか! 室長、あんなに自信満々だったのに」
「…さっき危対班の人が言ってたんだ。こちらも我々が指示をさせてもらう、わたしが失敗したからだって」
「なっ、失敗って…!」
反論しようとするが、言葉が出てこない。実際救助対象を救えたとは言え、無関係であった職員まで巻き込まれているのだ。
「爆弾の方の処理が終わって危対班が集まったら突入するんだって。
わたしの責任だから、せめてそれを見届けたくて」
「えっと、突入…? それ、白城戸さんが──!」
「…うん。無事の保証はできない、かな」
そんなの、いいわけがない。室長が自分の負傷や白城戸さんの件で自信を失っているのは分かるが、何としても説得してもらわなければ。
何か、説得すべきだという根拠はないか。あの男は、伊藤くんはどうだったか…。
──『おじちゃんを助けて』って興奮してたから。
先程の室長を思い出す。
確か自分が刺される直前、彼は『お兄ちゃん』と呼んでいなかったか。ということは、おじちゃんというのは──?
「…そうだ! 伊藤くんですよ!」
「え…?」
「『おじさんを』って言ったんですよね?
それってあの男の事なんですよ、きっと!!」
室長は黙ったまま何も言わない。その表情も確認せず、沈黙の意味も考えずに自分は続けた。
「今からでもまだ間に合うはずです!
伊藤くんに話を聞きに行って、それを危対班に伝えれば──!!」
「っ…! だから、もう無理なんだって!!」
室長が声を荒げて叫ぶ。こんなに自棄な声を聞くのは初めてで、体温が一気に下がった気がした。
「しつ、ちょう…?」
「あたしだってそうしたいよ! でもダメだったの!!
あの人も伊藤くんも、
みんなが笑顔になれる場所にしようって、おじいちゃんとの夢を叶えたいだけなのに──!!」
感情のままに言葉を吐き出す室長に、自分は何も言えなかった。
やがて何かに耐えるように体を震えていた室長が、自分に言い聞かせるようにぼそり、と呟いた。
「……そうだよ。
突然暗い雰囲気になり、先ほどまでの激情が落ち着いたように見える。戸惑いながら尋ねた。
「あの、一体何を──」
「…ごめん悠馬くん、格好悪いところ見せちゃったね。
とりあえず、今日は帰ってくれないかな?」
「…え?」
信じられない思いで室長の顔を見る。彼女は覚悟を決めたような、諦めたような表情でこちらを見つめていた。
──いや、自分ではない。その先にある何かを見据えているような目だ。
ようやく、自分は取り返しのつかないことをしてしまったのだと悟った。
「ケガもしてるし、病院もいかなきゃいけないでしょ?
後はわたし達がどうにかするから、部室戻ってて大丈夫だよ」
「ちょ、ちょっと待ってください! 自分だって、まだ納得できてな──」
いつものような口調で、しかし明らかに
「だからね、悠馬くん。分からないかもしれないけど──
きみは今、必要ないんだよ」
突き放すような、全否定の言葉。
過去の古傷をなぞるような言葉、自分はこの案件で足手まといであるという事実、それらがショックだった。
そして何より、あの室長にそんなことを言わせた自分が。
「…分かりました」
室長に向けて頭を下げてから、土産物屋に背を向けて歩き出す。
「あっ……」
背後で何かを言おうとした声が聞こえたが、その後に続く言葉はなかった。
◆
いつの間にか、自分はドリームメイク室に到着していた。
またこんな結果になってしまった。今も脳裏には、室長のあの疲れたような表情が焼き付いている。
どうしてこんなことになったのか。
室長の案は多少無謀だが、悪くないものだった。白城戸さんもベストを尽くした。やはりターニングポイントは自分だったのだろう。あの時自分が油断せず、あの男に笑顔になってもらおうときちんと向き合っていれば──。
だが、考えていても仕方がない。もうことは起こってしまったのだ、室長との関係は悪化していそうなため、ドリームメイク室解散も秒読みだろう。
たった1ヶ月と少しだったが、こんなにも影響を受けるとは思わなかった。やはり室長がいてこそのこの部署だったのだろう。
「…もっと、ここで働きたかったな」
呟きがスルッと口に出てくる。こんな言葉を過去の自分が聞いても一笑に付すだろう。
まさかあの
ふと、数時間前の会話を思い出す。
──一度くらいしがらみとか後悔とかを忘れて、自分がしたいと思ってることを貫いてみてもいいんじゃないですか?
そうだ。
小豆沢さんの言葉だ。今こそ一歩を踏み出す時じゃないのか?
だが、足を出すには恐怖が勝り、竦んでしまう。
本当にこうすれば最善なのか?
前のようにまた否定されて、むしろ迷惑をかけてしまうんじゃないか?
むしろ、現状維持が一番無難ではないのか?
高校時代から何度も考えた問だ。その度に、自分は不安と恐怖から踵を返してきた。だが。
自分を奮い立たせる。覚悟を決めろ。
今ここで、自分は何を
『あたしはね、ここにきてくれるみんなを笑顔にしたいんだ』
初めての依頼の後の室長の言葉を思い出す。
あの時──岸田さんとあかりちゃんの笑顔を見た時。
(目の前で人が笑顔になると、自分も幸せになれた気がした…)
当時は考えないようにしていたが、既に『この仕事は楽しい』と思っていたのだ。
「はは…そんなことで、良かったのか」
思わず苦笑し、ひとり呟く。心の中のパズルが音を立てて埋まったような気がした。
「俺は──
みんなで、
口にしただけで、随分と楽になった。
否定されてもいい。自分はやりたいことをする──室長の笑顔を取り戻すだけだ。
さて、考えよう。
どうすればそれを叶えられるか。こちらがいくら吹っ切れたところで室長は気まずいだろうし、あそこに行って仕事ができるかは怪しい。
だがどうすべきか、そのヒントは十分すぎるほどに集まっていた。
肩にかけていた荷物を再度放り出す。一度深呼吸をしてから部室を飛び出し、駆けだした。
◆
オレンジに染まる、黄昏時のフェニックスワンダーランドを駆け抜ける。
どんな手段を用いたのか、この稼ぎ時にもかかわらず大通りは伽藍洞だった。
「ハァ、ハァ…つっっ!?」
走りながら、時折腹から痛みが走る。
だが、あの男に刺された時ほどではない。必死で走っているために痛覚がマヒしたのか。我慢さえできれば動ける。
そしてそれ以上に、時間がない。
爆弾の解除を終えた危険対策班が合流するか、あるいは男が耐え切れずにアクションを起こすか。そうなれば、彼等はすぐにでも突入し制圧してしまうだろう。
自分が目指すのは
そして、自分の選んだ解決策は司令塔の“説得”だった。
今回指揮を執っているのは危険対策班、彼らにまとめて伝えるには手段は一つしかない。
息も絶え絶えに、自分は入場ゲートにたどり着く。
そこに、いつもと変わらぬ影が一つ。
「…おや、どうも美麒さん。お帰りですか?」
「ハァ、ハァ…いや、まだです。
今回はあなたに用があるんですよ、
おっちゃん──危険対策班の長たる人物に正面から向き合い、そう告げる。
果たして、彼は目を細めて少し沈黙し。
「…はて、何のことやら。
なぜ私が、その何某班の班長だと?」
どうやら、シラを切るつもりのようだ。
だがお生憎様、自分はちゃんと結論を出してからここに来ている。
「つい先程耳にしたんですが、
彼のせいで警備員のほとんどがバスの方にかかりきりだ、と愚痴を言ってましたよ」
「そうだったんですね。ですが爆弾処理だったのでしょう?
そちらにも労力が偏るのは仕方ない気はします」
「…それは一理ありますね。
まぁそれはともかく、そんな離れられない場所って考えると、一番怪しいのは
振り返ってみると、この人をこの場所以外で目にしたことがない。
警備部は専用の詰め所があるようだし。
「お言葉ですが、私は警備員とは別でここ専門でしてね。むしろ、このランドの裏の構造さえ存じ上げません」
「…そう、ですか。
ただ、もう1つ気になることがあるんですよ」
そう言って自分は、彼の腰にぶら下がっているトランシーバーを指差す。実は初日から違和感を抱いていたのだが、確信に変わったのは今日だった。
「それ、上層部と通信出来ますよね?
私達従業員じゃ、そんなの持てないんですよ」
少なくとも、室長クラスの地位でなければ自由に運用出来ないはずだ。
ついでに、自分への言伝を頼めるくらいには近い関係の──いや、鳳室長なら誰にでも頼めそうだ。
「それは……」
ついに反論が難しくなったのか、おっちゃんが途中で口を閉じる。
チェックメイトに、もう一言。
「そういえばさっき、警備員とは別だって言ってましたよね?
バスの方に人が割かれてるって話ですが──
私、
「…なるほど」
ついに観念したらしきその男の顔には、もう人の良さそうな笑みは浮かんでいなかった。
「こんなところより、探偵の方が向いているんじゃないか?
──美麒悠馬」
丸めた背筋を伸ばし冷たい雰囲気を放つ
ニーゴのイベストの2回目nextまで読んで
一介のオタクとして狂う私と、拙作の設定と噛み合わなくなって慌てる私がいます
やべえ(語彙力