こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 初投稿となります。拙いですが優しい目で見てください。
よろしくお願いします。



怱劇・漂浪する少年は
オープニングアウト


 

 期待感を煽る陽気なBGMや、方々から聞こえるアトラクションの駆動音にアナウンス。そして、人々の楽しそうな歓声。

 

「中学生以来、か…」

 

 フェニックスワンダーランド。

 渋谷駅からバスで15分くらい、結構な規模を誇る、子供向けテーマパークだ。久しぶりの来訪、普通なら浮き足立っているだろうが。

 

「…はぁ」

 

思わずため息を吐く。

 

 自分——美麒悠馬は現在、人生二度目の就活中なのであった。

 

 

 社会人1年目にして、上司のやらかしにより就職した会社が倒産した。

 世間にはよくあるような、少しブラック気味の小さな会社だった。執着も無かったので特筆するほどの感情は湧かなかったものの、無職は困る。退職金で生活しつつ募集を探したがどこも雇ってくれず。そうこうするうちに数ヶ月が経過、貯金も底をつきそうになり途方にくれていた。

 そんな状況で手を差し伸べたのは、友人の亀山怜一だった。

 彼は勤め先であるフェニックスワンダーランドの社員推薦による求人枠で紹介する、と言ってくれた。どうやら、最近まで営業を縮小していたようで、元にもどすのに人員が必要らしい。

 もちろん、その提案に乗った。今日がその面接の日なのである。仮にも超大企業たる鳳グループ、恐らく大部屋のガチガチなものだろう。

 気合いを入れてかからねば。

 

 ◆

 

「ミキさん、ですね。

お待ちしていました、どうぞこちらへ」

 

 肩透かしを食らった気分だった。

就活の時の面接のような重苦しい雰囲気を覚悟していた自分が案内されたのは、ランドのすぐそばに聳える鳳ビルディング、その10階のカフェラウンジであった。

 ロビーからここまで先導してきた女性に、思わず言ってしまう。

 

「てっきり、もっと堅苦しいものかと思ってました」

「普通の求人公募だったら、そうかもしれませんね?」

 

 ふふっ、と微笑みながら女性は続ける。

 

「美麒さんの場合は社員の推薦枠ですから、面接といっても雑談みたいなものなんです」

 

 良かった、と内心で呟く。友人に感謝しなくては。

 席に着き、彼女と向かい合う。

 

「それでは始めましょうか。

担当は私、鳳ひなたが務めさせていただきます」

「はい、よろし……えっ?」

 

 鳳———おおとり!?

 つまり、目の前の女性こそがこのビルディングの所持者であり、フェニックスワンダーランドの親会社である大企業、鳳グループの代表であり。

 

「まさか、上役の方がいらっしゃるとは…」

「あ、畏まらなくて大丈夫ですよ。バイトみたいなものですし」

 

(いや、入社面接をバイトに任せる訳がないだろ…)

内心でツッコミを入れる。流石に口に出さない程度の理性は自分にもある。折角のチャンスだ、失いたくはない。

手元の資料をめくる鳳女史を見て、少し身構える。

 

「まず前歴は、あっ……その企業ですか。ご愁傷でしたね」

「ええ、中途採用で苦労しています」

「……そうですか。風評被害で大変でしょうね、頑張ってください。

っと、話を戻しましょうか。あなたを推薦したのはショー運営課の亀山、でしたね。彼とはどういった関係ですか?」

「友人です。大学時代、共にミュージカル同好会に所属していまして」

「へぇ、道理で『ショーの経験あり』と書いてあるんですね。ミュージカル、お好きなんですか?」

「いや、そういう訳では…」

 

 思わず口篭ってしまう。確かに側からはそう見えるだろう。実際はただ最初に声を掛けられただけ、自慢するほどの愛着はない。

 たとえ、舞台でも裏方としても有能で、それ故に毎回出動させられていたとしても。

 

「あ、じゃあ趣味とかあります?」

「音楽鑑賞ですかね。邦楽をよく聞いたりします」

イヤホンでJ-POP流しまくってるだけなのだが。

 

 その後、最近流行りの曲の話などをした。確かに面接とは思えないものだが、自分はこちらの方が好みなのだろう。

 一通り話してから、鳳女史が姿勢を正して切り出した。

 

「さて、そろそろ最後の質問に入りましょうか。人事にも関わると思うので、心して答えてくださいね」

 

そんな重要な質問、何を聞かれるのだろうか。志望動機や採用後の意気込みであれば簡単だ。事前に準備してきた原稿を頭で復唱する。

 

 しかし聞かれたのは、もっと単純かつ簡単で、けれど自分には最も困難で残酷なものだった。

 

「将来の夢、あるいは目標はありますか?」

 

 

 そんな信念(モノ)、一つも持ち合わせていないのだから。

 

 

 ◆

 

「それで何も答えなかったって? マジかよ!」

「『答えなかった』んじゃない、『答えられなかった』んだっての」

「天才様が聞いて呆れるなぁ!」

「"天才"はやめてくれ、後生だから」

 

ガハハハハハハ、と笑い続ける友人に対して強く弁明する。

 

 面接後の消沈した自分を迎えたのは、何故かビルの外で待ち構えていた亀山だった。そのままあれよあれよという間に、渋谷の行きつけらしい居酒屋に連れ込まれ。

 

「あれか、俺の失敗を肴にしにきたのか?」

 

こうして自分の話を聞きたがっているのである。幸い(幸い?)、大衆的な騒がしい居酒屋だ、あの高層ビルの上層部がいるはずもない。

 好きなだけ愚痴った末、矛先を亀山に向けた。

 

「ハッハッハ…まぁ、それもあるが」

ひとしきり笑い終えた亀山が続ける。

 

「希望確認程度だ、どうせ合格なら早めに祝っといた方がいいだろ?」

 

わざわざ早退までしたんだ、感謝しろよぉ?とグラスを掲げて息巻いている。コイツ、もう出来上がってやがる…。

 しかし、今の発言が引っ掛かった。

 

「ちょっと待て。合格、確定してんの?」

「十中八九な。担当にも言われなかったか?」

「雑談みたいなもん、て言ってた気がする」

 

 そういう意味だったのか、と内心納得する。それと同時に、急に肩の力が抜けた。合格の二文字の与えてくれる安心感は、やはり大きい。

 

 その後しばらく亀山と、他愛もない話を肴に酒を飲んでいた。

 

いたのだが。

 

「そういや担当、誰だったんだ?」

「確か『鳳——』」

 

 ガタッ、と突如立ち上がる亀山。その顔には驚愕が色濃く浮かんでいた。

 店中の視線が自分達に集まる。

「…すまん、ちょっと想定外だった」

 

 亀山がおずおずと座り直し、程なくして居酒屋特有の騒々しさが戻った。縮こまる亀山に耳打ちする。

 

「『鳳ひなた』って人だったけど。

なんか、マズい人だったりするのか?」

「あ……いや、なんでもない。忘れてくれ」

「なんか気になる言い方だな…」

 

 鳳グループの現会長は鳳慶介が務めており、ランドを含む経営などは会長の兄妹達が牛耳っていると聞いたことがある。厄ネタはその1人か親族の類のようだが、ひなた女史は問題ないのだろう。

 冷静になったであろう亀山が、口角を上げながら言った。

 

「キチンとした配属になるだろうな。

もしショー運営課(うち)のフェニックスステージになったら、ちゃあんと可愛がってやるよ」

「昔から言ってた『ストリート仕込みの歌声』ってやつだったか、期待しとくさ」

 

 そんな軽口を叩きながら、乾杯、とグラスをぶつけビールを煽った。

 

 そう近くない未来に、何故この時にもっと話を聞かなかったのか、後悔する日が来るのだが、それはまた別の話。

 

 

 

 翌日、二日酔いに痛む頭を抑えつつ起きると、1件のメールが届いていた。

 

『採用通知

 

配属:運営部サービス課・ドリームメイク室』

 

「…なにこれ」

 

 そんな部署、聞いたことがなかった。

 





2023/5/17 09:45  一部、表現を修正しました
2023/6/12 11:00 会話描写を一部追加しました
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