こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
次でサブタイトルが変わります
「…それはどうも。ずいぶんと雰囲気が変わりましたね」
「いつもは職業柄、親しみやすさを意識してるもんでね」
正体をを認めたおっちゃん…危対班の班長は皮肉めいた口調でそう言った。ついでに、刺すような視線が自分を舐め回すように捉えている。
…これは、もしや──?
「あのぅ…自分、嫌われてます?」
「当たり前だろう。貴様のような軟弱物の青二才がお嬢様と共にいるなど、はらわたが煮えくり返りそうだ」
うん…何故、こんな敵視されているんだ?
罵倒自体は割とその通りで耳が痛いが、何も知らないはずの彼にそう言われるのは納得いかない。
そんなことを思いながら悶々としていると。
「…私に要件があったんじゃないのか、美麒悠馬。
「…ええ、そうですね。それでは──」
あちらから切り出してくるとは思わず面食らったものの、即座に思考を切り替える。
自分が願い出たいのは──。
「どうか…どうか!
あと一度だけ、鳳えむ室長の主導のもとで立てこもり事件の対応をしてもらえないでしょうか!!」
「…ハッ」
自分の言葉を聞いた彼は、文字通り鼻で笑った。
恐らく、自分だってそう反応するだろう。
「面白い冗談だ。そうやって貴重なランドの人材が脅かされていることは理解しているのか?」
「ええ、もちろん」
「なら聞かせてもらおうか。さっきの推理ショーよろしく、捏ねくり回した理屈があるんだろう?」
「ありませんよ、そんなのは」
「…ほう?」
覚悟を決めてから、必死でここまで走ってきたのだ。そんなものを考える時間は無かった。
だからこそ、正直な感情をぶつけられる。
「…最初は、何でこの人はそんな夢を本気で語れるんだ、って感じでした。
初仕事から無茶苦茶で、到底尊敬できなさそうな人だったし、そんなものが叶うはずがないって擦れていたので」
思い返してみてもあの時の対応は酷かった。今では自分も慣れて、ついでに室長も少しはこちらの事を考えるようになったのか説明不足は減っている。
あの時の自分は、理想を語る彼女を白い目で見ていたのだろう。
「でも、あの人と依頼をこなす中で、いくつもの笑顔と感謝があって。これも悪くないなって、思えてきたんですよ。
それに室長は凄い人なんだ、とも。あの人の発想や実行力、それにモチベーションにどれ程助けられたか」
まぁちょっと物申したいところもありますが、と付け加えたところで、能面のような目の前の男の眉がピクッと動いた気がした。
「要するに──あの人に絆されたんでしょうね、自分もその夢の先を見てみたいと思ってしまったんです。
自分のトラウマさえも乗り越えてしまうくらい、熱烈に」
本当は思い出さないようにしていただけで、この熱はバンドを組んでいた時から自分の中にあったのだろう。だがそれを浮上させたのは、間違いなく
「そのためにも鳳室長にだって、あんな無理して繕った顔じゃなくて笑顔でいてもらいたいんです。
それにあの人のプランはまだ終わっていないし、成功すると確信している。
…それは、あなただって同じででしょう?」
図星を突かれたのか、男は腕を組んだまま黙りこくっていた。言葉の節々から予想できたが、やはりこの人も室長に好意的な印象を持っているようだ。
しばらくの間、沈黙が場を支配する。
あまりにも長いので機嫌を損ねてしまったか不安になった辺りで、彼は徐に口を開いた。
「──美麒悠馬、一つ確認だ。貴様の語るそれ、私に願うそれはお嬢様の、そして仕事のためのものか?」
「否定はしませんが…それ以上に、自分のためです」
自分の本心を込めた答えを聞いた彼は、少しの間目を細めた。
「…そうか。どうやら、こちらが見方を変えなければならないようだな」
そう言って、彼は腰のトランシーバーを構えていじり始めた。
『…あー、こちら危険対策班だ。方針の変更を伝える。
立てこもりの対応を重大な人的被害が発生しない限り、鳳えむ室長に一任する。
──いいえ、お嬢様。礼は、美麒悠馬へ』
良かった。何とかやるべきことをやれたようだ。
緊張が解けたのか、足に力が入らなくなる。
「…ふぅ。これでいいのか──って、美麒悠馬?」
微笑を浮かべつつトランシーバーを切った彼の姿をとらえながら、ふらりと自分の体が傾いた。
体が地面にぶつかる。全身に力が入らないが、腹のあたりが嫌に冷たいのが辛うじて分かった。ぐわんぐわん、と耳鳴りが徐々に大きくなっていく。
そうして遠のく意識の中で、やけに必死な男の──いつものおっちゃんの声が聞こえた気がした。
「おい、しっかりしろ! 死ぬな、美麒! おい!!」
◆
目が覚めてまず見えたのは、見知らぬ白っぽい天井だった。
こわばった体を何とか起こして周囲を見る。自分はどうやら病室にいるようだった。
躊躇なくナースコールを押したところ、慌てた様子の看護師達がやってきた。その後あれよあれよという間に検査が進み、説明も受けぬまま気が付くと病室に戻って来ていた。
詳しい事情を教えてもらえたのは数時間後、しかも医者からではなく知り合いのよしみで様子を見に来たという看護師・朝比奈さんからだった。
「美麒さん、脇腹からの出血が酷かったんですよ? あと少し搬送が遅かったら失血死してました」
「あー……多少、心当たりが…」
恐らく、必死で走った時に応急処置の部分から再度傷が広がったのだろう。で、それを感じ取れないくらい集中していた、と。
文字通り『必死』だったわけだ。
「全く…。何があったかは分かりませんけど、通報してくれた人に感謝してくださいね?」
朝比奈さんが言うには、
通報の状況なら自分は帰宅途中で倒れたことになるが、実際は自分の荷物がドリームメイク室に放置されていたようだ。
なんでだろう、ふしぎだね(棒)。
「感謝はしてますけど、素直には伝えられなさそうですね…。
あ。そういえば朝比奈さん、この前みたいなぶっきらぼうな感じじゃないんですね」
「…ふふ、公私はしっかり分けてますから」
優しそうな笑みでそう言われ、少し戦慄した。
次の日に医者から改めて説明があり、その後面会謝絶が解除されたらしい。どうやら鳳グループがらみのため病院が慎重だった、立てこもりが事件として扱われいろいろあった、犯人に刺された自分に配慮した、など様々な事情が絡んだ結果、勝手に面会謝絶となっていたようなのである。
らしい、というのも全て、最初にお見舞いに来た白城戸さんに聞いたことであるからだ。
「良かったよ、美麒さんが無事で──ホント、よかった……!」
目に涙を浮かべながらもそう口にする彼女を見て、本当に死の淵に片足をかけていたのだと実感した。
落ち着いたころを見計らい、あの後どうなったかを尋ねる。
「…美麒さんが脱出した後、あの男に拘束されてて」
男は震える手でナイフを片手に握りながらも、白城戸さんの手足と柱に結び付け、目隠しをされていたという。
「でもどれくらいか時間が経って、突然外から声が聞こえた。
目隠しが耳まで覆っててよく聞こえなかったけど、しばらく怒鳴りあいをしてたんだ。
いつの間にか奴の声が小さくなっていって、気付いたら──」
多くの足音と男の悲鳴が聞こえたのだと。そして、恐怖のどん底にいた彼女の目隠しが外され、見えたのは──。
「えむさんの安心したような顔だった。涙でぐちゃぐちゃになってるのに『よかった、ごめんね』ってずっと繰り返してて。
えむさんの指示であんなことになったんだとしても、ウチは確かにあの人に救ってもらったんだよ。それはもう、格好よくてさ。憧れちゃうよ」
室長のように自由奔放、無邪気なように振る舞う白城戸さんは…うん、怖いもの見たさが勝ちそうだ。
その後犯人は投降し、警備員同伴で自首しに行ったという。
ついでにさも大偉業であるかのように強調して言っていたが、すべて内密に行われたため来客数も変わっていないらしい。推測するに、上層部の最初の狙いはこちらだったのだろう。うまくやられた形である。
一通り聞き終えてから情報交換や雑談をし、白城戸さんが席を立つ直前にこんなことを言われた。
「えむさんから、ウチを助けるために美麒さんも駆けずり回ったって聞いた。
ありがとう、ございました…!」
白城戸さんが帰った後にも、見舞客はちょくちょくやってきた。
亀山はいつも通りだったし、一応両親も心配そうにしながらも日持ちするフルーツを置いていった。
一番驚いたのは、再び訪れた朝比奈さんがさり気なく置いていったCDだった。表紙にはLeo/need third albam、そしてマジックペンによる手書きで『GOOD JOB!!』と──。
家宝にしよう。
そんな入院生活、その間に鳳室長が病室を訪れることはついぞ無かった。
◆
そして、退院の日。
荷物をまとめ、もはや見慣れてしまった病室を出ようとした時に。
「邪魔するぞ」
そう言って入ってきたのは、いかにも高級そうなスーツを着た、どこか見覚えのある男だった。
「美麒悠馬、で合っているよな?」
「そうですが…その、どちら様で?」
どこか──そうだ、室長に似た雰囲気の男性は自分をジッと見つめて…。
──ちょっと待て。鳳室長……
「俺は鳳晶介──君の
今から、少し時間をもらえないか?」
・危険対策班班長/ゲート警備のおっちゃん
手練れ揃いの危対班の中でも高い忠誠と実力を兼ね備えた人物。最重要要所のゲートの監視、警備の任を負っている。ちなみに前職はボディーガード、とあるオレンジ色っぽい犬『ポチ公くん』の着ぐるみを着用していた。つまり着ぐるみさん
原作の通り、内心では鳳えむのことを非常に気にかけているが、立場上上層部の方針に従って動いていた。
実は鳳えむの意思を尊重しようと方針転換の建前を探していたので、前話の時点でチェックメイト状態。そこにやってきた主人公(とある理由から好感度はマイナス側)のパーフェクトコミュニケーションによって好感度がプラス側に振れたので、これ幸いと連絡をした…という感じ。
ちなみに好感度が逆転した理由は、主人公とかつてフェニランにいた『スター』の言葉が一瞬重なったように感じたため。