こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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tips:鳳晶介

 鳳家4兄妹の次男(ひなたの弟、えむの兄)にして、現フェニックスワンダーランドの経営を1手に担う社長。ちなみに長男の慶介は鳳グループの代表取締役に就任された。
 経営者として優秀かつ真面目なのだが直情的すぎるきらいがあり、納得のいかないことが口に出やすい。
 ちなみに、しばらくクルーザーには乗っていないらしい。



少年期の終わりに、麒麟は

 

 晶介氏に連れられて病院を出た自分が見たのは、フィクションでしか見たことのない、黒く長いリムジンであった。

 

「おお、すげえ…」

「運転手を待たせてる。急いで乗り込んでくれ」

「あっ、はい」

 

 おそらく日常的に乗っているのだろう、迷いなくリムジンに乗り込んだ彼に慌てて続く。

中身もテレビドラマでよく見るような、外側に沿って黒光りしたソファが続いていた。晶介氏に進められ、恐る恐る腰掛ける。うわあ、フカフカだあ…。

 

 とはいえ、突然社長に連れられてどこかに向かうわけである、緊張しないわけがない。そんな自分の様子を察したのか、リムジンが動き出した辺りで声を掛けられる。

 

「あんまり固くなるなよ。俺ですら普段乗らないようなこんなのに乗るくらい、見栄張ってんだからな」

「あ、乗らないんですね…。それで、今から何をしに?」

「そうだ、言い忘れてたな。安心してくれ、別に君の想像とは違う」

 

 ふぅ、と一息ついた晶介氏の顔は、若干うんざりとしたような表情を浮かべていた。

 

「──謝罪だよ。君への、な」

 

 

 ◆

 

 リムジンから降りて向かったのは、何の変哲もない小さなビルだった。黙って階段を上っていく晶介氏に続く。看板を見ればよくわからない事務所やレンタルスペースなど、中の施設にも変わったところは見られない。

 

「いいか、美麒くん。一つだけ約束してほしいことがある」

「…はい? なんでしょう」

「これから話を通しに行く訳なんだが…出来るだけ口を挟まずに、俺に合わせて動いてくれないか?」

 

 こんな不思議な申し出に訝しみながらも承諾すると、彼は安心したように息を吐き、目の前のレンタルスペースのドアを開けた。

 

 

 このレンタルスペース、どうやら会議室のように使われているようだ。

老若男女入り交じり何やら真剣に話していたようだが──自分たちの姿を目にした途端、一瞬前が噓のようにシンと静まり返った。

 同時に痛いほどの視線が集まる。気のせいか、居心地の悪さすら感じてしまう。

 

「お久しぶりです。本日は皆さん、よくお集まりのようで」

「…本日は何の用ですか?」

 

 晶介氏の挨拶に反応したのは、コの字型の机の丁度中央に座っていた女性だった。様子を見るに、この会の代表のような役職なのだろう。

 明らかに社交辞令的な微笑みを浮かべながらもこちらに視線を向けることもなく、晶介氏に向かって冷たく言い放つ。

 

「我々が求めているのは、あなた方の迅速な対応ですが。まだ終わってないのでしょう?」

「ええ。ですが今回は別件です──ヤハギさん、今日はいらしていないようですね」

「……さあ、最近は見ませんね」

 

 …うん、話の流れがつかめない。どうやらこのコミュニティに所属しているらしい、ヤハギさんという人物についてのようだ。そんな名前の知り合い、いたか?

 煙に巻かれるような返事に少しイラつき始めたらしい晶介氏は、横で内心困惑している自分を示しだした。

 

「しらばっくれないでください。彼はその被害を受けた一人なんですよ」

「…ああ、そういうことですか。それはそれは──」

 

 こちらに視線を向ける女性。

…ちょっと待て。自分が、被害を受けた?

 

 直近で被害を受けたことなど、1つしか──。

 

「ヤハギさんがご迷惑をおかけしたようですね。申し訳ありませんでした」

 

 やはりヤハギさん、というのは自分を刺したあの男のことか。

 さて、どうしようか。恐らく、この場でブチギレて訴状を叩き込めるくらいの権利が、自分にはある。

 だが。

 

「…大丈夫ですよ。何か事情もあったようですし、特に後遺症もないので」

 

 チラリと場の様子を見て、穏便に済ませるべき雰囲気だと判断した。

 実際死にかけたわけだが、正直なところ得られたものも大きいので大事にしようとも思わない。

 

 だがそうであっても、その後の発言はいただけなかった。

 

「それは良かった。でしたら()()()1()()()2()()()()()()()()()()()ってことですよね?」

 

「──は?」

 

 この人は何を、言ってるんだ?

 

「いや、それは──」

「…弊社の職員をそのように扱われるのは遺憾ですね。彼以外にも、外傷こそありませんが被害を受けた者もいるわけで──」

 

 あまりの衝撃に堪えたのか、晶介氏まで反論を始めた。

彼女の言葉は、あまりにも白城戸さん(スタッフ達)への敬意に欠けている。

 

「幸いにも死者は出ませんでしたが、最悪の場合の被害が…」

 

「──()()?」

 

 その呟きとともに、彼女の微笑んでいた──かろうじて社交的に保てていたのであろう表情が、強烈な感情で歪む。晶介氏の弁解が地雷を踏んでしまったのか。

 本能的に身構えると同時に、ヒステリックな怒号が響き渡った。

 

「何が幸いよ! 私達の家族はみんな、みんな!!

もう戻ってこないのに!!」

 

 その叫びに影響されたかのように、視線に明らかな敵意が含まれたのを感じる。

と同時に、この居心地の悪さの正体をなんとなく察した。

 

──きっと彼等は、あの男(ヤハギ)と同類なんだろう。皆、自分達に敵意を抱いている。

 

「あの時…あなた達の制度がもっとしっかりしていれば!

私の息子は、今も元気に…!!」

「私のお母さんだって!!」

「先日の娘のみならず、とうとう妻まで…!!」

 

 代表らしき女性の訴えを皮切りに、黙っていた人々が悲痛な叫びを上げだした。

 

「……」

 

 そんな阿鼻叫喚の中で自分はただ、黙っていることしかできなかった。

 

 

 ◆

 

 結局晶介氏は何とかその場を収め、自分とともに逃げるようにその場を離れた。

 

「ふぅ、これだからあいつらの相手はつかれるんだよなぁ、穏健派が音頭取ってて助かった…。

──で、だ。君、正直あいつらにどんな印象を持った?」

「印象、ですか? そうですね…」

 

 ビルの階段を下りながら、げっそりした様子の晶介氏に問われる。

 

「最初の方は正直、気でも狂ってるんじゃないかと思ってたんですが。

…自分如きが想像もしてなかった事情が裏にあった、ってことですよね」

 

 それもおそらく、大切な人を失うこととなった重要な何かが。

 

 要するに、自分は無知だったのである。

 今までの自分ならそんなことにも無頓着であり続けただろうが、今は違う。

 

「…晶介さん。一体彼らとの間に何があったのか、教えてもらえませんか?」

 

「ああ、いいとも。というか元々その予定だったんだ」

 

 一瞬目を丸くした晶介さんがニヤリとする。

 どうやら連れて来たこと自体、意味があってのことだったらしい。そこまでして知らせたいって、一体何が──あっ。

 

『…君には事の重大さが分かるはずもないが』

 

「──おっちゃんのあれ、まさかこういうことだったのかな…?」

「…あいつは信用はおけるが、意地が悪いからな。

まあ、君にも多少関係のある話だ。ぜひとも聞いてほしい」

 

 そう言って、彼は黒いリムジンに乗り込む。

 

 これから恐らく、フェニランの影を目にするのだろう。

 意を決して、自分もドアから体を滑りこませた。

 

 

 ◆

 

「さて、長くなるが…ああ、そこに我が家のシェフが用意した軽食がある。気軽に──え、後が怖いからいらない? 

 

「…まあいいか。さて、話は6ヶ月前まで遡る。

 

「当時のフェニランはそれなりに繫盛していてな。ここ数ヶ月こそ不振が続いていたが、最近はやっと同じくらいまで盛り返してきている。

 

「冬の、よく晴れた日だった。当時は送迎バスがよく動いていてな。送料無料だったから相当混雑していたんだ。

 まあ、今は──

 

「…乗ってる? 

──先入観がなかったからこそ、か。運転手も喜んでいるだろうな。

 

「で、その送りのバスの一台で、異変があった。

 

「一人の少年が突然ナイフを取り出して、運転手を脅迫しだしたらしい。

 

「どうも受験勉強のストレスから、みたいだ。きっとフェニランで遊んで、リフレッシュしたかったんだろうな。

 

「──どんな人でも笑顔になれる場所、か。爺さんの夢も、しっかり叶って…。

 

「おっと、悪い。

…その少年は発狂して、“お守り”として持っていたナイフで運転手を執拗に刺した。

 

「当然、大事故だ。ハンドルがめちゃくちゃになって、そのままビルにドカン、だよ。

 

「バスは運悪く爆発炎上。死傷者30人に及ぶ、フェニックスワンダーランド史上最悪の事故となった。

 

「…ああ。さっきのは、この被害者遺族達だ。今も死の淵を彷徨ってる被害者もいるとか。

 

「怒る遺族達はフェニランを糾弾し始めた。ランドが少年の不安定さを煽ったんじゃないのか、そもそも危険な兆候を見つけ出す仕組みはなかったのか、てな。

 

「そんで俺たちが猛抗議して、頭を下げて、対策を考えて。

危険対策班もこの時に考えた奴だな。

 

「そうやって、俺たちが尻を拭いて収める──はずだった。

 

「どこが発端かは分からないが、ある隠し撮り動画がインターネットで見つかった。

フェニランのバス停で、1人の男が例の少年に絡み、延々と詰っている様子が撮られていたんだ。

 

「ネットは怖いな。程なくして、その男はあるブラック企業の中間管理職だと判明した。

 

「世間や遺族達が黙ってるはずがない。バッシングやら嫌がらせやら、業界からも締め出されて、すぐにその会社は潰れたよ。件の彼は高飛びしたらしいが、ね…。

 

 

「──そう。お察しの通り、ここからだ。

 

「事件から数ヶ月、やっと世間の興味が薄れたから経営を活発にしていこう。そう考えていた時、社員推薦の資料に面白い人物を見つけた。

 

「どうやら例の企業に勤めていたらしい、フレッシュな青年だ。

しかも調べた限り優秀な人物らしい。

 

「ちょうど新しい試みを始めるところだったんだ、猫の手だって借りたい。

そんな意図で、そいつに面接を受けてもらって──

 

「──もう分かるよな。そいつは期待以上の成果を上げて、今俺の目の前で座っている。

 

「君のことだ…美麒、悠馬くん。

 





4ヶ月間あっためてたネタを、やっっっっと!!

2023/8/9 23:45 誤字修正しました
2023/9/16 15:25 章の実装に伴い、題名を変更しました
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