こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 プロローグでお茶を濁したうえで、満を持して。プロローグの方も読んでもらえると嬉しい限りです。



黄昏に不死鳥は微笑む

 

「……えっ?」

 

 話の中で唐突に矛先がこちらに向いて、頭が追い付かない。

 

 えぇと、まずあの問題上司がフェニランバスジャック事件に絡んでいた、と。あの頃は激務すぎてニュースを見る暇すらなかったのだが──道理であの会社が潰れたわけだ。

 

 そしてそれを承知の上で、フェニラン経営陣は自分を採用した…?

 ということは、ゲートのおっちゃんはもちろん、職員全員が自分の事を──?

 

「…おっと、勘違いするなよ?

俺たちは別に嫌がらせをしたかったわけでも、憎んでたわけでもない。

実際、この事情を知っているのは各課長と上層部くらいなんだが…あいつら、どうだ?」

「どう、って──」

 

 この1、2ヶ月の間で接した人々──鳳室長、運営部長、青龍院さん、雀原さん、それにおっちゃんは。

 

「っ、先入観なんてなくありのままに、接してくれました」

「だろう? そういう場所なんだよ、ここは」

 

 そうだ、彼らから自分への敵意はなかった。あのおっちゃんでさえ、説得した時には既に敵意は薄れていたようだった。

 

 フェニックスワンダーランド。

 自分がここに雇われて、本当に良かったと実感する。確執などには囚われず、真剣に、人々に笑顔を提供する──最高の場所だ。

 

「それで、だ。この話を君に話そうと思ったのは、これから先はフェアであるべきだと判断したからだな」

「フェア、ですか? 一体、何の話を…」

 

「…他でもない、ドリームメイク室について、だ」

 

 何度言っても慣れないな、と晶介氏はしかめ面で呟く。

 そういえば自分達の部署も、当初は情報のない謎の部署だった。もしやドリームメイク室の立ち上げにも、バスジャック事件が関与していたのだろうか?

 

「あそこの立ち上げには、えむが大きく関わっているんだ。あいつの持ち込みのアイデアでな」

「室長の発案なんですね。道理でネーミングが…」

「ああ。どうやら、えむはえむであの事件に思うところがあったらしい。『笑顔になれない人でも笑顔になれるように』って言い出してな。他にも思惑はありそうだが──」

 

 笑顔になれない人も──いつかの室長が言っていた言葉だ。その信念自体は理解していたが、ルーツはこんなところにあったのか。

 そして、存在自体が室長の発案だと。そう言われれば確かに“らしい”が、つまりそんな無茶を許可した彼らにも事情がある、ということで。

 

「上層部としては、実現()()()()の理想論と切り捨てるところだったんだが…実のところ、好都合だったんだ。

時に、美麒くん。ワンダーステージへのえむの態度は知っているか?」

「はい。確か、自分達を置いていったことを引きずっているとか」

「その通りなんだが…えむ本人にも問題があったんだよ。その改善にドリームメイク室──というより、その管理職は都合がよかった。まあ、君にも迷惑をかけたようだが」

 

 迷惑をかけた…? ということは自分もその問題とやらを体感しているのだろう。

 はて、自分の体験の中でワンダーステージの不和の原因になり得そうなことは…。

 

──じゃ、いきなりだけどフェニックスステージに行ってきてくれる?

──あ、女の子との打ち合わせの情報、そこに貼ってあるから!

──とりあえず、今日は帰ってくれないかな?

 

 とりあえず、室長の無茶ぶりの記憶が思い返される。ただ、これぐらいなら雀原さんがこんなに執着しているとも思えない。それに、いつものように依頼のために奔走するのは欠点とまでは言えないような。

 つまり、室長の特有の──立場上の問題?

 

「あっ……まさか、部下への指揮能力に問題が?」

「鋭いな、その通りだよ。えむにも鳳の一族として経営に携わってもらいたいんだが…ワンダーランズ×ショウタイムの時からリーダーを張ってたわけじゃないからか、あいつが座長になってから人間関係に支障をきたしてな」

 

 なるほど、確かに部下を扱い慣れてない状況で経営に回るのはよくないのだろう。上層部には、鳳室長に部下の扱いを身に着けてもらう良い機会だったのか。

 

「…まあ、それで親離れしきれなかったワンダーステージと揉めているのは想定外なんだが、そこは置いておくとして、だ。

結果そこの部下として適任だったのが君だった、というわけなんだよ」

「…なるほど」

 

 一応前の会社の評判で能力は保証されていて、ブラック企業の経験から室長の無茶ぶりにも何とか応えられそうで、かつ損失しても上層部の心が痛みにくい人材。室長が気に入った、ということもあるだろうが上の合理的な判断が透けて見える。

 そしてそれは正しかった、と。晶介氏の口ぶりからして、彼自身は自分をそんな捨て駒的な存在とは考えていないようではあるが。

 

「要するに、だ。俺たちとしてはドリームメイク室には君込みで存続してもらわないと困る。

だが、えむはこの前の立てこもり事件での君への言葉を大層引きずっているようでな」

「いや、別にもう自分は気にしていません。辞めるつもりもないですよ、この仕事は楽しいので」

「──そうか。それは嬉しい誤算だな」

 

 晶介氏がそう満足そうにつぶやいたところで、リムジンが動きを止めた気がした。そういえば、自分たちはどこに向かっていたんだろうか。

 

「おっと、もう着いたか。では手短に」

 

 リムジンのドアが開く。そこは数日ぶりの見慣れた景色、フェニックスワンダーランドの入場ゲートの前だった。夕日でオレンジ色に輝く門を感慨深く見つめていると、晶介氏が隣に並んだ。

 

「俺からの依頼だ。

責任やらなんやらに縛られた意地っ張りの()を、好きなようにさせて(素直に笑えるようにして)くれないか?」

 

 こちらをまっすぐに見つめる晶介氏は、社長ではなく一人の兄として自分に言っているのだった。

 

 ワンダーステージの仕事は、お客さんの叶えたい夢を現実にして笑顔になってもらうこと。そしてそれは、晶介氏や室長であっても例外じゃない。

 すでに自分の心は決まっていた。

 

「もちろん、承りました。室長の事は任せてください!」

「…ああ、頼んだ」

 

 そう言うと、緊張の解けた様子の晶介氏は再びリムジンに乗り込んでしまった。リムジンを見てやってきたらしいおっちゃんがドアを閉め、走り出したそれを見送る。

 

「サービスセンター2階にいるらしい、とのことですよ」

 

 肩をすくめたおっちゃんに深々と頭を下げてから、歩き出した。

 

 

 ◆

 

 夕焼けに照らされた部室は幻想的で、ある種の懐かしさを感じる。 

 

 その窓から、鳳室長はフェニックスワンダーランドの景色を見つめていた。

 ドアの音に気付いたのか、ばっとこちらに振り向く。

 

「悠馬くん!? なんで…」

「決まってるでしょう。ここに来たかったからですよ」

「でもあたし、『もう必要ない』って──」

 

 自分の姿を見ておろおろと動揺する室長に歩み寄る。

 近づくことで見えた彼女の表情は、到底笑顔には見えなかった。

 

「それくらいじゃ諦めませんて。ここのこと、気に入ってるんですから」

「…そうなの? てっきり、お仕事だから仕方なくやってるんじゃないかな、って」

「まあ最初は確かにそうでした。でもランドで働く人の熱意だとか、お客さん達の笑顔とか、こんな不倶戴天なはずの立場の自分を受け入れてくれている皆だとか──もう、フェニックスワンダーランドに惚れちゃいましたよ」

 

 自分の告白を聞いた室長が少し頬を緩める。だが、一瞬後にはまた泣きそうな顔で口を一文字に縛っていた。

 

「嬉しいな…でも、あたしじゃだめなんだよ。こんな、夢ばかり見てみんなを笑顔にできない人じゃ──」

「はぁ…まだ分からないんですか?」

 

 思わずため息を吐く。

 この人、自分がどんなことをしてきたのか分かっているのか?

 

「あなたの見る夢! それこそが皆を笑顔に出来るんですよ」

「そうかもしれないけど…それで悠馬くん達が笑顔にならなくなっちゃうのは嫌だよ!

そうなっちゃうくらいなら、もっとちゃんとした(現実をみた)──」

「だから、それが()()()()仕事なんですって!!」

 

 段々ヒートアップしてきたせいか、互いに声の音量が大きくなる。それだけ自分にも熱がこもっているのだ。決して引くわけにはいかない。

 

「いいですか? 職員──というか俺の仕事は、あなたの言う夢を現実にすることなんです。あなたの夢で皆を笑顔に出来るし、俺たちはそのために望んで現実を奔走してるんですよ。

 

なにより──みんなを笑顔にしたいように、あなたにも笑顔になってほしいんですから」

 

 その言葉に、室長は大きく目を見開く。

…まるでその言葉そのものに、なんらかの思い入れがあるかのように。

 

「ですから、室長。

存分に夢を見て、笑っていてください。実現するのは、俺たちに任せて」

 

 覚める暇もない程に、誰もが心から笑える夢を。

 

「──うん…!」

 

 伏せていた顔を上げ、室長は涙目で自分を見つめる。夕日が沈み込み、黄昏の光が室長の顔を照らし──。

 

「悠馬くん、ありがとう。あたし…頑張るから!!」

 

 泣き笑いの顔を、鮮やかに彩った。

 

 

 ◆

 

 そして、数日後。

 

「室長、この辺どうですかー!」

「うーんとね、もっと右!」

「さっき左って言ってたじゃないですか!

この装置、やたら重いんですって! そろそろ腕が…」

「──あっ! 野村さん達が来たよー!!」

「ウッソもうですか!?」

 

 真夏の炎天下の中、森の中を大型散水機(スプリンクラー)──というより、ぶっといホースのついた巨大なシャワーヘッドを抱えて走る。

 真上に放射される水でびしょ濡れになりながら走り回ること10分、未だ鳳室長の望む結果にはならないようだ。あの人もあの人で高い木に登ってこちらの様子を見ているのだが、目視でフェニランの広場の人物を特定できていることに対してツッコむ気力もない。

 

「悠馬くん、ストップストップ! そこだよー!!」

「ゔぇ!??」

 

 突然の室長の指示に驚きつつも足を止め、水の砲台を固定する。湿り気と疲労で気持ち悪い全身を解しながら歩いていくと──いた。

 

 森の入り口付近の大樹の頂点に、ピンクの髪と肩が見えた。ここから見てもわかるほどに頬を緩めている。

 

「あっ、悠馬くん! お疲れわんだほーい!!」

「うわ危なっ…というか、『わんだほい』なんて久しぶりに聞きましたね」

「えへへ、野村さんとお父さんお母さんがニコニコしてるんだもん!!」

 

 樹上から自分の目の前に降って来た室長は、空を仰ぎながら満足そうな笑みを浮かべた。そして、その視線を自分へと向けて。

 

「これからも、迷惑をかけちゃうかもしれないけど──一緒に、来てくれる?」

「──ええ、もちろん!」

 

 室長の顔がぱあっと輝く。その様子に照れ臭くなってしまい、自分も空を見上げてしまった。

 

「あ、そうだよ! こういう時の言葉なんだから!」

「…まさか、私も言うパターンですか?」

「えへへ、大正解! いくよ、せーの──」

 

「「わんだほーい」!!!」

 

 空想みたいにふんわりした雲の浮かぶ青天には、自分達のかけた大きな虹が浮かんでいるのだった。

 





 はい、ようやく一段落つけました。
とりあえず、このあと少しの間は番外編が続くと思います。
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