こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 ひと段落したのでのんびり書いてたら、なんか期限過ぎちゃうしワンダショイベストが拙作と完全分岐するし、もうてんてこ舞いです



幕間:もっともっと、あなたへ労いを

 

 ほとんどの人がいなくなった土産物屋。少年の手を硬く握りしめて呆然とする男がいた。

 そこに、青年が目にも留まらぬ速さで店に飛び込んでくる。そのまま男の手から少年を引き抜くと、彼の背を出口の方へと優しく押し出した。

 

 だが、自分には見えていたのだ。あの男が手に持っていた物が。

 声を上げようとしても、喉も、唇も、動かない。

 

 次の瞬間。

──アカい液体が迸り、青年は倒れるようにうずくまった。

 

 目をギラギラと輝かせた男は、視線をこちらに向け──。

 

 

「ああああああああっっっ!!!」

 

 絶叫と共に跳ね起きる。荒げた呼吸と共に見渡すと、そこは勝手知ったる、兄弟達の眠る大布団の端っこだった。

 

「はあっ、はあっ、はあっ…ゆ、夢か…」

「うーん……お姉ちゃん、大丈夫…?」

 

 息も絶え絶えに呟いた()()に、寝ぼけた末弟が声を掛ける。いまだ寂しがり屋の性格が抜けない弟は、いつも長女である彼女の隣で横になるのであった。

 

「…うん、大丈夫。それよりあんた、明日は学校でしょ?

早く寝なよ」

「はーい……」

 

 間延びした返事の数秒後には、もう寝息が聞こえてくる。そんな可愛い弟に口を綻ばせつつも、彼女は自嘲するように独りごちた。

 

「はぁ。なにやってんだろう、ウチ……」

 

 

 ◇

 

 その日は丁度助っ人業務も依頼もひと段落していた。何故か当たり前のようにいる暁山さんと室長と3人でテレビゲームをしていた時のことだった。

 

「ちわっーす、今度の業務依頼を届けに…って、暁山さん!?」

「萊果ちゃん、わんだほーい!!」

 

 部室に、書類を携えてやってきた白城戸さんの絶叫が響き渡った。

 そういえば、彼女のこんな大声は初めて聞いた気がする。

 

「げっ…ど、どうしてここに!?」

「それ、こっちのセリフなんすけど」

 

 いつもなら図太くゲームを続けるであろう暁山さんがギョッと目を剥き、コントローラーを放り出す。ああ、室長が自費で購入した高性能コントローラー(ウン万円)が…。

 

「最近見掛けないなぁと感心してたのに、こんなところでサボってるなんて…」

「いや、暇つぶし──じゃなくて…そう!

インスピレーションだよ、インスピレーション!」

 

 冷や汗をダラダラとかきつつ、明らかに無理のある言い訳をする暁山さんを横目で見つつ、小声で室長へと疑問を投げかける。

 

「白城戸さん、暁山さんと仲悪いんですか?」

「うーん、相性が悪いって感じかな?

萊果ちゃんは生真面目だから、サボってる瑞希ちゃんにプンスカしてるみたいなの。瑞希ちゃんも『年下の子に怒られるのって苦手なんだよね』って」

 

 苦笑しながらそうこぼす室長。

ただ、目の前のやり取りは『プンスカ』じゃ済まないように見えるが…。

 

「ドリームメイク室に迷惑──はかけてないみたいだからいいですが。

でもサボるからにはもちろん、販売部(ウチら)からの依頼は納品されてるんですよね?」

「え? あっははは、いやぁどうだろー…」

「あぁもう、またですか!!?

あなたには何度言えば…!!」

 

 見たことのないような形相で詰め寄る彼女に、さすがの暁山さんもたじたじである。

 

「ええっ!? 瑞希ちゃん、お仕事終わってなかったの!?」

「いやいや、そんなことないって!

ただ、ボクの仕事にも優先順位とか順番とか、他にやることもあるからさ」

 

 えむ室長の驚きももっともである。正直自分も、暁山さんは要領の良さそうな印象から暇な時にだけ来ている物だと思っていた。

 まぁ、ゴニョゴニョ言っているので何らかの事情があるのだろうが。さっきも『暇つぶし』と言っていたし。

 

「毎回『他にやることがある』って言ってますよね? 具体的には?」

「えーと…まずレース生地の仕入れに衣装の依頼複数、それに同居人の世話とサークルの動画制作…ああ、あと今週分のアニメの消化とアイドルのライブのチケット予約、ついでに『夏休みコスメセール』にも行かなきゃ!

 思ったよりもボク、忙しいや!」

「後半、ほとんど余分な用事じゃないですか!!

 

 忙しいなら、サボるなぁぁーーっっ!!!」

 

 ついにキレた白城戸さんの大声が響き渡る。あまりの剣幕に、自分も室長もビクっと震えた。

 

「大体なんなんですか、優先順位って! ベルトコンベア式じゃあるまいし!」

「え、えっと、お得意様のお急ぎ配達だから、いつでも準備できるようにしなきゃ…って、あれ?」

 

 若干震えた声で部屋の隅のバッグを指差していた渦中の人が、突然動きを止めて携帯を取り出す。どうやら着信のようだ。

 

「き、来たぁぁー!!

ゴメン莱果ちゃん、お説教はまた今度聞くから!」

「えっ、まだ話は終わって──」

「…あっ、もしもーし♪」

 

 焦る彼女を尻目に、部屋の隅で楽しげに電話に出る。

 憔悴しきった顔の白城戸さんは、フラフラとこちら側の椅子に腰を下ろした。

 

「…なんというか、大変だな」

「萊果ちゃん、大丈夫?

私達も瑞希ちゃんに、程々にするように言ってあげるよ?」

「…いえ、大丈夫っす。元はと言えばウチが言い出したことなんで、なんとか矯正させます。

それに…」

 

 明らかにくたびれた声の白城戸さんがこちらを見上げながら続ける。

 

「お二人の手を煩わせるわけにはいきません。なんたって命の恩人ですし──何も返せていないのに、迷惑ばかり積み上げちゃ悪いですから」

 

 そう言った白城戸さんの目は今さっきの疲労か、あるいはなんらかのストレスか。

 

 酷く、淀んで見えた。

 

 

 ◆

 

「はいはーい、じゃあこの後すぐねー!

…っと、ごめん皆! ボク、そろそろ出なきゃ」

「へぇ…出るって、なんの用事ですか?」

 

 ウキウキで支度にかかる暁山さんに、白城戸さんが冷たく問いかける。

 

「もちろん、仕事だよ! これからMORE MORE JUMP!の皆に配信で使う衣装を届けに行くんだ〜♪」

「も"っ……!?」

「瑞希ちゃん、愛莉ちゃん先輩達に会いに行くんだね! いいなあー!!」

 

 『MORE MORE JUMP!』。自分ですら知っているビッグネームだ。

 確か9年程前に当時有名だったアイドル、桐谷遥、日野森雫、桃井愛莉を1人の高校生の少女が集結させて出来たグループ。動画配信サービスでの生配信やファン参加型のイベントが特色、らしい。

 

 もはや室長の反応はいつも通りだが、正直暁山さんのお得意様らしい、というのは驚きだ。

 

「暁山さんのお店、そんな人気だったんですね」

「うんうん、アイドルからの依頼も多いよ。

雫ちゃん、愛莉ちゃんと知り合いなんだけど、業界でおすすめしてくれたらしいんだよね」

 

 楽しそうに語る暁山さんを見て、少し認識を改める。このコミュニケーション能力の強さなら納得ではあるが、もしかするとこの人も室長のような人脈オバケなのかもしれない。

 

 そんなことを考えつつ横を見ると、白城戸さんが口をぽかんと開けて固まっていた。

 

「あれ、白城戸さん? どうした?」

「だ、大丈夫…ナンデモナイヨ、ハイ」

「えへへ、萊果ちゃん、みのりちゃんのファンだもんね!」

「ミ°っっ…」

 

 室長の言葉(おいうち)にまたも固まる彼女。

 

「ははーん、道理で…」

「仕方ないでしょう、あなたからモモジャンの名前を聞くとは思わなかったので!」

 

 モジモジしながらそう言った白城戸さんは、徐に赤面しつつ財布からなんらかのカードを取り出した。

 ぱっと見、覚えのあるカードではないが…。

 

「ふんふん。何これ、みかんクラブ会員カード…?」

「そうだよ美麒さん、非公式公認花里みのり皆協ファンクラブ略してみかんクラブ、みのりちゃんが『アイドル界のこたつ』だから自分達はそれを引き立てるみかんになろう、って出来たファンクラブ。みのりちゃんは凄いんだよ、最初はアイドルじゃなかった普通の女の子が3人のトップアイドルに囲まれて散々に叩かれてたのに、あの諦めない心の力で今じゃトップクラスに有名なアイドルグループのセンターだし色んなバラエティ番組に引っ張りだこなんだ。まず可愛いしキラキラしてる、あの笑顔から画面越しなのに皆に希望をあげようって気持ちが伝わってきてドキドキしちゃうし、それに『もっともぉっと頑張るぞお!』ていう、あのフレーズも──」

「あー…分かった分かった、伝わったよ」

 

 うん、とりあえず花里みのりの熱烈なファンなのは伝わった。

 そういえば、サラリーマン時代の話をした時の慰めに掛けられた言葉、聞いたことがあると思ったらこれだった。適当につけてたバラエティ番組で聞いた気がする。

 

 一息に推しの魅力を語り肩で息をする彼女を見て、暁山さんが何かを思いついたようにニヤニヤとし始めた。

 

「へーえ…萊果ちゃん、みかんクラブに入るくらいモモジャンが大好きなんだ〜。

 

──じゃあさ。この後の配達、手伝ってくれない?」

「……えっ?」

 

 その申し出に白城戸さんの動きが一瞬止まる。数度の瞬きの後、目に見えて冷や汗をかき始めた。

 

「えっ? それってモモジャンの皆に会えるってことですよね。

…これ、新手のドッキリか悪質な冗談ですか?」

「そんなことないって! 荷物は重いし悠馬くんに頼もうと思ってたんだけど、折角なら喜んでくれる人と行ける方がいいじゃん?

それに、萊果ちゃんにも日頃から迷惑かけちゃってるしね」

「…その、本当ならめっちゃ嬉しい申し出なんすけど」

 

 困惑しつつも、興奮しているらしく頬を上気させている彼女がおずおずと言う。

 

「ウチとしては、暁山さんへのデカい恩が出来ちゃって。まだお二人にも返せてない状況なのに、これ以上は…」

「お礼とか、そういうのは気にしなくていいんだけどなー」

 

 言葉の裏に、彼女の価値観が垣間見えた気がした。なるほど、義理堅いというか真面目な部分はこういった損得勘定のうえで成り立っていたのか。

 だが、その生き方はあまりにも──。

 

「うーん。萊果ちゃんって案外、自分に重きを置くタイプなのかな? まあ、ボクも人のこと言えないけど。

──じゃあさ、こう考えてみようよ。『誰かに受けた恩は、また知らない誰かを助けることで返す』感じで、誰かの笑顔のために使ってみる、みたいな?

それこそ『明日への希望を届けるために』、とかね」

「誰かの、笑顔に…?」

 

 ハッとさせられた表情で呟く彼女。それがドリームメイク室やフェニックスワンダーランドの理念に通じるものだったためか、はたまた普段の生活でも考えさせられていたものだったのか。

 

「でも、仕事をサボるのは」

「うん、そこは大丈夫だと思うよ?

ねえ、えむちゃん、悠馬くん?」

「うんうん! 販売部の人達に連絡して、ドリームメイク室への派遣のお仕事ってことにしとくね!」

「我々も暇なんで、シフトの穴も埋められますから。

だから白城戸さん、存分に楽しんでくるといいよ」

「皆さん…」

 

 どうやら自分と鳳室長の考えていたことは同じだったようだ。目を潤ませる白城戸さんにサムズアップを向ける。

 

「お言葉に甘えて、いってきます」

「それじゃあこれ持ってー、レッツゴー♪」

 

 片手に荷物と彼女を連れ、嵐のような勢いで暁山さんが出ていった。

 数秒して、白城戸さんがドアから顔を出す。

 

「鳳室長、美麒さん、ありがとうございます。

暁山さんの言葉もありますけど、なにか困ったことがあったら遠慮なく頼ってくださいね」

「ああ、その時は助けてほしい」

 

 その言葉にニコッとした彼女は、そのまま廊下の方へと引っ込んでいった。

 

 

 ◆

 

 余談だが。

 

 後日、白城戸さんの暁山さんへの態度が急に軟化したらしい。聞けば、『先達へのリスペクトは欠かせない』とのこと。

 

 どうやら、暁山さんは例の『みかんクラブ』の創設メンバーらしい。やはりあの人、その筋では結構有名なんじゃないだろうか。

 

 どうあれ、フェニックスワンダーランドから諍いが1つ消え、笑顔が2つ増えたのは良いことである。

 





・MORE MORE JUMP!

 大学卒業後も同じように活動を続け、今ではアイドルの名を挙げるのなら必ず出てくる程度の知名度。大体Pe○fumeくらい。
 桃井愛莉はそのトーク力やアドリブ、進行適正を買われてテレビ番組の司会に、日野森雫はそのルックスからまたも女優、モデル方向に、花里みのりはリアクションの良さや巡り合わせの良さ(大抵小さなハプニングが起こる)などからバラエティのゲストやリポーターとして引っ張りだこに。桐谷遥はその3人のマネージメントに奔走している。

 だが、どれだけ個別の仕事が増えてもなお、4人集まっての生配信やイベントは絶対に欠かさず、その理念も変わらない。

2023/09/02 16:22 一部表現を分かりやすく改変しました
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