こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 慣れないイングリッシュ、カロリーが高い…



幕間:vivid memories with a friend

 

「なあ美麒、今日飲みにいかないか?」

 

 とある休日の朝、亀山にそう誘われてシブヤに呼び出された。どうやらいい店があるとのことなので、奴に着いていく、と…。

 

「あの…本当にここ通るのか?」

「大丈夫だって! 俺のホームタウンなんだぞ?」

 

 少し路地に入っただけで雰囲気が変わる。スクランブル交差点や竹下通りのような雑多な賑やかさから一転して、カラッと乾いた熱気の籠る喧騒や耳を揺さぶるような音が聞こえる。

 ちょっとだけ、治安が悪そうだ。

 

「…おっ、今日もやってるな」

 

 ニヤリとする亀山の視線の先では、いわゆるストリートファッションを着た若者が向かい合い、マイクを構えて声を張り上げていた。

 

「──────!!」

「っ、────!!」

 

「…あれ、歌ってるのか。すげぇ上手いな」

「あんなん、この街じゃひよっこだっての。上には上がいるからなぁ」

 

 専門家ぶる亀山と歌声の響く通りを歩く。確かに、店の人や通行人は少し目を向けるだけだった。これが日常らしい。

 

「お前の歌が上手いのも納得だよ。こうやって歌ってた時期もあったのか?」

「そりゃもちろん。この街で育った奴は、例外なくストリートミュージックに関わるようになるんだ。なんてったって、先達がいるからな」

「へぇ、憧れるくらい有名なのか…どんな名前の人なんだ?」

「人、てかグループだな。俺の子供の頃はRADerとか──知ってるか?」

「いや、全然…」

 

 自分が知らなすぎるだけかもしれないが、全く聞き覚えがない。子供の頃の有名な音楽グループというと──うーん、ASRUNくらいか?

 もしかすると特定の界隈でのみ有名なのか、あるいは。

 

「やっぱ知らないかー。まあ、海外での活動がメインだったからなあ。

でも、今じゃ──っと、ここだな」

 

 足を止めた亀山は通りの一角にある、とあるカフェを示した。飲むってコーヒーのことかよ。

 

「ええと…『WEEKEND GARAGE』?」

「馴染みがやってる店でな、行きつけなんだ。ここでいいか?」

 

 もちろん、とサムズアップをする。こういった店構えなどにこだわることはあまりない。それに亀山の友人ということなら、たとえよろしくない店でも悪いようにはされないだろう。

 

 ニヤっとした亀山が扉を押した。カランカラン、と涼しい音がなる。

 

「いらっしゃーい…って、冬樹じゃん! こんな時間に珍しいね」

「おっす、杏ちゃん。今日は連れとゆっくり話したくてさ──」

 

 店は案外ジャジーで洒落た内装だった。それでいて席も少なくなく、奥にはステージとスピーカーらしき物もある。

 時間故か客のいない店内を見渡していると、カウンターの奥から亀山と話していた女性店員がいつの間にか目の前にやってきていた。

 

「へえ、君が()()美麒くんね。私はここのマスターをやってる白石杏です! よろしくね!」

「美麒悠馬です、よろしくお願いします。

…あの、噂っていうのは」

「えーとね…冬樹の相棒、フェニランの期待の新星、あとは同僚を庇って病院送りになったヒーロー、とか?

いやー、かっこいいね!」

「なんて大袈裟な…」

 

 自分を持ち上げる人の心当たりはそう多くない。隣で目を泳がせる亀山と目が合った。

 

「お前さぁ」

「いや違うぞ、マジで! 期待の新星は言ったが、人質事件のことは知らん!

ランドで厳重に口止めされたから、喋ったとしたら独自ルートで情報手に入れたこh──」

「あれぇ? 冬樹、私の相棒を悪く言うつもり?」

「そういうわけじゃねえって…」

 

 白石さんの言葉に焦り出す亀山が新鮮で、少し愉快な気持ちになった。アイツ、基本的に豪快に笑ってるか真剣な表情かの二面しか人に見せないのだ。

 

 と、そんな風に店頭で立ち話をしていたところ、店の奥から声が掛かった。

 

「おい、ずっとそこで話してちゃあ次の客に迷惑だろ。机は全部拭いてあるから、さっさと座れ」

「東雲先輩、いたんすね」

「マイクの調整とかしてたんだっての」

 

 ステージ裏から男性が雑巾を片手に歩いてきた。どうやらこの店の店員らしい。ついでに亀山の先輩、なのだろうか?

 その店員、東雲さんは自分に気づくとサッと営業スマイルを浮かべた。

 

「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。

…杏、コーヒーはもう入ってるよな?」

「えー、もうちょい話してからでもいいじゃん」

 

 そう文句を言いながらも白石さんがカウンターに入っていく。自分も亀山に先導されて1番奥の席に座った。

 

「メニューはこちらとなっています。ご注文時には声をかけてください」

「あ、ありがとうございます」

「がはははっ、なあ見てくれよ美麒! これが外面極めすぎて二重人格とか言われ始めた先輩だぜ!?」

「…なあ亀山、後輩なら先輩を敬うもんだよなあ?」

「イタタタタ、ギブ、ギブですから!」

 

 こういったまるで家族のような、暖かい人間関係を見るのは学生時代以来だ。その雰囲気を楽しみつつ、東雲さんがナメた亀山(後輩)にアイアンクローを決めるのを微笑ましく眺めていた。

 

 

 ◆

 

「お待たせしました。ブラックコーヒー2つとスコーンです」

 

 亀山と思い出話に花を咲かせていたところ、注文していた『おすすめ』がやってきた。

 東雲さんの営業用のスマイルをぼんやり眺めつつ、亀山と話を──っと、いいことを思いついた。

 

「そうだ、東雲さん。こいつ、なにがきっかけでストリートミュージックからミュージカルに転向したんですか?」

「うおっ、ちょ、おま」

 

 困ったことにこの友人は、こちらの事情にはガッツリと踏み込んでくるくせに自分の事は滅多に話そうとしない。先輩や馴染みの顔であれば気兼ねなく話せるだろうし、事情があれば程よく濁してくれるだろう。

 ということで動揺する亀山を尻目に、東雲さんに期待の視線を向ける。

 

「きっかけ、か。こいつは俺が知り合った時点でストリートやってなかったんですよ。

で、ミュージカルは…なんだっけ、12(ワンツー)か?」

「いや、あの人達には紹介してもらっただけっす。きっかけはテレビ番組ですかね、東京アークランドの特集の」

「あ、私知ってる! 確かショーが日本一のとこだよね、神代先輩が雇われたっていう」

 

 カウンターにいる白石さんが身を乗り出す。

 東京アークランド。日本のテーマパークを語ると某夢の国の次くらいに挙げられることの多い場所だ。世界でもトップクラスにショーに力を入れていて、聞いたところによれば青龍院さんも勧誘されたことがあるらしい。

 

「神山高校に入学した辺りだったかな。色々あってストリートもせずにブラブラしてた俺を見かねて、謙さん──ここの以前のマスターだな、その人がテレビをつけててくれたんだ。それも、俺が来た時だけな」

「マジか。謙さん、いつの間にそんなことを…」

 

 東雲さんが感慨深げに呟く。

というか、そんなに昔からこの店はやってたのか。行きつけと言うのも頷ける。

 

「まああの時は若干荒れてたんで、先輩達を避けてたってのもありますね。んである時、東京アークランドの公演が流れたんすよね。それで主役やってる『玄武旭』って人の歌に惚れ惚れしちゃって。

『こんなに心に訴えてくる、激しくも優しい歌があるのか!』って、頭を殴られたみたいでな」

「玄武旭って…すごい、日本の誇るミュージカル俳優じゃんか」

 

 思わず呟く。きっと、それまでの音楽(ストリート)を根底から揺さぶるほどに衝撃的だったんだろう。

 そう考えられるほどに、彼は別格なのだ。

 

「それ見て、俺もこんな歌を歌えるのかなって思ったんだが、それが口に出てたらしくてな。突然謙さんが『人生は長いんだ、やってみればいいんじゃないか』って言ったんだ。それに背中を押されたんだ」

「へえー、父さんらしいな」

 

 白石さんが、うんうんと頷きながら言う。話を聞く限りでも、その人の経験の長さが窺えた。さぞ良い大人なのだろう。

 

 だが、それにしても。

 今のエピソードといい、白石さんや東雲さん、街への態度といい。

 

「…本当に、家族みたいな関係なんだな」

「やっぱそう思うよね! 私達の、自慢の街なんだから」

「がっはは、そこは否定出来ないな!」

 

 白石さんと亀山の二十余年、それは間違いなくこの街に支えられた人生だったのだろう。そして彼は、そこから夢を見つけ走り出している。

 

「俺もここに住めてたらなぁ」

「あ、それはやめといた方がいいぞ。連帯感が強すぎるせいでたった1人の女の子のために、街の全員が2年くらい嘘つき続けてたんだから」

「…えっ?」

 

 なにそれ、怖っ…。優しさが多過ぎても毒ってことか?

 

「ちょ、冬樹! それは結果オーライだって!

あのおかげで私は今も音楽続けて、チームのみんなにも相棒にも会えたんだから!」

「まぁ、そうっちゃそうだが…。

あの時はそれどころじゃなかったが、今考えると結構ヤバいよな…」

「もう、彰人まで!!」

「──だが、あいつらと競えてるのも、目標が消えないのも。この街やあの人達のおかげだよな」

 

 慌てる白石さんとため息混じりに呟く東雲さん。その様子を、亀山は微かに笑みを浮かべて眺めていた。自分の視線に気付いたのか、彼はこちらを見てニヤッとする。

 

「この2人、息ピッタリに見えるだろ? 実は…」

「…えっ? 夫婦?」

 

「「そんな訳ないじゃん(だろ)!!!」」

 

 わあ、息ピッタリ。亀山の悪ふざけに2人同時に反論し、顔を見合わせた。

 

「──ハッ、こんな負けん気の強いヤツに男なんて寄りつくわけねえ」

「はぁ? こちとら凪さんみたいにカッコよく生きるんですぅー。

むしろアンタの方こそ彼女出来る? お姉さん達を見習いなよ」

「違うだろ、アイツらはどっちかっつうと──いや、めっちゃ惚気られてるな…」

 

 まさしく夫婦漫才のようなやり取りを微笑ましく眺める。

と、突然亀山が身を乗り出し、声を潜めて語り掛けてきた。

 

「この様子じゃ大丈夫か…前の件で、やっと吹っ切れたな」

「ああ。てことは、やっぱり自分を気遣って──?」

「がはは、バレてたか」

 

 らしくない様子で亀山は笑う。いつものような豪快な笑顔ではなく、泣いているような、苦笑するような、そんな顔。

 その顔を見たのは1度きりだった。確か──。

 

「大学のサークル勧誘の時、だったっけ? 初めて話しかけて来たのは」

「そりゃ()()()()()()()辛気臭い顔してる奴がいたら、声掛けるっきゃないだろ」

「そんな顔してたのか」

「そりゃもう、酷かったぜ?」

 

 5、6年の付き合いで初めて知った事実だった。確かに当時は周りの様子を伺う余裕すら無かったが、亀山でも分かるほどに憔悴していたのか。

 

「だがまぁ、結果的には良かったろ? 出会えてなけりゃ今頃無職じゃねえか」

「そうだよな。本当、お前にはすごい感謝してるよ。

 

──ありがとな、冬樹(親友)

 

 ここまで彼との出会いがなければ、夢について考えることもなかったはずだ。

 正面から見据え、感謝を伝える。こうやってストレートに感謝を伝えるのは初めてかもしれない。

 

 果たして親友は少しの間赤面してから、口角を上げて返した。

 

「──おう。これからもよろしくな、悠馬(親友)!」

 

 

 ◆

 

「いらっしゃーい…あっ、こはね! 待ってたよー!!」

「ごめんね、杏ちゃん。編集作業でちょっと遅くなっちゃった」

「大丈夫だって、冬弥もまだ来てないんだし!」

 

 カラン、というドアベルから間を置かずに白石さんの黄色い声が聞こえた。

 気になって見てみれば、入り口に立っていたのは自分も見覚えのある人物だった。

 

「小豆沢さん!? なんでここに…」

「あれ、言ってなかったか? 彰人さんと杏ちゃん、それにこはねちゃんとあと1人、4人でチーム組んで歌ってるんだ」

「──あっ、美麒さん!

お久しぶりです。お体の方は大丈夫ですか?」

「はい、お陰様で快調です。あのアドバイスの件も含めて、ありがとうございました」

「お役に立てたのなら、何よりです!」

 

 あの言葉がなければ自分が吹っ切れることもなかったので、小豆沢さんにはどこかでお礼を言いたいと思っていたのである。ここで出会えてよかった。

 話についていけずキョトンとしていた亀山だったが、思い出したように彼女に問いかけた。

 

「…そういや、今日はVivid BAD SQUADで歌うんだよな?

あわよくば美麒にも世界レベルの歌声、聞いてもらおうと思って来たんだが…」

「そのつもりだけど、聞いてくれる人がいるなら嬉しいな。美麒さん、退院祝いに聞いていってもらえませんか?」

「ええ、是非。楽しみです」

 

 小豆沢はにこりと微笑むと東雲さん、白石さんの待つカウンターの方へと駆けて行く。

 

 彼らを絶賛する友人の話に相槌を打ちつつ、自分は胸に期待を膨らませるのだった。

 





 オリキャラ掘り下げ、原作ユニットの描写、伏線ばら撒き、全てを兼ね備えるのが幕間です。書いてて楽しい

・Vivid BAD SQUAD

 VividsとBAD DOGS、2つのグループの合同ユニット。今も変わらずにビビッドストリートのWEEKEND GARAGEを拠点に活動している。
 小豆沢こはねは特技を生かして出版社に就職、青柳冬弥は教職に就く。一方で白石杏と東雲彰人はWEEKEND GARAGEで働き始め、ひとしきり教えた謙さんは杏に店を譲って余生を生き始めた。
 彼らは『伝説の夜』をみんなで、かつ今後も続けられる形で超えるために、まずは夢に果てたRADer(古瀧大河1人)に打ち勝つことを目標とした。そろそろ直接対決のために挑戦状を叩きつけ、4人で休暇を取って渡米する予定。

 夢の果ては未だ遠く。それでも街の人々の応援を背に受け、彼らは歌い征く。
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