こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 さて、第2章です。作者のモチベーションが続くことを祈りつつ。



人形劇・胡蝶の花道を
幕開けに歯車は軋み始める


 

「──それでは、良い1日を!」

 

 深々と頭を下げ、本日の依頼人を見送る。しばらくして顔を上げた自分の目に映ったのは、ある家族連れの楽しそうな後ろ姿だった。

 

「ふぅ、お疲れ様でした…」

「悠馬くん、お疲れ様!

えへへ、みんなとってもニコニコわんだほいだったよね!!」

 

 隣でガバッ、と勢いよく顔を上げた鳳室長が自分の呟きを聞いて嬉しそうに笑う。

 

「最近、やっと軌道に乗ってきた気がしません?

1週間に1、2件くらい来てますし」

「うんうん。こうやってみんなが笑顔になれたらいいなー!

今は、子供達だけだけど──いつか、もっと沢山の人に来てもらいたいね!」

「ははは…まあ、流石に手が回らなそうですけどね」

 

 そんなことを話しながらサービスセンターの中、ドリームメイク室を目指して階段を登っていると。

 

「────── ♪」

 

 ふと、透き通った歌声が聞こえた。この前のビビッドストリートで聞いたものとは違って繊細な、まるでミュージカルのようなもの。

 

 声の主は階段の踊り場に立っている、灰色のセーラー服を着た少女だった。彼女は登ってきた自分達の姿を見ると、ピタリと歌うのをやめた。

 どうも見覚えがある気がする。とりあえず、お客様対応として声を掛けた。

 

「ええと、お客様?」

「…………あのぅ。聞こえて、ましたか?」

 

 少しの沈黙の後、少女は小さな声でそう言った。見間違えでなければ、顔を赤くして震えている。

 …あれ? これもしかして、見ちゃまずかった?

 

「うん! すっごい綺麗な歌声だね!

まるで寧々ちゃんみた──」

「…し」

 

 純粋に褒めようとしたのか、あるいは敢えてぶち壊したのか、空気を読まない室長の言葉に体をビクッと震わせて。

 

「し?」

「し、失礼しましたっ!!」

 

 ピューン、という擬音が聞こえそうな勢いで、少女は自分達の横を通り抜けるように階段を駆け下りていった。

 

「あーあ、行っちゃいましたよ」

「ほえ? ()()()()()()の歌、上手だったのになぁ」

 

 ああ、道理で見覚えがあったのだろうか…?

 釈然としないまま階段を上りきり、廊下を歩く。

 

「あれ? 部室のドアが空いてる?」

 

 どうやら今日はサプライズ続きらしい。さっきの例もあるので、警戒しながらドアを開けた。

 

 

 ◆

 

「おいおいお前達、もう少し防犯意識を高めた方がいいんじゃないか?

俺だったから良かったが、もし何も知らない人が──」

「あっ、晶介お兄ちゃん! わんだほーい!!」

「うぐっ! お前、家以外ではやるなってあれほど…!」

 

 果たして部室の椅子でくつろいでいたのは、室長の兄にしてランドの社長、鳳晶介氏であった。

 家での様子を聞いたことはなかったが、一連の出来事で全てを察した。室長、家でいつも晶介氏に対して垂直に突撃しているのか…。というか、どうやっているんだそれ?

 

「申し訳ありません。来客が思いの外やってくるので、つい…」

「…はあ。本当はえむ(コイツ)にやってもらいたかったんだがなあ…美麒くん、頼むよ」

 

 実際、結構な頻度でやってくる暁山さんや時々の小豆沢さん、それに白城戸さんのような他部署の人々など来客は多い。それでもメリハリは大事だろう。内心で晶介氏と共に嘆息する。

 

「…で、だ。俺は別にそんなことを言いに来たわけじゃあない」

 

 パン、と手を打って彼が本題を切り出す。

 

「お前達、ドリームメイク室の()()()って認識してるか?」

「…ノルマ、というと?」

「この条件を達成できなければ、部署解体になる──って、まさかえむから聞いてないのか!?」

「いや、一応それっぽいのは」

 

──お試しの制度だから、評判が良くなかったらここ潰れちゃうからね?

 

 確か、初めての依頼の時に室長が言っていた台詞だ。冷静に考えればランドとしてありえない行動なので、てっきりその場凌ぎの脅し文句かと…。

 

「おい、えむは?」

「知ってるよ!

お兄ちゃん達が考えた、1ヶ月以内に依頼がたくさん取れなかったら解散、全員めらめらファイヤー!ってやつでしょ?」

「…これは、相当な語弊がありそうだな」

 

 きっと頭を抱えたいのだろう、頬杖をつき眉間に皺を寄せた晶介氏の苦々しい呟きが聞こえた。

 多分室長に対して、一度は既に説明している気がする。

 

「まず、ノルマへの認識そのものが間違っているな。これはあくまで部署を継続出来るだけの利益の最低条件であって、別に存否を問うものじゃない」

 

 なるほど。要するにランドの提示しているノルマというのは、次の期間も十全に部署を回せるだけの利益を得られる目安、というわけか。

 

「つまり、超えた方がいいけど必ずしも必要ではない、と」

「概ねその通りだ。さすがに毎回超えないようじゃ部署が回らないと思うがね。

それに、解体というのも想像通りじゃないだろうな。この部署そのものが試運転期間だから、一旦停止して仕組みを見直すだけだ」

「じゃあ、悠馬くんはクビには…?」

「なるわけないだろう。法律が許さないだろうし、なにより彼を手放すのは惜しい」

 

 こうやって真正面から評価されるのは面映いが、職を失う心配がなくなったのは良いことだろう。

 だが、今の言い方から察するに。

 

「もしそれで、ドリームメイク室が再始動となった場合のメンバーは…」

「まあ間違いなく再編されるだろうな。お前達もバラバラになる」

「──バラバラ!? それはもう嫌だよ!

悠馬くん、なんとしても依頼を増やさなきゃ!!」

 

 バラバラ、という言葉に反応したのか、室長が突然いきり立ち始める。別に今生の別れでもないので、そこまで大袈裟にしなくてもいい気はする。もしくは、「別れ」に何か思うことがあるのか──。

 だが、晶介氏から帰ってきた言葉は予想外のものだった。

 

「いや、その必要はない。なにせ先週の時点で達成されているからな、ノルマは」

「「…えっ?」」

「先月は季節を加味してかギリギリだったが、今月は夏休みなのもありやたらと早かった。例の立てこもりの件のおかげで上層部の好感度も高い。

──断言しよう。この部署を潰されることはない」

 

 数度瞬きをしてから、室長と顔を見合わせる。彼女も同様にぽかんとした顔をしていたが、みるみると頬が釣り上がって。

 

「「い、いやったぁぁぁ!!」」

 

 声が出たのは2人同時だった。それに気づいて更に笑う。この楽しい関係が続くことが、嬉しくないわけがない。

 

 顔を突き合わせて一通り喜んだところで、咳払いの声が聞こえた。晶介氏には気まずい時間であったようだ。

 

「それで、だ。折角軌道に乗ってきたんだ。

えむ。お前、依頼に年齢とかの条件つけてるよな?」

「う、うん。晶介お兄ちゃん、なんで分かったの?」

 

 そこは、自分も薄々勘付いてはいた。突発的なものと室長の知り合いのものを除けば、依頼人は未成年か社会的弱者に限られていた。さすがに怪しいと思うと同時に、制限した上でこれだけ依頼が来るわけない、と半信半疑ではあったのだが。

 

「そんなもん、データを見りゃ分かる。

とにかく、その制限を──そうだな、個人的には1週間後を目安に取っ払ってほしいんだが…そのために、クリアしてもらいたい条件がある」

「恐らく…職員の数、ですよね」

 

 そう、今の自分達に最も足りないのは労働力である。

 今でこそ2人で回しているものの週2回の依頼とそれの下準備、そして突発的なランド内ヘルプなど、実はこれでも薄氷の上を歩いているようなものである。もしもこの状況で制限が解除されようものなら、確実に()()()()()()

 

「その通りだ、美麒くん。話が早くて助かる」

 

 ニヤッとした晶介氏か続ける。隣ではてな顔の室長のことは眼中に入れないことにしたらしい。

 

「予想では週ごとに4件の依頼が来そうだが、2人だと明らかに無理がある。

1人4、5日と考えて、3人だと…そうだな、重複を日曜日に持ってきて…それで、平日であれば2日ずつなら…よし。

とりあえず、週に2日はここに勤められそうな人材を3人くらい用意しておいてくれ。突発的で悪いが」

「1週間で3人ですか…それは、もうちょっと──」

「うん、分かった! 頑張ろうね、悠馬くん!」

「えええ、また勝手に…」

 

 またもや無理難題を引き受けてしまった。まあ、依頼の1つとでも考えてしっかりやろう。

 室長の無茶振りの1つや2つ、なんだというものだ。

 

 早速準備に取り掛かろうとデスクに向かったところで、帰りがけの晶介氏が思い出したように言った。

 

「ああ、そうだそうだ。そういや今月初めの求人で面接した学生に、ドリームメイク室を希望していた子がいたんだ。今日からここに来るらしいから、面倒を見ておいてくれ。それじゃ」

「えっ、学生? それって…」

 

 返事の代わりに返ってきたのは、ドアの閉まった音だった。

 

「えへへ…悠馬くん、新しい子だって。初めての後輩だね!

男の子かなあ、女の子かなあ! 楽しみだな〜!」

「いや、まあそうなんですけど…いや違う、そうじゃなくて!」

 

 デスクをばん、と手で叩く。

見慣れない学生──正直、心当たりしかない。

 

「明らかにさっきの女子高生でしょう!」

 

 ぽかんとした表情で数秒固まった鳳室長は、目に見えて慌てだした。

 

「あーっ! どうしようどうしよう!?

あの子、ここから遠くにいっちゃったかなぁ、それか嫌になっちゃって──」

「室長、一旦落ち着いて…」

「──あのぅ。それって、私のことだったりします?」

 

 突然聞こえた声は、ドアの方からだった。ドアの隙間から、例の少女がおそるおそるこちらを覗いていた。

 

「えっと…君、逃げたんじゃ?」

「いえいえ。あの後、お二方がドリームメイク室に入っていくのが見てたので、ずっと様子を伺ってました!」

 

 失礼しまーす、と声を上げて彼女が部室に入ってくる。

 なるほど、確かに前に見た宮益坂女学院の制服だ。ただしあの時と違って黒色のブラウスを羽織ってない──って、あの時?

 

 あっ、思い出した。

 

 かくして目の前の、()()()()()少女はニコリと笑いながら言った。

 

「鳳えむ室長、初めまして。そして美麒さん、()()()()()()()

 

宮益坂女学院1年、応河(はる)です!

これからドリームメイク室で働かせて頂きます!

よろしくお願いしますね!」

 





 はいレギュラー陣追加、オリキャラ一丁入りました。
こういう明朗快活(意味深)な女の子はいいですよね。

 ちなみに、本当はこの話の投稿をプロセカ進学と揃えたかったんですが…

2023/09/16 13:55 誤字修正しました
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