こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
3周年おめでとう!(フライング)(遅刻の言い訳
ワンダーステージの舞台裏にある、何らかの機械やダンボールの積まれた一画。その奥に、目当ての人物がいた。
何やら、茶色い人形のようなものをイジる少年に声をかける。
「烏丸くん、お邪魔します。頼まれていたものを持って来たよ」
「おっ、待ってました! どれどれ…」
青いスモックのような服を着た少年はこちらを振り返りかけていたゴーグルをずらすと、早速新しいダンボールの中身をを検分し始めた。
彼の名前は烏丸八太、16歳のワンダーステージの現メカニック担当である。
そもそもワンダーステージはフェニックスステージとは異なり人数が少ない。それをカバーするために様々な演出や複雑な装置を駆使しており、それが魅力の一つにもなっている。
だがこれらの装置にはやたらと高度な技術が詰め込まれており、少し手に覚えがある役者ですら音を上げるオーパーツであるという。
当然、劇団の仕事と装置のメンテナンスをどちらもこなせる人材など
「…よし、バッチリです。美麒さん、ありがとうございました」
「これぐらいはお安い御用だよ。
…ちなみに、さっきは何を?」
烏丸くんが先程まで扱っていた人形らしきものを指差す。よく見てみると、シンバルを叩く猿の玩具のように見えなくもない。
「ああ、これっすね。これはニホンザルのロボットですね。今日の公演で使う予定なんすよ」
「ロボット!? 時間の進みを実感するなぁ」
「いやまぁ、決められたことをするだけの簡単なロボット…というか絡繰人形ですよ?
AIを搭載してるやつもあるみたいなんすけど、流石に手に負えないんで」
AI ──そういえば室長が言ってた気がする。確か、なんとかロボとか獅子舞ロボがショーを手伝ってくれてた、みたいな。
ダンボールを片付け終えたらしい烏丸くんだったが、人形を隅に退けたかと思うと、こちらにススス、と近寄ってきた。
「で、美麒さん。さっきまで一緒にいた子が、噂の宮女の子っすよねぇ?」
「そうそう、女の子も1人連れて来てって依頼だったからね」
「ほう? じゃあフリー、と。
…アタック仕掛けちゃうか!」
途端にニヤニヤしだす高校生男子。自分はそういうノリとは縁が遠かったので新鮮だ。
「ファーストコンタクト、何がいいと思います?
やっぱ鉄板の『どこかで会ったことある?』とか?」
「同学年とはいえ君留年生だし、彼女は神高生でもないから無理がある気が…。
というか、君には雀原さんがいるんじゃないの?」
「はっ、幼馴染の腐れ縁っすよ。あんな
いかにも嫌そうな顔でそう吐き捨てる烏丸くん。
ちなみに、彼は1年前に雀原さんに無理矢理連れてこられ、紆余曲折の結果雇ってもらうことになったらしい。彼女がそれだけワンダーステージに熱心、というのは伝わる。
「うーん、だんだんあの子どこかで見たことある気がしてきた…これが、運命?」
「間違いなく違うでしょうが。
──あ、そうだ。そんなに話してみたいんだったらさ。少しの間でいいから、ドリームメイク室で働いてみない?」
雑談ついでに勧誘もしておく。文字通り猫の手も借りたいくらいなのだ、恥や外聞、関係性を気にする暇はない。
予想外にも、烏丸くんはしばらくの間真剣に考えていた。こんなにじっくりと考え込んでいる姿を見るのは初めてだ。
「…魅力的ですけど、やめときます。俺が少しいないだけでもワンダーステージは回らなくなるので。
ああ、それと──」
キョロキョロと辺りを見回したかと思うと、彼はさらに自分に近寄り、小さな声で言った。
「それ、絶対に朱音の前で言わないでくださいよ?
あいつは座長の立場的にも、えむさんへの気持ち的にもブチ切れると思います。引き抜き、みたいな?
他の団員以上に、
◆
やるべきこともあらかた終わり、最後に雀原さんにも声くらいは掛けよう。そう考えてステージ裏中心に向かっていると。
「あのぅ、美麒さん…」
声の聞こえた方を見ると、先行していたはずの応河さんが物陰から手招きしていた。
「あれ、どうしてここに?
私とメカニック担当の人で、結構長く話してたはずだけど」
「それがですね…あれ、分かります?」
彼女の指差す先──自分の向かっていたところには、幾人かの人々が集まっていた。それぞれが互いに向かい合い、なんらかの声を上げている。
「明らかな修羅場な雰囲気で、ちょっと話しかけづらいんですよね」
「あー、あれは…ここの劇団員の基礎練習。初めて見ると驚くよね。確か、『風祭式発声練習』だったかな」
「風祭…って、あの風祭夕夏ですか!?
世界的舞台女優の!」
「ああ、多分…」
自分が元々演劇に詳しくないのもあるが、最近は有名人や憧れの人にやたらと会えたりお友達感覚であっている身近な人(約2名)がいるので、感覚が麻痺しているのかもしれない。
「ということは、別に話しかけても…?」
「大丈夫のはず。ただ、自分も挨拶くらいはしておきたいし、一緒に行こうか」
「…はい!」
一瞬間をおいて頷いたことを確認してから、自分は物陰から出る。
そして声を張り上げあっている数名の邪魔をしないように横を通り過ぎた。目を見張らせて佇む応河さんに手招きする。この発声練習、そんなにすごいのだろうか。
奥の机に、台本に何かを書き込み続けている雀原さんがいた。
「やっと来ましたか、しかもあなたが。こちらも余裕がないので、次はもう少し早めにお願いします」
「うーん…出来る範囲で善処するよ」
「絶対しないやつの発言じゃないですか。
…で、そちらの彼女は? 見ない顔ですが」
雀原さんは疲れているのか、眉間を指で揉みながら自分の後ろにいる応河さんを示す。
自分の背後にいた彼女はおずおずと前に出た。
「あっ、新しくドリームメイク室で、は、働くことになりましたっ、応河ですっ!!
あのぅ…その、ずっとワンダーステージで見てました!
お会いできて光栄です、雀原朱音さん!」
「…?
…ふふっ、そうですか。ありがとうございます」
上擦った声での応河さんの言葉に、一瞬不思議そうな顔をした雀原さんは優しく笑った。やはり、ファンからの声援は何よりも嬉しいのだろうか。
だがすぐに先程までのしかめ面に戻り、自分に対して声を掛けてきた。
「この子が今回のヘルプってわけですね。
演技の経験は?」
「あるらしい。歌も結構上手かったね」
「はいっ! ショー関連でしたら何でもっ!」
「…このキョドりも、しばらくしたら治るかと…」
「では即戦力、と。今日は人手は多い方が助かるので、美麒さんも手伝っていただけませんか?」
こんな初めてのことを言うあたり、今回はよほど切迫しているのだろう。幸いこの後に貯まっている仕事もなく、おそらく室長もまだ戻らない。
自分が頷いたのを確認した応河さんは立ち上がるとパン、と手を叩き、発声練習中の人達にも聞こえるように大声を上げた。
「皆さん、本日はお忙しい中来ていただき、ありがとうございます!
トップの一声で、場の雰囲気に緊張感が出る。ここやフェニックスステージのような劇団はこういった雰囲気の切り替えが本当に早い。うちの大学とは大違いだ。
「本日の公演はあと1時間半後。ですが急遽ワンダーステージの団員が出れなくなり、さらに機材トラブルも発生しています。後者に関しては担当が対応していますが、前者は我々にはどうにもなりません。ご協力をお願いします。
それでは読み合わせをしていきます──」
1時間半の間に台本の確認・稽古を行うとは、相当ハードそうだ。説明と同時に手渡された台本に目を通す。
ふむ、題名は…『サマー・アイランドパニック』?
聞いたことのないショーである。
かいつまむと、船旅の途中で遭難したとある吟遊詩人の一座の、流れ着いた南の島での珍道中を描いた話らしい。確かに夏らしいが、南の島でのサバイバルに猿との競争、そこから和解して宴を始める、というのは冷静に見ればツッコミどころが多い。まあ、コメディショーの類らしいので深くは──おや?
この一座の『天真爛漫な吟遊詩人』、何故か心当たりが…。
「念の為に申し上げますと、このショーはワンダーランズ×ショウタイムの座長が考案したショーとなります。恐らく彼ら自身の体験を大幅に脚色した内容だと思われるので、彼らをご存知の方はご参考ください」
そりゃ心当たりもあるわけだ、何故ってまんま鳳室長だし。もしも実話が元なら、実際はどんなことがあったのか気になる。後で室長に聞いてみよう。
そんなことを考えていたからか読み合わせはあっさり終わり、気づけば役の振り分けに話題は移っていた。
自分は裏方で烏丸くんの補佐。妥当だと思いつつ、せめて応河さんには負担の少ない、それこそガヤみたいな役であれと願っていると。
「──続いて、『歌姫の優しき召使』役に、ドリームメイク室の応河春さんを」
「ひゃ、ひゃいっ!」
どうやら彼女の初日も、相当大変なものとなりそうだ。
オリキャラの描写が多すぎて、もう二次創作じゃなく「世界観を借りた別作品」みたいな感じになってしまってる気がする…
せっかくの原作3周年なので。
本作品は、ワンダショ最終イベスト『あたしたちのハッピーエンド』にて類くん考案のフリーランス化が株主会議にて承認されず、そのまま大学3年頃までワンダーステージにて留まり続けた世界線です。
ですので、えむは夢に囚われたままだし、類くんもモヤモヤしたままアークランドに移籍しました。
ちなみに、雀原さんはナイトショーでワンダショにハマりファン化&ショーステージ志望に、応河春はイベスト『Revival my dream』のショーを目撃しています。