こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
毎週更新がきつくなってきた今日この頃、もう隔週更新ですね
周りから聞こえるのは、明るい音楽や期待に胸を膨らませるお客さん達の声。いつもと同じ雰囲気だ。
だが目の前に見える入場ゲートは全く見慣れないものだった。
「ここが、東京アークランド…!」
鳳室長から聞いてはいたものの、まさかアテというのがここのショーキャストであるとは思っていなかった。
東京アークランドと我らがフェニックスワンダーランドはテーマパークの競合相手、言うなれば商売敵である。実際はそこまで剣呑な関係ではないものの、そんな相手から従業員をスカウトするというのは確かに困難だ。
「よし、それじゃあ早速会いに行こう!」
「了解です。…ただ、この状況で行っても大丈夫なんですか?」
こういうところは、いわゆるアポイントメントというやつが必要なイメージがある。室長の事だ、思い立ってすぐに行動に移すので、きっとそんなものはないだろう。たとえ前回上手くいっていたとしても、二回目も同じようにいくとは限らない。
「そこは大丈夫だよ。ほら、あの人が案内してくれるから!」
室長の指差すゲート奥の従業員専用スペースから、一人の男性が手を振っていた。服装からして東京アークランドのキャストのようだが、なぜか見覚えがある気がする。
お客さんの迷惑にならないようにそちらに近づいていくと――道理で、見覚えがあったわけだ。大学時代、亀山にしつこいくらいに見させられたショーのビデオ、そのパッケージを飾っていた人物。
「──まさか、玄武旭、さん…!?」
「そうです、初めまして。噂の悠馬くんに会えて嬉しいよ!」
画面の向こうと変わらない、爽やかな表情でそう言った。
アークランドと聞いた時点でもしやとは思っていたが、まさか、本物に会えるとは。もし亀山を連れてきていたら、狂喜してむこう1週間は使い物にならなくなっていただろう。
「玄武さん、わんだほい! 迷惑かもしれないけど、今日も──」
「大丈夫だって。みんなは違うかもしれないけれど、
彼に連れられ、会場前のアークランドを歩く。どうやら、件の人物はショーステージの方にいるらしい、が…。
どうも先ほどから、不審な反応をされている気がする。職員の人とすれ違う度、背後からひそひそと話し声が聞こえるのだった。まあ確かに、フェニックスワンダーランドに見慣れない制服の人が現れたら噂になるとは思うが、ここまでの遠慮というか警戒心は感じられないはずだ。
同じく気づいているのか、隣を歩く鳳室長も困り顔だった。
「…室長、もしかして昨日何かやらかしました?」
「うーん、何か変なことをした覚えはないけど…」
怪訝な顔の室長が首をひねりつつ、玄武さんの方を見やる。
「…そうだね。多分、
「あの。それって──」
言いかけたところで、彼の足が止まる。何事かと肩越しに前を見ると。
「──やぁ、玄武くんにえむくん、それに…美麒悠馬くん。随分と早い到着だね」
ドライバーを片手に持ちベンチに座って何かをしていた男が、こちらに微笑みながら立ち上がる。
鳳室長がどうしても誘いたい人物──神代類は、自分達を待っていたのだった。
◆
「それじゃ後は水入らずで、ね」
そう言って玄武さんはどこかに去っていった。気を使ってくれたのだろう。本当に、できた人だ。
そんなことを思いつつもそ、神代さんに向き直る。
室長や亀山、雀原さんから聞いた限りでは、『人を吹っ飛ばしたり爆発させたりする
「えぇっと…初めまして。その、どなたから私のことを?」
「そこにいるえむくん、それに瑞希だよ。ふふふ、あまりにも楽しそうに話すものだから、僕も覚えてしまったのさ」
芝居がかった仕草とともに神代さんは言う。名前を知られていたことには驚いたものの、納得はいった。確かに、交友関係の広いあの二人であれば勝手に広まるのも必然だろう。
内心でため息をつきつつ当の本人を見れば、覚悟を決めたのか神代さんを真っ直ぐに見据えていた。
「ねえ類くん。わたしの提案、考えてくれた?」
「…ここに足を運んでくる限りは、僕の答えは変わらないよ」
ゆっくりと周りを見渡すような仕草をしてから、彼は肩をすくめる。
「
「っ、でもまだ、詳しい話も──!」
「そこは、瑞希が時々楽しそうに話してくれているよ。僕だって興味がないわけじゃないんだけれど…」
室長の言っていた通り、曖昧な返事だった。これならはっきり言ってくれた方がすっきりするのだが、なにか、違和感が…。
「また今度、詳しく聞かせてくれると嬉しいな」
「…そっか、分かった!
類くんが戻ってきたくない、ってわけじゃないって知れて良かった。だからあたし、また来るね」
諦めない、何度でも来る。そう、覚悟を決めた声だった。
そして、神代さんは。
「…そうだね。待っているよ」
少し困ったような、しかし嬉しそうな、そんな顔だった。だがその変化は一瞬で、また元の微笑を浮かべて自分に話しかけてくる。
「そういえば悠馬くん、ワンダーステージの烏丸八太くんって知ってるかい?」
「はい。高校一年生のメカニックの子ですよね」
「…そうか、留年したんだね、全く。
彼にこれを届けてもらえるかい?」
そう言うとともに、いつの間にか持っていた麻袋にネズミの人形のようなものが放り込まれる。手早く口を結ばれたそれを受け取った。
「あの、これは一体…」
「ふふふ、ふふふふふ…!」
おっと、怪しげな感じで笑い始めたぞ?
「これは日本古来のの技術を結集して作り出したからくり人形、ネズミくん0号さ。今のからくり人形の原型になったものは江戸時代の代物なんだけれど、どうやらこういった人形自体は室町時代から存在していたみたいでね?
かの有名な織田信長の妹、お市の方に献上されたこともあるらしいんだ。ただ、僕はこのエピソードには懐疑的だけれど、それぐらい貴重なものだったということだね。ともかく、この技術の肝は──」
どうやらスイッチが入ってしまったらしい。烏丸くんの師匠的な立場なのもうなずけた。
──だが、違和感はより深まるばかりだ。一体自分が何に引っ掛かりを覚えているのか、神代さんの話や室長の黄色い声を聞きながら考える。
「わあ、面白そう! 類くん類くん、どんなふうに動くか見せて!」
「残念ながらこれは試作品でね。今度は改良版を作るつもりだから、しばらく待ってもらえるかい?
…それに、これは
「ほえ?」
能天気な雑談、その中で漏らした一言が気になった。袋に入っていることが重要──つまり、烏丸くんに見てもらいたいのは人形そのものではない?
では、彼に見せようとしているのは──。
「……!!」
ばっ、と神代さんの方に振り向く。彼は少し笑みを浮かべながら、口の前で人差し指を立てた。
「室長、フェニックスワンダーランドに戻りましょう。
──多分、もうここに来る意味はありません」
「えっ、悠馬くん!? なんで突然、そんなこと──」
途端におろおろしだす室長。それはそうだろう、なにせ協力してもらうために来てもらった人が相手の味方をし始めたのだから。
しかし自分の推測が正しいなら、ここでの説得はまず不可能だ。たとえ、いくら神代さんが乗り気であったとしても。
「室長、信じてください。今、この場所じゃダメなんです」
「………分かった。悠馬くんを信じるよ」
正面から自分を見据えた室長はしばしの逡巡の後、こくりとうなずいた。
安心してほっと息をつき、改めて神代さんに言う。
「今日は付き合っていただいて、ありがとうございました。
…機会があったら、また会いましょう」
「そうだね…フェニックスワンダーランドと東京アークランドが仲良く出来るようになったら、また会いたいねえ」
最後まで食えない人だ。相当なやり手ではあるが、こんなに優しい人だとは思わなかった。
神代さんに背を向けて、歩き出す。振り向きたい意思をこらえ、前だけを向いて歩を進めるのだった。
えむさん、アニメで思ったより強い勢いで突っ込んでますね…