こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
1月はせわしないので、出来るだけ書き貯めたい所存
森を望める高台、そこから少し行った傾斜に花畑はある。今の季節に咲いているのはラベンダーとひまわりで、独特な香りが鼻をくすぐった。
もっとも、この時間ではその景色の魅力は半減しているが。この花畑には、何故かライトアップが無かった。
「イルミネーションとまでは言わないんで、せめて照明は設置しません?」
「わたしもそう思うんだけど、お兄ちゃんが『わざわざ夜に花畑、森方面に向かうやつはいない』って…」
「あー、それは確かに…」
晶介氏の言い分はもっともなことだった。ニーズがなければ、費用の無駄になるだけかもしれない。
──そう考えると、神代さんのここへの指定は適切なのだろう。
そんなことを室長と話しながら、対象の2人を待つ。
ちなみに、サポートの2人には上がってもらった。本人たちはまだまだやる気に満ちており不満そうだったが、事故にあった同僚にそのまま働いてもらうのは忍びない。近日中に病院に寄ることを厳命した上で、今度夕飯を奢ることを条件にに帰らせたのである。
どうにか室長に肩代わりしてもらえないか、などと考えていると。
「ども、戻りましたよー」
「あっ、春ちゃん! ここまでお疲れ様!」
制服姿の応河さんが屈みながら、花畑を縫うようにやってくる。彼女がいなければ今日の連携すら取れなかった、冗談抜きのMVPだ。
用意していた飲み物を渡しつつ、労いの言葉をかける。
「今日は本当に助かった。疲れたでしょ、しっかり休んで」
「…ぷはぁっ、いやいや、相当疲れましたよ。
こんなスニーキングミッション、生まれて初めてです」
いつもよりも張りのない声が、その疲労を物語っていた。満足したのかペットボトルを置いて一息ついた彼女は、上目遣いで自分を見る。
「…それで、あの。本当にこれで大丈夫なんですか?
差し出がましいかもですけど、もっと粘れば──」
そこまで言って応河さんは、花畑をゆっくり歩いてくる本多さんと彼に目を向けた。そりゃあ半日も行動を共にし、彼女ともコミュニケーションをとっているとなれば気持ちの入りようが自分たちより強いのも当然だ。花吹雪などの祝福の準備だけ、という現状に納得がいっていないのだろう。
だが。
「大丈夫、諦めたわけじゃない。まだとびきりの秘策が残ってるからね」
「あれ、そうなんですか!? それならこんなに引っ張らなくとも…」
「まぁ苦肉の策というか、自分でも不満な部分が残るというか…」
「え~!? でもでも、凄いステキだし友葵ちゃんも喜んでくれそうだけどなぁ」
ニコニコと語る鳳室長と対照的に、自分は微妙な表情をしているのだろう。
どうやら自分とは違い、彼女は最初からなんとなく『何かある』と察していたらしい。道理で失敗続きでもあまり焦っていなかったものだ、と合点がいった。
「一体、どんな…」
「見てれば──っと、そろそろだ」
2人がここから少し離れたところにあるベンチに腰かける。あいにく会話の内容までは分からないが、その様子からも本多さんが内心気が気でないことは分かった。ここまで失敗続き、さらに連絡もぱったりとなくなれば不安にもなる。
何やら少し会話をした後、彼氏の方が立ち上がった。
──初めに気付いたのは、音だった。
ブブブブ…と硬質な音が、文字通りそこら中から聞こえる。だが、不思議と不快ではない。その音が一際高くなったかと思うと同時に、ひまわりの花畑から現れたのは。
「あれって、ドローン…?」
鋼鉄製の足に複数の小さなプロペラ。まごうことなきドローンであった。
それらがそこらかしこのひまわりの影から顔を出す。
その数は、優に10、20を越していた。
無数のドローンは微かに駆動音を響かせながら、静かに上空へと上昇していく。夜の闇に紛れ、その姿が見えなくなった、その次の瞬間。
「うわぁ……!」
「綺麗だね……」
隣から感嘆の声が聞こえる。
上空で瞬くドローンからの光が、美しい花を形作っているのだった。正に、神秘的な光景だった。
「こんな凄いもの、いつの間に用意してたんですか?」
「…これ、実はね。本多さんのお相手さんからのサプライズなんだ」
「「えええっ!??」」
室長と応河さんの反応に苦笑を漏らす。自分も、神代さんから言われたときは同じ反応だった。
──彼…三宅くんは僕の高校時代からの友人でね?
──特技のガジェットを使ってプロポーズがしたい、と大分前から相談を受けて手伝っていたんだ。
都合よくドリームメイク室に籍を置くことになったのでプロポーズ場所を提供しようとしたところ、彼女側がしびれを切らしてプロポーズを依頼しに来ていた、なんて…。
そんな真相、推測できるわけがない。偶然とは恐ろしいものである。
「…そっか。だから類くんは、プロポーズを先伸ばしにしようと頑張ってたんだね。
友葵ちゃんと彼氏さん、二人とも笑えるように、って」
「そうですね…ただ、そのためにみんなの努力をポシャらせるのはいただけないですけど」
「えっ? あんなに失敗続きだったの、神代さんのせいだったんですか!?」
「…ふふっ」
この感動的な状況の中で一人困惑する応河さんがなんだかおかしくて、少しだけ笑ってしまった。
「あははは、でもこれで、みんなニコニコわんだほいだね!」
「ふふ…そうですね」
まだはてな顔をする応河さんを尻目に、室長と笑い合いながら本多さん達に目を向ける。
夜空に神秘的な赤い花が揺らめく下で、
◆
遡ること少し前、神代さんに会いに行った時の事だった。
「──そんな理由があるんだったら、なんで共有してくれないんですかねぇ!!」
神代さんに三宅さんの話を聞いた自分は、半ギレで叫んだ。変に勘繰っていたり、他のメンバーに悟られぬようにここに向かったりしていた自分が馬鹿みたいに感じる。
そんな自分の内面を知ってか知らずか、神代さんは微笑んだまま続けた。
「それにしても意外だね。まさか、そこまで本気で僕を咎めに来るだなんて」
「…私って、そんなに血も涙もない男に見えるんですか?」
そもそもここに来た第一の理由は、亀山と白城戸さんを危険な目に合わせたことに対して文句を言うためだ。
腹に一物あることは察していたし、妨害の理由や着地点も知りたかったが──それ以上に、大事な仲間と、今後の信頼関係の方が重要だった。
「ふふふ、まさかね。これは僕の失態だし、彼らにもすまないと思ってるさ。
…でも、君はそういうのには無関心なタイプだと考えていてね。違ったかい?」
「昔の話です、今はもう違いますよ。
なにせ──夢中で、やってますから」
その言葉に目を細めた神代さんは。
今までのような謎めいたものではない、クシャッとした笑いを見せるのだった。
「それはなにより。これでこそ僕も、君達を試した甲斐があったものだよ」
「…へ?」
「ほら、三宅くんのプロポーズを成功させるだけなら、こんなに妨害する必要はないだろう? 君達の対応力の限界が見たかったのさ」
「………そういうとこですよ、全く」
すごいな、妨害に関しては全然反省している様子がない。流石に
「せめて、室長には伝えといてほしかったっすね」
「えむくんはほら、腹芸はあまり得意ではないからね。
それに
何か本人にしか分からない意図を含めた言葉を呟いてから、彼は再び立ち上がった。
そして両手をパンパン、と打ち払うと。
「改めて、美麒くん。これからもよろしく頼むよ」
「…頼りにしてます」
こちらに差し出された右の手のひらを、自分は握り返すのだった。
というわけで、類くんコミュニケーション回(長編)でした。
ちなみに彼氏さん、こと三宅くんは百鬼夜行イベの“あの三宅くん”です