こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 最近キヴォトスに赴任しました、ハマっちゃう



アオハルぷろぶれむ

 

 いつも通りフェニラン搬入口で部品を受け取り、それを抱えてワンダーステージへ向かう。そこそこの距離はあるが、もう慣れたものだ。

 

 そんなわけで、ワンダーステージの舞台裏にたどり着いたのだが。

 

「まーた忙しそうだな…」

 

 今日も今日とてワンダーステージ所属の人々や他部署の方々が走り回っていた。だが、いつものような公演前の慌ただしさとは毛色が異なるようだ。

 その証拠に、観覧席に見物人はおらず、むしろ団員が練習に使っていた。恐らく休演日なのだろうが、今日は大々的な練習でもしているんだろうか?

 

 そんなことを考えながら、いつもの作業スペースに足を向けると。

 

「やぁ、美麒くん。この前以来だね」

「ああ…」

 

 こちらの姿を見て、ミステリアスに笑いながら手を振る神代さんと、何故か手で顔を覆って空を仰ぐ烏丸くんがいた。

 

「お疲れ様です。荷物はここに──って、あの、烏丸くん?」

「美麒さん…ふふっ、俺はもう終わりかもしれないや」

「いやほんと、どうしたの?」

 

 神代さんに目配せするも、曖昧な笑いを浮かべるばかりだった。もう、この人は…。

 

「俺、春ちゃんに嫌われたかもしれないよぉぉぉ!!!」

「あーっと…えぇ?」

 

 真っ当に青春な悩みだった。というか、今日のヘルプも応河さんが来てくれる希望に賭けていたのかもしれない。

 

「いやいや…嫌われてるって言っても、どんな感じ?」

「最近、妙に話を切り上げたがったり、目が合った時に目を見開いて顔を背けたり、っすね」

「残念だけれど…僕の経験上、間違いなく避けられてるね。

何かきっかけはあるのかい?」

 

 神代さんが苦笑しながら尋ねる。前々からなんとなく感じていたが、もしかして神代さん、女性経験が出来上がっているな?

 そんな視線を送りつつ、烏丸くんの話を聞く。

 

「えーっと…初めてちゃんと会話した時、あの言葉を最後に言っちゃったんですよね」

「あの言葉…まさか?」

 

──もしかして、どこかで会ったことある?

 

「そりゃ引かれるよ…」

「定番じゃないですか! まさかそこまで嫌われてるなんて、思ってもなかったんで…」

 

 シクシクと泣き真似をしながら烏丸くんは続けた。うん、思ったよりも元気そうだ。

 

「そうだね…美麒くん、彼女はどんな様子だったんだい?」

「露骨に嫌そうでしたね。ただ──嫌ってるってよりは、怖がってるって印象だったような」

 

 まあ、あくまで暁山さんの受け売りなのだが。

 そんな自分を見透かしてか一瞬スッと目を細めた神代さんは、少し考えてから烏丸くんに言った。

 

「一度美麒くんに協力してもらって、話をする機会を作るといいんじゃないかな?

ほら、()()()()も伝えなきゃいけないし、ちょうどいいだろう?」

「…確かに。急にあんなことを言って怯えてるだけかもだし、誤解さえ解ければワンチャン──!

美麒さん、協力お願いします!」

「えぇ…」

「なんなら仕事として頼みます! 依頼料も弾みますから!!」

 

 別にそこまでしなくとも、協力くらいはするのだが。何が君をそんなに駆り立てているんだ?

 

 

 ◆

 

「…はぁ。八太、くだらない事言ってないで働いて」

 

 男3人(実質1人)で馬鹿騒ぎをしていたせいか、どかどかと足音を立ててやってきたのは、額に青筋を浮かべた雀原さんだった。

 

「なんだとぅ!? 人間関係の拗れは重大な問題でしょうが!」

「どうせアンタが余計なこと言ったのが原因よね?

ちゃちゃっと謝れば解決なんだから」

 

 ため息を吐きながらそう語る雀原さんは、いつものことながら疲労が溜まっている様子だった。余計なストレスは毒だろう。

 

「神代さんもお願いします。コイツは尻引っ叩かないと動かないんですから」

「ふふふ、善処するよ」

 

 のらりくらりとニコニコしながら宣う神代さんに、彼女も頭を痛めているらしい。

 ジト目で彼らが作業を再開するのを見てから、自分の方へと向き直った。

 

「美麒さんもちょうど良かった。少し話したいことがあったんです」

「ふむ…これだけ忙しそうってことは、また公演のトラブル?」

「いえ、今回はそうではなく」

 

 雀原さんはさっと舞台裏で駆け回る人々に視線を走らせ、小声で続ける。

 

「そろそろ、月末じゃないですか」

「…そっか、ナイトショーだね」

 

 最近はドリームメイク室が忙しかったので、すっかり忘れていた。そういえばナイトショーの全体総括はワンダーステージの仕事だった。

 自分がフェニックスワンダーランドに雇われてから3度目のないとショーである。初めてのナイトショー──初めての依頼が、もう遠い昔のように感じる。

 

「客足が戻りつつある、というのと夏休みで子供の来園が多い、ということで、いつもと違う脚本──いわゆる夏休みスペシャルバージョンってやつですね。それを企画するように、と上から言われまして」

 

 それで団員総出で準備に掛かり切り、と。

 

「人手が必要なんだね。自分達は何をすればいいのかな?」

「ああ、準備の方は大丈夫です。神代さんがいらっしゃったおかげで、持て余してたオーパーツを実用ラインまで持ってけたので」

 

 最初からこうしてくれれば、と呟きながら彼女は横を見やる。神代さんと烏丸くんが何やら話し込みながら工具をいじっていた。

 

「AI…駆動域…いや…」

「ここの回路…行動パターン…自律思考が…」

 

 漏れ聞こえてくる言葉だけで、既についていけないことが分かる。

 

「それで、本題なんですけど。

──当日、春さんを貸してもらえませんか?」

「…それはまた、どうして?」

 

 普段であれば肯定的な返事の後応河さん次第、という流れなのだが今回ばかりは事情が違う。既にお客さんからの依頼が入っている…つまり、こちらを優先させるだけの根拠が必要なのだ。

 

「さっきも言った通り、今回は特別バージョンなんです。ニーズも夏休みということで小さい子供達にあわせたいんですが…どうも、春さんの受けがいいんですよね」

 

 複雑そうな表情で言う雀原さん。役者として思うところはありそうだが、それを抑えて話を進めている辺りは座長としては流石だ。

 …それにしても。応河さん、もう人気になる程に精力的に活動しているのか。同じ部署の後輩なだけに、なんだか誇らしい。

 

「その様子だと月末も依頼が入ってる感じですよね…。

時間とか、人員の整理とかでなんとかなりませんか?」

「うーん、一旦戻ってみないことには…」

 

 少なくとも理由としては納得できるものだ、可能なら協力はしたい。だが、取材の対応を室長だけに任せることに不安が残るのも事実。

 

 つまり、要相談、と言うわけだ。

 せめて夕方以降に時間が作れればいいのだが。

そう悩んでいるところに、脇から烏丸くんが首を突っ込んだ。

 

「いやー、春ちゃんを無理に引っ張ってくる必要はないんじゃねぇの?

それこそ鳳さんあたりに頼めばお前もハッピーだし、春ちゃんも裏方で──」

「違う! そんなんじゃないから、バカ!!!」

「痛っ、ちょま、それ本気かよ!?」

 

 ボコボコと割と本気の力で烏丸くんを殴りつける雀原さんを微笑ましく見守る。大怪我に発展しそうになったら仲介しよう、と思っていると…。

 

 おっと、メールの着信だ──ふむ?

 

「…へぇ、これは責任重大だ」

「ふぅー、ふぅー……どうしたんですか?」

 

 暴れ疲れたのか、息を切らせた雀原さんがこちらを見上げて尋ねる。

 

「さっき言ってた依頼、テレビ番組の取材なんだけどね。ナイトショーの取材もするんだって」

「取材ですか…まあ、雑誌のやつ(小豆沢さんに)なら何度も受けてるので大丈夫だとは」

「でもでも、テレビなんですよね! 誰が来んのかなぁ、有名タレントかアイドルとか!?」

「おお、正解!」

 

 自分の言葉にギョッと目を剥く愉快な高校生2人に、今朝ドリームメイク室のメンバーも驚いた報せを笑いながら告げた。

 

「取材に来るのは、ただ1人──アイドル界のこたつ、花里みのりだよ」

 





 明日からモモジャンワールドリンクと勘違いして粘ってました
斎藤マネージャーの描写の参考にしたかったのに…
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