こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
tips:フェニックスステージ
フェニックスワンダーランド内でトップクラスの人気を誇るショーステージ、及びショーユニット。新進気鋭なワンダーステージと比較すると、古き良きスタイルを維持しており、根強い人気を誇る。
年齢を問わず、団員のレベルは非常に高い。
現在の団長は、かつて東京アークランド(世界トップクラスとも言われるショーのあるテーマパーク)に勧誘されたほどのハイレベルの演技力を持つ女性、青龍院櫻子。
十分後、結局自分は地図を見ながらフェニックスステージへと向かっていた。
本音を言うと、仕事をバックれて帰りたい。信じがたいが、我が上司である『鳳えむ』があのような調子である。勤務日時や仕事内容はおろか、給料についてさえ、まだ聞かされていないのだ。そもそも、普通なら新設部署に新人を入れるなど、あってはならないのでは?
しかし、こちらも紹介されて入社した身である。とりあえず続けてみてから考えてよう。
というわけでフェニックスステージのあるホールの前に来ると。
「さあみんな、すぐに準備運動を始めなさい!」
「「「はい!!」」」
ちょうど、ホールの中からショー団員らしき人々が出てくるところだった。みな、色はまちまちだがジャージのような服を着ている。恐らく、外でストレッチや発声練習を行うのだろう。ミュージカル同好会でも似たような事をしていたので、あらかたの予想はつく。
場所の指示しかされていないので、とりあえず団長らしき、音頭をとっていた女性に声を掛けた。
「すみません、フェニックスステージの団員の方々、であってますか?」
「ええ、そうですが。って、あら? あなた…」
団長らしき女性が、自分の顔を睨め付ける。そのまま視線を下に向けていくが、それと共に彼女の表情が興味深げなものに変わっていった。
「…あなた、演劇経験者ね?」
なんで分かるのぉ…?
無言で、若干ヒき気味に後退りしたが、彼女は何故か肯定と受け取ったようで、更に続けた。
「その身のこなし、その表情……ズバリ! 新しい団員希望者ね!」
「いえ、私はドリームメイク室の者なんですが…」
「…あら、そう。あのお嬢のところの…」
アテが外れ、残念そうに呟いている。自分のことが、それだけ魅力的に見えたのだろうか?
「…まぁ、どちらにせよ初めてなのだから、名乗らせてもらいましょう。
この私こそ、このフェニックスステージの今期団長、青龍院櫻子よ!!!!」
大仰な仕草とともに、目の前の女性は名乗った。それはもう、ハリのある大声で。このランドには癖の強い女性が多いらしい。
だがどうやら、ここの団長であることは確かなようである。
「…はぁ、よろしくお願いします」
「珍しいわね、そんな薄いリアクションなんて」
ショックだわ、と呟いた彼女は後ろ、ストレッチをしている団員達の方をふりかえった。ショックとは言いながらも、とてもそんな風には見えない、むしろ口角が上がっている気さえする。
「亀山! こちらにいらっしゃい」
「はいよ、なんですか団長…って美麒!?」
「あら、思った通り、彼が件の
あなたに任せるわ。今日1日、彼の面倒を見てちょうだい」
「了解です!…って訳だ、よろしくな!」
団長の直々の指名だからか、はたまた自分と一緒に働けることがよほど嬉しいのか、亀山が興奮気味にこちらに言う。というかコイツ、自分のことを団内で宣伝してたな?
「じゃあ美麒、荷物はないな、準備運動するぞ」
「…へ? 俺も?」
「いえ、ちょっと待って。
…その格好じゃ動き辛そうね。中に予備のジャージがあるから、使うといいでしょう」
「ナイスアイデアっすね、団長!取ってきます!」
「…あの、これから何をするんですか?」
ホール内に駆け戻っていった亀山を尻目に、青龍院さんに問う。この流れだと、自分もなんらかの練習に参加させられそうだ。
「何って、体力作りにきまっているでしょう。ランニングよ。
役者にとって体は資本、良い演技に体力は欠かせないもの」
「いやぁ、最近運動していないんで、体力はあんまり…
って、そうじゃなくて!」
「…もしかしてあなた、鳳えむから何も聞いてないの?」
呆れた、というようにため息を吐いてから、彼女は告げた。
「フェニックスワンダーランドでの
それが、あなたの当面の仕事よ」
◆
「ぜぇ、ぜぇ、…ああ、疲れた……」
「まさかやり切るとはな。途中でギブアップするもんかと思ってたよ」
「はぁはぁ、あんな状況で、出来るわけないだろ…」
ジャージに着替えてきた自分と亀山を待っていたのは、地獄ともいえる体力作りだった。
まず始まったのは10キロメートルのランニング、しかも結構なハイペースである。ランド外に出た時点で察しておくべきだった。
さらにランニング後、戻ってから間髪入れずに筋トレ、腹筋腕立てスクワット、エトセトラエトセトラ。それらを100回3セット。そしてトドメの発声練習。腹式呼吸による発声は、疲労の溜まった腹筋に引導を渡した。今日は災難続きな日のようだ。
『ふぅん、ガッツは一丁前にあるようね。
体を壊してもいけないし、照明を頼めるかしら?』
青龍院さんの寛大な采配が無ければ、明日に起きるであろう筋肉痛がより酷いことになっていただろう。
まだ息切れの続く自分は、亀山に連れられて照明装置の手解きを受けているのだった。
「…っ、ふぅ。大分楽になった」
「そりゃ良かった。ちょうど稽古が始まるぞ」
一度、本番さながらに通しでショーのリハーサルをするらしい。タイミングなどは先程の読み合わせで把握しているので、同好会での経験と
「…相変わらず化け物だな、何でもないようにサラッとやりやがって。
こんの天才め」
「"天才"はやめてくれ、後生だから」
隣で毒づくようにこぼす亀山。ただ単に舞台裏が好きなだけ、好きこそもののなんとやら、というやつである。
フェニックスステージのショーは初めて観るが、なるほど、演技のレベルが全体的に高い。特に青龍院さんは、その動き一つで全ての注目を奪うほどのものだった。ランドで1、2を争うショーステージだと言うのも納得である。
ショーも中盤に入り、一つの山場を超える。確か、この後は少し楽になるはずなので、亀山に話しかけてみる。
「…なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「こいつ、照明の操作中に…。なんだ?」
「うちの室長——鳳えむ、ってどんな人?」
「…うぅん、難しい質問だな」
亀山が悩みながら唸る。あんな人でも知っておきたいと思って聞いたのだが、そんなに難しいのだろうか。
「まあ一言で表すと、奇人、だな」
「…奇人? 変人じゃなく?」
「うんにゃ。変人
懐かしそうな顔で言っているが、自分は大学でそんな存在を聞いたことはない。それ以前の話だろうか。
「お嬢…えむさんは、性格も言動も荒唐無稽なんだが、それ以上に功績がデカすぎるんだよ。
美麒、フェニランのナイトショー知ってるよな」
「ああ。つぎは16日後だっけ? 確か、毎月の月末にやってる———」
「そうそう。あれはお嬢がランド買収に対して、反発のために立てた企画でな。
それが、今じゃランドの名物だ」
確か自分が中3くらいの時に、同年代の間で話題になっていたはずだ。卒業祝いにクラスで行ったので、そこははっきり覚えている。
そういえば、そのショーを主催していたのは…
「それだけじゃない。うちと対をなすショーステージ、ワンダーステージを復興したのもあの人だ。
新1代目…いや、ワンダーランズ×ショウタイムはまさに、生ける伝説なんだよ」
「なら俺、室長を見たのは初めてじゃなかったのか」
「かもな、あっちは覚えてないだろうが。
ただあの人、ランドの事を誰よりも考えてるのに、言動がなぁ…」
あの様子が問題だ、というのはどうやらランドの共通認識のようだ。
亀山の言うとおり、確かに功績だけ聞くと、『今のランドの形を守り、さらに名物まで作り上げた英雄』だと思えてしまう。
「それなら、なんで新設部署なんて立ち上げたんだろうな。
ワンダーステージで団長とかやってりゃいいのに」
「いや、実際2代目座長だったんだが、突然辞任したかと思ったらこれだ。2期の団員との関係が悪くなったのかねぇ。
…っと、そろそろ出番だな」
しっかり頼むぞ、と舞台袖を示される。そこから青龍院さんが出てくるようだ。
自分は頭の片隅で先程の評定を思い返しつつ、主役へとスポットライトを向けるのだった。
ナイトショーについての理解が乏しいので、ある程度はオリジナル設定でいきます
2023/4/20 14:45 ナイトショーに関するセリフを一部追加しました
2023/6/12 11:05 一部会話描写を追加しました