こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

40 / 43

 遅刻ぅ〜っ!



ホップ・ステップ・ハプン①

 

(3、2、1……)

 

『はーい! 現地の花里みのりでーす!

今日は──じゃーん!最近話題沸騰中のテーマパークである、フェニックスワンダーランドに来ていまーす!』

 

(後ろのフェニックス城を両手で示す。カメラ引き)

 

『フェニランはわたしが子供の時からある場所で、なんだか懐かしい気分です!

…まぁ、そのほとんどは雨の思い出なんですよね。えへへ…』

 

『あっでもでも、前に遥ちゃんと来たこともあって──』

 

(その後1分に渡り早口の遥ちゃんトークが続く。“早送り"のメモが貼られる。

キリがついた辺りで斎藤マネージャー、カメラ側から花里さんに駆け寄り耳打ち)

 

『…えっと、そろそろ進めて…?

あっ、ごめんなさい!』

 

(斎藤マネージャー、フレームアウト)

 

『そ、それでは改めまして!

今日はフェニックスワンダーランドで皆に希望を届け続けている場所を紹介するんですが…なんと!

お手伝いの方が来てくれています! どうぞ!!』

 

(手を右側に大きく広げる。そちら側から鳳室長、フレームイン)

 

『こんにちはー! フェニックスワンダーランド職員の鳳えむです!』

『こちらの鳳さん、近頃巷で噂になっているドリームメイク室の室長を勤めていらっしゃいます。他にも人気劇団のワンダーステージの復活、ランドの代名詞とも言えるナイトショーの考案など、正に今のランドを作ったと言っても過言ではない方なんです!』

 

『そして実はわたし達、MORE MORE JUMP!のメンバーの同級生でもあるんです!

今日はよろしくね!』

『はい! 皆が笑顔になれるような場所をたくさん紹介しちゃいます!』

 

『それでは最初の場所へ、いつもみたいに行ってみましょう!

せーのっ……もあもあ〜、じゃーんぷ!!』

 

(掛け声に合わせて2人が跳ぶ。その頂点に達したところで──)

 

 

 ◆

 

「──カット!

チェック入りまーす!」

 

 監督らしきスタッフの大声が、フェニックス城前広場に響いた。

まだ早朝とも言える時間、広場に一般のお客さんの姿はない。

 

 オープニングの撮影の為に出来るだけ人がいない状態を、という彼方からのオーダーがあった。だがいくら早い時間であっても腐っても人気テーマパークである、一般客0人を確約するのは難しい。

 そこで以前神代さんが使用していた、特定の場所に人が流れにくくなるマシン──『閑古鳥くん』を試運転がてら使わせてもらうことにしたのだ。一定の効果があれば、ドリームメイク室の備品として経営部から正式に認可が下る。

…この調子なら採用は固そうだ、とぼんやりしていると。

 

「はい、オッケーです!

次の撮影に移るので、撤収お願いします!」

 

 その一声に、広場の緊張した雰囲気がふっと緩む。少しして、ところどころがガヤガヤと騒がしくなり始めた。

 隣からも、気の抜けたようなため息が聞こえる。

 

「ふー…見てるだけなのに、緊張したぁ……」

「応河さん、お疲れ様。これが何回も続くから、踏ん張りどころだね」

「うへぇ、それはきついですね…」

 

 はぁ、と肩を落としながらも不自然に視線を逸らす応河さん。

──自分もなんとか無視しようと努めていたが、そろそろ厳しくなってきた。

 少しゲンナリしながら振り返ると。

 

「はぁはぁ…どうしたの、2人とも。は、早く、お仕事お仕事(推し事推し事)!」

「推し事…?」

 

 息を荒くした白城戸さん(ドルオタ)が準備万端、と言った様子で早足踏みをしていた。頬を上気させ、危ない目で地団駄を踏む女性──うん、明らかにヤバい人だ。

 

「まあ、そうだね…室長と花里さんを労いに行こうか」

「いやっほう!」

 

 普段は絶対に上げないであろう叫び声と共に、彼女が駆け出していく。

自分と応河さんも、若干引きながらもそれを追って行った。

 

 今回の自分達の役目は、取材撮影の先導と補助。

要するに、ガイド役としてコーナーに出演する他に、撮影自体のスタッフとして動く必要がある。

 応河さんと白城戸さんが行うのはそういった業務の一つ──出演者へのケア全般だった。例えばこのように、撮影の合間に水やタオルを持っていったり。

 

「お疲れ様です、えむ室長! お水どうぞ!」

「ありがとう、春ちゃん!

…えへへ。テレビの撮影って、ショーとか舞台とかよりもガヂガチーッ、てしちゃうんだね」

「ええっ!? 全然緊張してるように見えなかったよ〜!

わたしなんて初めてのテレビの取材の時、噛み噛みで何回もやり直しちゃったし!」

 

 ニコニコしながらも珍しく疲れた様子を見せる室長に、大袈裟に花里さんが驚く。

 初めて直接目にしたアイドル、生の花里みのりは…正直、フェニランで働く女性達と変わらない普通の女性、という印象だった。少なくとも、オーラというか芸能人らしき貫禄は感じられない。

 

 応河さんが若干尻込みながらも2人と話す一方で、白城戸さんは自分の後ろでもじもじとしていた。

 そんな様子が気になったのか、花里さんが首を伸ばして彼女に話しかけた。

 

「どうしたの、大丈夫?

──って、莱花ちゃんだ! この前の握手会以来だね!」

「…え? どうして、ウチの名前を──?」

「ファンの子達…しかも、いっつも来てくれる子を知らない訳ないよ!

──お父さんと弟さん達は、元気にしてる?」

「は、はい…あの、まさか、もしかしてなんですけど、()()()──」

「うん。だから萊花ちゃんが初めてライブに来てくれた時、すっごい嬉しかったんだ。

──お水、ありがとね!」

「へ、へあぁぁ……!」

 

 恍惚とした表情で崩れ落ちる白城戸さん。

 花里みのりのアイドルたる所以を見た気がした。

 

「わわっ、大丈夫!?」

「おっとっと…萊花ちゃんも、みのりちゃんみたいだね」

「「えっ」」

「うう…た、確かにわたしも遥ちゃんにサプライズライブしてもらった時、こうなってたかも…」

「「えっ!?」」

 

 応河さんと同時に声を上げてしまう。

事前情報として同グループの桐谷遥の大ファン(オタク)(by暁山さん)だとは知っていたが、そんな卒倒するレベルだとは。

 自分ですら、流石に気絶するのは──あっ。

 

「美麒さん、大丈夫ですか?

なんか、苦虫を噛み潰したような顔ですけど」

「…いやぁ、自分にも心当たりがあって」

「…えぇ」

 

 応河さんが若干引いたような表情でこちらを見つめる。少しだけ、花里さんと白城戸さんに親近感を抱いた。

 一連のやり取りを見て笑っていた鳳室長が、ふと思い出したように自分に尋ねてくる。

 

「そういえば悠馬くん、斎藤さんのお手伝いには行かなくていいの?」

「あっ…やっば、忘れてました!

応河さん、白城戸さんをよろしく!」

「はいっ、お任せを!」

 

 未だ幸せそうに微笑む白城戸をチラリと見てから、自分は早足でカメラマン達のところへと向かうのだった。

 

 

 ◆

 

 白城戸さんと応河さんの仕事は、出演者のアシストであった。

 では、自分の担当はというと…。

 

「斎藤さん、遅くなってしまい申し訳ありません。花里さん達との会話が弾んでしまいまして」

「いえいえ、大丈夫ですよ。少なくともこの現場は、それを咎められない(ファン)ばかりですから」

 

 監督らしき人のもとで書類を読んでいた斎藤マネージャーは、そう言ってふわりと笑った。

 自分の仕事は、斎藤マネージャーの補助、特にスケジュール周りの検討だった。確かに、出演に回る室長以外でこちらの仕事を行えるのは、自分くらいな気はする。

 

 ということで、この後の取材撮影の行程を打ち合わせる。

 

「──という感じになっています。まぁ、暫定ではありますが…」

「承知しました、大丈夫です。

…そうだ、1つ気になってたんですが。撮影に斎藤さんが写っていたのは──」

「…あぁ、あれですか」

 

 斎藤マネージャーは、自分の疑問に照れたように頬を搔いた。

 

「あれ、モモジャンの方針なんです。自分達が希望を届けるためにファンの皆にも手伝ってもらおう、という話でして。

かくいう私も雫さm…雫ちゃんの大ファンで、収録にも積極的にフレームインして盛り上げてほしい、って言われてるんですよね」

 

 おっと、この人もファンの1人であったか。少なくとも、疑問は解けた。

──だが。この声のトーンから察するに。

 

「そういうのって、辛くはないんですか?」

「…全くないと言うと、嘘になりますね。でも、私が()()()()()()()()()んです。だから楽しいんですよ、これも」

「…ははは。そうですよね、やっぱり!」

 

 顔を合わせた時から薄々感じてはいた。

 

 斎藤マネージャーは、自分──美麒悠馬と似たもの同士なのだ。

そんなシンパシーに似た喜びを噛み締める中で、彼女は、でも、と続けた。

 

「美麒さん達も、今日は気をつけた方がいいかもしれません。

間違いなく、なんらかのアクシデントが発生しますよ?」

「…? その、演出とかですか?」

 

 慌てて首を横に振った斎藤マネージャーは、姉のような、母のような…そんな、若干の諦観を感じる優しい笑みと共に告げるのだった。

 

「みのりちゃんは、何故か巡り合わせが良くなくてですね。収録時に1回以上はハプニングが起きるんです。

──まあ、番組的には撮れ高なので、助かってるんですけどね?」

 





 番組収録の描写に苦労が絶えない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。