こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
遅刻ぅ〜っ!
(3、2、1……)
『はーい! 現地の花里みのりでーす!
今日は──じゃーん!最近話題沸騰中のテーマパークである、フェニックスワンダーランドに来ていまーす!』
(後ろのフェニックス城を両手で示す。カメラ引き)
『フェニランはわたしが子供の時からある場所で、なんだか懐かしい気分です!
…まぁ、そのほとんどは雨の思い出なんですよね。えへへ…』
『あっでもでも、前に遥ちゃんと来たこともあって──』
(その後1分に渡り早口の遥ちゃんトークが続く。“早送り"のメモが貼られる。
キリがついた辺りで斎藤マネージャー、カメラ側から花里さんに駆け寄り耳打ち)
『…えっと、そろそろ進めて…?
あっ、ごめんなさい!』
(斎藤マネージャー、フレームアウト)
『そ、それでは改めまして!
今日はフェニックスワンダーランドで皆に希望を届け続けている場所を紹介するんですが…なんと!
お手伝いの方が来てくれています! どうぞ!!』
(手を右側に大きく広げる。そちら側から鳳室長、フレームイン)
『こんにちはー! フェニックスワンダーランド職員の鳳えむです!』
『こちらの鳳さん、近頃巷で噂になっているドリームメイク室の室長を勤めていらっしゃいます。他にも人気劇団のワンダーステージの復活、ランドの代名詞とも言えるナイトショーの考案など、正に今のランドを作ったと言っても過言ではない方なんです!』
『そして実はわたし達、MORE MORE JUMP!のメンバーの同級生でもあるんです!
今日はよろしくね!』
『はい! 皆が笑顔になれるような場所をたくさん紹介しちゃいます!』
『それでは最初の場所へ、いつもみたいに行ってみましょう!
せーのっ……もあもあ〜、じゃーんぷ!!』
(掛け声に合わせて2人が跳ぶ。その頂点に達したところで──)
◆
「──カット!
チェック入りまーす!」
監督らしきスタッフの大声が、フェニックス城前広場に響いた。
まだ早朝とも言える時間、広場に一般のお客さんの姿はない。
オープニングの撮影の為に出来るだけ人がいない状態を、という彼方からのオーダーがあった。だがいくら早い時間であっても腐っても人気テーマパークである、一般客0人を確約するのは難しい。
そこで以前神代さんが使用していた、特定の場所に人が流れにくくなるマシン──『閑古鳥くん』を試運転がてら使わせてもらうことにしたのだ。一定の効果があれば、ドリームメイク室の備品として経営部から正式に認可が下る。
…この調子なら採用は固そうだ、とぼんやりしていると。
「はい、オッケーです!
次の撮影に移るので、撤収お願いします!」
その一声に、広場の緊張した雰囲気がふっと緩む。少しして、ところどころがガヤガヤと騒がしくなり始めた。
隣からも、気の抜けたようなため息が聞こえる。
「ふー…見てるだけなのに、緊張したぁ……」
「応河さん、お疲れ様。これが何回も続くから、踏ん張りどころだね」
「うへぇ、それはきついですね…」
はぁ、と肩を落としながらも不自然に視線を逸らす応河さん。
──自分もなんとか無視しようと努めていたが、そろそろ厳しくなってきた。
少しゲンナリしながら振り返ると。
「はぁはぁ…どうしたの、2人とも。は、早く、
「推し事…?」
息を荒くした
「まあ、そうだね…室長と花里さんを労いに行こうか」
「いやっほう!」
普段は絶対に上げないであろう叫び声と共に、彼女が駆け出していく。
自分と応河さんも、若干引きながらもそれを追って行った。
今回の自分達の役目は、取材撮影の先導と補助。
要するに、ガイド役としてコーナーに出演する他に、撮影自体のスタッフとして動く必要がある。
応河さんと白城戸さんが行うのはそういった業務の一つ──出演者へのケア全般だった。例えばこのように、撮影の合間に水やタオルを持っていったり。
「お疲れ様です、えむ室長! お水どうぞ!」
「ありがとう、春ちゃん!
…えへへ。テレビの撮影って、ショーとか舞台とかよりもガヂガチーッ、てしちゃうんだね」
「ええっ!? 全然緊張してるように見えなかったよ〜!
わたしなんて初めてのテレビの取材の時、噛み噛みで何回もやり直しちゃったし!」
ニコニコしながらも珍しく疲れた様子を見せる室長に、大袈裟に花里さんが驚く。
初めて直接目にしたアイドル、生の花里みのりは…正直、フェニランで働く女性達と変わらない普通の女性、という印象だった。少なくとも、オーラというか芸能人らしき貫禄は感じられない。
応河さんが若干尻込みながらも2人と話す一方で、白城戸さんは自分の後ろでもじもじとしていた。
そんな様子が気になったのか、花里さんが首を伸ばして彼女に話しかけた。
「どうしたの、大丈夫?
──って、莱花ちゃんだ! この前の握手会以来だね!」
「…え? どうして、ウチの名前を──?」
「ファンの子達…しかも、いっつも来てくれる子を知らない訳ないよ!
──お父さんと弟さん達は、元気にしてる?」
「は、はい…あの、まさか、もしかしてなんですけど、
「うん。だから萊花ちゃんが初めてライブに来てくれた時、すっごい嬉しかったんだ。
──お水、ありがとね!」
「へ、へあぁぁ……!」
恍惚とした表情で崩れ落ちる白城戸さん。
花里みのりのアイドルたる所以を見た気がした。
「わわっ、大丈夫!?」
「おっとっと…萊花ちゃんも、みのりちゃんみたいだね」
「「えっ」」
「うう…た、確かにわたしも遥ちゃんにサプライズライブしてもらった時、こうなってたかも…」
「「えっ!?」」
応河さんと同時に声を上げてしまう。
事前情報として同グループの桐谷遥の
自分ですら、流石に気絶するのは──あっ。
「美麒さん、大丈夫ですか?
なんか、苦虫を噛み潰したような顔ですけど」
「…いやぁ、自分にも心当たりがあって」
「…えぇ」
応河さんが若干引いたような表情でこちらを見つめる。少しだけ、花里さんと白城戸さんに親近感を抱いた。
一連のやり取りを見て笑っていた鳳室長が、ふと思い出したように自分に尋ねてくる。
「そういえば悠馬くん、斎藤さんのお手伝いには行かなくていいの?」
「あっ…やっば、忘れてました!
応河さん、白城戸さんをよろしく!」
「はいっ、お任せを!」
未だ幸せそうに微笑む白城戸をチラリと見てから、自分は早足でカメラマン達のところへと向かうのだった。
◆
白城戸さんと応河さんの仕事は、出演者のアシストであった。
では、自分の担当はというと…。
「斎藤さん、遅くなってしまい申し訳ありません。花里さん達との会話が弾んでしまいまして」
「いえいえ、大丈夫ですよ。少なくともこの現場は、それを咎められない
監督らしき人のもとで書類を読んでいた斎藤マネージャーは、そう言ってふわりと笑った。
自分の仕事は、斎藤マネージャーの補助、特にスケジュール周りの検討だった。確かに、出演に回る室長以外でこちらの仕事を行えるのは、自分くらいな気はする。
ということで、この後の取材撮影の行程を打ち合わせる。
「──という感じになっています。まぁ、暫定ではありますが…」
「承知しました、大丈夫です。
…そうだ、1つ気になってたんですが。撮影に斎藤さんが写っていたのは──」
「…あぁ、あれですか」
斎藤マネージャーは、自分の疑問に照れたように頬を搔いた。
「あれ、モモジャンの方針なんです。自分達が希望を届けるためにファンの皆にも手伝ってもらおう、という話でして。
かくいう私も雫さm…雫ちゃんの大ファンで、収録にも積極的にフレームインして盛り上げてほしい、って言われてるんですよね」
おっと、この人もファンの1人であったか。少なくとも、疑問は解けた。
──だが。この声のトーンから察するに。
「そういうのって、辛くはないんですか?」
「…全くないと言うと、嘘になりますね。でも、私が
「…ははは。そうですよね、やっぱり!」
顔を合わせた時から薄々感じてはいた。
斎藤マネージャーは、自分──美麒悠馬と似たもの同士なのだ。
そんなシンパシーに似た喜びを噛み締める中で、彼女は、でも、と続けた。
「美麒さん達も、今日は気をつけた方がいいかもしれません。
間違いなく、なんらかのアクシデントが発生しますよ?」
「…? その、演出とかですか?」
慌てて首を横に振った斎藤マネージャーは、姉のような、母のような…そんな、若干の諦観を感じる優しい笑みと共に告げるのだった。
「みのりちゃんは、何故か巡り合わせが良くなくてですね。収録時に1回以上はハプニングが起きるんです。
──まあ、番組的には撮れ高なので、助かってるんですけどね?」
番組収録の描写に苦労が絶えない