こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
いつの間にか高評価になっていました!
ありがとうございます!!
ワンダショワールドリンク、類くんから既にボーダーおかしいとは…
「そっか…そういうことだったんだね」
わたしのどもりながらの告白を聞き終えた花里さんは、穏やかにそう言った。もっと大袈裟に驚かれるかと思っていたから、少し拍子抜けだ。
…こんな風に、誰かに本音を打ち明けたのは初めてかもしれない。相変わらずもやもやは消えないが、少しだけ楽になった気がした。
「ありがとうございました、こんな下らない話に付き合っていただいて。
そろそろ室長達も戻ってくると思うので、失礼して…」
「えっと、一体どこに──って、ちょっと待って!」
焦った様子の花里さんの静止の声に振り返る。やっぱり、この流れは強引だったらしい。
でも、こちらだって引くわけにはいかない。
「まさか、ショーに参加しに行くの?
さっきまで、あんなに嫌がってたのに…!」
「…気持ちを吐き出せて、落ち着いたので。
それにどうあれ、
現状を吐露したことで、否が応でもわたし自身の本当の気持ちに気づいてしまった。このまま彼女と話していたら、わたしは──
微かに拒絶の意思を込めて、花里さんと視線を交わす。長い沈黙が続き。
「ねぇ、春ちゃん。わたしが一番大事にしてる台詞、知ってる?」
「…もちろんです。動画とかテレビで、よく聞くので」
『今日がいい日じゃなくても、明日はきっといい日になるかもしれないって思えるように』。
国民的アイドルである花里みのりが、インタビューなどで必ずいう言葉だ。その後に桐谷遥へ愛を叫ぶのも含めて、一般常識レベルの話である。
「あれは遥ちゃんの言葉でもあるけど、わたしはアイドルの──ううん、誰かのために活動する人達、その全てに当てはまる言葉だと思うの。皆、誰かに明日を頑張る希望をあげられるように頑張ってる。
…もちろん、ワンダーステージとかドリームメイク室の人達、それに春ちゃんもだよ?」
えへへ、と花里さんが少し照れ臭そうに笑う。でも、すぐに表情を引き締めて続けた。
「でも、そうやって頑張ってる人達だって同じように、明日を頑張る希望を受け取ることだってあるの。逆にもう頑張れなくなっちゃうくらい、上手くいかないことだってあるんだよ」
「っ………でも、諦めるわけには」
「確かに、諦めないことは大事!
わたしだって、何回アイドルの募集審査に落ちたかな…」
そう言って彼女は懐かしげに目を細める。
そういえば、花里みのりは『不屈のモチベーション』が持ち味の1つだった。
「諦めない、って言っても、ただがむしゃらにやり続けちゃダメ。そのうち、『なんでこんなことを続けてるんだろう』ってネガティブになっちゃうし!」
「もしかして、このもやもやも…?」
「うん、そうなのかも。
だから、そういう時は──1回だけ立ち止まって、後ろや周りを見てみて。
自分がここまで歩いてきたこととか、今助けてくれてる人達がいるってこととかを確認できたら、前よりもっともっと、も〜っとがんばれるようになるから!」
一度、立ち止まる…。
「あれ? それって一旦進むのを諦めてるんじゃ」
「えええっ!? それは、ええと…充電期間とか!?」
「……ふふふっ。冗談です」
わたしのツッコミに慌てる花里さんの様子に、思わず笑みが溢れる。
思い返せば、こうやって笑うのも久しぶりだった。
「わたしも今回くらいは、立ち止まってみても──いや、冷静に考えたら全然良くないじゃないですか!」
「そっか、春ちゃんを目当てに来てるお客さんもいるんだもんね。
どうしよう…」
むむむ、と頭をひねる花里さん。
しばらくそのままだったので、やはりやるしかないと覚悟を決めようとした瞬間。
「あっ、いいこと思いついた!」
「え? 本当ですか!?」
「うん!
お客さんもフェニランの人達も納得がいって、春ちゃんがショーを見つめ直せる、ついでにわたし達の取れ高になる、そんな方法だよ!」
◆
そこからの花里さんの行動は素早かった。
話が纏まるや否や、即座に斎藤マネージャーに連絡を取った。電話中のサムズアップから察するに、良い返事が得られたのだろう。同時にそれを美麒さんにも伝えていたらしく、しばらくして駆け足で私たちのもとにやってきた。
そして。
「応河さん、これ新しい台本!
それのついででいいから、至急出演者全員に持ってって!」
「えっちょっと待っ、まだ衣装とか運んでる途中なんですけどっ!?」
私と美麒さんは馬車馬のごとく働かされた。こんな突然の変更など前例がないのだ、慌ただしくなるのは当然だろう。
そして、それは私たち以外も同様だった。色々なステージの方々やワンダーステージの皆、例外なく駆けるように準備を進めている。
でも、その誰も私を責めることは無かった。恨み言の1つや2つは覚悟していたのだが…。
そんなことを美麒さんに聞く暇もないまま時間は過ぎていき。
気づいた時には、もうナイトショーの直前だった。
「ふふっ、ふう、ふう…あ、あとは…」
「お疲れ様。これで、この依頼でラストだよ」
息も絶え絶えに移動する私に、柔らかく笑いながら美麒さんが告げる。その視線はたくさんの人が集まる夕暮れ時のフェニックス城前広場、そしてその一角の人集りに注がれていた。まるで何かを遠巻きに見ているようなその集団をかき分けていく、と…。
『──という経緯だったんですが、それが当時の若者の間でバズったみたいで』
『それなら私も覚えてます! 確か初回限定でバーチャルシンガーも出てる、って話題になってましたよね』
『えへへ…よ、良くご存知で…』
お、タイミングがいい。ちょうど今朝のような感じで収録をしているようだ。朝と違うのは鳳室長が若干慣れたのかガチガチではないことと、花里さんの代わりに斎藤マネージャーが話を回していることだろう。
あの人、件の番組でもしょっちゅうフレームインするし、地味に人気なんだよね。
『このように、鳳さん達の発案のもと名物イベントとなったナイトショーですが──っと、なんだが雰囲気が変わりましたね?』
『はい、そろそろ始まりそうですね。それに今回は、とあるサプライズも用意してるんです♪』
『サプライズ、ですか?
そんなの、是非ともみのりちゃんにも見てもらいたいんですが…って、あれは…』
段々と照明が弱くなる広場を見渡しながら、撮影を続ける2人。
「…ちょっとわざとらしすぎません?」
「まあこればっかりは、急だからね」
私の小さな呟きに、美麒さんは苦笑いしながら返した。そうこうしてるうちに、久しぶりに聞く、読み慣れた語りが流れ出した。
フェニックス城前にベテランキャストと見慣れた
「…あっ」
「おお、流石花里さん。卒なくこなしてるなぁ」
続いて出てきたのは花里さん。私が演じるはずだった少女の代役だった。
あの時花里さんが提案したのは、わたしの代わりに花里さんがナイトショーにでる、というものだった。確かに彼女には私以上の人気があるし、番組も盛り上がる。実際、周りのお客さんから驚きと喜びの歓声が絶えない。
あとは、わたし自身のことだけだ。
そうやって、ナイトショーを眺めつつも思考の海に沈んでいた。
「…ねえ、応河さん。今日はどうだった?」
「え? そのぅ、どう、とは?」
「ははは、ナイトショーのことじゃあないよ。
元はと言えば私の持ち込みだし、むしろこっちが申し訳ないくらいだよ。しかも、結果こんなに盛り上がっているし」
なんだ、花里さんとの会話がバレているわけじゃないのか。彼女とは念の為、今日のことを誰にも話さない約束をしている。
そうじゃなくて、と続ける美麒さん。
「今日、初めてショーの裏方をやったよね。
どうだい、楽しかった?」
「楽しい、って…なんで、ですか?」
「だってさっきまであんなに忙しかったのに、ずっと楽しそうに笑っていただろう?
初めて会った時の見学依頼だって興味津々だったし、そっち方面に興味があるのかな、って思ってたんだ」
予想だにしない言葉に、私の動きが止まる。だが同時に、妙な納得感もあった。振り返ってみれば、思い当たる節がなくもない。
確かに、昔──小学生の頃、私は彼女達と遊ぶ時は脇役で、舞台装置だったかもしれない。それも、自分から。
「言われてみれば、その通りかもしれませんね。
…改めて、わたしも進み続ける覚悟ができました。ありがとうございます」
本心からの感謝を込めて、頭を下げた。
でも。
知ってしまったこの感情とは、どう向き合えばいいのだろう。
◆
「そうだ、応河さん。この後、用事ってあったりする?」
「いえ、特にないですけど…」
「それなら、ちょうどよかった。
この後、ドリームメイク室の人達と暁山さんと打ち上げするんだけど、どう?」
「え、いいんですか!? 是非是非!」
私としては、こういうイベントには積極的に参加したい。何せ楽しいからね!
「でも、打ち上げなんて初めてじゃないですか?」
「そうだね、これまでは人数も2人だけだったし。
それに、あの2人への奢りも片付けたいというか…まあ、提案は暁山さんからだったけど」
「てことは、そのぅ…期待しちゃっても?」
「ぐぅっ! ふ、懐は痛いけど、任せな!」
「わーい、タダ酒だぁー!」
「飲酒はダメだよ、未成年だよね!?」
「あはは、冗談でーす!」
・花里みのり
人気アイドルグループ『MORE MORE JUMP!』のメンバー、自称アイドル界のこたつ。単推しの非公式公認ファンクラブ、みかんクラブが存在する。
既に知名度の高かった3人に比べド素人だった彼女だが、不屈のモチベーションや対応の上手さ、そしてファン目線の憧れから来る『アイドルよ、常にアイドルであれ』という姿勢からグループトップのファンを獲得した。
基本的にバラエティやファンサで輝くキャラだが、9年も続けているおかげか少しだけ計算高くなっている。
ちなみに、一番好きなアイドルは桐谷遥。彼女のソロ出演イベントにて変装すらせずに客席でペンライトを振り回していた伝説はあまりにも有名。