こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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tips:フェニックス・ワンダーナイトショー

 新1代目ワンダーステージ、通称『ワンダーランズ×ショウタイム』が企画、主導し、ランドの全職員を巻き込んで行われたショー。これが当時の若年層の間、主にSNSでバズり、売り上げが急激に増加した。
 現在は各月末に一度行われる、名物イベントとなっている。ストーリーのモデルは、ランドの創設者とその孫娘らしい。主人公の少女『シャオ』の役は、その年に最も活躍した女性ショーキャストが選ばれている。
 ちなみに、ショーが行われている間、演出の都合上全てのアトラクションが停止する。



お姫様になりたい!①

 

 フェニックスステージでの稽古が終わり、一度ドリームメイク室に戻る事になった。帰り際に青龍院さんから、こう催促があった。

 

『美麒悠馬、あなたフェニックスステージに来ない?

()()()あなたなら団員一同、諸手を挙げて歓迎するわ』

 

 とりあえず検討する、とだけ返しておいた。後で亀山に礼を言いに行った時に冗談だと言われたが、あの目は割と本気だったように思う。

 サポートセンターに戻ると、慌てた様子の室長からなんらかの用紙を手渡された。また地図か、と少しうんざりしながら見ると、なんと雇用契約書。どうやら青龍院さんが室長に連絡を入れたらしい。

 しかも驚くことに、結構な好待遇での雇用だった。つい最近まで不振だったとは思えない。

 

 というわけで、この職場で働くことを決めた。フェニックスステージでの様子から考えると、上司のことさえ目を瞑れば良い職場かもしれない。ちなみにその上司は、これからもよろしくねっ!と跳ねながら言っていた。最後まで、最初の説明不足に関しての弁明が無かったのは気にかかるが…。

 

 そして、2週間後。

 

 

 ◆

 

「お疲れ様でーす、頑張ってくださいね」

「どうも、今日もお疲れ様です」

 

 少しフランクに声をかけてくるようになった警備員のおっちゃんと挨拶を交わし、ランドに入る。

 

 2週間の間、本当にいろんなことがあった。

 毎朝部室に出勤し、その後各部署に助っ人として派遣されるのである。初日のようにフェニックスステージのようなショーステージのほか、土産物屋やフードワゴン、サービスセンターでも補欠として働いていた。幸い、要領はいいので仕事を覚えるのは早く、想像よりも好評されることが多かった。そのおかげか、自分のことを認知してくれていた人が増えた気がしている。

 上司であるところの鳳えむは、相変わらず忙しそうにしている。情報通の従業員に聞いた話では、鳳ビルディングへの出入りが激しいらしい。一体何をしているのだろうか。

 

 どうせ今日もヘルプだろう、と考えつつドリームメイク室のドアを開ける。

 

「おはようございまーす」

「…あっ! おはよう、悠馬くん! 今日ね──」

 

 おっと、何かあったな。こうやって特に勢いよく言葉を発してくるときは、なにかしら(自分にとって)厄介なことがある場合が多い。前は着ぐるみの代役を頼まれたが、あれはトップクラスの重労働だった。倒産直前の前の会社の方が楽…とまではいかないが、気苦労はどっこいどっこいである。

 少しだけ身構え、室長の言葉を待つ。

 

「──やっっっと、お仕事の依頼が来たんだ!」

「依頼、ですか? どこの部署から…」

「フェニランからじゃなくて、お客さんからだよ」

「……え、お客さんから!? なんでですか?

そもそも自分たちの仕事って、ランドの部署のヘルプじゃ──」

「違うよ? それはフェニラン経営部からの依頼ね」

 

 この2週間の仕事は経営部、つまり本社からの依頼だったという。

 突然の判明に混乱しているが、この『依頼』から察するに、ドリームメイク室の仕事とは…

 

 

「わたし達の仕事は、お客さんの叶えたい夢を現実にすること。

要するに、通常は対応できない個別サービスを何とかして提供するってことだね」

 

「……っ」

 

 なるほど、やっと亀山の言っていた意味が分かった。確かに、一人一人のお客さんがそれぞれの希望のサービスを受けられる、というのはまさに()()()()()仕組みだろう。フェニランの名物にもなり得る。

 

 だが、それは文字通り、夢のようなものだ。おそらく、鳳室長が提案し、それがなぜか通ってしまったのだろう。2週間しかこの仕事に携わっていない自分ですら分かるほどに、荒唐無稽が過ぎる。

 

「ちょっと、いや、だいぶ無理がありませんか?」

「その通り! わたしだけじゃ無理だから…」

 

 そう言って、室長はビシッ、と自分の方を指差す。

 

「悠馬くんが必要なんだよ! だから、お願い!」

 

 待遇が妙に良かったのはこのためだったのか。納得はできないが、この仕事をいい感じに片づけて、またヘルプ業務に戻れれば——。

 

「そうそう! お試しの制度だから、評判が良くなかったらここ潰れちゃうからね?

2か月後も働けてるように、がんばろうね!」

「それを先に言ってくださいよ!」

 

 言外にクビ、って言ってるじゃねえか! 

お試しとはいえ中々厳しい条件であることから考えるに、本社もこのサービスが夢物語だと思っている節がある。正直、自分も同じ思いだ。

 

 だが。

 

「分かりました、やりますよ。

こっちだって、ようやく手に入れた食い扶持を失いたくはないんで」

「よかった、ありがとう!

 じゃあまず、依頼の確認だね」

 

 満面の笑みでそう言った室長。

 こちらの準備ができたのを見て、手に持っていた資料をホワイトボードに張り付けた。

 

「今回の依頼人は、35歳のお父さん。

5歳の娘さんを、お姫様にしてほしいんだって!」

「うわあ…そう言う感じできましたか」 

「ロマンチックだよね!」

「……あの、これだけですか?」

「そうだよ?」

「…なるほど、これは」

 

 難題だ、と呟く。せいぜい特別な食べ物の提供を、だとか舞台裏ツアーを、だとか、すぐに実現できそうなアイデアに対応するのかと思っていた。流石に「お姫様になりたい」は予想していない。

 冷静に考えれば女児の夢としてメジャーではあるものの、その幅は広い。加えて、やはりコストも莫大だろう。

 

 つまるところ。

 

「情報量が足りませんね。これだけじゃアバウトすぎて、具体的に何をするべきか…」

「うーん、やっぱりそうだよね……よし!」

 

 何かを決めた室長は徐にスマートフォンを取り出すと、誰かに連絡をし始めた。

 

「…もしもし、こちらはキシダさまのお電話で間違いありませんでしょうか?

…はい、フェニックスワンダーランド・ドリームメイク室の鳳と申します。

先日ご連絡した件についてなのですが…」

 

 室長の電話口での対応は、思ったよりもまともだった。鳳室長の普段の性格、口調を知っている自分からするとなんというか、違和感が半端ない。

 そういえば鳳えむという人物のことを従業員に聞いてみると、「ぎゅんぎゅんずばばばーん」だとか「ぽわんぽわん」とか、よく分からないが童心を忘れていない(・・・・・・・・・)人、という印象だった。この2週間でそんな擬音を使っているのは聞いていないが、今は大人っぽく振る舞おうとしているのだろうか。

 

「はい、それでは失礼いたします…っと。

依頼人のお父さん、この後12時から来れるって!

これで詳しく聞けるね!」

「そりゃあ僥倖ですけど…よくOKもらえましたね」

「依頼の時に、一度来て頂く場合もあります、って言ってあったんだ」

 

 なるほど、室長もこうなることを見越してか、打ち合わせの打診もしていたらしい。

 

「12時ってことは…あと2時間ですか。打ち合わせで何を聞くか、ある程度まとめておきましょうよ」

「いいけど…先に考えておくことってなんだろう?」

「じゃあ室長、依頼人に何を聞くつもりですか?」

「うーん……娘さんの名前と好きなこと、それとお姫様になりたい理由、かな?」

「理由って…いや、そんなことより、一番大事なことを忘れてますよ。依頼人の方の予算について、です」

 

 室長がハッとした表情で固まる。どうやら、本気で気付いてなかったらしい。

 

 そう、予算である。『お姫様』といっても、あらゆる準備に時間がかかる。例えば『シンデレラ』をなぞるなら、最低でもガラスの靴とドレス、それに南瓜の馬車が必要だ。馬車はハリボテで何とかなるにしても、靴もドレスも発注、つまり費用がだいぶかかるだろう。しかも自分たちの利益も確保しなければならない。

 そしてもう一つ。

 

「その女の子にとっての『お姫様(理想像)』が、まだ分からないじゃないですか」

「……」

 

 父親からの依頼であるため、女の子側の理想が分かっていない。極端にはなるが、それこそ『シンデレラ』風のものを用意していたら、『アラビアンナイト』的なものを望まれていた、となっては商売上まずいだろう。

 それに、女の子の希望を聞いておけばその他の準備をする必要がないし、何より予算の削減になるだろう。

 

「…悠馬くん」

 

 黙りこくって自分の説明を聞いていた鳳室長が口を開く。

 

「打ち合わせに同席して、必要だと思うことを聞いてくれないかな…?」

「もちろんです。なんなら、元からそのつもりでしたけど」

「よかったぁ、助かるよ!

…あっ、時間も迫ってるし、席の準備もしちゃおう」

「了解です」

 

 そうして部室の机を持ち上げ、運ぼうとした時に、室長の小さな呟きが聞こえたのだった。

 

「…悠馬くんが来てくれて、ほんとに、よかったぁ」

 

 





 思ったより進まない。

 ちなみに主人公と話す時のえむちゃんは、ある人物の口調をエミュレートして話しています。

2023/5/9 8:25 加筆修正しました
2029/6/12 11:05 一部会話描写を追記修正しました
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