こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
やっと本題の方に入れました
「おねえちゃん、さっきのもういっかい!」
「よーし、やっちゃうぞー!
——すっぱい顔っ! からい顔ーっ! と〜ってもおいしい顔〜っ☆」
「あははははっ!」
後ろの方から女の子の笑い声が響く。
現在、自分の正面には依頼人の男性——岸田さんが困惑顔で座っていた。
本来自分の隣にいるべきである、と言うか打ち合わせの主催者であるはずの鳳室長は、後方で女の子と遊んでいる。
「あの…ご迷惑じゃないでしょうか?」
「大丈夫だと思いますよ。室長も望んで面倒を見ているようですし」
丁度セッティングなどを終えたタイミングでやってきた岸田さんは、娘さん——あかりちゃんを連れて来ていた。当初はサービスセンター1階の託児室に預けよう、と言う話だったのだが、道中で室長に懐いたのか「おねえちゃんといっしょがいい!」と駄々を捏ねてしまった。しかも、それを聞いた室長が
『あかりちゃんとあそ…世話をしとくから、打ち合わせはよろしくね!』
と全てを丸投げしてきた。ていうかあの人、遊ぶって言いかけてなかったか?
ともかく、自分の仕事は全うしなければならない。岸田さんがこちらの出した紅茶を一口飲み、落ち着いたタイミングを見計らって話を切り出した。
「では先ほどに続いて、今回の依頼について幾つかお伺いします。どのような経緯でこの内容の依頼をしたのでしょう?」
「理由、ですか? そうですね…」
自分の後方、室長とあかりちゃんの方に視線を向け、続ける。
「明後日は娘の、あかりの誕生日でして。
うちは裕福ではないので日頃は大した贅沢もさせてあげられないので、誕生日くらいは夢を叶えて上げたいんです」
「そうですか…。
それと今回のサービスについての話なんですが、希望されるサービスについて——」
「あっ、そのことなんだけど!」
後方から、自分の話を遮るように声が掛かる。振り返ると、あかりちゃんと共にこちらを見ている室長がいった。
「『お姫様』みたいに、綺麗なドレスを着て大きなお城からの景色を見たいんだって!
ね、あかりちゃん?」
「うん! それでね、おとうさんにいっぱいしゃしんとってもらうの!」
「あかり…」
ニコニコと笑いながら言うあかりちゃんに、感極まってしまうお父さん。岸田さんはそっとしておくとして、自分は彼女に聞く。
「あかりちゃん、馬車とか、パレードとか、ダンスとかはいいの?」
「だんす? たのしそう!
でも、みんなのまえにでるのはやだ…」
「あかりちゃん、人前に出ると緊張しちゃうんだって」
ダンスについてあかりちゃんと話す室長に対して舌を巻く。ただ遊んでいるだけかと思っていたが、ちゃんと依頼について聞き取りをしていたようだ。実際、岸田さんへの聞き取りだけでは本人の希望が分からなかったと思うので、大きなファインプレーである。
仕事について何も考えていないわけではないようで、室長のことを少し見直した。
その後、岸田さんと細かく情報のすり合わせを行う。
「…ということで、聞き取りはこれで終了です。詳細は後日、メールでお知らせさせて頂きます」
「分かりました。あの、美麒さん」
自分の名を呼んだ岸田さんは、自分の目を見据えていた。
「娘にとって、記念となる日です。どうか、よろしくお願います」
そう言って頭を下げた岸田さんに対して、自分を鼓舞する意味も込めて告げる。
「ええ、もちろんです。
一生の思い出になるような、
◆
さて、困ったことになった。
打ち合わせの後、何を思ったのか室長は詳細を明日に決めよう、という方向性を示した。念のため言っておくが、あかりちゃんの
文句を言おうとしたが、すでに電話を掛けながら部屋を出ていた。何らかの考えはあるかもしれないが、ある程度は自分で考えなければならないだろう。
というわけで、あかりちゃんの接待について頭を悩ませながら、人のほとんど乗っていないバスに揺られていた。バスには自分以外の客は一人、窓に寄りかかって眠っている女性しかおらず、車の駆動音と控えめな寝息しか聞こえない。
『間もなく、フェニックスワンダーランドに到着しまーす』
バスが止まり、運転手のアナウンスが聞こえても寝息は続いたままだった。バスを降りる途中で女性の様子を見てみる。
「…おおう」
強烈な人だった。フリルのついたファンシーな服——いわゆるロリータ服——を着ている。
正直に言うと、こういった人と関わるのはあまり得意ではない。特に偏見があったりするわけではないが、自分とは違って「好きなこと」に全力を注いでいるので、なにやら居心地がの悪さを感じるのである。
(関わらんとこ…)
と心の中で呟きつつ女性の席をすぎ、運転手に礼を言ってバスを降りる。
そのままいくつか出来ている人の列の間を縫い、いつもの警備員のおっちゃんに会釈して、サービスセンターに向かった。
いつものように2階へ上がり、ドリームメイク室のドアを開けると。
「わんだほーい!……ってなんだ、悠馬くんか」
「どうも、おはようございますわんだほい。なんだって何ですか、なんだって」
少し肩を落としたように見える室長に軽口をたたく。これくらいのやりとりを行えるくらいには、親交は深まったと思う。
室長はそわそわした様子で言った。
「えへへ……今日はね、ここにお客さんが来るんだよ」
「もしかして、また依頼ですか!? さすがに対応ができないっすよ」
「あぁ、そうじゃなくて、こっちからお仕事を依頼しようかなって」
お仕事の依頼、つまりなんらかの外注をしようということか。ただそうすると予算が馬鹿にならない気がするが——と、外からどたどたと足音が聞こえてきた。
バタン!と大きな音を立ててドアが勢いよく開く。
「ごめーん、遅れちゃった!バスで居眠りしててさー」
「あっ、瑞希ちゃん! わんだほーい!」
ドアを開けたのはなんと、バスで寝ていたあの女性だった。室長の反応的にこの人が待っていた「お客さん」であるらしい。突然の来訪に驚く自分を尻目に、室長とその人はハグをし、キャッキャッと再会を喜び合った。
「わんだほーい! えむちゃん、久しぶり!
その制服、すんごくカワイイね! ほら、この飴のアップリケとか!」
「えへへ、こだわったところだから気づいてくれて嬉しいな!」
「そりゃ気付くよ! これでご飯食べてるし。
それで、ここが噂のえむちゃんの新部署かな?
本当にこんなところを作っちゃうなんてね~。
部下の人にも恵まれて——って、あっれぇ?」
部屋を見渡す途中で自分を見つけた女性は、いたずらっぽそうな笑みを浮かべた。
「キミ…さっき、バスで起こしてくれずにスルーした人だよねぇ?」
「…えっ、起きてたんですか、あの時!?」
「そりゃもうばっちり!
なんだっけ…『関わらんとこ』って?」
「ヴぇっっ」
本人による声真似で顔から火が出そうになり、変な声が出た。というかあの時、心の声が声に出てたのか。
恥ずかしっ…恥ずかしっっ!!
「ほえ? もしかして、二人とも知り合いだった?」
「いや、今朝初めて会ったんだけどなあ~」
「その節はすみませんというか…」
ぼそぼそと小声で弁明するが、彼女はニヤニヤとこちらの(おそらく赤面している)顔ののぞき込んでいる。当事者でない室長だけは頭にハテナマークを浮かべており、仲裁は期待できそうになかった。
「…あははは! これ以上いじめちゃったら嫌われちゃうかな?
大丈夫だよ、ボクは全然気にしてないから」
「ソウデスカ…」
この人、相当愉快な性格をしているらしい。一応、数刻前の自分の直観は一応正しかったようだ。
「悠馬くん、この人は暁山瑞希ちゃん。服飾関係の仕事をしてるんだ。
フェニランの衣装も作ってくれてるの」
「布の注文に着付けもみんなお任せ、Miagnoまで!ってね。
まあ、自営業なんだけど…」
『
「もしかして、あかりちゃんのドレスの制作をお願いするんですか?」
「…へえ、ドレス? なにそれ、詳しく聞かせてよ」
「二人とも、ちょっと待って! 瑞希ちゃんには確かにお仕事を頼みたいんだけど…」
自分と瑞希さんの間に割って入った室長は、少し言い淀んでから続けた。
「明日のプランを考えたの。お城とドレス、それにきれいな景色。
全部夢の通り、いや、想像以上の
◇
ホワイトボードを使って提示された室長のプランは、なるほど、確かにあかりちゃんの希望以上のものだった。実際に出来れば、間違いなく満足してくれるだろう。
「…確かに良い案だと思います。ただ、これを見る限り障害が三つありますよね」
「うん、予算と場所、それに時間。だからお願い、瑞希ちゃん」
室長は神妙な顔で肯定し、そのまま暁山さんの方を見た。
「どうかな…?」
「——すっっごい、面白そうじゃん! ボクを呼んでくれて良かったよ!
ドレスの製作は引き受けますとも。もちろん、格安でね♪」
「良かったぁ! じゃあ明日はよろしくね!
それと、悠馬くんはわたしと…」
「これからネオフェニックス城の交渉ですね、把握してます」
「うん。明日の段取りもあるし、すぐに始めよう」
室長がリーダーシップを発揮し、仕事の分担をまとめる。彼女がこれほど頼りになる姿を見るのは、初めてだった。
「それじゃあ、あかりちゃんとお父さんの笑顔のために、頑張ろう!」
「おー!」
瑞希さんがノリよく応える。
自分も今日明日の激務に備え、気合を入れるのだった。
はい、というわけで原作からのゲストキャラ1人目、ボクっこ、暁山瑞希です。
作者の推しなので、今後もちょくちょく出るかもしれません。