こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室! 作:偶々弥
ネオフェニックス城、原作でも突然出てきた(はずの)謎の城ですね
作者は某夢の国のシ〇デレラ城みたいなもの、と想定してます。
いつもの1.5倍くらいになりそうです
今日も自家用車で賑わう駐車場、今朝のバスのがら空き具合とは対照的である。そのうちの一台から父一人、娘一人が下りてくるのが見えた。
制服の背筋をただす。冷静であれ、程よく笑顔であれ、と自分に言い聞かせる。
「岸田様、本日はようこそお越しくださいました。
本日はよろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「おにいちゃん、こんにちは!」
「はい、こんにちは。今日は楽しんでね」
「うん!」
元気の良いあかりちゃんの返事に思わずほおが緩みそうになる。
「それでは早速ですが、一度サービスセンターに寄っていただきます」
「あ、分かりました」
「ご案内します、こちらです」
チラッ、と時計を見てから歩き出した。
今回の“プラン”の上では、時間は必要不可欠だった。結構な綱渡りではあるが頑張れば実現は可能、という案を提案してきた室長には驚くばかりである。今回のキーマンとなる瑞希さんには同情心が…いや、あの人は割とノリノリだった。
「好きなこと」を仕事に、とはなんとも──。
さて、出来る限り寄り道をせずに、自分と父娘はサービスセンターにやってきた。
今回使うのは2階、ドリームメイク室──ではなく、1階の空き部屋である。サービス課の課長に無理を言って、なんとか使わせてもらえた。
そして、そこでメジャーを手に待機しているのは。
「まずこちらで、お嬢さんの採寸をさせていただきます」
「担当の暁山です、どうも〜。
あかりちゃん、服のサイズを決めるために、体測ってもいいかな?」
「いいよ…あっ、おねえちゃんのふく、すごくかわいい!」
「でしょでしょー!
あかりちゃんにもこんな服を用意してあげるよ」
それ、ばんざーい、とあかりちゃんに声をかけた暁山さんは、手に持ったメジャーで胴回りの長さを測り始めた。流石暁山さん、もうあかりちゃんと打ち解けている。これなら事がスムーズに進みそうだ。
手持ち無沙汰になった自分に、岸田さんが話しかけてくる。
「あの採寸で、サイズの合うドレスを見繕ってくださるんですね」
「…まぁ、そんな感じです」
実際は少々違うが、とりあえず否定はしないでおく。
正確に言ったことで、この後のパークを楽しめなかったら本末転倒だ。
「しばらく時間がかかるので、そうですね…17時ごろまで園内にいていただけますか?
パークを楽しんでもらって構いませんので」
「え、いいんですか? てっきりこれだけかと…」
「折角の誕生日です、娘さんに喜んでもらいたいでしょう?」
「ええ、そうですね」
と、そんなことを話しているうちに測定が終わったようで、あかりちゃんが岸田さんに駆け寄ってきた。
自分は何らかのメモを取っている暁山さんに言う。
「ずいぶん早く終わりましたね」
「そうだねー、あかりちゃんがじっとしてくれたからかな?」
微笑みながら言う暁山さんに同意しつつ、次いで岸田さん親子に向き直った。
「では、17時ごろにネオフェニックス城前にきてもらえますか。
それまでは当園を存分にお楽しみください」
「ありがとうございます。あかり、どこに行こうか?」
「おさかなコースターいきたい!」
ウキウキな様子でサービスセンターを出ていく親子を二人で見送る。ここからは自分たち、キャスト側の仕事だ。2階へと向かいながら、この後の仕事について確認する。
「私は1階を片付けてから、鳳室長に合流しますね」
「あれ、えむちゃんの交渉終わったんだ」
「みたいですね。いけるところまでセッティングを済ませるつもりです」
「そのあとに販売部?のお手伝いがあるんだっけ。美麒くんも大変だね~」
「もうてんてこ舞いですよ…というか、暁山さんこそ間に合います?
あと6時間ですけど」
「大丈夫だって! あかりちゃん見てたらインスピレーション湧いてきたし」
それに、と続けつつ、ドリームメイク室にたどり着いた暁山さんがドアを開く。
部屋の中には畳まれた布やフリルなどの装飾が所狭しと並べられ、机の上にはドデカいミシンやカラフルな糸が置いてあった。すべて、今朝のうちに暁山さんが運び込んだものだ。
「実はボク、相方のおかげで
◆
時間の経過は体感以上に早いようで、気付けば時刻は16時半。
手に持ったバスケットの中、白っぽい色の腕輪をいくつか取りつつ、隣の人物に声をかける。
「時間なんでそろそろ行くよ。あとは頼んだ」
「おう、忙しいのに悪かったね。元々1人の予定だったが助かった」
この2週間で仲良くなった、販売部の友人がバスケットを受け取ったのを確認して、自分は歩き出した。
今回のプランのミソは「いかに早く作業を進められるか」だ。場所の手配には予想通り時間がかかってしまい、その整備とドレスのオーダーメイドを同時進行で進めることになってしまった。しかも、17時から少しでも遅れると、プランが全ておじゃんになる。もちろん依頼人にはランドを堪能してもらいたい、そのためのハードスケジュールだった。
気持ち速めに歩きながらスマートフォンの着信を確認する。
『ドレスが完成したからネオフェニックス城に持ってくね♪』
暁山さんからの連絡で、さらに何行にも渡ってチャームポイントを説明していた。あの人、本当に5時間で完成させたようだ。性格的に手を抜いたりはしなさそうなので、妥協なしの良い出来なのだろう。
室長も先ほどの時点で交渉を終わらせ、着替え用の部屋などのセッティングをしていたらしい。これなら間に合いそうだ。
後は岸田父娘を待つだけである。
待ち合わせ場所、ネオフェニックス城の裏側に行くと、鳳室長が男性職員の人と話をしていた。
「あとはお願いします。傷つけたり、勝手にアトラクションを動かしたりしないでくださいね。
爆発なんてもってのほかです」
「爆発なんて起こさないよ!
…ありがとう。本当は動かしちゃいけないのに、無茶を聞いてくれて」
「あなたには感謝している人も多いですから。特例ですよ」
そのまま職員は表側の方へ歩いていった。室長はしばらくその姿を見つめていたが、直後にこちらを見つけるとニカっと笑った。
「あ、悠馬くん、お疲れさま!」
「お疲れ様です。中はどうなりました?」
「バッチリ! 瑞希ちゃんさえ来たらいつでも──あ!」
噂をすればなんとやら、暁山さんがトラベルバックを抱えて駆け寄ってくるのが見えた。
「ふぃー、お待たせ…待たせちゃった?」
「ううん、ピッタリなタイミングだよ!」
若干疲れてそうな声の暁山さん。やはりあの強行軍には骨が折れたのだろう。そんな功労者に対し、室長が無慈悲な
「じゃあこの後、あかりちゃんのドレスアップもお願い!
入って真っ直ぐ行った先の左側、カーテンが掛かったところね」
「うひー、りょうかーい。人使い荒いなー、もー」
悲鳴を上げておどけながら、暁山さんがお城の中に消える。普段の自分もこんな感じに扱われているんだろうな、と遠い目をして思った。
◆
「お待たせしました」
「こんばんはー!」
園内が薄暗くなってきた頃、岸田父娘がネオフェニックス城裏に到着した。
「時間通りですね、良かったです」
「どういうわけか、ここまで人の列が出来てて簡単に来れたんですよね」
「…そうですね、表側でイベントもありますから。それでは中へどうぞ!」
鳳室長が父娘を連れて城の中に入る。自分もそれに続き、遠くに流れるアナウンスを聞きながら裏口を閉じた。
ネオフェニックス城の中は、本当の城の廊下のように豪華な造りとなっていた。実際はその裏に従業員用の無機質な通路もあるが、言うだけ野暮である。
しばらく歩くとカーテンのかかっている場所があり、室長はあかりちゃんをその中へ誘導していった。
男性陣──自分と岸田さんは一足先に今日の舞台、城のホールへと向かう。
「おお…!」
煌びやかに装飾された広い吹き抜けに、レッドカーペットが敷かれている。正面の階段の先には外のテラスへと続く扉があった。
「お気に召されましたか?」
「ええ、これならあかりも喜ぶでしょう」
そう思ってもらえたのなら何よりだ。
ネオフェニックス城は普段は『フェニーくんの大冒険』というアトラクションが運用されており、その一部分としてこのホールが使われている。しかし、今日のこの時間だけ運用が止まる、ということでその時間だけ貸してもらえるように交渉していたのだった。
ホールの入口から室長がやって来る。
「こちらへどうぞ、お姫様!」
その後に続いて、青く、豪華なドレスを着たあかりちゃん歩いてきた。その姿に思わず息をのむ。
少女に合うようにデザインされたドレスは、あかりちゃんの可憐さをより引き立てつつ大人っぽい雰囲気を醸し出していた。裾からのぞくフリルやレースがさらにその印象を加速させている。匠、暁山さんの腕前が光っていた。
「パパ、どうかなあ」
「…ああ、とてもよく似合ってるよ」
「えへへ…」
余程うれしかったのか、頬を上気させたあかりちゃんがホールを走り回る。見回す余裕はないようだが雰囲気づくりに一役買っているのであれば、苦労の甲斐があった。
っと、そろそろ時間だ。
テラスへの扉をいっぱいに開けてから、自分はこちらを見上げるあかりちゃんに対して言う。
「こちらから素晴らしい景色がご覧になれますよ。どうぞ」
「え、ほんと!?」
そのままテラスへ駆け込む彼女を追って岸田さん、室長、暁山さん、そしてがテラスに入った。
眼前に広がったのは、ネオフェニックス城の前の広場、そしてその先のランドの一望だった。
しかし、その照明はすべて落とされ、暗い広場に集まった人々のざわざわとした声だけが聞こえる。いつもは活気の溢れるランドが眠ってしまったようだった。
そこへ突然、声が聞こえた。
『──だから、みんなの力を貸してほしいの!!
笑顔の──魔法の力を!!』
それに呼応するように、広場から色とりどりの淡い光が立ち昇る。
なんとも、幻想的な光だった。
「これは、もしかして…」
ぼそり、と岸田さんが呟く。そうして持ち上げた彼のものならず、あかりちゃんや自分たちのブレスレットも淡い光を放っていた。
少女の声は続く。
『みんな…! ありがとう…!!
お師匠、わたし、やります!
みんなの笑顔の力を借りて──
──えいっ!』
一瞬の静寂の後、突如視界が明るくなる。
──圧巻だった。
ランド中の照明が一斉に点灯し、観覧車が、メリ-ゴウランドが、おさかなコースターが……すべてのアトラクションや施設がカラフルにライトアップされる。
その光は普段のものとは異なる──非日常感からか、とても、とても。
とても、輝いて見えた。
「わぁ………!!」
感動の声を上げた、あかりちゃんを見る。
その幼い顔を、あふれんばかり笑顔が彩っていたのだった。
◆
「喜んでもらえてよかったね!」
「はい、本当に」
ゲスト用ゲートの前にて、隣に立つ鳳室長に同意する。自分たちの視線の先には、こちらに背を向けて楽しそうに歩いていく父娘の姿があった。
ちなみに、暁山さんは強行軍が祟ったのか、部室で仮眠をとっていた。
「まさかナイトショーの時間と被せて、アトラクションの都合と最高の夜景を両立させるとは。
私も涙が出そうになりましたよ」
「えへへ、わたしも一生懸命考えたから。
…ねえ、悠馬くん」
しっとりとした雰囲気の中、いつもと違う声色で室長が語り掛けてくる。
「わたし──いや、
そうしたら、その笑顔はぐんぐん広がっていく。笑顔には、そういう、わんだほいな魔法の力があるんだよ」
その言葉に、つい先ほどのやり取りを思い出す。
───今日は、ありがとうございました
───おにいちゃん、おねえちゃん、ありがとう!
そうやって笑顔で感謝を伝えられた時、自分は「意識して」作り笑いをしていただろうか。
「でも少し前に気付いたの。全員を笑顔にすることはできない、ニコニコする余裕なんてない人もいる、って。
そんな人たちにも笑えるようになってほしい、だからドリームメイク室はできたんだ」
そこまで続けて一息吐くと、室長はこちらに正面から向き直った。
彼女の桃色の瞳が自分を見つめる。
「──悠馬くん。あたしに、この部署についてきてきてくれないかな」
岸田さん父娘の言葉を再度思い返す。答えはもう決まっていた。
自分にしては珍しく、執着が出来てしまったのかもしれない。
「ええ、ついていきますよ。ああやって感謝を伝えられるのは心地よいですし」
「ほんと!? …じゃあ、これからもよろしくね!!」
「ええ、もちろん!」
こうして、自分は正式にドリームメイク室の一員となったのだった。
山場の作り方が分からない…
2023/4/28 22:50 誤字修正しました
ご報告ありがとうございます!
2023/6/19 15:00 一部表現を修正しました