こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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今回は日常回です


tips:フェニーくん

 フェニックスワンダーランドのマスコットキャラクターである、丸い体の不死鳥。ペンギンとよく間違えられる。カラーバリエーションがやたら多く、マニアも少なくない。
 月初めになると衣装が変化し、グッズも更新されるので、ショップは戦場と化す。また、短期間ながらその衣装のテーマに応じたショーも行われる。



商売繁盛、招き鳥

 

 これまでよりも軽い足取りでドリームメイク室へ向かう。

 昨日の室長とのやりとりから心機一転、自分はこれまでよりも気合をいれて働くことを決意した。

 

今日は気持ちよく働ける気がする。そんな晴れやかな気持ちで部室の扉をたたいた。

 

「おはようございまーす。今日の依頼は──」

「おはよう!今日は昨日みたいに、販売部のヘルプに行ってきて!」

「……あれ? い、依頼は──」

「あははっ!依頼なんて、そんなポンポン来ないよ」

 

 そう言って笑いながら、鳳室長はいそいそと部室を出ていった。

一人取り残される自分。

 

 訂正しよう。

出鼻をくじかれ、少し暗い気分で仕事に臨むことになりそうだ。

 

 

 ◆

 

 というわけで、やってきたのはゲート近くの売店で。

 

「おう美麒さん、2日連続だがよろしく」

 

そう声をかけてきたのは、販売部の白城戸萊果だった。

 この二週間の間、販売部に赴いたときに面倒をみてもらい、その縁で会えば立ち話をするぐらいには親密な仲になった。金髪のインナーカラーが入っている、一見すると怖い雰囲気の女性だが実際に話すと存外気さくで真面目、いい意味で現代的な若者である。ちなみに、髪は『高校生の時に染めて戻す暇がない』らしい。

 

「白城戸さん、よろしくね」

「…うん? なんか悪い事でもあった?

BAD入ってるみたいな表情だけど」

「いや、ただ調子を狂わされただけでさ」

 

 そんな話をしつつ開店の準備をする。

商品の在庫の確認、レジ開け、キャンペーンのチェックなど、やることは山積みだった。

 初対面の時はこちらのみ敬語だったのだが、次の日にあちらから『タメ口で喋ってくれ』との要望があり、今の形に落ちついている。

 

「つい最近、新入りの大学生がバックれてね。シフトで動いてんだからサボるな、って言った途端にこれだよ」

 

 ぶちぶち文句を言いながらも、テキパキと仕事を進めている。こうやって話をしながら働くのは楽しいが、自分はまだ彼女ほど早く仕事は出来ないので、専ら話を聞く側だ。

 

「ここ、そんなに厳しい環境か?」

「なわけねーだろ。めちゃくちゃ気ぃ使ってるっての。

…ったく、なんで根性がないのかね、酒は飲めるくせに。

ウチはまだ飲もうにも飲めねえのによ…」

 

 大分口調が乱暴になっていたが、手つきは全く変わらない。自分も頑張って──って、ちょっと待ってほしい。

 

「え? 白城戸さん、未成年なの?」

「そうだけど。言ってなかったっけ」

「全然聞いてない…あれ、じゃあなんで──」

「なんでタメ口なのか、って?」

 

聞かれてはマズイようなことを聞いたか、と口を噤むが、彼女はニヤリと笑った。

 

「別に大した理由でもない。

美麒さん、ここ入って3週間じゃん?

んでウチは2年とちょっとだから仕事上は先輩でさ。

でも人生の先輩に敬語使わせるってのは、なんか違くない?」

「分かるような、分からないような」

「え〜」

 

うん、分からん。

 

「でもその話だと、俺が先輩になるんだろ?

そんな『らしい』エピソードは無いんだけど…」

「いや、そんなこと──あ、そうだ」

 

何かを思い付いたらしき白城戸さんは手いっぱいに持っていた『フェニーくんぬいぐるみ(もくもくスタイル)』を棚に並べ切ると、こちらに寄ってくる。早すぎる、自分はまだ籠3つ分も残っているのに。

 そのまま密着するほどに擦り寄ってきた彼女は、上目遣いで言った。

 

「じゃあ失業した時のことを教えてよ、先・輩♡」

「…大した話じゃないぞ?」

「人生経験としては十分だって」

 

 ひとつ、溜め息を吐いた。ぬいぐるみを並べる手を止め、当時のことを思い出す。

 

「──正直、夢とか将来とか、無かったんだよな。

なんとなく就職して、なんとなく生活して、なんとなく歳をとって…

特に夢中になることもなく生きてくんだろうなー、とか考えててさ」

 

「…味気無さそうな人生だね。

夢中になれることの一つくらい、あってもいいのに」

「余計なお世話だ」

 

それに、別にずっとそうだったわけじゃ──っと、その話をしたいわけじゃない。

 

「テキトーに、悪くなさそうな企業をいくつも受けて、やっと受かったところで働き始めた。

残業とかは少なくなかったけど給料は悪くなかったし、人間関係も悪くはなかったから、それでいいと思ってたんだよ」

 

「ふぅん、ちなみにここ(ランド)とどっちが良い?」

「こっちに決まってるでしょ。ありえないくらいの好待遇だぞ?」

「そうなの? ここ以外知らないからさ」

 

「でもしばらくして──半年くらいか、その辺りか。

直属の上司がなんかやらかしたらしくて、会社にまったく仕事が入らなくなったんだ。

そいつは部下とか弱者に威張るような奴だったんだが、付き合い方さえわかれば苦じゃない、みたいなやつでな。結局何をやらかしたかは分からず仕舞だったが、ひっきりなしに罵詈雑言の電話が来るわ、本人は本人で高飛びしやがるわでもう散々。

…それで、三か月くらいで会社が倒産して無職になったんだよ」

 

「ほら、これで満足か?」

「…思ったよりも苦労してたんだね。なんかごめん」

 

 二人そろって顔を落とす。話したことで、暗い雰囲気を作ってしまったかもしれない。

少しの間の静寂が続くが、顔を上げた白城戸さんがそれを破った。

 

「…『今日がいい日じゃなくても、明日はきっといい日になるかもしれないって思えるように』」

 

「……えっ?」

「『あきらめずにがんばればきっといつか、いい日が来る』──ウチの尊敬する人の受け売りだけど。

…だから、挫けず頑張れ」

「あ、ありがとう…?」

 

 どうやら過去の話から、自分がやさぐれていると思われたらしい。

心配させたのは心苦しいが、励ましの言葉はありがたく聞こう。

 それにしてもこの言葉、どこかで聞いたことがあるような。有名人の言葉だろうか?

 

「…あっ、ヤバいもうこんな時間!

美麒さん早く並べちゃって、そろそろお客さんが来る…って、まだ全然終わってないじゃん!」

「うわあ、話に夢中になりすぎてた!」

 

 慌ててぬいぐるみを棚に押し込む。今日も忙しい一日になりそうだ。

 

 

 ◆

 

「疲れた……」

 

 疲労感に包まれながら、サポートセンターまで戻る。

 

 ショップは、まさに“戦場”だった。

あの空間にこれだけの人が入れるのか、と思えるくらいのすし詰めで、レジ打ちですら苦行だった。昼になっても途切れない延々と続くレジ待ちの様子が夢に出そうだ。

 

そんなフラフラな状態で部室に辿り着きドアに手をかける。だが、何か違和感があった。

 

「…あっ、音か」

 

 いつもはランドからの喧騒以外は何も聞こえないのに、今日は何やら音が聞こえる。

しかも、目の前のドア、その先が音の発生源のようだ。そっとドアを開け、隙間から中をのぞいた。

 

『──妹を人質に取られ、絶体絶命なララ。このまま負けちゃうの!?

でも、ミアはそんなララを見て──?

次回もみんな、見てね!!』

 

(これってもしかして、次回予告…?)

 

 隙間から見えたのは背を向けた鳳室長ともう一人の人物、それとその間から漏れる光だった。音の出どころもここのようで、やたら明るい声とBGMがかすかに聞こえた。

 

「ララちゃんぴんぴんピンチだよ、この後どうなっちゃうの~!?」

「そうそう、ここからがアツいところなんだよ!

くぅ~、この後の一週間、ずっとそわそわしてたのを思い出すなあ!」

「ええ~、こんなの待ちきれないよ~っ」

 

 うん、室長と話しているのはだれか、一発で分かった。このまま続けさせるわけにもいかないので、部屋に突撃してしまおう。

 

「じゃあ張り切って、次の話を再生して──」

「いや、させませんよ?」

「「えっ?」」

 

 ギ、ギ、ギ…という音が聞こえるように恐る恐る首を動かし、鳳室長ともう一人──暁山さんがこちらを見る。

 

「…ゆ、悠馬くん…お、お帰りぃ……」

「やっほー、お邪魔してま、す…?」

「どうも……随分と、楽しそうですね?」

 

二人の向いていた先には、中くらいのテレビが置いてあり、少女アニメのオープニングのようなものが流れていた。朝の時点でこんなもの、なかったはずなのだが。

 

「違うの、これは…」

「いや、まだ何も言ってませんて」

 

明らかに何か隠してるじゃねーか…もしかして今朝、妙にそわそわして出ていったのは、このせいか。

 

「…ねえ悠馬くん、お叱りはボクたちも受け入れる。だから、次の話だけ今から見せてくれないかな?」

「この状況でよく言えますね。後で見てください」

 

 がーん、と落ち込む暁山さんから、涙目の鳳室長(元凶)に視線を向ける。

 

「ごめんね、次はちゃんと誘うから…!」

「別に一緒に見たかったわけじゃないですよ?」

「ええっ?」

 

 本当に困惑してそうな顔で、室長がこちらを見る。そんな理由で問い詰めてるわけないでしょう、こちとら知らなかったんだから。

 

「私が言いたいのは、テレビとか(こういうの)を置くなら言ってくれ、ってことです」

「…えっ、えむちゃん、伝えてなかったの!?」

「うん、ごめんなさい。次はちゃんと共有するね…?」

 

 涙ながらの室長の言葉にうなずく。

…なんか、自分が悪者みたいに思えてきた。

 

「よっし、じゃあこれ見ましょうか」

「おっ悠馬くん、ノリいいねぇ!

 それでは再生しまーす♪」

「わーい!」

 

 こうして、ドリームメイク室にテレビという娯楽ができたのだった。

 

 ちなみに、例のアニメは王道的なアツい展開で、普通に面白かった。

 




 今回は原作ネタ多めとなります

2023/6/16 19:15 一部描写を追加しました
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