こちらフェニックスワンダーランド、ドリームメイク室!   作:偶々弥

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 ゴールデンウィーク・ブーストッッッ!!



綿雲に手を伸ばして①

 

 最初の──例の父娘の依頼から3日後、ドリームメイク室に入ると、鳳室長が待ち構えていた。

 

「悠馬くん、わんだほーい! 

なんと、依頼が3つも来たよ!」

「お、マジすか!」

 

 嬉しい限りだ。

2日間も音沙汰のない日が続いていたので、本当にニーズがあるのか不安になっていたのである。

 

「それで、一体どんなのが…」

「えっとねぇ──

小学生の男の子からの『空を飛びたい』、高校生の女の子からの『舞台裏を見学したい』、それに…

えっと、入院してる人からの『フェニランで遊びたい』…かな?」

「なんというか、ピンキリですね」

 

 まず1番実現しやすいのは女子高生の依頼だろう。フェニックスステージかワンダーステージにアポイントを取り、当日に案内を行うだけで済む。入院患者の依頼は…実現は可能だが、現実的には厳しい気がする。恐らく病院側との交渉となるが、依頼人の体調、というか重症度によって成否は分かれそうだ。外傷か内症かも分からないわけであるし。

 そして最初の依頼、これだが…。

 

「──それでね?

後の2つは直近だと予定が合わないんだって。

男の子の依頼から始めちゃおう!」

 

 なるほど。

それは()()の状況だ。

『空を飛ぶ』は恐らく比喩だろうが、どちらにせよ手間がかかりそうであるのが目に見えて分かる。

 

「依頼が抽象的すぎます。

この前と同じように、対面で認識の擦り合わせをした方がいいですね」

「うん。そう言うと思って、明日の午前に打ち合わせを、って伝えておいたんだ」

「流石です」

 

 打ち合わせの後に計画立案、準備、そして実行となるのだろう。こういった指針が出来上がるのは仕事を続ける上では重要なことだ。

 

 果たして2番目はどのような依頼となるのか。一筋縄ではいかない気配を感じるので、気を張っていこう。

 

 

 ◆

 

「つまり、纏めると…『空を飛びたい』って言うのは比喩表現ではなく」

「うん。実際に飛びたいってことだよね」

 

お客を見送ってドアを閉めた鳳室長は、困り顔でそう言った。恐らく、自分も同じような表情をしているだろう。

 

 先程までここにいた依頼人──高橋さんから話を聞いたところ、つまりこういうことらしい。

 一人息子である高橋祥太くんは、今月の初めにランドから帰ってきて以来、『雲をつかめるくらいで、空を飛びたい』と言って聞かないらしい。一度言い出したら聞かないワガママな性格のようで、高橋さんは夫婦共々手を焼いているそうだ。ちなみに、祥太くんは小学生ながら絶叫系が好みらしい。

 

「フェニランで“空”って言うと、『ふわふわ魔法のじゅうたん』かな?」

「うーん…恐らくは。

ただ、ああいったアトラクションがお気に入りなら、なんで突然こんなことを言い出したのか、ちょっと気になるんですよね」

 

何度も乗っているうちに物足りなくなり、さらなるスリルを求め始めたとか…?

それなら他の過激なテーマパークに行けばいいだけであるし、『空を飛ぶ』ことに拘る理由も分からない。

 

「本人に聞いてみたいけど、当日までに会うのは難しいみたい。

とりあえず、どうすれば夢を叶えられるか考えようか」

 

パン、と手を打って言った室長の言葉に同意する。

 

「そうですね。

順当に行くなら『ふわふわ魔法のじゅうたん』にオプションをつけるって感じですが…」

「うーん、どうだろ。依頼人(祥太くん)の性格からして満足してもらえるかな」

 

そのワガママだという性格から、ストレートに夢を叶えなければ満足してもらえなさそうだ、というのは同意見だった。

 

「でも、『空を飛ぶ』だなんて出来ますかね。

ヘリコプターもグライダーもないんですよ?」

「そうだよね、人を空に飛ばすなんて()()()()くらいないと──あっ」

 

何かを思い出した、とでも言うかのように、鳳室長の動きが止まる。

今、何か物騒な単語が出てこなかったか?

 

「そう、人間大砲だよ、悠馬くん!」

「…詳細が聞きたいですね、ロクでもなさそうですが」

「がしゃん、ぐるぐるばびゅーん!…じゃなくて、ええと。

大砲に人が入って、その人を勢いよく打ち出せるの!」

「勢いよくって、具体的には?」

「うーん…最低でもワンダーステージの客席の奥から、ステージの屋根に乗れるくらいかな」

 

確か、ワンダーステージの客席は目測で10メートルくらい、ステージ上の屋根までの高さは4メートルくらいだから…うん?

 

 それ、普通に兵器では?

 

「室長、さすがにそれはやめましょう。流石に危険すぎます」

「でも、安全性はバッチリなんだよ? わたしたちも何回も使ってるし!」

「それ多分、ワンダーステージでの話ですよね?

何の訓練も受けていない子供も安全だ、って断言できます?」

「うーん、それは……でも、そうしないと…」

 

唸りながら、考え込む室長。

 冷静に考えて、小学生が高さ5メートルまで打ち上げられた場合、かすり傷一つなしはありえないだろう。しかも低く見積もって、である。事故の可能性もあるので、安全の確保のための対策(マットを敷いておく、とか?)をしたところで、おそらく100%安全を保障できるとは言えない。

 これで室長も、別の案を考えて──。

 

「あ、そうだ! 開発者の人に安全かどうか、聞いてくるよ!」

「分かってくれて何より──って、ええ!?」

 

 なんでその発想に!?

というか、室長は大砲の開発者とも知り合いなのか。

 いい手を思いついた、というように得意げな顔で室長が続ける。

 

「もしそうじゃなかったら、安全策を考えてもらえばいいし!」

「いや、それは開発者にも悪いのでは…。

というかそもそもの解決になってな──」

「悠馬くん。できない理由を挙げ続けたら、出来ることも出来ないよ?

わたしたちは、出来ないようなことでも実現して、笑顔を増やさなきゃいけないんだから」

「うっ…」

 

そう言われては反論の仕様がない。

いつの間にか外出の準備を済ませていた室長は、ウキウキした様子でドアに手をかけながら言った。

 

「じゃあ悠馬くん、わたしが返ってくるまでに大砲の確認をお願い!

類くんに会いに行くの、久しぶりだなあ!」

 

バタン、とドアが勢い良く閉まり、自分だけが残される。

この後に残されたやるべきこと、そして今の状況に、思わず頭を抱えた。

 

「うっそだろ…」

 

 

 ◆

 

 さて、一度冷静になって考えてみよう。

 

 今回の依頼は、『空を飛びたい』ということ。そしてそれに対し違和感を感じながらも、自分たちは人間大砲で祥太くんそのものを飛ばしてしまおう、と検討している。

 確かに合理的ではあるが、やはり納得できない。あの人(鳳室長)の発想や実行力には目を見張るものがあるし、実際にそれを体感してきた。しかし、妥協できないというか、上振れ狙いというか、保険をかけないところが欠点だとも感じる。

 おそらく、あのやたらと高いモチベーションがそうさせているのだろうが…。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、がやがやと騒がしい声が聞こえてきた。

間もなく見えてきたのは観客席と台形の屋根付きステージ──ワンダーステージだった。

 

 自分が向かっているのが見えたのか、ステージ上から一人の少女が歩いてくる。

 

「どうも、美麒さん。お久しぶりです」

 

 気怠げに声をかけてきた彼女は、ワンダーステージの現座長である雀原朱音だった。

いつもダウナーな雰囲気をまとう彼女だが、その演技力や歌唱力は折り紙つきの高校生だ。

 

「久しぶりです。この前のナイトショーのシャオ役、名演だったよ。

お陰でうちの依頼人も満足されてたし」

「それは何よりです。

で、我らがステージに何か用ですか?」

「それが…次の依頼のために、人間大砲を借りたいんだけど」

「はぁ、別に構いませんが…」

 

 そう言った雀原さんはステージの方を見る。その視線の先には、ちょうど使う予定があったのか、ステージ中央に鎮座するカラフルな大砲があった。

見ていると突然、それから細長い何かが勢いよく飛び出した。打ち出された(人間)は、その姿勢と勢いを維持しつつ観客席の奥、何人かが支える青いマットに突っ込んでいく。

こちらにも「うわああああ!」という悲鳴に似た叫び、そしてマットに衝突したときの大きな音が聞こえた。

前者は気のせいだと思いたい。

 

 一連の出来事を見てからこちらに向き直った雀原さんは、うんざりした顔をしていた。彼女もあれに悩まされているのだろうか。

 

「見ての通り、先代からの負の遺産です。

──あれを本当に、使わなければいけない状況なんですか?」

 

 本音を言えば、自分も同じ気持ちである。

今の発射を見るに、これを子供が純粋に楽しめるかどうか疑問を感じる。そして万が一事故が起こってしまった場合、被害がシャレにならないだろう。あれではケガどころか、最悪死んでしまうのではないか。

 

「正直なところ、今のを見ると使いたくはない。

でも、『空を飛ぶ』って言うと他に選択肢がなあ…」

「『空を飛ぶ』ですか。

…それ、本当にやる必要あるのかな」

「いやいや、さすがに断るのは」

 

 ボソッと選んではマズイ選択肢を提示してきた雀原さんを窘める。個人的には魅力的かつ現実的なアイデアだと思うが、うちの上司は出来る限り諦めない方針なので、それは最後の手段だ。

 だが、それを聞いた雀原さんが少し慌てて放った言葉は、確かに突破口を開く物だった。

 

「あ、そういうことを言いたいのではなく。

『空を飛ぶ』って、実際にやらなくたって、それこそショーみたいに空想を掻き立てればできるじゃないですか」

 

「──ああ、そうか。そういうことか」

 

 高橋さんから話を聞いてからここまで持っていた違和感(もやもや)が一気に瓦解する。

 考えてみればその通りだが、高橋さんと室長の話から誤解していた。

だが、もし()()なら全てを円満に、安全に叶える方法がある。

 

 その第一歩として、改めて自分は雀原さんに向かい直るのだった。

 

「ありがとう、雀原さん。お陰で光が見えそうだ。

それで少し相談があるんだけど、いいかな?」

 





 『類くん』はしばらく本編に関わってきません。推しの方にはごめんなさい。
 鳳凰を継ぐのは朱雀、というわけです

2023/6/21 11:45 題名を変更しました
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