終末なにしてますか?また分かり合う事ができますか?   作:すかすかのタキ

1 / 7
第1話

──ところで先輩。

実は私、他にも書き溜めている小説が多数あるのですが。

 

 

まあそうだろうねえ。それで?

後輩ちゃんは、今度はどんな秘密をあたしと共有したい訳?

 

 

後輩ちゃんはやめて下さい。

ですが、やはり貴女は素晴らしく察しがいい。

 

 

見え透いたお世辞はいいから。さっさと用件を言う。

 

 

そうですね、ではまずは。

貴女がこの時代に目覚める以前。

貴女が貴女として生きていた頃の、本当の名前を教えてくれませんか?

 

 

 

 

もし君達が、もう戦わなくてもよくなったなら。

もしこのまま生き続けられるのなら何をしたい?

その問いに、あたしはこう答えた。

 

「おおむねこれまで通りっすね」「森の中の倉庫で、のんびりだらだらと毎日を過ごすんす。ちっこい妹達がわーわー遊んでて、子供っぽい母親役がぱたぱた走り回ってて」「そういうのを眺めながらゆっくり本を読む。穏やか過ぎて、ついつい寿命が延びる毎日っすよ」

 

あの先生ならいいかなと、冗談っぽく語った紛れない本心。まあそういう日々を過ごす以外に選択肢がなくなったともいうんすけど、まさかそれがこんなにあっさり現実と化すとは思ってもみなかったっすね。

 

 

あの日から、もう一年以上。11番島、コルナディルーチェ市での戦い。

地上から持ち込んだ獣を自分達が開発した新兵器で殲滅し、自分達こそが新しい浮遊大陸郡の守護者、護翼軍に成り代わろうとした、あまりに馬鹿げたマッチポンプ。

 

その企みを破り。何も言わずに一人犠牲に、誰から見ても分かりやすい絶対悪になる事で、妖精倉庫を守ろうとした人間族の馬鹿野郎。

 

あたしは何の為に、この身体を乗っ取ってまで今の時代に目覚めたのか。

何の為に、あと一回分の力を残したのか。

それは、今この瞬間の為だと確信した。

幸せにしてあげたかった子供達。人らしい生き方を教えてあげたかった子供達。

誰一人救えずに、こんなぬくぬくとした時代に生まれ変わったあたしが、この戦いを背負って散れるなら、それはどんなに───

 

 

「アイセア」

「んあ?」

誰かにとんとんと、小さく肩を突つかれた。

 

ああいけない、ついついうたた寝しちゃってたっすね。

愛すべき我が家、妖精倉庫。その正門前にゆったりと腰掛けて。

ちび達があっちへこっちへわちゃわちゃはしゃぎ回る元気な声。冷たい体を温めてくれる、澄みきったお日さまの光。花壇から漂ってくる、仄かに甘く柔らかい花々の香り。

こんなに気持ち良くなる要素がそろってちゃあ、ついつい眠気に身を任せたくもなっちゃうってもんっすよ。こんなあたしでも、それくらいの幸せはお目こぼししてほしいっす。

 

「久しぶりっすねラーン。オルランドリ商会での仕事はどうっすか?」

「まあまずまずやってますよ。所詮は兵器、戦うしか脳がないと思われない程度には。…久しぶりですねアイセア、ちゃんと生きていて何よりです」

 

労る内容の台詞とは裏腹な、そっけない口調。だけど別に、ラーンに悪意がある訳ではない。無関心という訳でもない。

根が激情家だから、無意識にか意図的にかまでは分からないけど、うっかりそれを出さないよう、殊更冷たそうに振る舞ってるだけ。

この体として目覚めてから、あまり長い付き合いという訳ではないけれど、一応その程度の事は理解してるつもりっす。

 

「起きて早々申し訳ないのですが、話したいことがあります。私の部屋ま

で来て頂いてよろしいですか?」

 

あちゃー、やっぱり来たっすか。どうしてこーいう気の重くなる予想ばっかり当てちゃうすかねーあたしは。色々嫌になっちゃうすよ。

 

「ほいほい、かまわねーっすよ」

けれどそんな感情はおくびにも出さない。

車椅子のブレーキを解除して、ハンドリムを握る。

すると、

 

「あー!アイセアせんぱい、おうちにはいるの⁉」「わたしがおしてあげるねー!」「わたしもー!」「がらがらー!」「さきにとびらをあけちゃってー!」「ブランケットはわたしがはこびますねー!」

 

夢中で遊んでいたように見えて、神経の一部は常にこちらに向けていたのか。ちび達がわらわら集まってきて、車椅子での移動を手伝ってくれようとしてる。

 

「にゃはは、みんなありがとっすねー。けどちょっとは自分で動かさないといつまで経っても操作に慣れないし体も弱っちゃうっすからねー。今日のところは遠慮しておくっすよー」

 

ベタベタひっついてくるちび達をなでたり抱きしめたりほっぺをむにむにしたりしながら一人一人なだめていく。

 

ああ。ここは本当にいい所で。

いい母親や、いいお姉さん達に囲まれて、子供達はみんな、優しく健やかに育っていってる。

 

いいように利用され、手を汚し続けるくらいなら、浮遊大陸ごと巻き込んででも種としての全てを終わらせる。そんな自暴自棄に共感しつつも、流される事はしなくてよかったと、心から安堵する。

 

だけど、そう安らぎを覚える程に。

否定しあい、この手で屠るしかなかった親友の存在が、痩せ細った胸を今もこうして締め付ける。

 

隣には、ちび達に取り囲まれててんやわんやなあたしを、ちょっぴり羨ましそうな目で見つめるラーンがいた。

 

 

やれやれ、今のあたしにはこれもかなりの重労働っすね。

車椅子を漕いでえっちらおっちらラーンの部屋の前に到着した。しかし、

 

「用意するものがあるのでしばらく待っていて下さい。もし覗いたらアイセア、今の貴女でも容赦なくヒストリアの錆にしますからね」

と、一睨みして部屋の中へ。バタンと少し乱暴にドアを閉めてそのままガチャリと鍵をかけた。超怖えっす。

 

がっちゃんがっちゃんぶいーんぶいーん。

べかん!どさばさどさばさずどん!

どちゃどちゃどちゃどちゃぱきゅーん!

…何なんすかさっきからこの意味不明な擬音は。

ラーンが何やらいかがわしい本を買ったり書いたりレンと見せあってはうふふふふって怪しい笑みを浮かべては部屋の何処かに封印してるのは知ってるっすけど(本人達はうまく隠せてたつもりみたいすけど、めっちゃみんなにばればれだったっす。闇が深すぎそうだからスルーしてただけっす)一体あたしはこれから何を見せられる事になるんすかねえ。

 

三分程待ってようやく「お待たせしました」とドアが開いた。

一体如何なる手段で整理しているのか。相変わらず本は無限増殖を続けている筈なのに、異様なまでにきっちり整頓された部屋に入り込み、椅子に座ったラーンと向かい合う。

 

緩んでいた気持ちを、きゅっと引き締める。

ラーンは一見クールに見えて実態はドジだし天然だし間が悪いし、駆け引きをすれば巧みな話術でこちらから見事一の秘密を引き出した直後ぽろっと三の秘密を明け渡しちゃうようなどうしようもないお馬鹿さんですけど、それでも根本的な頭のキレは、あたしに勝るとも劣らない物を持っている。

 

立ち上がれず、車椅子なしじゃろくに移動もできない不自由な生活。

それは、あの小器用兄さんの掌底で胸を打ち抜かれたせいじゃない。

むしろそのお陰で、こうしてぎりぎりの所で妖精倉庫へ帰ってこれた。

そのお陰で、未だこうして生き恥を晒す事になっている。

「どうぞ。まずはこれを見てほしいのです」と、一冊のノートを手渡される。

 

剣の状態。どうにも人が好すぎる一つ目さん。

辿り着けるルートは確かにある。

この聡明な後輩は、一体この先の浮遊大陸郡について何処まで考えていて。誰よりも聡明でありながら、底抜けに不器用で優しいこの後輩は、あたしの思考を何処までトレースしているのか。

 

何をぶつけられようと、絶対に感情を乱す事はしない。

「ほいほい拝見するっすよー」と。

いつも通りのアイセアらしい、うさん臭くてヘラヘラした笑顔を作り。

まるで地雷原に踏み込んでいくような心持ちで、そのノートを開いた。

 

 

「んふふ、どうすっかクトリ?そろそろもっとすごい事、してもらいたくなってきたんじゃないっすか?」

 

「…別に。散々経験豊富とか言ってた割には、ウブな処女一人その気にさせられないなんて。君のテクも大した事ないのね、アイセア」

 

カチンときた。まさかこれだけ焦らしても堕ちないなんて。

両の腕を拘束され、成すすべもなくベッドの上に押し倒されたクトリ。

衣服は当然のように剥ぎ取られている。大量の汗を吸った純白のキャミソールは彼女の体に張りついて、慎ましくも愛らしい✕✕や、触れれば折れてしまいそうな華奢な腰部を際立たせている。

全身は淫靡な熱で赤く染まり、呼吸は物欲しそうに乱れきっている。

清純さを象徴する様な空色の瞳。それも既に情欲の涙に潤み、あと一押しすれば淫らな欲望と共に決壊しそうだというのに。

 

全く予想を遥かに上回る見栄っ張りにして、究極の意地っ張り女っすよクトリは。

 

…まあ、いいっす。

そんなクトリだからこそ。限界を超えて尚、見栄と意地を張り続ける、愚かしくも輝かしい女だからこそ。

淫欲に屈した時、どれ程強く淫らにあたしの事を求めてくれるのか、楽しみが天井知らずにぐんぐん増すってもんっすよ。

 

「そんじゃクトリ、ここから先はもう手加減なしっすよ?」

あたしはまるで✕✕したようにぐしゃぐしゃな✕✕を剥ぎ取ると、彼女の更に深い所へと✕✕を✕✕✕して───

 

 

…はっ!

ああ、いけないいけない。危うく肉体を置き去りして、魂だけが異世界に転生しちまうところだったっすよ。

あたしがクトリを襲って百合な関係になってるなんてとんでもない異世界もあったもんすねえ、にゃはははははははははははは。

気を取り直してもう一回ノートを開く。そこに描かれていた世界は

 

「ってやっぱりあたしとクトリのどすけべ百合小説じゃねえーっすか!!」

 

破り捨ててやりたい衝動だけは抑え込んで、代わりにそれをラーンの部屋全体を揺るがす様な野獣の咆哮に変換する。

 

なんなんすかなんなんすかなんなんすかもおー!!

何をぶつけられても韜晦しきってやると、めっちゃ真剣に身構えていたあたしの覚悟をなんつー形でぶち壊してくれるんすか!いかがわしい本でも見せてくるのかと冗談半分で思ってたら本当に見せてくるとか予想できる筈ないでしょうが!

あたしを崩す為の高度な戦術っすか!それともこれですら、毎度のあんたの天然ボケだっていうんすか!?間違いで自作のエロ小説読ませたんすか!?

心中でつっこんでやりたいとこ全部つっこみまくってから、向かい合っているラーンを見ると、

 

「…ええ。ワタシがかいたアナタとクトリのユリショーセツですが、それがナニか…?」

 

壊れかけのゴーレムみたいにガッチガチな口調。

両手で覆っても隠しきれないくらい顔は真っ赤で、排出しきれない恥ずかしさが白煙となってしゅーしゅー頭から立ち昇っている。

 

あ、直感的に分かった。これ天然ボケでもなければ策略でもないっすわ。

多分損得感情一切抜きで、何らかの決意の元にやってますね。

逆に頭が冷静になったっす。困惑と呆れを口調に乗せないよう、慎重に一言ずつ、どうしてこんなんあたしに見せたのかと質問する。

 

「だってアイセア。貴女以前、絶対に知られてはいけない事を私に打ち明けてくれたじゃないですか…」

 

ああ、あたしの前世の話っすか。

 

レプラカーンとは何なのか。

助けたかった親友の為にそれを識ろうとして、結局何一つ役立てないまま彼女は散った。

それでも未練がましく資料を漁り続け、この子なら新しい知見を与えてくれるのではないかと期待して打ち明けた秘密。

 

いや、今思えば。

居もしない技官を無駄に意識して、妙な対抗意識を燃やし続けてる続けてるこの子が、ちょっとだけ親友に似てる気がして。

もういないあの子の代わりに、ついつい同じ秘密を共有したり、弱い所を知ってほしくなっただけなのかもしれないっすね。

 

で?と続きを促す。

 

「貴女は大事な秘密を差し出したのに、私だけ差し出さないなんて不公平じゃないですか。それで、何かないかってずっと考えてて…」

 

アホなくらい生真面目な子っすねえ。あたしが一方的に語っただけだってのに。つーか故人のどすけべ百合小説を見せるのはさすがに不謹慎と思うんすけど、そこんとこどーなんすか?

 

「いいじゃないですか!クトリの魂は物語へと昇華されて、私達の胸にこれからも永く受け継がれていくんですよ!この小説、レンだって目をキラキラさせてすごくいいと言ってくれましたし!」 

 

あんたら家族をネタにしてなんつーもんを共有しあってるんすか!もうここにいない子だからってそういう秘密をさらっと口にするんじゃないっすよ!受け継がせるんならせめて全年齢対象のまともな小説を書き下ろすっす!つーかこれで受け継がれるのはクトリじゃなくて、やべーどすけべ百合妖精として描かれてるあたしの方じゃないっすかね!?インパクト強すぎっすよ!永遠に誤解されて恥かき続けるっすよ!ラーン!今それに気付いたみたいな顔するのやめてくれません!?

本物のアホなんすか!?

 

はあ、もういいっす。気を張って損した。

今後その件で余計な気は遣わなくても大丈夫っすから。

こんな事を言う為にわざわざ帰ってきたんすかこの子は全く。

一息でつっこみすぎて疲れたから、あたしは部屋に帰ってお昼寝するっすよー。

そう告げてハンドリムを操作して、車椅子を方向転換。

ラーンに背を向けて、ドアの方へ移動しようとすると、

 

 

「待って下さいアイセア。むしろ本題はここからです」

 

 

車椅子を止める。一つ深呼吸して、ゆっくりと振り返る。

 

 

「クロワイヤンスに呑まれた39番と、いずれ呑み込まれる38番。これらについてこそ、貴女と忌憚なく意見を交わしたいのです」

 

 

…やっぱりこれまでのおバカなやり取りは、あんたが描いた脚本通りにまんまと動かされた物だったんじゃないっすか?

あたしを心理的にぐらぐら揺さぶって、自分が優位に立つ為に。

 

そう疑わざるを得ないくらい、あたしを呼び止めたラーンの声は、固く冷たく、鋭利な物と化していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。