終末なにしてますか?また分かり合う事ができますか? 作:すかすかのタキ
その頃2番島では、星神と地神と元妖精による、神への信仰をかなぐり捨てて、一瞬の享楽に溺れ続けていたくなるような低レベルな口喧嘩が続いていた。
妖精倉庫ではティアット組三人が、アイセアとラーンのただならぬ黒いオーラを浴びてガタガタ震えるラキシュを慰めていた。
そしてその元凶の一人アイセアは、無数の本に溢れたラーントルクの自室で、
「─────は?」
うさん臭いヘラヘラ笑いを粉微塵に吹き飛ばされ、開いた顎が外れてしまいそうなくらい、呆けた間抜け面を晒してしまっていた。
「ラーン。あんた今なんて言ったんすか?」
「いえですから。あれだけ長い話をした後に申し訳ないんですが、39番島のクロワイヤンスの問題は、もう解決したも同然なんですよ。大賢者様の手によって」
「大賢者ぁ!?いやいやいやいやどういう事っすか言葉通りオルランドリ商会に出向したとは考えてなかったっすけどあんた一体ここんとこ何やってきたんすかちゃんと一から説明するっすよお!?」
やっぱり何も考えてないふりして相当なケースに備えてきてましたねこの野郎。腹が立つけど今は話を進めるのを優先しましょう。かるーく睨めつけてやるだけで勘弁してあげます。
「まず浮遊大陸郡は、六番も十一番も関係なく、決定的な滅びの危機に瀕してました。理由は単に、島々を宙に留める結界の維持が限界にきていたから。最早結界を維持する為に、犠牲を受け入れ少なくない数の島を落とすか。皆で生きる為、獣溢れる地上に降りて領土を拡大するか。そんな究極の二択を迫られる所まで追い詰められていたのです」
えええええ…。
落ちきっていたと思っていた顎が、更に一段ガクンと落ちる。
「中略させてもらいますが、例の技官が地上で色々やらかして、封じられていた地神の一柱が復活。2番島に二体の地神が揃う事で結界を維持できる期間と安定性が大幅に向上。時間はかかるし多少のリスクはありますが、ピンポイントで一つの島だけ結界から切り離す事も可能になりました」
え、ちょっと待って。するってえと、
「大賢者様は現在、余裕が出来たリソースを活かし、地上の何処かに封印されている筈の三体目の地神ジェイドネイルを捜索中です。彼が復活すれば結界維持はより盤石の物となり、ピンポイントでの切り離しもリスク無しで確実に行える。以上が大賢者様がヒマ潰しのゲスト人材を探している所に抜擢されて、大賢者様が妖精族に罪悪感を抱いてる点を突いてゴリ押しで弟子入りしてきた私が得てきた情報です」
ちょーっと待つっす黙るっす!今色々考えてる最中っすから!
ガーッと怒鳴られたので、言う通りに黙る。
そしてラーンは心中で思う。
この先輩は本当に。
哀れになるくらい頭の回転が速い。
一見すればクロワイヤンスとの戦いがなくなり、私達が誰も犠牲にならず平和に暮らせる時代がやってきたというのに。
その先にある、妖精族にとってより過酷な未来へ直感的に到達し、そこに至るまでの大まかな過程を高速で組み立てている。
「まずティメレとの戦いがなくなった事で、あたし達は一部の護翼軍上層部の思惑でエルピスに売り飛ばされそうになっていた。けれどエルピスの新兵器がぎ…。いえ、シャントルに全く敵わず、あたし達妖精兵がそれを
討ち取った。自分達には価値があるんだと証明した。獣を捕縛して持ち運ぶなんてとんでも技術が現実化した以上、いつか何処かでまた同じテロが繰り返される恐れがある。そして喫緊の課題として、クロワイヤンスの討伐。その三つの要素が重なってティメレ亡き後の世界でも、あたし達はまだ存在を許されてるっす」
ぶつぶつと呟くように自分の考えをしゃべり続けるアイセアに、そうですねと一つ相づちを返して続きを促す。
「護翼軍は妖精兵という強大な戦力を独占する代償に、その武力を獣との交戦意外には一切振るわず、国家への政治的・軍事的干渉を一切行わない事を原則としてるっす。クロワイヤンスが落ち、ティメレの侵攻もなくな
った以上軍事力を有し続ける理由は本来ないんすけど、獣を用いたテロが起きた以上そうもいかない。ただ以前みたいに頻繁に戦いが起きる訳でもないっすから、軍事力自体は縮小せざるを得ない。今後の護翼軍はその分
のリソースを利用して、獣を用いたテロを事前に徹底的に叩き潰す、諜報に特化した組織に変化していくと予想できるっす」
ええ、私も全く同じ読みですね。
そして思い出す。あの日、コリナディルーチェ市での戦いで。
〈穿ち貫く二番目の獣〉アウローラの群れ。それらの猛攻をあっさり弾き飛ばし、巨大な戦鎚でいとも簡単に叩き潰して殲滅した。
それ程の膨大な魔力を纏い完全に制御した、身長十メートルはありそうな鎧のゴーレム。
思い出すだけで、歯を噛み砕きそうな怒りが湧き上がってくる。
そんな超兵器を起動する為に、奴らは果たして何を利用していたのか。
「獣との戦いがまだ起こり得る以上、護翼軍はあたし達妖精兵を手放す訳にはいかない。けれど同時にあのテロで、妖精を利用した革新的な兵器を作り出せる事も証明されてしまった。あんな物が広がれば、浮遊大陸郡全域を揺るがす、最悪の厄災の種になりかねない。諜報組織として生まれ変わった護翼軍は、そんな物は絶対に放置できないす。生まれたばかりの妖精を徹底的に見つけ出し、絶対に誰にも手出しできないような要塞の奥底で厳重に管理する事になる。そこでのあたし達に、種としての権利なんて用意されている筈がない。健康を維持できる程度の食事だけ与えられて、牢獄の奥で消滅するまで飼い殺される。そんな最悪の未来が、いずれあたし達妖精族に戻って来てしまう…」
本当に、私が描いた未来予想図と何もかもが一致する。
「それはまだましな方です。種として存在している以上、いつかの未来でまた良い方向に進む可能性はある」
だけど私は、アイセアが知らない情報──大賢者様の元で得た知見を元にした、もう一つ先の未来を告げなくてはならない。
「最も最悪な未来は。護翼軍が諜報組織としての完成を見せ、獣を用いたテロが完全に根絶された後」
アイセアが、空っぽの瞳をあたしに向ける。
「私達は大賢者様のネクロマンシーによって浮遊大陸郡の結界内に顕現する、星神エルクの魂の欠片。私達が災厄の種にしかなり得ないなら、術式自体を解除され、種として完璧な終わりを迎える事でしょう」