褪せ人がオバロ世界でデミゴッドを倒す話   作:合格ラインはのりお

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プロローグ

 男が目を開けると、そこは円卓ではなく鬱蒼とした木立のただ中であった。

 

 男の傍らには、腰帯から外した両刃の剣、武骨な鉄の盾、先端に輝石を取り付けた杖、そして二本の指を模した手のひら大の紋章が落ちていた。その身に纏った甲冑もそれらも、記憶が正しければ男の装備で間違いない。

 

 半身起こした男は、足元に焚き火のように灯る光を見つけた。それは男にとっては見慣れた、彼を大望に導く祝福の光であった。

 

 祝福を見つけ安堵した男は、次に辺りを見回した。

 人の手が加わっていない、未開の森である。男は幾度も森を駆け抜けてきたが、この森には見覚えがなかった。木立を吹き抜ける風はリムグレイブの嵐の丘のそれに似ているが、肌に感じる森の空気が、どことなく違う。

 

 まだ暖かさが残っているというべきか。いつも肌に感じていたそれは熱がなく、そして渇いていた。

 

 男は、どことも知れぬ地にいる。何故かはわからない。ここに至るより前に何があったか、思い出そうとしたが、靄がかかったように頭が働かず、思い出せなかった。

 

 祝福の光を呆然と見つめていると、光の粒子がどこからともなく現れ、収束し、人の姿になった。

 

 それは女だった。片目を閉ざしたその女は、慣れた様子で男の傍に膝をついた。男は特に驚くこともなく女を見る。

 

「あなたは転移門を使ってここにきた」

 

 女は――メリナは淡々とした口調でそう言った。

 

 転移門。それはその名の通り、使用者を離れた場所に転移させる装置で、広大な狭間の地を効率よく探索するため、男も何度も使ってきた。

 

 しかしいつ自分はそれを使ったのか。記憶にある限り、このような見知らぬ森に転移するそれを使った覚えはない。

 

 メリナは続ける。

 

「ここは狭間の地とは違う、別の世界。異なる神、異なる律を抱く地」

 

 一瞬、理解が遅れる。いつもの狭間の地とは何かが違うと思っていたが、まさか別の世界とは。

 

 葦の地のように、狭間の地の外にはまた異なる世界があるとは有名な話だ。そこには、黄金樹にまつろわない外なる神がいるとも。しかし男は、まさか自分がそこに来るとは思わなかった。

 

 しかし何故、自分が別の世界にいるのか。男は検討がつかず困惑する。

 

 ここに祝福があるということは、ここで何かやらねばならぬことがあるのは確かだ。そしてそれは、褪せ人である男に関係することなのであろう。

 

 男は、それを彼女が教えてくれると信じ、話の続きを待つ。

 

 男は彼女と取引をしている。彼女を黄金樹まで連れて行くと言う取引を。それがある限り、彼女はこちらに不利益になるようなことはしないはずだ。彼女は自身の願いのために彼を必要としている。そして彼もまた自身の成長のために彼女を必要としている。

 

「――でも、あなたのやるべきことは変わらない」

 

 男の、褪せ人のやるべきこと。それは大ルーンを集め、エルデンリングを修復し、エルデの王になること。そのために大ルーンの保持者であるデミゴッドを倒す旅をしてきた。それが変わらないということはつまり――。

 

「デミゴッド達がこの世界にいる。狭間の地ではなく、この世界に」

 

 デミゴッドがここにいる。ならば確かに、男のやるべきことは変わらない。

 

「何故かは私にも分からない。でも、デミゴッドがいるから、あなたもここに呼ばれた。それだけは確か。そしてあなたがここにいるから、私もここにいる。祝福があなたを導いている」

 

 祝福の光が木立の先に続いている。行く道は、定まっている。

 

「一つ、気を付けて欲しい。ここは律が異なる。そのせいか、祝福の力も弱い」

 

 祝福は褪せ人を導くだけではない。力尽きた褪せ人を蘇らせたり、傷ついた身体を癒したり、道具を補充してくれたりする。しかしその力が弱くなれば、それらの支援はどうなるのか。

 

 褪せ人が目で話の続きを促すと、メリナは僅かに頷いた。

 

「聖杯瓶も霊薬も補充されない。傷も癒えない。そして、力尽きてもやり直すことは出来ない」

 

 その事実は、幾度も死に、死ぬ度に祝福によって蘇らされてきた褪せ人を途端に不安にさせた。

 

 回復手段もなく、祝福もなくして神の血をひくデミゴッドを倒せるのか?

 男は思わず頭を抱えた。メリナも顔を伏せてしまう。

 

「大変な旅になると思う。私も出来る限り協力する……あなたばかりに苦労をかけてしまって、申し訳なく思っている。ごめんなさい」

 

 僅かに、彼女の声が震えていたように感じて、男は気にすることはないと頭を横に振った。その気遣いが伝わったかは分からないが、メリナは顔を上げた。

 

「気休めになるかどうかわからないけれど、デミゴッドは、この世界では異端の存在。おそらく、原住人とは相容れないと思う。上手く立ち回れば、あなたは原住人を味方につけられるかもしれない」

 

 そうなれば男にとって大きな助けになるだろう。ただし異端なのは男も同じこと。デミゴッドと同様に原住人と敵対する可能性もある。そして男が原住人を味方に出来るのならば、デミゴッドにも原住人を味方にすることが出来る。

 

 知るべきことは知った。やるべきことは今までと変わらない。ならばもう、行かなければならない。

 

 祝福が不完全なのであれば、褪せ人に与えられた権能もまた今まで通りとはいかないのであろう。いつものように所持品を取り出すことが出来ない。所持品は身に持てる程度にしか携帯出来なさそうだ。剣と盾、杖、聖印が手元に残ったのは幸いだった。下手をしたら、武器の調達から始めなければならなかった。

 

 傍らに落ちていた武器を手に取り、立ちあがり、腰や背に着け直す。メリナも合わせるように立ちあがった。

 

「大ルーンを集めたら、またここにきて。大ルーンがあれば、私でも転移門を作れる。そしたら、あなたを狭間の地に返せる」

 

 男が頷くとメリナは光となって消えていった。

 

 木立の先を見据える。光はそちらを示している。男は光の導く先へ歩き始めた。

 

 トブの大森林に霊馬のいななきが木霊する。応じるように、異界の怪物達が咆哮を上げた。

 灰色の亜人の群れが、干からびた巨人が、赤い火竜が、爛れた樹霊が、黄金の騎馬が、狂気に満ちたその眼を世界に向ける。

 そして褪せ人の旅が始まった。

 

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