未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~   作:ringegge

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第99話 貴族の器 当主の器

 この世界のルールでは、何らかの事情があった場合選手側から挙手を行い、試合を一時中断することができる。

 

「…非常に残念ですがこの神聖な戦いに不正が罷り通ってるようです」

 

 ヴァイトは右手をまっすぐ上げ、高らかに宣言した。

 

「…ヴァイト選手、不正とは?」

 

 審判は例え相手がどんな立場で、どんな関係であろうと選手、と付けなければらない。

 ベリファストルはその作法に則り、息子に説明するよう促す。

 

「我が弟であり、継承権を正々堂々と争っているはずのドライトが、あろうことかどこからか提供されたカードを使用し、勝負を行っているようです…」

 

 ドライトはそれを聞いて何かを言おうと一歩前に進み出たが、隣のアインドラがそれを止める。

 

「…意義を認める、ドライト選手は説明を」

 

 これに関してはベリファストルも気になっていた部分であった。

 王都の財産は使って良いと手紙に書いて送ったものの、カードそのものを購入・レンタルできるほどのお金はなかったはずなのだ。

 ドライトがやるはずはない、とは思うが何らかの著しく不利な契約を結んでいないとは限らない。

 親としてはそこを確認しないわけにはいかない。

 

「ドライトに変わって私が説明を行う」

 

 ドライトを制止したアインドラは更に一歩踏み出てドライトの前に立つ。

 

「ドライトが使っているカードは正式な契約によりある商会より貸与されたカードだ」

「ええ、それは分かっていますよ兄上。確か…そこのテンマ殿が懇意にしておられるカーンズ商会と言いましたか…」

「何が言いたい?」

「簡単な話です。テンマ殿…というよりはメサイア家が背後で暗躍しているのではないか、と言っているのです」

 

 この発言にはベリファストルを筆頭に、家臣団やアインドラのお付きも驚いたのか、少し会場がざわつき、全員の視線が天馬に集中する。

 そして、ざわつきが収まるのを待って再びヴァイトが喋り始める。

 

「テンマ殿、実際の所どうなのでしょうか?」

「どうとは?」

「弟に協力をしているか、という事です…もし協力をしているのであれば宣言をしないのはフェアではないでしょう」

 

 これに関してはヴァイトの言葉が正しい。

 少なくともヴァイトはおおっぴらに他家の力を借りています、と公表している。

 ある意味で非常に清廉潔白である。

 自信満々に天馬に対して詰問をしたヴァイトであるが、当の本人は涼しい顔をしており、それに対し少しむっとしながら言葉を続ける。

 

「テンマ殿、現状証拠は上がっていませんが、現状を鑑みるに貴方には一言でも説明する責任があると私が考えます。審判殿はどう思われますか?」

「むう…」

 

 言われたベリファストルは苦虫を噛み潰したかのような顔で唸っている。

 当然だ、もしこれで天馬の関与があればメオール家とメサイア家の代理戦争となってしまい、これは今回の継承戦が別の意味を持ってしまう。

特にメオール家にとってその状況は非常にまずい。

 ヴァイトはそれに気付いていないのか自信満々に胸を張っているし、対照的に婚約者を筆頭にメオール家の関係者は青い顔をしている。

 

「…ご質問にお答えしましょう、結論から言って協力はしておりませんが、担当教師として指導と助言は行いました」

「ほう?」

「彼は王都のカード店に知古がなかったようで、それならばと私が通っているカーンズ商会の紹介状を渡したまでです…購入できるできないに関わらずカードの検討すらできないのは不公平と思いましたので」

 

 少し棘のある言葉でヴァイトに言い返す天馬。

 メオール家のバックアップがあって有利じゃないか、という点はヴァイトにとってはウィークポイントではあるのだ。

 

「そして私は紹介をしたまでで、それ以降の交渉に関しては何も関わっておりません…この正装に誓いましょう」

 

 天馬の言にメオール家の関係者とベリファストルはほっとした顔で息を付く。

 

「…それを証明する証拠はございますか?」

「それに関しては私から話をしよう」

 

 そう言い、ヴァイトの追求をアインドラが遮った。

 

「ここにカーンズ商会とのカード貸与契約書がある、それを見て貰えれば全ての疑問は氷解するであろう、父う…審判殿、公平を期す為にこちらが提供した対価の部分のみ読み上げをお願いしたい」

 

 そう言い、アインドラは審判席まで歩みを進め、携帯用の木箱から高級そうな羊皮紙を取り出しベリファストルへ渡す。

 

「…カーンズ商会はスルト家ドライトに対し以下のカードを1ヶ月、貸与する…それの対価ははああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!?????」

 

 

 読み上げようとした瞬間、ベリファストルが口から泡を出して後ろ向きに倒れた。

 

 これにはヴァイトも表情を変え、ヴァイトの後ろに控えていた家臣団が慌てて駆け寄った。

 アインドラは何故か自慢げでドライトは頭を抱えている。

 一番近くにいたカーネルが慌ててベリファストルを助け起こすが、顎をカクカクさせながらあいつ…あいつ…とうわ言をつぶやくだけで完全に放心状態になっている。

 

「義弟殿、申し訳ないが代わりに読み上げて貰えまいか」

「わ、わかりました」

 

 そう言い、床に落ちた羊皮紙を拾い上げ目を通した瞬間、天馬の顔があちゃあ…という顔になるもそのまま読み上げる。

 

「…『カーンズ商会はスルト家三男ドライトに対し以下のカードを30日間、貸与する…それの対価はスルト家長男アインドラの持つデッキ1組50枚であり、期日内に返却しない場合はお互いのカードの所有権を移す…』だそうです…」

 

 一瞬の静寂のあと、天馬・カーネル・アインドラ・ドライトの4人以外の声がハモった。

 

「はあああああああああああああああああああ!?」

 

 当然ながらヴァイトは目と口を見開いて驚いているし、余りの事態に気を失って倒れた家臣もいる。

 関係ないはずのメオール家の令嬢ですら目が点になっている。

 そしてドライト側にいたアインドラについてきた家臣のうちの1人、さっぱりとしたショートカットの女性がアインドラに飛び蹴りを食らわせた。

 

「貴方は!貴方は!貴方という人は!何故そんな事を私に黙ってやっているのです!」

 

 たまらず倒れ込んだアインドラに対し女性は追撃の踏みつけをお見舞いする。

 

「いた!やめろ!言ったら反対するであろうが!いて!」

「当たり前です!というかドライト君も共犯ですよこれは!」

「も、申し訳ありません姉さん…」

 

 この女性、実はアインドラの婚約者である。

 所謂ダメ男に引っかかる女の典型であり、気がつけば一蓮托生で引き返せない所まで来ていた為もう開き直って墓場までついていくつもりで腹をくくって一緒に逃げたのだ。

 

「兄上!これは大変な事ですよ!」

「そうだ!我が家に伝わるカードを何と心得るのだ!」

 

 ヴァイトといつの間にか復活したベリファストルがアインドラを責め立てる。

 

「何を言う!ドライトが勝つにせよ負けるにせよ期日までに返せば良いのだ!何も問題はない!」

「そういう問題ではない!代々伝わるカードの扱いに関して言っているのだ!お前は後継者になりたくはないのか!」

「現状俺にその芽がないのは父上が一番良くわかっているのだろう!だからこそ自分は弟に全てを賭けたのだ!」

「ぐ…」

 

 そう言われるとベリファストルは弱い。

 アインドラとヴァイトの争いは大凡公平とは言えぬ状態で始まり、そのまま終わってしまったのは事実。

 そしてそれに対して父親としてなんら効果的なアプローチができなかったのも事実。

 そしてそれを招いたのは選抜で自分が負けてしまったのが全ての原因であるのもまた事実だからだ。

 

(…豪快な方ですね、いろんな意味で)

 

 天馬が王子とヒソヒソと話をする。

 いつの間にか対戦している2人ではなくアインドラを中心に場がしっちゃかめっちゃかになってしまった上、介抱していたベリファストルは速攻で復活してフィールドまで降りて怒鳴り合っている。そんな状況では部外者の2人はやることがないのだ。

 

(うむ、決して悪いだけの男ではないのだ、そこそこ頭も回るしな…壊滅的にデリカシーがなくて…)

 

「ヴァイトよ!俺はお前が嫌いだ!お前の性格が!お前の行動が全て嫌いだ!だからこそ俺は弟に全てを託したのだ!俺に対しての仕打ちを忘れたとは言わせないし、それに関してお前が文句を言う筋合いはない!」

 

(思い切りが良すぎるのがな…)

 

 嫌い、で行動してしまうのは貴族としては致命的だ。

 腹の底では殺したいほど憎んでいても表面上は手を取り合わなければならない場面はいくらでもある。

 そういった腹芸ができない以上、アインドラは貴族に向いていないと言わざるを得ない。

 

(…仮に当主にしたらレオンよりまずい動きをするかもしれん)

(そんな感じはしますね)

 

 天馬は王子からはベリファストルが元々ドライトを当主にしたいと言っていたと聞いていたが、なんだかその理由が分かった気がした。

 

(とはいえ、個人的に嫌いではないのだがな、ああいう手合は…意外か?)

(いや…)

(顔に出ているぞ…まあ彼はこの件でこの領には残れんだろう。夫人が不憫なのもあるし行き場がなければ世話ぐらいはしてやるか)

(やはり行動としてはまずいのですか?)

(かなりな、仮に私が同じことやれば殺される事はないであろうが全ての権益を剥奪され死ぬまで王都に足を踏み入れる事はできぬ追放か城内で一生蟄居であろうな)

(ひょえー…)

 

 移動中に落石事故に巻き込まれ即死した当主の腕を泣く泣く切断し腕ごとデッキアームを持ち帰った家臣が叱責されるどころか称賛される話が残っているぐらいにはこの国においてカードはある意味当主の命よりも優先されるものである。

 そんなものを子供に持たせているからこそ、学園の外側の警備は非常に厳重であるし、カードを盗んだり隠したりすれば実行犯に限らず家そのものも厳罰を受ける。

 だからいじめが発生しても人間には手を出してもカードには絶対に手を出さない。

 その不文律は厳しい罰則により守られているのだ。

 

(漏れ聞く限りは当主のコントロールが色々と効いていないようだからそこらへんの情状酌量はあるだろうが、とんでもない行為というのは間違いない)

(商会はこの取引を罰せられたりはしないのですか?)

(違法な契約をしているというのであれば別だが、契約を結んだという事であれば罰する訳にもいかんよ、恐らくカーンズ商会もかなり渋ったはずだ)

(…帰ったら見舞いを持っていきます)

(そうしておけ…おっと、そろそろ再開するようだぞ)

 

「…アインドラの処分は後で話し合うとして、嫌疑は…非常に遺憾ではあるが晴れた為、戦闘を再開する…」

 

 ベリファストルは10年分老けたのではないかという疲れた顔で審判席へ戻り、そう言った。

 

「い・い・で・す・かドライト君!絶対勝ってくださいよ!貧乏生活はもう覚悟してますが追われる身になるのは勘弁ですからね!」

 

 アインドラの婚約者がドライトの両肩を掴んで揺さぶっている。

 ドライトがこの事を知っている以上、勝てば当主権限で無罪とはいかないまでもかなり減刑できることを知っての発言だろう。

 

(関係ない家の騒動外から見るのめちゃくちゃ面白いな…)

 

 隣のベリファストルに言ったらグーで殴られそうな事を考えながら、天馬は試合を引き続き見守る事にした。

 




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