未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~   作:ringegge

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第50話 鎖が増え肩書も増える

 教材を王室に送ることになりリハーサルどころではなくなってしまった翌日の夜。

 俺はカスミとリリさんと一緒にお酒を飲んでいた。

 

「昔からカスミちゃんはこうと決めたらテコでも動かなくて…」

「そうだったんだな、というのは毎日感じていますよ、いえいえ幸せですけどね」

「2人共褒めても何も出ないわよ」

「ははは…」

 

 結局、授業に使う教材に関しては王室の返答待ちということになり、返答が帰ってくるまで早くても3日はかかってしまうらしくぽっかりと時間が空いてしまった、

 そこでカスミに急遽リリさんとの飲みをセッティングしてもらった形だ。

 当然カスミはジュース。

 既にお互いお酒が入って1時間半ほど経過しそこそこの飲酒量になってきている。

 だが話は尽きない、なにせカスミの幼少期の話だけで2日時間が潰せるらしいのだ。

 カスミはああ言っていたが、すぐすぐそういった関係になるというのは俺の常識からいくと難しい、やるにせよ段階を踏むべきだ。

 今日はここらへんで切り上げるか、と思い終わりを切り出そうとした時、リリさんが喋り始めた。

 

「……あの」

「はい?」

「……カスミちゃんから、聞きました。全て……」

「……というと」

「その……愛人さんのお話です……」

 

 いきなり想定外の切り込みが来た。

 ていうかカスミ話したのかよ!いや話すって言ってたわそういや…。

 

「なんと言えばいいか……」

「……私は元々、結構早い段階、それこそ10代前半ぐらいから結婚する気はなかったんです、カスミちゃんとずっと一緒にいよう。って思って」

 

 話を聞いているカスミは何も言わず、表情は少し暗い。

 

「それはやっぱりカスミから請われたからですか?」

「当然、それもあります、凄くあります。ただ……なんというか……これに気付いたのはごく最近なんですけど、私、女性になる前にお母さんになっちゃったんです」

 

 酔いが回っているのか、飲み始めより饒舌に、口調も心なしか砕けた調子でリリさんが吐露する。

 

「それは……その、カスミの?」

「そうです、カスミちゃんのお父様お母様、国王様夫妻は今でこそ落ち着いて公務に励んでおられますが、生まれてからしばらくはとても多忙でいらして。カスミちゃんが私の紹介するときに言っていたお母さん兼お姉ちゃんっていうのは誇張でもなんでもないんです、本当に生まれた時から私がずっと見てましたから」

「本当にね、ママとの記憶って殆どないもの」

「それで、14とか15ぐらいの時ですか、見合い話がいざ来た時に、びっくりするぐらいどうでもいいや、って思っちゃった自分がいたんです。その上でカスミちゃんに床を回転しながら泣かれて。カスミちゃんの成長を見るのは本当に楽しかったし、これならもうずっと面倒見ようかなって結構軽く考えちゃって」

 

 女性の心は正直3ミリぐらいしか分からないが、男性に恋するより育児に夢中になっちゃったって感じなのかな。

 にしても回転しながら泣いたのか、光景が想像できるな。

 

「で、ずっとお側にいますよ、って言ったら、親とか国王様夫妻も巻き込んだ結構な騒ぎになっちゃって…王妃様には申し訳ないって泣かれちゃいました」

「そこはカスミから聞きました」

「まあ、そんな事まで教えてるなんて。本当にカスミちゃんは旦那様を信頼しているのですね」

「……そりゃあ、自慢の夫だし」

 

 カスミはバツの悪そうな顔でしょぼくれている。

 この部分は本当に悪いと思っているんだろうな。

 

「で、カスミちゃんが学校卒業して、カスミちゃんの結婚相手を探そうか、って動きになって、そうなるとなんていうか、一段落しちゃったんですよね、私の中で何かが」

「未婚の方に言うのは失礼になりますが、子離れしてしまったという感じでしょうか」

「そう……ですね、そうなんだと思います。もちろん、カスミちゃんを嫌いになっただとか、興味が薄れたとかじゃないんです。手がかからなくなったな、というか……」

 

 リリさんは大分お酒も回っているんだろう、少し俯きながら話を続ける。

 

「それで、カスミちゃんが嫁いでいったら私はどうすれば良いんだろう、って考えるようになって。その時期にお酒も覚えちゃって……」

 

 子育てが終わって暇ができて自分の事を考える余裕ができてしまった、っつー感じかな。

 

「そしたら、カスミちゃんが急に嫁ぐという話が出てきて。私も連れていくからって言われて。最初は子供のお世話をお願いされるのかな、嬉しいな、ずっといっしょにいれるんだって思ったら、それに加えて旦那様の愛人になるようにって先日言われて……」

「……当然ですが、リリ、いえリリクランスさんが望むなら、というのが前提条件です。これはカスミにも言い含めています」

「ふふふ……旦那様は本当にお優しい方、そしてお人が悪いですね」

「え?」

「私の絶対的な上司であるテンマ様の正妻であられるカスミ第三王女様が国王夫妻の承認を得た上で決定した命令を覆せる人間なんてこの国にはいないんですよ」

「……」

 

 ……本人の意向無視じゃねえか!

 カスミに非難の意味で視線を送ると露骨に目を反らした。

 ……ただまあ正直、大方そんな感じなんだろうなとは思ってた。

 カスミは言い出したら止まらない、というのはここ数ヶ月の付き合いでよくわかっているし、カスミの無理矢理にでもくっつけないと、という気持ちは今の話を聞いていれば痛いほど分かる。

 俺もある意味でカスミの被害者だからね。

 

「それに、私はこの決定、不思議と全然嫌じゃないんです。さっきも言ったじゃないですか、私はどうすればいいんだろうって考えるようになったって。当然ですけど結婚の事も考えたんですよ、ただこの年齢ではもう全てが手遅れで。今考えると王妃様が泣いたのはこの事を危惧したんだなって……」

 

 リリさんは俯きながら漏らす。

 

「……でしたら僕で良ければその…何人も妻帯していますが‥…精一杯愛しますので……」

 

 ……5人の嫁さんを娶った時は薬盛られたし自分から口説くなんてことをしたのは初めてだ。

 めちゃくちゃ恥ずかしい、うまく口が回らない…

 まごまごしているとリリさんが立ち上がり、俺の口に左手を当ててこう言った。

 

「旦那様、違います、その言葉はお嫁さんに言うべき言葉です」

「……では、なんと……?」

 

「愛人には…………と言うんです」

 

 リリさんは俺の横まで来て耳元で衝撃の言葉を口にした。

 

「……それ、絶対言わないと駄目な奴なんですか?」

「はい♪」

 

 ええい、ここまできたら覚悟を決めるしかない。

 俺は深呼吸し、目のリリさんを見据え。

 

「……リリ、俺の子を産んでくれ」

 

 そう言って強く抱きしめた。

 

「はしたない年増女でよろしければ、喜んで」

 

 そうリリは抱きしめ返してくる。

 その瞬間。

 

「「「「おめでとう!」」」」

 

 そう言って4人が部屋に踏み込んできた。

 聞いてやがったなこいつら!

 そうこうしてるうちに女性陣がリリを囲む。

 

「良かったよ、リリ、本当に良かった…」

「カスミちゃん……ありがとう……」

 

 カスミとリリが膝をついて抱き合っている、カスミは涙でぐちゃぐちゃだ。

 まあ、この顔を見れただけで良しとするか。

 

「……それはそれとして旦那様、記憶する限り私達には抱きしめて子供を産め、と言ってくださってないようですが何故でしょうか?」

 

 クレアのとんでもないツッコミにリリ以外の女性陣が一気に真顔になる。

 カスミなんて一瞬で涙が引っ込んであのぐちゃぐちゃに泣いてた顔が一瞬で真顔に戻り全てを見通すような目でこちらをじっと見ている。

 

「……言わなきゃダメ?」

「妻の扱いに差を付けるおつもりですか?ご自分が言われた事ですよ?」

「はい…」

 

 クレアの無敵の返しにあえなく撃沈、見れば皆が一列に並んで俺を待っている。

 

 

 

「……カスミ、俺の子供を産んでくれ」

「うん!」

「クレア、俺の子供を産んでくれ」

「はい、旦那様」

「トリッシュ、俺の子供を産んでくれ」

「喜んで」

「シオン、俺の子供を産んでくれ」

「はい」

「ナギ、俺の子供を産んでくれ」

「頑張ります」

 

 エロ漫画の竿役みたいな言葉とハグを順番に5回繰り返すという人生最大の罰ゲームを無事終えると、リリさんがメイド服を脱いで既に下着姿になっていた。

 

「殿方は最後は自分で直接衣類を脱がすのがお好みと聴きまして……」

 

 ……デカい、とにかくデカい……

 

「今日の主役はリリだから、まずは……ね」

「旦那様。よろしくお願いします……」

 

 期せずしてエロ漫画のような言葉を連呼したせいかすっかり色々な場所がやる気になってしまい、女性陣の見てる前でリリさんと繋がり、その後は空が白むまで全員で楽しんだ。

 

 

 

 翌日の昼過ぎ、俺達7人が力尽きて寝ている間にグローディアさんより辞令が下された。

 リリの侍女長解任である。

 

「そのような立場になったのであれば当然の事です」

 

 とのこと。

 そのような立場とはまあ昨日の事だろう、リリも既にメイド服ではなく普通の町娘のような服装になっている。

 部屋も使用人用の部屋ではなく女性陣が使っている部屋に引っ越しとなった。

 

 何故俺があのような台詞を言わなければならなかったのかをカスミとリリに聞いてみたところ、この世界では結婚と出産がセットになっているかららしい。

 俺の元いた世界ではかなり廃れているが、こちらの常識では女性は子供を産んで一人前であるという認識がほぼ完璧に男女ともに浸透している。

 そして正妻・側室・愛人が立場は違えど共通する部分が「相手が子供をちゃんと認知する」というしきたり。

 だから俺の言ったあのエロ漫画のような言葉は愛人に対する「ちゃんと責任を取る」という意味のいわば結婚式における誓いの言葉のようなものなのだそうだ。

 愛人の子は家の継承権もないし、デッキの継承権もない。

 ただそれでも良い、子供さえ産めれば多くは望まないとリリは言ってくれている。

 当然女性陣の扱いに差をつけるつもりはないし子供はできうる範囲である程度の優遇措置は取らせるつもりだ。

 この世界、結婚と出産が1セットな都合上子供を産まない・産めない女性には非常に厳しい。

 カードラプトが強いだとかの特殊技能があればまだ良いが、そうでなければ末路は悲惨だ。

「両親にもいい報告ができます」とリリも言っていた。

 まあ両親はなあ…国王から補償が行ってるとはいえ良い気はせんよな

 

「後任の目処も立っております、あとリリ様の御両親にも連絡を入れておきました」

「仕事が早い……」

「カスミ様より前々から話は聞いておりましたので、それと私としてもリリ様の享受に思うところがなかった訳ではありませんから」

 

 ありがとうございます、とグローディアさんは小さく俺に頭を下げる

 そういえば同僚だったんだよな、リリとは。

 

「リリ様の御両親に対する贈り物の選別はこちらでお任せを、ただし送る目録だけはちゃんと把握しておくことです」

「わかりました」

「形式上、今後予定されている合同結婚式には参加することも参列することもできませんが、式後にご両親を呼び室内で簡易的な婚約式を行うこととしましょう」

 

 そう、正妻や側室と違って愛人は結婚式や式典等重要な場には参加できない。

 それが例え肩書が護衛隊長や執事長や侍女長であっても、だ。

 なので結婚式みたいなものをやる場合は互いの両親のみで室内でひそやかに簡易的に行う事が一般的である。

 愛人に対してそんなことをするのか、と思うかもしれないがこの愛人というシステムは元の世界で言う結婚に限りなく近いので大きめの貴族の愛人、となると箔が付くし親戚付き合いだってするのだ。

 当然、正妻や側室と比べると薄くはなってしまうが。

 

 

「それと、今朝王宮から先日の教材に関する返答が帰ってきました、こちらを」

 

 そういって渡してきた手紙の封を切り中を確認する。

 

「なるほどね……」

 

 俺が最終的に提出した教材予定の走り書きの大項目はこれだ。

 

 1.ゲーム開始時にドローした時に何を何枚入れると何%の確率で手元に来るかの計算

 2.デッキのマナカーブの考え方

 3.ユニットの攻撃優先度

 4.[効果を全て消去する]カードの使用優先度

 5.リーサルという考え方

 

 最初は4つのつもりだったが1つ増えて5つになった。

 このうち1に関しては「学校で教えるには難しすぎる」ということで外すことになったが、残り4つは是非教えてくれ、との事だ。

 そしてこの5項目をちゃんとした書類にまとめて王宮にできる限り早く提出せよ、との催促もついた。

 対抗戦に出場する貴族にでも渡すつもりかな。

 

「王宮に了承したと伝えて欲しい」

「分かりました、それとその手紙に記載はないですが、お館様の肩書に新たに貴族学園カードラプト部門長が加わりました、追って任命の書類が送付されるそうです」

「部門長!?」

 

 なんかめっちゃ偉くなってない?

 

「貴族学校においてカードラプトを教える教員は1人か多くとも2人までです、そして前任者は選抜前に体調を崩し休職しており教員は0です、ですので赴任するお館様が自動的にカードラプト部門の長となります」

「あまり名誉な職業ではなさそうですね」

「私はあまりカードラプトには精通しておりませんが、貴族の間では一番のハズレという扱いのようですな」

 

俺大丈夫かな…。

 

「本日の用件は以上でございます、では」

 

 そう言い、グローディアさんが部屋から退出した。

 瞬間。

 

「旦那様~♪」

 

 ぎゅう、とリリが抱きついてきた。

 女性陣が話し合って今日は1日リリに俺を預けましょう、ということになったらしい。

 リリは実はかなりの甘えたがりで、本人が言うには今まで自分の母親にも甘えてこなかった反動が来ているらしい。

 そう言い、密着しながら俺をベッドまで引っ張るリリ。

 

「夢だったんです、これ」

 

 と、ベッドサイドに座った俺の膝に頭をのっけて膝枕状態でリリが喋っている。

 

「あの、俺とリリは殆ど初対面なんだけどその…随分順応が早いね…」

「うーん……多分こんなものだと思います、特に貴族は婚約だって親が決めて引き合わされて、さあ仲良くしてね。って感じですから」

「ええ……そうなんだ……そういうのって上手くいくものなのかな」

「性格の不一致で破談になったりもたまにありますが、まあ平民の恋愛も同じようなものですし、今までそれで上手く回ってますからね」

「なるほど……」

 

 確かに、貴族である場合結婚に関する自由はほぼないのか……ウィルとかもそんな感じだったんだろうか。

 今度聞いてみないとな、先輩として。

 そしてリリさんは俺の顔を見上げて満面の笑みで俺の顔を触ったり、俺の膝に顔をぐりぐり擦り付けたりしている、よっぽど嬉しいのだろう。

 ただその擦り付けられるとその……。

 

「あらあら、もう1人の旦那様がこっちも構ってと仰ってますね」

 

 そう言い、元気になったもう1人の旦那様をつんつんとつつく。

 リリはそのまま起き上がり俺に向きなおり、手を広げてこう言った。

 

「今度は私が甘えさせてあげる番ですね。どうぞめしあがれ、旦那様」

 

 結局、この日はずっとこの調子で過ごし、赴任までの貴重な日数を潰すこととなった。

 

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