未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~   作:ringegge

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第52話 走って殴って勝利

 超爆音 赤熱ベリル 5/8000/4000

 このカードはデッキ内の<爆音>というテキストが記載されているカードが30枚以上存在しないと召喚することはできない

 [カタパルト]:<爆音> 

 このカードがフィールドに登場した時、敵フィールド上のタフネスの一番高いユニットに対し5000ダメージを与える

 この効果でユニットを破壊した時、アタックが+3000される

 

 カタパルトとは、指定された種族のユニットが攻撃する時に手札のカタパルト効果持ちのユニットと入れ替わる形で差額のマナを支払い場に降臨し、そのまま攻撃する効果である。

 なお、カタパルトを持っているユニットは例え指定種族を保有していても重ねてカタパルトを発動することはできない。

 その中でも<超爆音 赤熱ベリル>は最速3ターン目にアタック11000のユニットが降臨するというとんでもないパワーカードである。

 当然ながらシーズン11下でもその速攻性能と<爆音カーキー>との完璧な噛み合い方が考慮されデッキに2枚のみという制限を受けているが、前述の通りこの世界では禁止改定はされていないため天馬は予備ストレージからデッキに4枚投入している。

 

 

 人よりも幾分小さい程度のヤンキーっぽい風体だった<爆音カーキー>がバイクで走り出した途端、突如二回りぐらい大きい赤いバットと赤い仮面を装着した大男に変化し、その大男の操る巨大なバイクで<大火山の燃える大熊>が跳ね飛ばされそのままの勢いで手のバットでドライトは胸に痛烈な一撃を食らい、そのまま背中から倒れる。

 

「ドライドさん、大丈夫ですか!?」

 

 取り巻きと思われる男の子が2人、介抱するためかフィールドに入って来ている。

 それをドライドは起き上がりながら静止し、立ち上がったドライドは天馬に向き直る。

 

「……なんだその……なんなんだ!それは!」

「<超爆音 赤熱ベリル>だよ」

「だから、それが、なんなのだと……」

「なんでもいいだろう?君は知っているカードじゃないと戦えないとでも言うのかい?」

「な……!?」

「さあ、続きをやろう。僕のライフはたったの18000だ」

 

 

 

 

「なんなのよあれ……」

 クロスモアはぽつりと漏らした。

 ヘルオード家四女クロスモア、御年16歳ではあるが名門ヘルオード家で<機械天使>デッキを持たされている実力者である。

 ヘルオード家は男児1女児4というまるで当主の力を反映したかのような女系家族で、唯一の男児もカードラプトに興味がなく後継者から外れているという状況だ。

 

「モアちゃんのお母様なら何か知ってるんじゃないかな?」

 

 横から声をかけてくるのはローラ=バトラング、クロスモアとは同級となるこちらは東部の中堅貴族家である。

 

「母が知っているならとっくに情報回ってきてるわよ、どっちかっていうとそっちのほうが近いんじゃないの?あのファドラッサのトリッシュさんの結婚相手でしょ?」

「うーん、あの家御家騒動あってからガードが異常に固いみたいなのよね…使うカードも変わったみたいだし」

「なんにせよ、全員闘うみたいだからしっかり対策立てないとダメね、勝負に集中しましょう」

 

 こうは言っているがクロスモアは内心かなり焦っていた。

 というよりは表情には出さないがクロスモアやローラも含め観戦している生徒全員が思っていた。

 この教師はとんでもなく強い、勝てる気がしないと。

 このクラスで使用されているデッキの中には選抜で戦っている肉親のデッキとほぼ変わらないものを持たされている生徒も多い。

 つまり、現時点で選抜で7傑に入れる可能性のある人間が多数在籍しているのだ。

 その筆頭であるスルト家のドライトがまだ3ターン目だというのに一方的な不利を取られている。

 つまりこの新任教師は少なくとも代表になれるレベルの戦闘能力があるわけで、焦らないはずがない。

 

「なんでこんな化け物がこの前の選抜に出てないのよ……」

 

 クロスモアは苦虫を噛み潰したような顔で小さく呟いた、この思いは観戦している生徒全員の総意に違いない。

 

 

「私は<火山噴火>を発動する!<超爆音 赤熱ベリル>に対し2000ダメージを与える!更に手札の<大火山の採掘奴隷>をセメタリーに送り、更に追加で3000ダメージ

 で<超爆音 赤熱ベリル>を破壊する!」

 火山噴火 3

 ユニット1体に2000ダメージを与える

 手札から<大火山>ユニットカードを1枚セメタリーに送ることによりユニット1体に3000ダメージを与える

 

 大火山デッキのメイン火力。

 ユニットのみという制限と手札のユニットを1枚捨てるという制約があるが3コストで5000ダメージが出せるのは大きなアドバンテージである。

 また、2000と3000ダメージを2体ずつに振り分ける事も可能

 

(<超爆音 赤熱ベリル>から破壊したか)

 

 これは天馬から見ると完璧なドライド側のミスである。

 天馬の手札には<爆音カーキー>の存在が確定している。

 この<爆音カーキー>がフィールドに出ればまた<超爆音 赤熱ベリル>がデッキからサーチされる。

 だがマナコスト上限の関係上、次のターンではどう頑張っても<超爆音 赤熱ベリル>は出せない。

 そして[カタパルト]の弱点として、攻撃しなければ発動できない点がある。

 つまり、低コスト帯では<爆音>カードを1ターン生存させないと出す事ができないのである。

 ここでドライドが取るべきだった手段は<超爆音 赤熱ベリル>の攻撃をもう一度甘んじて受け、次のターンで絶対に出てくるであろう<爆音カーキー>と場にいる<爆音ミドラ>を<火山噴火>で破壊することで、こちらのほうが後々有利に運べた可能性が高い。

 

(とはいえ、未知のカード相手だと仕方ないか)

 

 そう考え直し、天馬は早々に決着を付けるために一気に勝負を決めにいく。

 なにせ今日中の30人以上と戦わなければならないのだ、1人1人に時間をかけてはいられない。

 

「僕は再び<爆音カーキー>を召喚し、デッキからカードを1枚サーチする、その後2コスト支払い、<兵隊動員>を発動する、指定カードは<超爆音 赤熱ベリル>とし、更に<爆音ミドラ>で攻撃を行う」

 <兵隊動員> 2

 墓地にある5コスト以下の<爆音>ユニットを1体選択する。

 選択したユニット以下のコストの<爆音>ユニットを1体、[作成]する。

 

[作成]とは、デッキからサーチするわけでも墓地から引っ張ってくるわけでもなく、カードをランダムで生成して手札やデッキに加える能力である。

 カードラプトが半分デジタルでもあるからできるシステムだ。

[作成]自体はシーズン5から登場している為この世界でも存在するが、この時期はまだ効果的な使い方が開発側でも定まっておらず微妙な性能であった。

 シーズン11ではこの[作成]を主体とした頭のおかしいデッキも多数存在するほどには愛用者の多い能力だ。

 

 現状、ドライドの場はガラ空き、天馬の場は<爆音カーキー>と<爆音ミドラ>がいるという戦況だ。

 

(さて、彼はどう出るかな)

 

 ドライドは暫し考えた後、逆転の為に動き始める。

 

「私は4コストを支払い<大火山の降霊術師>を召喚し、更に<大火山のオオトカゲ>を召喚、召喚時効果で<爆音ミドラ>に1000ダメージを与え、破壊する!」

 大火山の降霊術師 4/4000/4000

 このユニットが戦闘で破壊された時、セメタリーの4コスト以下の<大火山>ユニットをランダムにフィールドに召喚する

 この時、そのユニットの効果は無効化され、更に[盾持ち]を付与する。

 

(なるほど)

 

 ドライドは次のターン確実に出現するであろう<超爆音 赤熱ベリル>の攻撃に対処するための壁として<大火山の降霊術師>を用意したのだ、の天馬は考えた。

 

(このターンにおいては正しい判断だ、だけどね、<爆音カーキー>から呼べるカードは<超爆音 赤熱ベリル>だけじゃあないんだ)

 

「僕は<爆音カーキー>で<大火山の降霊術師>を攻撃、そのタイミングで手札のワースカード<超爆音 黒煙暴走オニキス>のカタパルトをマナの差分4を支払い発動する!」

「!?」

 

 ドライドも、観客席の生徒たちも驚愕の表情を浮かべたまま固まった。

 何せ誰もが<超爆音 赤熱ベリル>が出てくると思ったのだから。

 超爆音 黒煙暴走オニキス 6 6000/4000

 ワースカード

 このユニットはバトルでダメージを受けない。

 このユニットのタフネスは回復できず、最大値を増やす事ができない。

 このユニットが戦闘を行った時に発動する、1000ダメージを受け、破壊されるまで攻撃を続ける

 プレイヤーに対しての攻撃は2回しか行う事ができない

 このカードは破壊されるとセメタリーにいかず、デリートされる

 

 簡単に説明すると、「攻撃すると死ぬまで6000ダメージをばらまき続けるユニット」である。

 雑魚散らしどころか2回殴れば高コストユニットでも倒しきれる上に、プレイヤーにも1ターンで最大12000ダメージを与えるというワースカードに相応しい性能のカードである。

 ただし、ユニット破壊時にダメージを与える、などのユニット効果や魔法には無力な為注意。

 

 <爆音カーキー>がいきなり黒く大きなもはやバイクではなく装甲車のようなものに載った黒い仮面の男に変わったかと思うと、<大火山の降霊術師>を轢き殺し、更に効果で出てきた<大火山のオオトカゲ>も轢き殺し、そのままドライドに突撃して12000ダメージを与え爆発して消えていった。

 

「なああ!?」

 

 今回は流石に防ぎきれると思っていたドライドはまたもや想定していないダメージを食らって後ろに吹っ飛ぶ。

 

 

 

 観戦するクロスモアが母親を思わせるようなしかめっ面で戦闘を見守っている。

 

「あのデッキの核はあの<爆音カーキー>ね」

 

 そうぽつりと呟く。

 天馬がこれを聞いていればその通りと答えただろう。

 このデッキにおいて現段階でトップクラスの警戒すべきカードは<超爆音 赤熱ベリル>でも<超爆音 黒煙暴走オニキス>でもなく、<爆音カーキー>なのだ。

 

(あのカードを破壊しない限りは延々とデッキから<超爆音 赤熱ベリル>や<超爆音 黒煙暴走オニキス>を呼ばれ続けるわ、しかも5マナからは呼んだ瞬間に[カタパルト]を発動されて破壊するスキがなくなる。となると……)

 

 クロスモアは手持ちデッキを入れ替え始める、クロスモアは集中していたので気がつかなかったが、他の生徒にも試合を見ながら手持ちのカードと予備カードを入れ替えを行っていた者が何人かいたようだ。

 

(なるほど、感心感心)

 

 それを横目で見ていた天馬は素直に生徒たちを褒める、相手のデッキに対応する、所謂人読みは非常に重要だ。

 その人の好みがわかればおのずから対策方法も絞れてくる。

 恐らくはこの世界ではカードプールが変化しない為にこういった要素が発展したのだろうと天馬は思い、目の前のドライドに視線を戻した。

 

「ドライド君の残りライフは26000だ、一応聞いておくけど、降参するかい?」

「……私のターンだ」

 

 ドライドは答えない。

 

「私は6マナを支払い、<大火山の巨人>を召喚しターンを終了する!」

 大火山の巨人 6/3000/8000

 このユニットはターン終了時、ランダムな敵1体に対し4000ダメージを与える

 

 1ターン目に4000ダメージ、2ターン目以降は自身の攻撃+4000ダメージを狙える優秀なユニット。

 このランダム攻撃はユニットに飛ぶ事もプレイヤーに飛ぶ事もあるので、能動的にトドメを取る事は難しい。

 

「ターン終了時、<大火山の巨人>の効果で相手プレイヤーに4000ダメージ!」

 

(あくまで突っ張るか)

 

 <大火山の巨人>のビームを食らいながら天馬は思案する。

 とはいえ、5マナ溜まった時点で後はもう残り3枚の<超爆音 赤熱ベリル>で走って殴るだけのいわば作業だ。

 

 

 

 

 

「僕の勝ちだね」

 

 3ターン後、ベリルで3回殴り飛ばして試合は終了した。

 ライフは10000まで削られたがドライドのデッキ特性上そんなものだな、と天馬は割り切っていた。

 ドライドは放心しており、取り巻きの何人かが客席から降りてきて必死に声をかけている。

 

「よしじゃあ次だ、誰でもいいよ」

 

 観客席を一瞥し天馬は少し声を張ってそう言った。

 途端に観客席がざわざわとし始め、当然ながら誰も次に立候補をしようとしない。

 

「お前いけよ」

「嫌だよ…」

 

 そんな言葉が飛び交う。

 

(まあ、そりゃそうか)

 

 天馬の振り回してるデッキは向こうでは制限されているカードを4枚投入している、元の世界基準で考えても相当やってるデッキである。

 

(ドライド君は確か資料だと校内勝率TOP3に入っていたはず、それがボコボコにされたら萎縮はしちゃうな)

 

 天馬はそう思いやり方を変える事にした。

 

「立候補いないなら僕は指名するよ、えーと、そこの右端の女の子、降りてきて」

「え!?アタシ!?」

「そう、降りてきて。我ながら無計画だけど今日中に全員倒さなきゃいけないからとにかく時間がないんだよね」

 

 悪魔のような台詞を笑いながら言う天馬に全員がドン引きし、指名された女の子は既に涙目になっている。

 

 そのような感じで天馬が流れ作業のように<超爆音 赤熱ベリル>で走って殴って勝利を10回ほど繰り返していると、ついに彼女が動いた。

 

「じゃあ次は…」

「先生」

「ん?」

「私が次に闘います、いいですね?」

 

 紫色の髪を後ろにまとめた胸は控えめの美少女と言って差し支えのない目付きの鋭い女の子が観客席から試合場に降りながら立候補してきた。

 構内勝率トップのクロスモア=ヘルオードがついに重い腰を上げた。

 

「……名前、いいかな?」

「クロスモア=ヘルオードです」

「ヘルオード……ああ、ヘンリエッタさんの所の」

 

 この発言を聞いてクロスモアはぴくんと眉を上げる。

 この男の素性が全くわからない。

 まずヘルオードの名前を聞いて一瞬で反応しないのが一点。

 母親をヘンリエッタさんと言っているのが一点だ。

 ヘルオードは超名門と言って良い貴族家である、天馬の世界で言う有名企業と同じぐらいには知名度が高い。

 そこらへんのスラムの住人だって知っているレベルの常識だ。

 それを少し考えるようなそぶりを見せる点が引っかかる。

 そして何よりも自分の母親をヘンリエッタさんと呼んだ事だ。

 ヘンリエッタは対外的には殿か様でしか呼ばれない、これは立場もそうだし、王国に一番貢献している実績と自負があるため、国王ですら気を使ってくれている事の証でもある。

 それをさん呼びするのは明らかにおかしい、兎にも角にも常識を知らなさ過ぎる。

 わざと振る舞っているのか素なのかすら分からない。

 ただわかっているのはとにかくカードラプトが強い事だけだ。

 

「母とお知り合いで?」

「先日ちょっとね」

 

 クロスモアは探りを入れるがかわされる。

 

「……まあいいでしょう、始めましょう」

 

 それ以上は無駄だと判断したのか、クロスモアは会話を打ち切りバトルの準備を始めた。

 

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