未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~   作:ringegge

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第80話 疑念と驚嘆

(さてどうするか)

 

 エニシダの状況は良くない。

 ライフは2万以上差がついてるとはいえ天馬の場は<不死王の番龍><グラップルアンデッド><不死王の側近 リンドカッヘル>の3体がいる一方エニシダの場はがら空きだ。

 

(<不死王の番龍>…あれは間違いなくやばい)

 

 エニシダの内心は決して穏やかではないし、緊張も困惑もしている。

 だが冷静さを失っているわけではない、彼は<不死王の番龍>のテキストを時間をかけて読み解き、その性能を正しく把握した。

 

(一番は効果を無効化することだがあいにく手札に来ていない、ならば…)

 

「俺は2マナを使用し、<勇敢なる盾持ち>を召喚!更にもう1枚の<大道迎人>を召喚し効果で<グラップルアンデッド>を破壊!」

 勇敢なる盾持ち 2/0/2000

[盾持ち]

 召喚時に相手のほうがユニット数が多い場合、アタックとタフネスを1000ずつアップさせる

 

(まあ、そうなるよな)

 

 時間稼ぎ。

 結局のところエニシダが出した答えはそれだった。

 とはいえ、手元に有効札がない以上はそうする他ない。

 

(しかし、典型的だな)

 

 天馬が典型的と考えたのは、エニシダのデッキ、もっといえば合体召喚やジョイント召喚がデッキ全般の問題点についてだった。

 

 基本、合体召喚もジョイント召喚も「2枚以上のカードを用いて1枚のカードを生み出す」という点は変わらない。

 そしてこの行為は乱暴な言い方をすればカードを出した時点で1枚のカードアドバンテージを失っている、とも言えるのだ。

 その出したカードが2枚分の働きをして初めて収支はトントンとなるが、先ほどのように手札を多く消費して展開した合体ユニットを一瞬で処理されてしまうと、普通のデッキでは手札枚数の関係上後続が続かず攻めが停滞してしまう。

 天馬の元いた世界ではこの考えが広く浸透しシーズン11の環境において[合体]デッキは1つを除いて存在しておらず、ダブル召喚とジョイント召喚も使うには使うが補助に留まるデッキが殆どでメインとなったデッキは数えるほどしかなく、テーマのカードそのものが強いデッキが大半を締めているような状態であった。

 

(ライフの使い方もやはり分かっていないようだし、ここも授業に加えるべきだな)

 

 今回で言えば少なくとも<勇敢なる盾持ち>は出すべきではない。

 今のライフとターン数であれば即死することはないし、それよりも次ターン以降の合体に使用するなど少しでも有利に立ち回る事を考えるべきであり、後の有利をライフで買うという考え方が浸透していない何よりの証拠であった。

 

「僕は<不死王の番龍>で<勇敢なる盾持ち>を攻撃した後、<反魂法>を<不死王の番龍>に使用し、破壊する」

 反魂法 5

 このカードはデッキ全体のカードのうち<不死王>と<アンデッド>カードが合計30枚以上投入され、更に<アンデッド>と名のついてないユニットに対し使用する事ができる。

 味方のユニット1体を破壊する

 破壊したユニットをフィールドに召喚させる

 召喚されたユニットはこのターン攻撃することができず、名称が<アンデッド>となる

 

「<不死王の番龍>の効果でカードを1枚サーチし、<不死王の側近 リンドカッヘル>でプレイヤーへ攻撃を行い…終了だ」

 

 これでエニシダのライフは40000まで減った事になる。

 

 

「「…」」

 

 パフィとニコライは無言で試合を見ていた。

 言いたいことはたくさんある、突っ込みたい部分も無数にある。

 ただ、間違いなく盗聴されている以上、下手な事を言ってしまいそれが要因で最悪の事態になることを恐れ何も言えなくなってしまったのだ。

 

(私のデッキでは多分、勝てない)

 

 パフィの出した結論はそれだった。

 

 オーディガン家には<楽園騎士オーディガン>が2枚あり、父と兄がそれぞれ使用していたが、今回の疎開に先立ちリスク管理の観点からパフィは父から1枚受け取っている。

 つまり今のパフィのデッキはフルスペックを発揮できる状態にあり、その強さは共和国でもトップクラスなのだ。

 

 だがそれでも勝てる気がしない。

 

 エニシダのデッキは中盤での<破城の剛腕ガイアノック>による奇襲性能の高さが売りで、その点に関しては警戒すべき相手として認識していた。

 だが蓋を開ければ無名の教師に押されっぱなしである。

 そしてその無名の教師の使うカードは一切知らないカードばかりで、そしてそのカードは明らかに今使っているカードから性能が逸脱しているものだ。

 そういう意味で王宮から厚遇されているのは確実ではあるが、不思議なのは選抜に出場していない、という事だ。

 表向きの理由は貴族家設立が間に合わなかったという事らしいが、そんなもの普通間に合うように動くはずなのだ。

 パフィは共和国という国そのものを誇りに思っているが、決して王国を侮ってはいない。

 共和国にできることは王国にできると思っているし、逆に王国にできることは間違いなく共和国でもできる、そう考えている。

 つまるところ、パフィは「間に合わなかった」のではなくなんらかの理由で「間に合わせるつもりがなかった」のではないか?という疑念を抱いたのだ。

 

(王国は少なくとも今は先生を共和国と戦わせる気はないのは確かね)

 

 呪文の解読に専念させたいという気持ちもあるのだろうが、正直対抗戦に出ない理由としては弱い。

 そうなると他に理由があるはずだ、とパフィは結論付けた。

 

 

 

(どう考えてもおかしい)

 

 ニコライの出した結論はそれだった。

 

 このようなカードを沢山持っている、ということは遺跡から大量に発掘されたのであろう。

 王国からの公布でもそうなっている。

 だが王国からの公布では国の調査団と協力して…という事になっており、1人で全てをやった訳ではないという事が明言されている。

 少し前に公布された当時全文が共和国の新聞に掲載され、かなり話題になったからよく覚えている。

 そして目の前の男は王の覚えめでたく娘を嫁にもらい、更に他の家からも嫁を取った羨ましいとも哀れとも思う生活を手に入れている。

 それにしても、眼の前の男は全てを持ちすぎている、そうニコライは考える。

 王国の常識は良くわからないが普通に考えて王の娘を嫁に、というのは一大事だろう。

 それに加えて有力な貴族家からも嫁を出す、それを1人に集中させるというのは異常という他ない。

 

(それにテンマという名の研究者など聞いたことがない)

 

 普通、なんらかの研究をしていてそれが実を結びそうになる場合、研究の露出が多少はあるものだ。

 そうなる理由は様々で他の知見のある人間に色々と助言を貰ったりスポンサーを探したりなど、そういったタイミングで知名度が上がり、いろいろな人が出資してくれたり情報を提供してくれる…というのが一般的な研究者の立ち回りである。

 そうしなければ資金がとても足りないからだ。

 

 当然ながら、遺跡発掘などの目立った活躍をしている人間の名前は例え国が違えど入ってくるもの。

 デッドバーン家は根っから技術・研究を飯の種にしており、ご多分にもれずニコライもそういったものを好んでおり、王国共和国問わず所謂発掘家や研究者の名前は一通り抑えているという自負がある。

 

 遺跡から出てくるものは何もカードだけではない、むしろカード以外のものが出てくる事のほうが多い。

 何かよくわからない筒に入ったものや、古代のおもちゃと思われるカラフルな物体など大半はよくわからないものだ。

 カードを見つける以外にもそういった物の使い道を見つけたりするのが発掘する人間の飯の種なのだが…。

 

(細すぎる)

 

 基本的に遺跡発掘に携わる人間はガタイが良い、これは意識して鍛えているというよりは自然とそうなってしまうのが正しい。

 だがテンマの体はお世辞にもそんな片鱗は見えない。

 どちらかというと僕らと同類、座学の人だとニコライはそう感じた。

 

(恐らくだが直接的な発掘には関わっていない、だが王国からも中心人物として評価されている…)

 

 

((恐らく…))

 

 何かは分からないが、この先生が全てを握っている。

 アプローチは違うが奇しくも同じ結論に二人共辿り着いた。

 

 

 

 

「俺は3コストで<断罪の鉄拳 バロング>を召喚し、手札の<ヴルカンザウルス>と合体!<拒絶の剛腕アンチノック>を召喚!」

 <拒絶の剛腕アンチノック> 8/12000/8000

 名称に[の鉄拳]と付くカード+コスト5以上のカード

 このカードは自分のマナの最大値が5以上でなければ召喚することができない

 このユニットがフィールドに出た時、相手のユニット1体を選択する。

 ユニットの効果を無効化する。

 アタック時、相手からのダメージを-2000する

 

 鉄拳・剛腕シリーズのエース。

 ステータスは相応に高く、殴り合いに強いものの<破城の剛腕ガイアノック>のほうが使いやすく登場時の効果無効化が主体という評価になってしまいがちで、魔法無効も癖があり扱いづらい。

 また、5ターン目以降しか召喚できない制限もあり何かと窮屈なカードである。

 とはいえ、この性能のユニットを3コストあれば出せるという点は特筆に値するものだし、こちらの世界であれば非常に強力な1枚であることには変わりがない。

 

 

「更に、<拒絶の剛腕アンチノック>の効果で<不死王の番龍>の効果を無効化!<断罪の鉄拳 バロング>の効果で1枚サーチを行い、墓地へ1枚カードを送り、<大道迎人>で<不死王の側近 リンドカッヘル>を攻撃しターンを終了する!」

 

(3マナ余らせて終了か)

 

 基本、このゲームにおいてはマナを余らせる事は下策だ。

 

(出したくないか、出せないか…表情からはわかんないな)

 

 天馬は眉間にシワを寄せて手札を見ているエニシダの顔を見つつそう思った。

 とはいえ、このタイミングで元<不死王の番龍>の効果を無効にするのは良い判断だ。

 

「僕はこのターン5マナを使用し、<ドラゴントゥースアンデッド>を召喚、<不死王の番龍>…ではなく、<アンデッド>で<大道迎人>を破壊し、<不死王の側近 リンドカッヘル>でプレイヤーへ攻撃を行い、終了だ」

 ドラゴントゥースアンデッド 5/3000/6000

[盾持ち]

 このユニットが破壊された時<竜牙>を手札に加える

 

 竜牙 3

 相手1体に3000ダメージを与える

 

 破壊時に攻撃魔法を残す[盾持ち]カード。

 強いには強いがステータスに物足りなさがあるため、デッキには2枚程度投入に留める事が多い。

 

「俺はまず4マナを支払い、<補給路>を使用する」

 補給路 4

 セメタリーに存在する3コスト以下のユニット2体を選択しデッキへ戻しシャッフルする

 その後、デッキからカードを1枚ドローする

 

 4マナ1ドローに墓地回収の付いたカード。

 サーチユニットなどの使いまわしもできるためそれなりに強力ではあるがマナの重さでやや使いづらさが目立つ

 コスト3以下指定もマイナス

 

「更に2マナを使用し、<激怒の鉄拳 リンネル>を召喚する!」

 激怒の鉄拳 リンネル 3/2000/3000

 このユニットがダメージを受けた時

 アタックが+2000される

 

 鉄拳・剛腕シリーズの1枚

 他の<鉄拳>ユニットとくらべてプレイバリューが低く、デッキに投入されない事が多い

 

「更に手札の<ミラーファンタズマ>と<激怒の鉄拳 リンネル>を合体させ、<破城の剛腕ガイアノック>を召喚!<拒絶の剛腕アンチノック>で<ドラゴントゥースアンデッド>を、<破城の剛腕ガイアノック>で<不死王の番龍>を破壊!」

 

「形勢逆転か」

 

 ニコライはそうつぶやく。

 エニシダの場にはほぼ無傷の<拒絶の剛腕アンチノック>と<破城の剛腕ガイアノック>が存在し、一方で天馬の場には<不死王の側近 リンドカッヘル>のみ。

 

「でも…」

「ああ、先生は切り札を引き込んでいる」

 

 そう、<不死王の番龍>で既に天馬は手元にキーカードを引き込んでいるのだ。

 

「エニシダくん…1つ、忠告だ」

「?」

「<不死王の番龍>は<反魂法>によって名称が<アンデッド>になっている…カードラプトにおいて名称を正しく宣言することは基礎中の基礎だ、改めなければいらぬ反則を取られる事になるよ」

「…」

 

 このときのエニシダは少し、少しだけ気が大きくなっていた。

 盤面不利の形勢をひっくり返し、天馬側に現在のところ手がないので口撃で威厳を保とうとしている。

 そう思っていた。

 

「…その言葉は教えとして受け取っておこう、しかし今は先生の場の状況を気にしたほうが…」

 

 バシュン!

 

 瞬間、エニシダの横を黒い斬撃が通り過ぎ、<拒絶の剛腕アンチノック>が破壊された。

 

「…僕は手札の<不死王の側近 追跡者セクタム>を召喚し、その効果で<拒絶の剛腕アンチノック>を破壊させてもらう」

「な…」

 不死王の側近 追跡者セクタム 7/3000/13000

 ワースカード

 このユニットは攻撃できない

 このユニットがフィールドに出た時、相手ユニット1体に対し、8000ダメージを与える

 自分のターン開始時、ランダムな相手ユニット1体に対し、8000ダメージを与える

 

 <不死王>デッキの切り札の1枚。

 着地した瞬間に8000ダメージを与え、生き残っていれば毎ターン開始時に8000ダメージをユニットに与えることができる。

 攻撃できない縛りがほぼデメリットになっていない点や出した瞬間に働くことができるなど強い部分が目立つが、同時に相手プレイヤーに攻撃できない点や、結局のところユニットの効果が全ての為無効化に弱いなど欠点も抱えている。

 

「…<拒絶の剛腕アンチノック>はもう少し後で出したほうが良かったかもしれないね」

「…」

 

 あくまでも教師目線で接する天馬をエニシダは厳しく睨みつけるままだ。

 だが心中は怒るでもなく、ただただ驚愕していた。

 これを返されるのか、と。

 

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