未来のカードを駆使して世を渡る ~カードラプト風雲録~   作:ringegge

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誤字報告本当に助かってます。
ありがとうございます。


第84話 本気

「母は現在休暇中ですので、その間に来い、という事なのでしょう」

 

 クロスモアさんが爆弾を投下した4日後、俺は馬車に揺られていた。

 俺以外にはエスコート役のクロスモアさんにクレア・トリッシュ・ナギの3人。

 更に別件で用事がある、と言うことでカーネル王子とそのお付きとしてオズワルドさんまで同行することに。

 カーネル王子はファロンさんの王家への嫁入りが決まった流れで当主交代まで余裕のあるオズワルドさんを身内として存分にコキ使っているようだ。

 流石にこの大所帯だと馬車1台では難しいため俺と妻3人とクロスモアさん、カーネル王子とオズワルドさんで分乗している。

 俺の方にクロスモアさんがいるのは主に招待されたのが俺だからという理由なんだそうだ。

 

 そしてそのクロスモアさんは俺以外の人と会話する時はにこやかだが俺と話す時はゴミを見るかのような目で塩対応をしてくる。

 授業ではこんな感じではなかったんだけどなあ…。

 

「しかし、思ったより遠いね」

 

 既に馬車に揺られて丸2日。

 急ぎの旅ではないとはいえ西部の共和国国境よりも時間がかかっている。

 

「この国は中心部が西に寄ってますからね、東部出身者以外は旦那様のような印象を受ける方は結構多いですよ」

 

 ミラエル王国は西に共和国が控えている兼ね合いで王都が西寄りに配置している関係上、東部地域のほうが圧倒的に広い配置になっているのだ。

 

「…特にトラブルがなければ明日にはヘルオード領に入ります、もう暫くご辛抱を」

 

 あくまでも事務的・塩対応のクロスモアさん。

 やっぱ初対面でボコりまくったからかな…やりすぎたか。

 

 

 

 

 

 

 

「良く来たね、歓迎するよ」

 

 翌日、特に何事もなく旅程は進みヘルオード領都ファイブレンに到着し、ヘンリエッタから歓待を受けた。

 

「お久しぶりです、ヘンリエッタさん」

「ああ、久しぶりだなテンマの坊主、招集にすぐに答えたのは良い心がけだ」

 

 差し出した俺の手を取り乱暴に握手をするヘンリエッタさん。

 この世界の貴族、少なくともこの国には爵位が存在しない。

 その為、家の上下関係がかなり分かりづらい。

 とはいえ、新規の貴族家の立場がヘルオード家より上ってことは、まずない。

 その上で一連の行動はこの挨拶は周りの人間にこいつは自分より下だぞ、とわからせる、まあマウント行為のようなものだ。

 

 とはいえ、現状このヘルオード家より明確に上の家なんてもの王族を除いて存在はしない。

 そういった意味ではマウントというよりは確認作業に近いのかもしれない。

 

「お久しぶりです、ヘンリエッタ様」

 

 3人の妻を代表してクレアがお辞儀をする。

 

「おう、久しぶりだね、クレア・ナギ・トリッシュ…他の3人はおめでたかい」

「はい」

「そうか、今度そっちに行ったら顔出すよ」

 

 基本、絶縁でもしていない限りはどんなに仲が悪くとも子の出産は祝うもの、という不文律がこの国にはある。

 例えいがみ合っていようとも、新たな生命の誕生には敬意を払うべきだ、という考え方だ。

 それがきっかけで関係修復ということもあるので、古来からの風習も捨てたものではない。

 

 王子との挨拶も終わり、その日は皆疲れているだろうからと屋敷に案内されそのまま就寝。

 夜は馬車から降りれたとはいえ乗りっぱなしで腰にダメージが蓄積していたのでありがたい配慮だ。

 

 

 翌日、女性陣3人とカーネル王子は集合するように言われ、そのままメイドさんに大きな会議室のような所へ案内される、そこには長机の一番奥、所謂上座にヘンリエッタさんが鎮座し、その後ろにクロスモアさんに加え線の細い男性と女性が2人立っていた。

 

「さて、ようやく落ち着いて話せるね、自由に座りな」

 

 そう促され着席する。

 

「紹介するよ、私の息子のイハン、後ろが次女のベルジュ、その横が三女のエストだ、あいにく長女は既に嫁いだ身でね」

 

 紹介された順に頭を下げる、それにつられてこちらも頭を下げる。

 

「さて、王子も何か用件があるらしいがそれは後回しにするとして…」

 

 おいおい良いのかよそれ、と思いちらりとカーネル王子の方を見るが特に何もアクションがない。

 あ、いいんだ…。

 

「テンマ、お前に来てもらったのは他でもない。私と戦え」

 

 …まあ、そうなるよな。

 

「予想通りって顔をしてるね、まあ当然か」

「カードを持ってこれる限りもってこいとの事でしたから」

「へえ、持ってきたのかい、良い心がけじゃないか」

 

 意外そうに目を丸くするヘンリエッタさん。

 ダメ元だったんかい。

 そんな表情をしたのも一瞬で、今度は少し目を細めいたずらっぽい表情で口を開いた。

 

「…で、あんたがあのレオンをやったんだって?」

 

 俺は少し、少しだけ目を見開いた。

 どっちかというと俺よりもヘンリエッタさんの後ろの子どもたちのほうが驚いていた。

 

「別に取り繕わなくて良いよ、知ってるやつは知ってる事だしこれで波風立てるような奴は知らん話だ…それにあのレオンが処理されたってのはめでたい事だからね」

 

 ヘンリエッタさんは手を振って言った。

 ちらりと横目で王子を見ると小さく頷いている。

 

「ちなみに出所は横の王子サンじゃないよ、ジョシュアの小僧だ」

 

 そっちかー。

 

「あれの本妻はうちの親戚でね、その流れで情報が来たって訳だ…で、だ。本題はそこじゃない」

 

 一つ聞くが、とヘンリエッタさんが前置きして話し始める。

 

「あんた、こっち来てから未だに本気で戦ったことないだろう?」

「…ええ」

 

 まあ、事実だ。

 手持ちの中で最強と言えるであろうデッキが現状2つあるが、未だにこちらに来てからどちらも使ったことがない。

 レオンの時はそれなりに本気でやったが、デッキの選定基準が強いというよりは痛めつける為にチョイスした為最強デッキかと言われたらそうではなかった。

 わかりやすく言うならば<魔導師>はシーズン11全体で見ると環境トップレベルではあるが、トップではない。

 Tier2のデッキなのだ。

 

「お母様…?」

 

 クロスモアさんが困惑した顔で俺とヘンリエッタさんの顔を交互に見ている、何を言っているのかわからない、という顔だ。

 1人だけこうなってるってことはおそらく他の子達には事情がある程度知らされているのだろうな。

 

「クロスモア、後で目の前の男に説明して貰いな、立場的にお前は知っていなきゃいけないからね」

 

 ヘンリエッタさんはそう言い、改めて俺に向かって口を開く。

 

「…話を聞く限りじゃあ、現状間違いなくこの国…いや、共和国を含めてでもあんたがカードラプトで最強の人間だろう」

 

 だからこそ見たいのさ、とヘンリエッタさんは続ける。

 

「…何をですか?」

「あんたの本気をさ!どうせ見るならテッペンが見たいのさ!私は!」

 

 大きく手を広げて、芝居がかったように高らかに宣言する。

 

「お前の横に控えている王子サンも、お前の嫁さん達もみたいはずだよ、お前の本当の力をね」

「…最初からその為に僕を招待したのですね」

「ああそうだ、だがお前だってそんな事は分かっていたはずだろう?」

「まあ、そうですが」

「話が早いね、そういう奴は好きだよテンマ。じゃあ昼飯を食ってからやるぞ、その間に準備をしておけ」

 

 言うだけ言ってそのまま席を立ち、子供を連れて席を後にするヘンリエッタさん。

 ただ1人、クロスモアさんだけを残して。

 

「…説明、頂けますよね?」

 

 過去一不機嫌な顔でクロスモアさんはそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、と納得してしまうには到底受け入れがたい理由ですが、母や王子が納得している、というならばそういう事なのでしょう…対抗戦に出ない理由も納得ができました」

 

 怒っているというよりは呆れた、という顔で俺の方を見てくる。

 

 あの後、ヘンリエッタさんと話した部屋でそのままクロスモアさんに対し俺の正体を明かした。

 

「そりゃあ、強いはずです…はあ…」

 

 なんか物凄く疲れたような顔でこちらを見てはため息を吐く、という行動を繰り返している。

 

「まあ、そういうことだから…まだ生徒だとクロスモアさんしか知らないから黙っておいてね」

「…言われなくとも、こんなこと人には言えませんよ。というか信じられないです、私もまだ半信半疑ですから」

「まあね」

「…で、母と戦うのですか?」

「まあ、ああまで言われてはね。拒否することも無理だろうし」

「それはそうですが…」

「あとまあ、負けるつもりは微塵もないからね」

「<爆音>と<不死王>、どちらを使われるのです?」

「あ、どっちも使わないよ」

「え?」

 

 クロスモアさんが虚を突かれた顔でこちらを見る。

 

「では、先日レオンに見舞った<魔導師>か?」

 

 後ろで押し黙っていたカーネル王子も少し驚いたのか会話に入ってくる。

 

「いえ、それとも違います」

「ほお…」

「まあ、楽しみにしててください、とだけ」

 

 俺は自信満々に言い切るが当然ながら皆怪訝な顔をしている。

 そりゃあそうだ、この世界で言えば<爆音>も<不死王アンデッド>も<魔導師>も理解に苦しむデッキだものな。

 

 

 その後昼食を取ったが、オズワルドさんがハブられた事に苦言を呈してた。

 カーネル王子曰く「まだ早い」らしく、後の闘いからもハブられる模様、南無。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先攻後攻はどうする?」

「どちらでも」

 

 屋敷の横に備え付けられた体育館のような建造物の中で俺とヘンリエッタさんが対峙している。

 この建物、どこの家でも一緒のものがあるんだなあと思ったらカーネル王子曰くほぼ1つの業者が独占して建造しているらしい、通りで同じような外観になるはずだ。

 見届人は嫁さん3人にカーネル王子、ヘルオード家側は子供達4人のみとなるようだ。

 

「ではコイントスだ、イハン」

「はい」

 

 イハンと呼ばれた少し痩せた小柄な男性が俺とヘンリエッタさんの間に歩み出て、手に持ったコインを弾く。

 

「選ばせてやる」

「…表で」

 

 無言でイハンと呼ばれた男性が手の甲を見せてくる…硬貨に縁がなさすぎて裏か表かわかんねえ…。

 

「裏だな、私が先攻を頂く」

 

 裏なのね。

 

「では…これよりテンマ様とヘルオード家当主ヘンリエッタの闘いを始めます」

 

 イハンの小柄な割に良く通る声で静かに、厳かに試合はじまった。

 

 

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